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岐阜から世界のニッチトップを目指す!「株式会社タナック」を訪ねてみた。

岐阜から世界のニッチトップを目指す!「株式会社タナック」を訪ねてみた。
TOM
TOM
柔らかいものを作るって、簡単そうで実は難しいんだね〜。
SARA
SARA
すごい技術と手間がないとできないのね!
TOM
TOM
ネコの肉球も作れるのかな?再現してほしい!
SARA
SARA
・・・飼ってるネコが触らせてくれないのね・・・
この記事は約8分で読めます。
岐阜市にある「株式会社タナック」をご存知だろうか。
シリコンゴムなど柔らかい製品づくりが得意で、模擬臓器の開発などニッチな分野でトップシェアを誇る、唯一無二の企業である。今回は、常務取締役の棚橋 一将(たなはし かずまさ)様のお話をうかがった。
今回のツムギポイント
  • 柔らかい製品づくりのプロを目指して
  • ニッチ特化!模擬臓器でトップシェア!
  • ピンチを商機に!自社開発で活路を拓く
  • やりがい満点!前向きで風通しの良い職場
  • 「Made in Gifu」で世界進出!

①柔らかい製品づくりのプロを目指して

 

株式会社タナックは1996年に創業し、2025年8月で30期目を迎える。創業者である社長は、もともと大手シリコン材料メーカーに勤めていたが、東京への転勤辞令が出たことがきっかけで、創業を考えたという。

 

「創業者である棚橋一成(かずなり)は私の父です。父は地元愛の強い人なので、転勤するのであれば、岐阜で会社を興して一花咲かせたいと、一念発起の起業だったそうです。」

 

社名は一目見て分かりやすいものが良いと、苗字の「棚橋」から引用し、かつ「TANAC」と英語表記しやすいという理由で「タナック」と名づけたと、棚橋常務は話す。当初はメーカーが作ったシリコンの材料を仕入れて販売をしていたが、社長の知見を活かし、自社でも工場を持ちシリコン製造を始めたという。

 

最初は愛知県豊川市に工場を持ち、2016年8月に今の工場を岐阜県各務原市に建てました。当社の最大の強みは、柔らかいシリコン素材を製造できることであり、素材を活かした柔らかい商品を成型できることです。

 

タナックの強みを支える材料は、クリスタルゲルという柔らかい樹脂・タフシロンと呼ばれるシリコンゴム・メディピュールというウレタンの3種類。これらを配合して成型するのはとても手間がかかり、多くの企業が避ける分野でもあるという。

 

硬いものはオートメーション化(機械による自動化)できるので、効率化や省力化を図れるんですが、柔らかいものは伸びたりするので、機械化には不向きなんです。オートメーション化が推進されている現代において、ある意味逆行する工程が必要なため、当社のような企業は極めて珍しいんです。

 

この特殊な技術がタナックの唯一無二の強みになっている。また、長年培ってきた経験を活かし、素材の特性を熟知している。そのため、いかに人の手間を軽減できるかを日々追求しているという。

 

「経験を積み重ねることで、生産時間の短縮や、工程によってはオートメーション化が実現できています。これからも、日々の改善活動を通じて効率化や省力化を図ります。」

 

地元愛から創業したタナックは、他社が避ける柔らかい素材の製造の道を選び、約30年培った経験と技術で、現在は独自の地位を確立している。

 

②ニッチ特化!模擬臓器でトップシェア!

 

タナックは自社の強みを活かすべく、これまで誰も手を付けていない、ニッチな分野に特化し開拓してきた。競合が多い分野と比べて、価格だけではなく技術でも勝負しやすいという利点もある。

 

「我々は生き残るために、敢えてニッチな分野に絞り、そこを一つ一つ丁寧に開拓して、最終的に高いシェアを占める方向性で進めています。その上で大切にしているのが、産学官連携です。毎年3〜4大学と共同研究をして、特許を取得し製品化しております。

 

岐阜大学や近畿大学、最近は福島医大など、様々な大学と連携している。また商品化できた際は、その対価を大学に支払っており、今後もこの良い循環を増やしたいと、棚橋常務は話す。タナックでは、様々な分野にわたって商品開発しているが、特に医療業界向けには、特色のある製品を提供している。

 

模擬臓器を作っています。医師が手術のシミュレーションする時や、医療機器メーカーが新しい製品を開発した時の評価に使われます。臓器や皮膚、血管、骨など全てを製造します。医療は特殊な環境で、当然練習用に人間の臓器を使用できないため、当社のシリコンモデルが重宝されているのです。この分野ではトップシェアを誇ります。

 

シリコンモデルを通じて、医療事故軽減に寄与したい。そのような想いで製品開発に励んでいるという。他にも様々な分野に貢献している。

 

・内視鏡やエコーの部品など医療機器のパーツ
骨盤ベルトや膝サポーターなどの美容ヘルスケア商品
・ロボットの「ソフトグリッパー」(ロボットが物を掴む際の手の部分)
・ロケットや人工衛星のフェアリング(ロケットの先端の先細になっている部分)の断熱材

 

「膝のサポーターは、楽天やAmazonで売れ筋トップ10に入っており、ご好評をいただいております。ロケットは、成層圏を突破するときに、数分間約800度の熱を帯びるんですが、シリコンには耐熱効果があるため、それに耐えられるんです。そのため、ロケットや人工衛星の部品として作っています。」

 

このように、シリコンやクリスタルゲルは、肌に対しての衝撃を和らげることができたり、皮膚に対して親和性が高い素材のため、今後も「柔らかいもの」というニーズは無くならないと予測している。

 

「今後も『柔らかいもの』に特化して、ジャンルも医療など特定の分野に絞り、さらにニッチに焦点を当て、トップニッチを狙いながら展開します。」

 

タナックは柔らかいシリコンの強みを活かし、医療用模擬臓器でトップシェアを獲得。ニッチ分野への特化と産学官連携で、唯一無二の企業を目指している。

 

③ピンチを商機に!自社開発で活路を拓く

 

ニッチ分野に特化し、独自路線を貫くタナック。一見すると順風満帆に映るが、コロナ禍では苦戦を強いられたこともあったという。それまでは、企業からの依頼を受けて製造するOEM生産をしていたため、学会が開催されない影響で模擬臓器の需要が減ったり、外出が減りフットケア製品のニーズが減ったりするなど、製造依頼が不安定になり売上が立たないという窮地に陥った。

 

「窮地を打開すべく、自社での商品開発を決心しました。社員一丸となってリモート会議を重ねながら意見を出し合い、様々な自社商品を開発したんです。それがようやく実を結び、次々に発売が決定しました。現在年間10万枚以上を誇る膝のサポーターもその時に開発したものです。」

 

ピンチをチャンスと捉えて、社員が結束して着手した自社商品の開発。コロナが無ければ自社商品は開発していなかったと振り返る。

 

コロナ禍で開発した自社商品の第一号は、マスクの隙間を閉じる「マスピタ」である。色々な文献を参考にする中で、マスクの隙間は好ましくないということがわかり、専門家である慶応義塾大学の先生との共同研究の末、開発したものだ。驚くべきことに、企画からたった2ヶ月というスピードで商品化したという。

 

「コロナが流行り始めたのが2020年1〜2月頃で、2020年4月には発売していました。当時は未知の感染症だったので、『とにかくウイルスを防ぐ』をスローガンに掲げ、世の中にいかに貢献できるかを考え、短期間で開発しました。」

 

価格設定も980円と安価で販売、本来収支のバランスを考えるともう少し値上げしたいところであったが、社会貢献を考え利益度外視で価格設定をしたという。さらに、近隣の様々な病院への寄付も行った。

 

コロナ禍で苦境に立たされたタナックは、社員の結束力で自社商品開発へと舵を切り、ピンチを新たな商機へと転換させた。

 

④やりがい満点!前向きで風通しの良い職場

 

タナックがより飛躍するには、一般の方への認知度を高めることが必要だと、棚橋常務は話す。

 

「当社は現在、30〜40代の実績のある中途社員を採用していますが、将来を見据えて人材育成の必要性も考え、2026年度から新卒で何人か採用しようと考えています。それにあたって、優秀な人材を採用するには一定の知名度が必要です。そのため、商品も含めて一人でも多くの方に知ってもらうことが大切で、それが今の課題だと考えています。」

 

タナックでは認知度を上げるべく、既にいくつかの取り組みを始めている。その中の一つが、小学生を対象としたキャリアスクールである。「柔らかいシリコン!」や「ビヨーンと伸びる」など、子供達を対象とした取り組みにも積極的だ。

 

その他、商品のブランドにも工夫を凝らしている。中でも、注射の痛みを和らげる目的で商品化した「ぷにゅ蔵くん」が、第34回読者が選ぶネーミング大賞のビジネス部門にて、2位を受賞した。

 

「共同研究した商品名は、基本的に先生に候補を挙げていただき、その中でユニークで面白いものを基準に選んで決めています。その中で、昨年『ぷにゅ蔵くん』が2位を受賞したため、何度も新聞にも紹介され、結果的に認知度が上がりました。」

 

ぷにゅ蔵くん」は注射の痛みを軽減する為の冷却パックで、予め注射部位を冷却し、皮膚感覚を鈍化させる仕組みである。実際3つの病院で臨床試験を行い、ほとんどの子供が泣かなかったというデータを収集した上で商品化しており、関西を中心に多くの小児科で採用されている。

 

「タナックの社員は、一人ひとりが前向きで、やりがいを持って主体的に仕事に取り組んでいます。和気あいあいとしながら、年齢に関係なく様々なアイデアや意見を出し合うので、とても雰囲気も良いです。私はこの職場環境が好きですし、タナックの文化としてこの環境を継続させます。」

 

タナックは認知度向上に挑みながら、前向きで風通しの良い職場環境を大切にし、社員一人ひとりが主体性を持って輝ける企業文化を育んでいる。

 

⑤「Made in Gifu」で世界進出!

 

棚橋常務に、今後の展望についてうかがった。

 

「岐阜県内の複数の企業とコラボレーションして、社会に役に立つ面白い『Made  in Gifu』製品を開発して、岐阜から元気を発信することです。さらにそれを足掛かりに世界に進出したいです。」

 

実際にその夢に向けて、具体的な取り組みが既に進行している。岐阜大学と岐阜の病院と共同研究という形で、岐阜の材料を用いた模擬臓器を開発している。商品化が実現すれば、世界初になるとのことで、今から期待が膨らむ。

 

「この取り組みは、岐阜の産学官医連携を目指しています。産は当社で、官は県や市からの補助金を開発資金に充て、学は岐阜大学、医は病院。さらに材料は岐阜産と、オール岐阜で開発する商品です。」

 

また、世界進出に向けては模擬骨を中心にグローバル展開をしようと思案している。現在、模擬骨の世界的なシェアは、アメリカとスイスの会社で95%を占めているが、日本人を始めとするアジア人には懸念点があるという。

 

「180cmの欧米人の骨格に合わせた模擬骨が、世界の医療業界で練習に用いられています。アジア人は欧米人と比較して骨が小さく柔らかいため、適さないんです。そのため、アジア人向けの模擬骨のニーズが高まっており、事業展開を目論んでいます。」

 

「Made  in Gifu」で各務原産の模擬骨として、10年後に「各務原といえば骨」と言われるぐらい、世界に向けて認知度を上げられたら嬉しいと、棚橋常務は語る。

 

株式会社タナックは創業以来30年、柔らかいシリコン素材の特性を活かした、ニッチ市場に特化した戦略で独自の地位を確立してきた。医療用模擬臓器でトップシェアを誇り、コロナ禍という逆境も社員の結束力で乗り越え、自社商品開発という新たな挑戦へと発展させている。今後は岐阜発の製品を世界へ展開する壮大な挑戦も始まっている。

 

就職希望など興味を持たれた方は、ぜひ岐阜市の本社、または工場のある各務原市を訪問していただきたい。会社の理念に共感し、世界進出に向けて、一緒に伴走できる仲間をいつでも待っている。

 

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