岐阜で本場のイタリア郷土料理を提供する「Da Antonio」を訪ねてみた。





本場イタリアの郷土料理と厳選されたワインを提供するイタリア料理店だ。今回は、シェフの髙島 康(たかしま やすし)さんにお話をうかがった。
- イタリアで学んだ、素朴で豊かな味
- 夫婦の想い溢れる店づくり
- 地元愛が生む唯一無二の料理
- 笑顔あふれるアットホーム空間
- 岐阜から広がる、イタリア料理の新たなかたち
①イタリアで学んだ、素朴で豊かな味
岐阜市柳ヶ瀬エリアにあるDa Antonio は、イタリア各地の郷土料理を、身近な日本の食材で丁寧に表現するイタリア料理店だ。イタリア料理の技法で作られる素材を生かしたそのシンプルな料理は、訪れる人を楽しませている。
手がけるのは、岐阜県出身のシェフ アントニオこと、髙島さん。イタリア料理との出会いは、高校時代にさかのぼる。
「パスタもピザも好きでしたし、当時の自分にはとても華やかで特別に見えました。正直なところ、なんとなく“かっこいい”と感じたんです。本当にシンプルな理由でしたが、それがきっかけになりました。」
十代の時に、シンプルな料理のおいしさに感激したことが、料理人としての道の第一歩になった。高校卒業後は調理専門学校でイタリア料理を専攻し、料理の基礎の基礎を学んだ。その後、東京・老舗イタリアンで11年間勤め、伝統的なイタリア料理の技術を磨いていった。
「修業時代の経験のどれもが、今のスタイルの土台になっています。」
そして満を持して、イタリアへ。トスカーナやシチリアをはじめとする7店舗で、合計3年間の修業を重ねた。地域ごとの食文化や食材の扱い方に触れ、イタリア料理への見方が大きく変わったという。
「イタリアの郷土料理は、その土地の歴史や文化に深く根ざしているんです。イタリア人は自分の生まれ育った地域の料理(郷土料理)に強い誇りを持っていて、各家庭のマンマの味、いわゆる素朴であたたかい味わいに、心惹かれました。」
3年間のイタリア修業を経て、岐阜へ戻る決意を固めた髙島さん。料理で地元に貢献したいという想いとともに、独立開業に向けて準備を進めた。
「独立はずっと夢でしたが、やっぱり準備は大変でしたね。夫婦で話し合いながら、一つずつ乗り越えてきました。」
そして、コロナ禍という大きな困難も乗り越え、2024年7月に開店。
店名の「Da Antonio」は、イタリア修業時代の仲間に愛称として呼ばれていた「アントニオ」から、名づけたそうだ。
「“アントニオ”という名前には、僕のイタリア修業時代を忘れないようにと、そして、みんなに親しみやすくて、覚えやすい店名にしたかった、そんな想いから名づけました。」
Da Antonio は、イタリアで得た技術と感性を岐阜の風土にのせて届ける、小さなイタリア料理店として、静かにその存在を広げている。

②夫婦の想い溢れる店づくり
Da Antonio での食事を語るうえで欠かせないのが、料理と共に楽しめるイタリアワインの存在だ。イタリアの郷土料理同様、イタリアワインの魅力も「多様性」と「土地の個性」である。
季節や風味を踏まえて数種類のグラスワインを揃えるのは、ソムリエとしてお店を支えている髙島さんの奥様、あこさん。料理を担う髙島さんと、サービスとワインを担当するあこさん——それぞれの強みを生かした分業が、この店の強みとなっている。
「髙島の料理と一緒に気軽にワインを楽しんでもらえるよう、まずは幅広いワインの知識を身につけたかったので、ソムリエ資格取得の勉強をしました。今はイタリアに特化したワインの見識を深めたいと思っています。」
岐阜ではワインはまだまだ敷居が高い存在だ。
「うちでは、食事中に料理と一緒に楽しめるワインを揃えています。イタリアには350種類以上の土着のぶどう品種があるので、その多様性を楽しんでもらえたら、嬉しいです。」
髙島さんの手がける料理は、アラカルトのみ。その時の気分で食べたいものを選んでほしい、そんな想いからコース料理ではなく、単品メニューが基本のスタイル。
料理と同じく、飲み物も好きな物を選んでもらえればいいと、ワイン以外も取り揃えている。ただ、選択肢の1つに、ワインがあってほしい、そしてワインが少しでも日常的な存在になってほしいと、髙島さん夫妻は言う。
Da Antonio での笑顔あふれる時間が、記憶に残る食体験を形づくっていく。


③ 地元愛が生む唯一無二の料理
Da Antonio の料理には、本場イタリアで学んだ技術と、日本の豊かな食材が見事に融合している。髙島さんは、イタリア各地での修業を通じて、料理における「土地の力」を肌で感じてきたという。
「日本の食材はとても魅力的で、料理に力強い個性を与えてくれます。イタリアで学んだ郷土料理の考え方をもとに、素材の味を活かしながら、新しい表現に挑戦しています。」
素朴で温かみのあるイタリアの郷土料理を再現しながらも、岐阜ならではの味覚をどう重ねていくか。その発想の柔軟さには、東京とイタリアでの修業経験が大きく影響している。
「当時のメニューや、賄いで出された料理の中にヒントがたくさんありました。さまざまな食材の組み合わせを体験したことで、発想の幅が広がったと思います。」
そんな経験から Da Antonio の看板メニューとなったのが 「カチュッコ (Caccuicco)」だ。「カチュッコ」とは、イタリアトスカーナ地方の漁師町発祥の伝統的な郷土料理。たっぷりの魚介類をトマトベースのソースと赤ワインを使って煮込む、他にはない珍しい魚介料理だという。髙島さんがトスカーナで修業した時に、見た目が豪快な煮込みなのに、その味は繊細で奥深く、衝撃を受けたという。
「“カチュッコ”は自分で店を持ったら、来てくれる方に必ず食べてほしいと思った郷土料理です。イタリアの郷土料理なのに、日本人が食べてもどこか懐かしく、魅了される味なんですよ。少しだけ味に変化をもたせるアレンジを加えていま す。」
本場イタリアの料理に使われる食材と、日本で手に入る食材には違いもある。だからこそ、髙島さんは「岐阜でしかできないイタリア料理」を目指して、素材の特性に合わせた工夫を重ねている。
現在は、季節ごとの限定メニューに挑戦している。例えば、鮎のシーズンになると、「鮎の冷製パスタ トラパネーゼソース仕立て」を考案。岐阜の鮎とイタリアの伝統的なパスタソース、そこに自家製鮎魚醤を加え、オリジナル料理を生み 出している。パスタなのに鮎一匹食べたかのような驚きと発見を届けている。
「岐阜の食材を使えば、ここでしか食べられないイタリア料理になります。それが一番の魅力になると思っています。」
イタリアの食文化を伝えながら、日本の素材の魅力も発信していく。髙島さんの料理は、身近な食材を通じて新たな食の可能性を切り開き、自然と食への興味が沸き、食べることの楽しさをDa Antonio を訪れる人にもたらしている。


④ 笑顔あふれるアットホーム空間
イタリアでの修業中に触れた“食堂のあたたかさ”を、岐阜でも実現したい——そんな想いから、「Da Antonio」の店づくりは始まった。髙島さん夫妻が理想とするのは、イタリアの大衆食堂のような、活気と笑顔にあふれた空間だ。
「イタリアの食堂は、誰もが気軽に集い、笑顔で食事を楽しむ場所です。岐阜でも、そんな空気感を大切にしたいと思っています。」
現在の店舗は、2年間の物件探しの末にたまたま見つけたという柳ヶ瀬の一角。歩いたときに感じた通りの雰囲気が、出店の決め手になった。
「この通りを歩いたとき、赤い街灯のやわらかい光に心を惹かれました。ここなら自分たちの理想のお店ができると感じました。」
螺旋階段を上がった先に広がる店内は、開放感のある内装にイタリアの写真や修業時代の思い出の品が飾られ、異国の情緒をさりげなく醸し出している。
シンプルでアットホームな空間は、訪れる人を温かく迎え入れ、テーブルを囲む笑顔や会話が、店の目指す賑わいを体現する。
「この空間で、お客様にくつろいで食事を楽しんでいただけることが、何よりの喜びです。」
Instagramでは、料理の背景やワインの魅力をわかりやすく発信。温かな雰囲気をそのまま届けている。
「イタリアの食文化を、もっと身近に、もっと気軽に楽しんでいただけたら嬉しいです。」
こうした発信や店づくりを通じて、Da Antonio は地域に根づきながら、異国の空気をやさしく届ける食の場として、多くの人に愛されはじめている。


⑤岐阜から広がる、イタリア料理の新たなかたち
Da Antonio が描く未来には、夫婦二人三脚で挑戦する“岐阜発イタリアン”の可能性がある。岐阜にイタリアの食文化を根づかせ、もっと多くの人に魅力を届けたいという想いが、その根底にある。
「岐阜でイタリアの食文化を広めたいと考えています。Da Antonio を通じて、本場の魅力を感じてもらえたら嬉しいです。」
まず取り組んでいるのは、季節ごとの新メニュー開発。岐阜の旬の食材を最大限に活かし、イタリアの技法で新たな一皿を生み出していく。
「岐阜の自然の恵みを使えば、季節ごとの変化も表現できます。その時期ならではの料理を、楽しんでいただきたいですね。」
地元生産者と連携し、旬の食材でイタリア郷土料理に個性を加えている。
そしてもう一つ関心があるのが、若い店主たちが活躍する機会が増えてきている柳ヶ瀬エリアの未来だ。
「若い人の出店が増えている昨今。僕らを含め、多種多様なお店が集まり、街全体で盛り上がれば、きっと岐阜全体が輝くはずです。」
そうした想いは、食を通じて幅広い世代にイタリアの文化を届けるきっかけになるだろう。
夫婦二人だけで切り盛りする日々。時には料理の提供に時間がかかることも。
「料理を待ってもらっている時でも、Da Antonio の空間を楽しんでもらえたらと。僕らは笑顔を大切にし、これからも新しいことに挑戦していきます。」
今を大切にしつつ、次に進んでいく。髙島さん夫妻が思い描く“岐阜のイタリア料理”という未来につながっている。
「身近な食材で、本場イタリアの味を届けたい。食を通じて、イタリアに行ってみたいと感じてくださる方が増えたら嬉しいです。」
その想いは、Da Antonio の中に。夫婦が紡ぐ小さなレストランから、岐阜に新たな食の物語が生まれている。
本場仕込みの味を気取らず楽しみたい人は、ぜひ訪れてみてはいかがだろうか。Da Antonio でしか味わえないイタリアの魅力に出会えるだろう。

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