創作だし巻き玉子が名物の「食べ処飲み処 美膳」を訪ねてみた。
創作だし巻き玉子でメディアに取り上げられ広く知られる居酒屋だ。今回は塩見 久嗣(しおみ ひさし)さんと、シェフの塩見 ゆう子(しおみ ゆうこ)さんご夫婦にお話を伺わせていただいた。
- 第二の創業
- 独自の取り組み
- 美膳のこだわり
- SDGsの取り組み
- これからの美膳
①第二の創業
美膳は、だし巻き玉子に力を入れている珍しい居酒屋だ。どのようにして現在の経営方針に至ったのかを尋ねてみた。
「この店は元々妻の店なんですよ。僕はサラリーマンをずっとやっていて、僕が会社を辞めて店に入ったのが3年か4年くらい前です。」「妻が料理を勉強して修行して起こしたお店で、もう31周年目です。僕が入る前は、妻と妻の母が二人でずっと長いことやっていた普通の居酒屋でした。」※インタビューは2023年8月
久嗣さんは、奥様のお母様が引退されるタイミングで入られたのだと話してくれた。久嗣さんが入る前は、奥様とお母様が切り盛りする女性らしさのある居酒屋だったのだという
「夏に会社を辞めて、僕がお店に入った年の冬にコロナが始まって当時はほとんど時短営業でした。それだけではなく妻の母が引退した事で、母のファンだったお客様が離れていかれることも当然ありました。そうした以上にコロナでお客さんが来なくなって1年目から大変だったんです。」「何をしようにもお店を開けちゃダメだって時期にじゃあどうしようかって考えて、”コロナが明けた後”という所に目を向けたんです。それがこのお店の大きなターニングポイントでした。」
久嗣さんは当時まだアフターコロナという言葉もなかった時、既にコロナ明けに目を付けたのだと話してくれた。これには正直驚かされた。熟練の経営者でもなかなか難しい”先を読む”という事を、久嗣さんはお店に入った当初にやっていたのだ。
「コロナ明けを意識する中で、原点回帰しようと妻と話して30年間やってきてお客さんに愛されていた商品をいくつか出しました。その中で選んだのがだし巻き玉子だったんです。”だし巻き玉子でどこまでやれるかやってみよう”って妻と2人で始めて今に至ります。」
元々の居酒屋で人気があった、だし巻き玉子をお店の看板メニューにしたのだと話してくれた。1つの料理でやると決めた結果、今では多数のメディアで取り上げられる程になっているのである。久嗣さんとゆう子さんの、まっすぐ取り組む姿勢を感じられる。
「コロナの期間中はどうしてもお客様も出てこなくなるからどうしようかって考えに考え抜いて、僕と妻の2人で再スタートしようと決めたんです。第二の創業というイメージですね。コロナの3年間ずっと準備をして、今やっとお客様の前に出せています。」
コロナを機に第二の創業として、コロナ明けを見越した準備によって大きく変えたのだと話してくれた。
その準備の証拠としてキャラクターやグッズもしっかり作られているのだ。全てだし巻き玉子に関連するもので、パッと見て「だし巻き玉子に力を入れてるお店」だとすぐに分かる。
もしこのイメージを狙っていたのなら、ブランディングとしては大成功である。
「元々は女性2人のお店だったところへ母が抜けて主人が入ったので、母のファンのだった方はやっぱり来なくなっちゃったりもありました。」「ただ、女性だけで切り盛りするお店だったので、防犯面を考慮して大々的な宣伝はしていなかったんです。」
コロナ前の常連さんが来なくなってしまい、集客が大変だったのだとゆう子さんが話してくれた。
「ずっと美膳を忘れて欲しくないって思っていました。コロナが明けてお酒の提供ができるようになって、飲んでいいよって言われた時に、美膳を最初に思い浮かべて欲しいと思っていました。」
当初は集客で苦戦し一度はお休みにしたこともあったのだという。第二の創業はそれほどに大変な時期があったのだ。それでも走り抜けられたのは、久嗣さんの忘れて欲しくないという強い想いがあったからではないだろうか。とても素敵なお話を聞かせていただいた。
どのような集客をされていたのか尋ねてみた。
「新しいお客さんとも出会いたいと思って、ホームページを作ったりマルシェに出店や新聞やテレビにも出させてもらったりしました。そうやって美膳は変化しながら成長していくお店だよっていうところを、元々の常連さんに対してのアピールにもなればと思っています。」
第二の創業時から始めた活動は新規のお客様を呼び込みつつも、コロナ前の常連客に対してのアプローチでもあるのだと教えてくれた。以前の常連の事まで考えられているところからも、久嗣さんの美膳への想いが感じられる。心温まるお話を聞かせていただいた。
②独自の取り組み
沢山あるだし巻き玉子について尋ねてみた。
「元々は30周年の7月に創業記念としてだし巻き玉子のメニューを30個作ろうって事でお客さんへのPRも兼ねていました。そこからお客さんにリクエストを取っては作ってでどんどん増えてここまできました。」
最近は79番目のだし巻き玉子が増え、お客様のリクエストで作っただし巻き玉子もいくつかあるのだと話してくれた。
「だんだんお客さんも楽しくなってきて、最近はこういうの作ってよってリクエストも増えてきました。それが僕たちもすごく面白くて。」
メニューを増やすことが、お客様との共同作業になって楽しく出来ているのだと話してくれた。一緒に楽しむというコミュニケーションは素晴らしいことだ。
メニュー数が多い事のデメリットはないのかと尋ねてみた。
「デメリットではないんですが、全部食べた人はまだいないんですよ(笑)。みんなに食べていただくために、どう伝えたらいいのかなと考えています。でもお客さんが全メニューを食べる前に次を増やすから食べきれないんだろうけどね(笑)」
冗談混じりに話してくれたが、実際にお店に伺ってメニューを拝見したが本当に多い。逆に全種類食べようと挑む楽しさもあるのかもしれない。そう思うと美膳の楽しみ方は多種多様である。
「シンプルな醤油ラーメンにだし巻き玉子をのせたら美味しいんじゃないかってお客様に言われて作ってみたら、これが本当に美味しいんです。だし巻き玉子の味とラーメンスープが互いに染みてペロッと食べれちゃうんですよ。今ではうちの人気メニューです。」
リクエストを取る習慣が思わぬ発見につながったのだと話してくれた。これを聞いただけではおそらくほとんどの人が半信半疑かもしれないが、久嗣さんが実際にやってみて美味しかったというのと、人気メニューになっているのは事実なのだ。
お客様のアイデアを積極的に取り入れるのは斬新な取り組みだが、得られるメリットはかなり大きいのかもしれないと感じた。
今後も美膳の名物として、是非続けて行って欲しい。
③美膳のこだわり
注文の多い料理を尋ねてみた。
「やっぱりだし巻き玉子です。ほとんどの方が頼まれます。あとはおかわりだし巻き玉子で一人で二つ召し上がったり、グループで来られたら人数分とか頼んでいただく事とかも多いですね。」
1番人気はやはりだし巻き玉子なのだと話してくれた。1人2つも頼めるメニューもあるのなら尚更かもしれない。
思い入れのあるメニューを聞いてみた。
「実は創業記念の30個を作る前につくった二つの商品があるんです。それが『豚ヒレカツだし巻き玉子』と、『だし巻き玉子の肉巻きフライ』なんですよ。豚ヒレカツは第二の創業後のメイン商品として2022年3月に最初に世に出たんです。」
「その商品開発と並行して、その年の4月から初めてマルシェに出店しようと思い、食べ歩きに向くだし巻き玉子の商品開発を行いました。」
「豚ヒレカツは、だし巻きの中央にヒレカツを入れましたが、肉巻きフライは逆転の発想で、だし巻きたまごに豚肉を巻いてカツにしたんです。マルシェ専用商品なんです。今では肉巻きフライをパンに挟んだだし巻きサンドも人気商品なんです。」
豚ヒレカツは、だし巻き玉子の中にとんかつが入った凄く斬新な料理なのだ。それを応用して、マルシェ用に工夫し、だし巻き玉子の肉巻きフライの販売を始めたと話してくれた。
お店のこだわりを尋ねてみた。
「メニューの人気ランキングを取った事があるんですけど、1位がだし巻き玉子で2位は馬刺しでした。うちの馬刺しは熊本県産というところにこだわっています。」
「実はお酒もこだわりがあって、僕の生まれが東京の青梅市なんですが、そこの澤乃井ってお酒を取り寄せるんです。県内では他にお出ししているところは正直無いんじゃないかなってくらい珍しいお酒です。すごく美味しいんですよ。」
馬刺しとお酒は産地にもこだわっており、久嗣さんはご出身地の地酒でもある澤乃井が大好物なのだと話してくれた。
「うちはずっと妻と二人で切り盛りしています。実はそこがうちの特色なんです。本当に夫婦二人の店です。」
忙しい時でもパートやアルバイトを雇うなどもされないのだと話してくれた。2人でやれる範囲でやるという強い覚悟を感じた。
④SDGsの取り組み
「SDGsにはこれまでより真剣に取り組もうとしています。実はもう方針も決めていて関連企業に働きかけもしているんです。」
「卵に関係するゴミを全部無くす取り組みです。Co2削減とかゴミをどれだけ減らすとかも考えたんですが、うちは一般家庭よりちょっと多いくらい。それだと頑張ってもほとんど影響がないと思って卵にフォーカスしました。」
形だけではなく、実際の取り組みでの変化量もしっかりと考えられた結果なのだと話してくれた。
誰が何をやると、より効果的であるかと。本当におっしゃる通りで、そこまで考え抜かれている事に脱帽だ。
「卵を仕入れた時に段ボール箱とか梱包材とかのゴミが出るんですけど、実はそれをそのままの形で使いたいって言ってくださる人たちを見つけたんです。」
「卵はどうしても殻が残るのですが、まだ構想中ですが、最終的には殻も食べれるようにしたいと考えています。」「殻にもすごく栄養があるので、殻も食べてしまえばゴミが出ないので。」
すり潰して食べてみるなどの実験も何回かされているのだと話してくれた。既にトレーや梱包材の再利用先が見つかっていたり、殻を食べるテストもされていたり、久嗣さんは本当に行動力がすごい方だ。卵を100%全部食べるという取り組みも、その行動力で是非達成してほしい。
取材後の追加情報として、卵の殻でチョークを作ったと言う。
これをマルシェに持ってゆくと、子供たちが落書きをして、自然とお客様とコミュニケーションが取れるのだそうだ。
⑤これからの美膳
今後の展望を尋ねてみた。
「日本で一番だし巻き玉子の美味しい店。」「あとはもっとだし巻き玉子が会話のきっかけになるお店にしたい。例えばお客様にリクエストを貰ってそれ作ってみようかみたいなお話しをして、1ヶ月後くらいにはできたよとか。」
リクエストのだし巻き玉子メニューはお客様との交流として今よりもっと盛んにしていきたいのだと話してくれた。
お客様のリクエストに対して新メニューが出てくる、とても素敵なコミュニケーションなのだ。
「実は出汁の味付けはまだ一回も変えてないんです。今は変えずにどこまでできるか?っていう挑戦ですが、その次は出汁を変えたらどうなるのか?とかやっていこうと思っています。」
今の取り組みと次の取組について話してくれた。次まで既に考えてあることに驚かされた。今の沢山あるメニューが改良されていく、それが出来た頃には更に次のステップも考えてより良くなっていくのかもしれない。
本当に日本一になるのかもしれないと期待させられる。今後の美膳の活躍に目が離せない。
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