想いを受け継ぎ、笑顔が集まる「焼肉 炙りや藤庵」を訪ねてみた。





良質な焼肉に加えて牛タンしゃぶしゃぶやもつ鍋も味わえる、自家製のタレとスープにこだわった店だ。
今回は代表の安藤 真由美(あんどう まゆみ)さんに、開店からの紆余曲折や今後の目標などについてお話をうかがった。
- 夫婦二人三脚で始めた焼肉店
- 失われた日常の中で、つないだ味と想い
- 地域に支えられ、歩んできた16年
- 肉ケーキや肉ドレスで記念日を彩る
- 「ママちゃん」として長く愛される店に
①夫婦二人三脚で始めた焼肉店
焼肉店の開業は、旦那様の龍樹(りゅうき)さんが長年温めてきた計画だったという。もともとレストランバーを経営していた龍樹さんだが、結婚して子どもを授かったタイミングで、家族との時間をより大切にしたいという想いから、テナントではなく自宅兼店舗での開業を決断した。
「最初は焼肉屋という発想はなかったんですが、ふと気づいたら事業計画書が、いつの間にか焼肉屋になっていたんです。私も『あれ、焼肉?』と驚いたのですが、主人から『焼肉屋をやりたい』と熱い想い聞いて、もちろん応援しようと思いました。そこから土地を探して、主人は焼肉屋で1年半ほど修業をして、ご縁があってこの場所で開業することになりました。」
店名「炙りや藤庵」には、いくつかの意味が込められていると、真由美さんが教えてくれた。
「焼肉屋というイメージだけにとどまらないように、“炙り料理も好きだから、幅を持たせようということで“炙りや”とつけました。“藤庵”は、名字の“安藤”を逆にして“藤安”に、さらに“あん”の字を“庵”に変えて、食事処のような響きにしたんです。長年活躍されているタモリさんの芸名の由来をヒントにしていて、私たちも少し遊び心を加えました。」
幅広い料理という点では、レストランバー時代にパスタや炒飯、餃子など100種類以上のメニューを提供してきた経験が活かされている。現在も、タンしゃぶやもつ鍋、プデチゲ、ゆず塩涼麺など、焼肉以外のメニューも豊富に揃える。
「本当に料理が好きで、おいしいと思ったものはすぐ真似して、自分の味にしてしまうタイプです。うちのタレはもちろん、もつ鍋や冷麺、ラーメンのスープもすべて手作りです。もみダレは、国産のニンニクや昆布、玉ねぎなどをたっぷり使って仕込んでいます。」
柚子胡椒といった薬味までも手作りし、自慢のタレは10種類以上の調味料をブレンドして、1週間かけて寝かせる。そうして、深みのある味わいが完成するのだ。
ジャンルにとらわれず、自らの手で味を追求し続けてきた積み重ねが、現在の「炙りや藤庵」の土台となっている。


②失われた日常の中で、つないだ味と想い
一緒に働く仲間も増え、店舗経営は順調に進んでいたが、2023年に大きな転機が訪れた。病と闘っていた龍樹さんが、49歳という若さで亡くなったのだ。
地域の人々から「大将」と親しまれていた龍樹さん。常連客と一緒に酒を酌み交わしながら料理をふるまう姿は、お店の象徴でもあったという。
「主人がお客様と一緒に飲んで楽しんだり、大将と話したいと言って来てくださる方もいました。お通夜とお葬式には400人以上の方が参列してくださって、葬儀場からあふれるほどで。本当に愛されていた人だと感じておりました。」
気丈にふるまいながらも、真由美さんはそのわずか10日後にはお店を再開させた。
「愛されたお店を残してくれて、これから私がそれを超えられるのかなと考えることもあります。でも主人が築いてくれたものを、止めたくはありませんでした。」
真由美さんがその意志を確かに引き継ぎ、現在は16年目を迎えている。
③地域に支えられ、歩んできた16年
大将を亡くした後もお店を続けてこられたのは、地域の人々や関係者の存在があったからだという。
「お肉屋さんとは長年のお付き合いがあるので、信頼してお任せしています。主人がいた頃から、そして亡くなった後も、ずっと応援してくれる人たちがいてくださる。本当に私たちは恵まれているなと思います。」
ゴールデンウィークや年末年始など人手が足りなくなりがちな時期には、かつて働いていたアルバイトのOB・OGが「困る前に」と声をかけてくれる。開業当初から通い続けてくれる家族連れもいる。
「オープンの頃から通ってくれているお子さんが、もう20歳くらいです。幼稚園だったのに、今ではすっかり大人で。地域密着だからこその距離感があって、応援してくださっているのを日々感じます。」
真由美さんは、3人の子どもを育てながらお店に立ち続けてきた。そこにもまた、周囲の支えがあった。
「下の2人は1歳になるまでおぶって仕事をしていましたね。おかげでお客様にも可愛がってもらえて、お父さんお母さん代わりだったり、お兄ちゃんやお姉ちゃんみたいに接してくれて。大きな家族のような感覚です。」
大切な人を失った悲しみは消えないが、店を通じて築かれたつながりは、安藤さんにとってかけがえのないものとなっている。

④肉ケーキや肉ドレスで記念日を彩る
焼肉やもつ鍋などの定番メニューに加えて、目でも楽しめるのが「肉ケーキ」や「肉ドレス」だ。誕生日や記念日などのサプライズメニューとして提供している。
「お誕生日や記念日用に、お花や花火で飾り付けしてサプライズでお出しすることもあります。お子さんの誕生日では、ケーキよりも肉ドレスの方がかわいくて喜ばれることもあります。元スタッフの子の友達が、誕生日祝いにお肉でケーキを作れないかと主人に相談してきたことがきっかけでメニューに加わりました。」
味のおいしさはもちろん、見た目の楽しさや記憶に残る仕掛けも大切にしている。そしてもう一つ、夏季限定のビアガーデンも人気の工夫だ。
「子どもが遊べるように、ハンモックやおもちゃも用意しています。うちはファミリーで楽しめるビアガーデンなんです。」
外でのびのびと食事を楽しみながら、大人はゆったりとお酒を楽しみ、子どもも飽きずに遊べる。そんな空間づくりを心がけている。

⑤「ママちゃん」として長く愛される店に
現在、店舗経営は真由美さんが1人で切り盛りしている。時には悩みを抱えることもあるという。
「経営者ってどこまで行っても孤独で、やっぱり一人で悩まなきゃいけないことも多いんです。でも、何が起きてもどうにかするという気持ちを大切にしています。結局は自分の行動次第だと思っています。」
もともと料理をしてこなかったという真由美さん。結婚後に料理の魅力を知り、夫と共にお店を育ててきた。アパレル業での接客経験も今の仕事に活きている。
「もちろん、料理もおいしくなければいけないけれど、最終的に行き着くのは“人”だと思うんです。大きくするのではなくて、お客様が癒されたり、リフレッシュできたりする場所にしたい。みんなが幸せになれるようなお店にしていきたいです。」
現在、真由美さんが目指しているのは、「大将」と親しまれていた龍樹さんに対して、自らは「ママちゃん」として愛される存在になることだ。
「“ママちゃんの笑顔で元気になろう”をテーマにしています。主人から引き継いで、これからどうしようと考えたときに、“お客様からママちゃんと可愛がられるお店にしよう”と思って。インスタにも“ママちゃんおすすめメニュー”とか、“ママちゃんの笑顔に会いに来てね”っていう投稿をしています。」
困難を乗り越えながら、大将の味を守り続けている真由美さん。自家製のタレやスープにこだわった店は、これからも地域の人に愛され続けるに違いない。
焼肉と牛タンしゃぶしゃぶを一緒に味わうといったプチ贅沢もできる。藤庵秘伝のタレの味わいが気になるという人は、ぜひ一度訪れてみてはいかがだろうか。真由美さんの人柄に触れ、心温まる時間を過ごせることだろう。

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