三方良しで次世代に紡ぐ「株式会社SY」を訪ねてみた。





環境保護と食糧問題に取り組み、国内初の水槽開発やスーパーフード「スピルリナ」を生産する、未来の日本に投資する企業である。今回は、代表取締役 北代 耕太(きただい こうた)さんにお話をうかがった。
- 「三方良し」をモットーに事業展開
- 他を圧倒する、安価で高品質な水槽
- 不純物未検出!唯一の純国産品
- 認知度UPのため一から宣伝活動
- 目指すは次世代の野菜「スピルリナ」
①「三方良し」をモットーに事業展開
株式会社SYという社名は、「三方良し」という近江商人の言葉から引用して名付けた。
「三方良しとは『売り手良し、買い手良し、世間良し』の三者すべてが満足する商売を目指そうという考え方で、商売の基本として諸先輩方に教えていただいた言葉なんです。それを受け継ぐ形で、三方の「S」と、良しの「Y」それぞれの頭文字から取って、社名に想いを込めました。」
北代社長は三方良しの理念を大切にしながらも、まずは自社の事業継続を大前提としている。そのため、安易な安売りはせず価値提供をすることで、社会貢献を目指している。
株式会社SYは現在、「自動車」「水槽」「スピルリナ」の3事業を展開し、「地域社会への貢献」「自然環境の保護」「安定した食料供給」の三方良しの実現を目指している。
一見すると関連性が薄く見えるこれらの事業について、その背景を北代社長にうかがった。
「もともと車が好きで、学生時代から整備士になりたかったんです。トヨタの専門学校を卒業後、整備士として従事していました。だから、自動車事業は、私の整備士としての経験が活かされています。」
また、北代社長は幼少期に海に親しんで育ったことも大きな影響を与えたという。両親の故郷が高知県にあり、夏になると海釣りや親戚のダイビングショップでの手伝いを楽しんだのだそうだ。
「子供の頃は気にしていなかったのですが、年々魚が釣れにくくなっていると感じました。漁師さんも『昔に比べて魚が少なくなった』と話していました。」
その後、ダイビングの仕事を手伝う中で、海洋環境に詳しい大学の先生や研究者と知り合い、海水温の上昇や環境変化が食料難の問題にもつながる可能性があることを知ったという。
「子供の頃はあまり理解できませんでしたが、大人になるにつれ、海の環境問題について調べるようになり、乱獲や温暖化が原因で、世界の魚資源が枯渇している現実を知りました。特に、日本の漁獲高は減少している一方で、ノルウェーなど他国では増えているというデータを見て驚きました。」
環境変化だけでなく、人間の活動が原因で資源が減少している事実に、さらに危機感を募らせた北代社長。「海の環境保護に貢献したい」という想いが株式会社SYの歩みの原点となっている。

②他を圧倒する、安価で高品質な水槽
北代社長が海の環境保護に向けて調べる中で出会ったのが、「魚の陸上養殖」である。
陸上養殖は、水槽内で人工的に管理して養殖する方法で、管理も比較的容易であり、安定的な漁獲高が期待できる。乱獲の抑制と天然魚の保護につながる点で注目されている。
「ヨーロッパでは、陸上養殖の魚が高値で取引されているんです。理由は最初から人工的に管理しているからです。人工的に水質や餌を管理しているので、魚の素性が明確で、安全性も評価されています。」
北代社長は、食糧難や水産資源の枯渇問題を打開する方法として、陸上養殖に可能性を見出している。
ただし、陸上養殖には大きな課題があった。それは水槽導入などの初期コストだ。多額の投資が必要なため、導入が難しい現実がある。そこで考えたのが、ポリプロピレン(PP)樹脂を使った水槽だと話す。
「海外ではPPが使われていることに着目しました。PPを素材とすれば、水槽の初期コストを格段に下げることができるんです。当社は自動車部品で樹脂加工技術に精通していたので、その知見を活かして水槽を作れると考えました。」
陸上養殖を始めれば海洋環境を守れ、それが食糧難の問題解決につながる。そこに価値を見出し水槽事業に参入したのだと、北代社長は振り返る。
「水槽事業を始めるにあたって、『捕るからそだてるへ』をコンセプトとして取り組んでいます。水槽を通常よりも安価で作れるので、陸上養殖への参入障壁が下がり、養殖市場が拡大、結果的に自然環境の保全につながります。さらに、この素材はリサイクルができるため、持続可能な形で環境に貢献できるのは大きなメリットです。」
北代社長は、海洋環境の変化をきっかけに、大好きだった海を次の世代へ紡ぎたいという想いが強くなったと話す。
「先人が紡いできた歴史がある中で、自分たちだけが良ければ良いという考えは悲しいです。だからこそ、次の世代が安心して自然で遊び、自然から学べる環境を守りたいという気持ちが大きいです。」
北代社長は、整備士として培った樹脂加工技術を活かし、唯一無二の水槽を完成させた。安価で高品質である水槽は、他を圧倒する強みとして、今なお日本最大の導入実績を誇っている。

③不純物未検出!唯一の純国産品
北代社長が陸上養殖で魚を育てる中で直面したのは、魚の「タンパク質不足」という問題だった。
これまでは、魚粉を餌に使用しタンパク質を補給していた。ただ今は、その魚粉の供給が減り価格が高騰している。魚の保護のために陸上養殖を始めたにもかかわらず、餌として魚粉を使うという矛盾に直面したのである。
その解決策を模索する中で出会ったのが、スピルリナだった。
「タンパク質不足の問題は、2025〜30年に需要と供給のバランスが崩れ始め、2050年には『タンパク質危機』が起きると今世界で警鐘が鳴らされています。タンパク質は生物にとって不可欠な成分なんです。」
スピルリナは、約35億年前に誕生した「藻」だ。一番の特徴は高栄養価で、5大栄養素を豊富に含み、高タンパクと知られている。「畑の肉」と呼ばれる大豆と比較しても約2倍のタンパク質含有量を誇る。
また、消化吸収率が高く、野菜が約40%と言われる中、スピルリナは約95%を達成している。その効率の良さから「スーパーフード」として海外で高い評価を得ている食材であると話してくれた。
「スピルリナは、海外ではポピュラーで、巨大な市場規模を誇っていますが、日本ではあまり普及していません。海外での圧倒的な知名度と、スーパーフードとしての強みを活かして、水槽の中で育てながら食品として販売する構想を立てました。」
魚の餌である魚粉の代替にするには、依然としてコスト的な課題が残されているが、人間の食材としては大きな可能性を秘めていると、北代社長は判断している。
スピルリナの生産には、ビニールハウスと水槽があれば十分だが、北代社長は遊休農地・耕作放棄地を再利用して育てている。農地利用への強いこだわりには理由があるという。
「農地で生産することで、農家に委託することができ、農家の安定収益化に貢献できるからです。最近では収穫の難しさや収入の少なさから、農家を継がない実態があるので、この取り組みは農家の後継者不足支援になると考えています。」
こうした地域社会への貢献にも北代社長の想いが込められており、「三方良し」の理念が反映されている。
国内で販売されているスピルリナは、海外産か一部海外産を混ぜて販売されているが、北代社長は自社ですべて育てており、国内で唯一の純国産品だということを誇りとしている。
海外産は、屋外で生産するため、雨水による重金属や虫の混入のリスクがあり、それによる雑菌の繁殖が懸念される。雑菌対策として、粉末化時に180〜200度の高温処理を行うため、熱に弱いタンパク質やビタミンが損なわれ、本来の高栄養価が失われてしまうという。
「当社はビニールハウス内で徹底した管理を行っているので、毎回検査で未検出の結果が出ています。また、粉末化時の温度を60~80度に抑えることで、栄養価を保ったまま提供できます。お客様からは、良い香りがする、癖がないので食べやすく飲みやすい、使いやすいと好評をいただいております。」
株式会社SYのスピルリナは、丁寧な管理と品質へのこだわりにより、国内唯一の純国産品を実現している。

④認知度UPのため一から宣伝活動
北代社長はこれまで、三方良しのスキームを作るための地盤固めを行ってきた。
まずは、農家の後継者問題解決に向けて、「農地」でのスピルリナ生産を目標としたのだ。
農地で生産するには、スピルリナが農作物として認定される必要がある。そのため、地方自治体に向けてプレゼンテーションを行うなど、理解を求める活動を続けてきた。
「地方自治体が国に確認を取ったところ、『農作物に類するものとして基本的に農地法に抵触しないのであれば』という回答で、否定はされませんでした。自治体の農政課と相談した上で、無事に農地を使った生産ができるようになったんです。」
北代社長の信念に基づく地道で粘り強い交渉の結果が、三方良しのスキーム作りの第一歩となった。
その活動と並行して、販路拡大に向けて現在取り組んでいるが、スピルリナの認知度UPに苦戦していると、北代社長は語る。
「認知度が低いものを紹介するので、苦労の連続なんです。スピルリナは、味ではなく身体への効能で評価される食材なので、一から説明して理解を得るのは簡単ではありません。SNSの活用や、直接営業など、試行錯誤を重ねながら、少しずつ認知度を広げている段階です。」
先入観にとらわれず、可能性を信じてあらゆる施策を試みる北代社長。三方良しの理念を実現するため、今日もスピルリナ認知度UPに向けて活動を続けている。


⑤目指すは次世代の野菜「スピルリナ」
北代社長の展望は、スピルリナを「次世代の野菜」として認知させることである。ビタミンやミネラルなど栄養不足が問題視されているが、北代社長が調べたところ、食生活が偏ることで、バランスを欠いた栄養摂取が原因とされている。
「大切なのは、バランスの良い食事です。だからこそ、高栄養価のスピルリナが役立つと考えています。現在スピルリナは、健康食品として知られていますが、将来的には次世代の野菜として、『スピルリナ』という新しい分野を確立できたらと考えています。」
いずれは、海外のように日常に取り入れられ、手軽に栄養不足を解決できる食材になれば、「売り手良し、買い手良し、世間良し」の関係が実現すると期待を寄せる。
さらに、スピルリナを使ったバイオエタノールの生産にも関心を持ち、将来的にはバイオ燃料分野への挑戦も視野に入れていると語る。バイオエタノールは、トウモロコシなどを発酵させて製造するが、工程の複雑さなどが課題とされている。
仮にスピルリナからエタノールを生成できれば、工程が簡略化されるメリットがあるという。このように、スピルリナには無限の可能性が秘められている。今後の事業展開と、北代社長の挑戦に注目が集まる。
株式会社SYは、自動車事業の樹脂加工技術を活かした水槽事業と、次世代の食材として期待されるスピルリナ事業を展開する企業だ。
「三方良し」の理念で、環境保護と食糧問題の解決に取り組み、地域社会への貢献を目指している。
栄養バランスの改善を考えている方や健康に不安を抱える方は、一度純国産のスピルリナを試してみてはいかがだろう。豊富な栄養素が、きっとあなたの健康習慣の一助となるはずである。

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