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下呂市

個性を尊重し、自信と表現力を育てる「きたはら音楽教室」を訪ねてみた。

個性を尊重し、自信と表現力を育てる「きたはら音楽教室」を訪ねてみた。
TOM
TOM
ねぇサラ、ボク最近ピアノ始めたんだ〜!
SARA
SARA
え、あなたのそのツメで? 一音押したら八鍵くらい同時に鳴るわよ。
TOM
TOM
でもさ、“ボクにしか鳴らせない音”ってあると思うんだ〜。
SARA
SARA
・・・最近、森のほうから聞こえる不気味な音って、もしかして・・・?
この記事は約6分で読めます。
下呂市にある「きたはら音楽教室」をご存知だろうか。
一人ひとりの個性と向き合い、音楽を通して心を育てることを大切にしている。今回は、講師の北原かおり(きたはら かおり)さんに、音楽への情熱や指導にかける想いについてうかがった。
今回のツムギポイント
  • 地元に息づく名前に、音楽への想いを込めて
  • 生徒一人ひとりに寄り添う個性重視のレッスン
  • 音楽に興味を持つ全ての人へ
  • 活動を広げ、未来の講師を育てたい

①地元に息づく名前に、音楽への想いを込めて

 

教室名に選んだのは、自身の名字である「きたはら」。そこには、この土地と家族への静かな敬意がある。

 

「義理の母が“きたはら”の名前を使って下呂市でそろばん塾をしているんです。それで、地元では名前を知ってくださっている方も多いので、同じ名前を使うことにしました。」

 

長く地域に根付いてきた名前を受け継ぐことで、新しい教室でありながらも、“どこかで聞いたことがある”という安心感が生まれる。家族の想いをつなぎながら、音楽の時間をこの地で紡いでいく——そんなあたたかな決意が、この教室名には込められている。

 

音楽教室を始めた背景には、幼い頃からの音楽への深い愛情と、“自分の理想とする指導を形にしたい”という強い願いがあった。

 

ピアノに触れたのは4歳の頃。北原さんの情熱はいつしか生活の一部となり、大学まで一貫してピアノを学び続けた。

 

「本当にピアノが大好きで、時間さえあればずっと弾いているような子どもでした。教えてくれる先生に憧れて、私もそんな先生になりたいと思い、その夢を追い続けてきました。」

 

大学を卒業してからも、その想いは消えることはなかった。大手音楽教室の講師としてキャリアをスタートしたものの、決められたカリキュラムに縛られる指導に、次第に違和感を抱くようになる。

 

もっと自由に、生徒一人ひとりに合わせたレッスンをしたい。もっと、自分らしい音楽の届け方を探したい。そんな想いが日ごとに強まり、やがて独立を決意した。

 

16年前、自宅の一室をレッスン室として、きたはら音楽教室を立ち上げた。下呂市の中学校で音楽教師としても勤務し、当初は教員としての仕事と教室の両立を続けながら、理想のピアノ指導を模索していったという。

 

「最初はもちろん不安もありました。でも、子どもたちに音楽を教えたい、一緒に楽しみたいという気持ちのほうがずっと大きかったです。地道に続けてきた結果、今では多くの方に愛される教室になったと感じています。」

 

教室を続けてこられた原動力は、音楽そのものへの愛と、生徒一人ひとりに寄り添う優しい指導への信念。きたはら音楽教室の始まりには、北原さんの「自分らしい指導を貫きたい」という情熱があった。

 

②生徒一人ひとりに寄り添う個性重視のレッスン

 

きたはら音楽教室の最大の強みは、生徒一人ひとりの個性と状況に合わせた指導である。

 

2歳の幼児から大人まで幅広い年齢層に対応し、趣味で楽しみたい生徒からコンクールを本格的に目指す生徒まで、それぞれの目標に応じたレッスンを提供している。

 

幼児向けには、脳の発達を促す「ピアノdeクボタメソッド」を取り入れたレッスンを提供。ピアノを使って真似をすることで記憶力が働き、ワーキングメモリー(作業や動作に必要な情報を一時的に記憶し処理する能力)を育てる。北原さんは飛騨地区で唯一の認定講師として、この指導法を実践している。

 

北原さんの指導で特徴的なのは、生徒の状態を瞬時に読み取る能力である。

 

「今日疲れているなとか、悩みがあるとか、すごくいいことがあったとか、ちょっとした表情も見逃さず、その子の状態に合わせて対応しています。」

 

その日の気分や体調に応じて、無理に練習を強要することなく、ひとりひとりのペースに合わせたレッスンを心がけている。

 

一方的に教え込むのではなく、「今の演奏、自分ではどうだった?」「この弾き方とこの弾き方だったら、どちらが曲の雰囲気に合ってる?」と問いかけながら、生徒自身の気持ちや感性を引き出していく。

 

中には本格的にピアノを学び、コンクールを目指す生徒もいる。もちろん結果を出すためには“教え込む”ほうが早いかもしれない。けれど、それでは生徒自身の感じたことが音に表れなくなる——北原さんはそう考えている。時間がかかっても、生徒本人が考え、感じ、行動することを大切にしているのだ。

 

「能動的なレッスンを意識するようになってから、全国大会で入賞できる生徒が増えてきました。やっぱり、自分で考えて動くことは大事だと思います。」

 

その指導法は、確かな結果として実を結んでいる。毎年のように全国大会へと生徒を送り出し、4年連続で入賞を果たしている。昨年12月の全国大会では、指導を受けた生徒が優秀賞を獲得。北原さん自身も初めて指導者賞を受賞した。

 

また、子どもの負担にならないよう、個々の目標に合わせて指導内容を柔軟に変えている。

 

「コンクールを目指すならそれに応じた内容にしますし、趣味として楽しみたい子には無理をさせません。すべて、その子の気持ちに合わせるようにしています。」

 

レッスンが義務ではなく“楽しみ”であること——それこそが北原さんの目指す「一番いい状態」だ。

 

指導への情熱は、教室を始めた頃から変わらない。自身も常に成長し続けるために、日々1〜2時間の練習を欠かさないという。

 

「生徒が頑張っている姿を見ると、私も頑張らなきゃって思うんです。お互いに刺激し合える関係ですね。生徒もご家族も本当に素敵な方ばかりで、教室にいつもいい風が吹いています。」

 

生徒に努力する姿を見せながら、ともに高め合う関係を築く。個性を大切にし、自信と表現力を育む——そんな理念のもとで、きたはら音楽教室は今日も音の時間をやさしく紡ぎ続けている。

 

③音楽に興味を持つ全ての人へ

 

特定の才能や経験を問わず、初心者から上級者まで、音楽やピアノに少しでも興味を持つ全ての人を受け入れる姿勢を大切にしている。

 

初めてピアノに触れる子どもたちには、音楽を楽しみながら自然に学べる環境を整えている。音楽を始めたいという小さな好奇心を大事にしたいという願いがある。

 

「初めて習い事をする子や、自信がないと感じている子にこそ、気軽に来てほしいです。音楽を通じて自信をつけたり、表現することを学んでほしいです。」

 

日頃からのコミュニケーションも大切にしている。気軽に話せる環境を作り、子どもたちにとって安心できる場を提供している。

 

『第二のお母さん』のような存在になれたらいいな、と思っています。日常の様子を聞きながら信頼関係を築き、安心して通える環境づくりを心がけています。」

 

生徒とのコミュニケーションはもちろん、ご家族も教室での様子を細かく共有する。「先生が寄り添ってくれるので安心して通わせられる」「子どもの頑張る力が育つ」など、嬉しい声も届く。兄弟で通う生徒や長期にわたって通う生徒も多く、その信頼は厚い。

 

子どもたちを生徒としてだけではなく、それぞれに敬意を持って接する。指導者として上から教えるのではなく、子どもたちの良いところを見つけ、前向きな気持ちを引き出すことを意識している。

 

そういった北原さんの指導実績や、子どもに寄り添う姿勢が口コミで広がり、遠方からも生徒が集まっている。

 

「生徒は我が子のような存在です。笑顔で明るい子が多くて、みんな本当にいい子ですし、素直でかわいい子ばかりです。」

 

幼少期から人見知りをしない性格で、小さい子どもが大好きだったという北原さん。自然体で子どもたちと接する姿勢が、多くの生徒や保護者に愛され続ける理由の一つなのかもしれない。

 

④活動を広げ、未来の講師を育てたい

 

指導への情熱を維持する中で、家庭との両立には迷いもあった。夕方のレッスンが中心のため、自身の子どもと過ごす時間が限られ、教室の縮小を考えた時期もあったという。

 

「どうしようかなと迷った時は一瞬ありましたが、何があっても音楽と子どもが好きな気持ちは変わらず、ここまで続けてこられました。」

 

葛藤を乗り越え、続けることの大切さを実感してきた北原さんは、新たな挑戦として第二教室のオープンを控えている。

 

第二教室は下呂市の南側に位置し、第一教室のある北部とは異なる地域の子どもたちがアクセスしやすい場所に設けられる。これにより、より多くの生徒に音楽を届けることが可能になる。グランドピアノを導入するなど環境にもこだわり、子どもたちが本物の音に触れられる場を提供する予定だ。

 

さらに、北原さんの夢は音楽を仕事にしたい人材の育成にも及ぶ。音楽を志す人々が、働く場を見つけにくい現状を踏まえ、教室を拡大することで新たな講師の受け皿を作りたいと考えている。

 

「働きたくても、働く場所が限られている人がたくさんいます。もし私の教室を広げることができれば、そういった意欲のある人たちに活躍の場を提供できるのではないかと考えています。」

 

この展望は、北原さんが長年培ってきた教育者としての想いに根ざしている。子どもの成長を支えるだけでなく、音楽を志す大人たちの夢も応援したいという気持ちがそこにある。

 

16年間の歩みを重ねながら、第二教室の開設と講師育成という新しい夢に向かう北原さん。「きたはら音楽教室」は、これからも下呂市の子どもたちと音楽を愛する人々にとって、大切な場所であり続けるだろう。

 

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