描く喜びをもう一度。地域密着のイラストレーター「chococoa」を訪ねてみた。
瑞穂市をイメージしたキャラクターや県内の企業やお店とコラボしてイラストを制作し、地域に貢献したいと活動しているイラストレーターだ。創作に対する想いをうかがった。
- 絵を描く喜びを思い出した原点と芽生えた夢
- 愛犬がつないだ名前“chococoa”
- キャラクターデザインの力と人をつなぐ魅力
- イラストが地域をつなぐ
- 初めての主催展。瑞穂市で踏み出す新しい一歩
①絵を描く喜びを思い出した原点と芽生えた夢
小さい頃から絵を描くことが大好きだった、と伊藤さんは笑いながら話してくれた。漫画やアニメ、ゲームの世界に触れながら、机に向かって静かに絵を描く時間が何よりの楽しみだったという。
「小学生の頃、絵は私にとって唯一の自己表現でした。言葉でうまく伝えられないことも、絵なら素直に描けたんです。それがずっと私の支えでしたね。」
高校で「漫画家になりたい」と伝えたとき、先生からは「厳しい世界だからやめておきなさい」と現実的な言葉を返された。それでも“描く道を学びたい”という気持ちは心の奥に残ったまま。迷いながらも、短期大学の漫画コースへ進むことを選んだ。
そして卒業後は、安定を求めて一般企業の事務職として働く道に進むことになった。
「“無理だからやめなさい”と言われた時は、本当に落ち込みました。でも不思議と、描きたい気持ちだけは消えなかったんです。とはいえ仕事を始めてからの20年間はほとんど絵を描くことがなくて……。気づいたら、絵のない日々が当たり前になっていました。」
そんな伊藤さんの心をもう一度動かしてくれたのは、5年前、小学生だった娘さんの姿だった。大好きなアニメキャラを楽しそうに描く姿を見て、ふっと胸の奥が温かくなったという。
「娘が楽しそうに描くのを見て、“私もまた描きたいな”って思ったんです。最初はリハビリのつもりで好きなキャラを描いてみたら、あの頃のワクワクが一気に戻ってきました。」
そこから少しずつ、描く時間が日常に戻ってきた。SNSに投稿したり、クラウドソーシングでアイコンやキャラクターデザインの依頼を受けたり。
趣味だった絵が、誰かの手元に届く“仕事”へと変わり始めた。
「描くのを趣味で終わらせるのはもったいないと思ったんです。私が若い頃と違って、今はSNSがあるから“好き”を発信しやすい。少しずつ実績を積みながら、描いたものが誰かの力になったらいいなって。」
描く喜びを取り戻した日から、伊藤さんの新しい物語は静かに動き始めていた。
②愛犬がつないだ名前“chococoa”
「chococoa(ちょここあ)」という屋号の由来を尋ねると、伊藤さんは少し照れたように笑いながら話してくれた。
「10年前、ハンドメイド作家として活動していた頃は、当時飼っていた犬の名前にちなんで“ココア”という名義を使っていました。イラストの活動を始めるときに「名前はどうしようかな」と考えていたんですが、ふと今一緒に暮らしている犬の“チョコ”の存在を思い出して。気づけば、チョコとココアを合わせた“chococoa”という名前に落ち着いていました。自然としっくりきたんです。」
“chococoa”という名前には、伊藤さんの日常や、長くそばにいてくれた存在への想いがさりげなく重なっているように感じた。
「結果的に、名前の雰囲気と自分の絵柄がすごく合っていて。ポップで親しみやすい感じが、自分らしいなと感じています。」
10年前はタティングレースという細やかな手仕事を中心に活動していたという。糸から編み上げる繊細なイヤリングやネックレスは、伊藤さんの丁寧さを感じさせる作品ばかりだった。
「本当に繊細で細かい作業が必要なので今はできないかもしれないんですけど(笑)、当時は夢中で作っていました。作ったアクセサリーをカフェに置いてもらったこともあって…その経験もいまの創作に生かされている気がします。」
愛犬の名前と、これまでの暮らし。それらが自然と混ざり合い、伊藤さんの“今”につながっている。
③キャラクターデザインの力と人をつなぐ魅力
「私の強みは“誰が見ても可愛いと思えるキャラクター”だと思っています。」
そう話す伊藤さんの表情は、とても穏やかだ。おじいちゃんが見ても、小さな子どもが見ても、思わず笑顔になる──そんな“やわらかい可愛さ”を大切にしているという。
「いろんな作品を参考にするけれど、最後は自分の感性を信じています。“これ、きっと誰かの心をふっと軽くできるな”って感じるまで描き込んでいます。」
ゲームクリエイターのアイコン、キャラクターデザイン、地域密着の展示会…描けば描くほど、伊藤さんの世界に共感してくれる人が増えていった。
「展示会に出ると、作品を仕上げる“締め切り”ができますよね。大変なときもありますが、そのおかげで描き続けるリズムが整って、ここまで続けてこられたと感じています。」
2023年、大垣市美術展で奨励賞を受賞。展示会では、来場者から直接声をかけられることも増えた。
「来場者の方に『このキャラ可愛いですね』って声をかけられると、本当にうれしくて。20代で一度挫折したので、今回は絶対に諦めたくなかったんです。続けてきてよかったと思えた瞬間でした。」
伊藤さんのキャラクターは、誰かの心にそっと寄り添う。それは、“描けなかった時間”さえ糧になっているように見えた。
④イラストが地域をつなぐ
活動の中心はSNSだった伊藤さんが、「地域で描くこと」に魅力を感じ始めたのは展示会がきっかけだった。
「展示会で直接声をかけてもらえたり、お店の方と知り合えたり…“地域と一緒に作品を作る”って素敵だなと思うようになりました。」
地元カフェとのコラボでは、キャラクターをイメージしたオリジナルドリンクを開発した。注文するとステッカーがもらえるのが好評で、普段とは異なる層のお客様が訪れ、店内が賑わったそうだ。
「自分のキャラクターを通じてお店の雰囲気が変わることが嬉しかったです。この経験がきっかけになって、“もっと地域と関わりたい”という想いが強くなりました。」


子ども向けのイラスト教室も、伊藤さんがずっと大事にしてきた想いが形になったものだ。
「好きなことが、仕事につながる喜びを伝えたいんです。」伊藤さんのそんな願いが込められている。そして今、伊藤さんが取り組んでいるのが、瑞穂市をテーマにしたキャラクターデザインだ。
柿や紫陽花、桜といった市の象徴をモチーフに、地域の風景や色合いをそっとキャラクターの中に溶け込ませている。
「地域の方に“うちの街のキャラクターだ!”と喜んでいただけるといいな、と思いながら描いています。」
地域に寄り添った作品づくり。その一歩一歩が、伊藤さん自身の世界をゆっくり、でも確かに広げている。
⑤初めての主催展。瑞穂市で踏み出す新しい一歩
11月には、瑞穂市で初めての主催展示を開催した。伊藤さん自身のイラスト3点に加え、約20名のイラストレーターが参加した大きな展示会だ。
「初めて自分が主催するので、準備に追われてバタバタしていました(笑)。でも、とても楽しかったですし、新たな刺激になったので、機会があればまた行いたいです。」
市と教育委員会の後援も決まり、市内の小中学校にも子どもたちからイラストを募集し、展示会に飾られた。伊藤さんは未来に向けて、取り組みたいことはまだたくさんあると話してくれた。


「イラストだけじゃなく、動画表現やLive2Dにも挑戦してみたいんです。時代が変わっていく中で、自分の表現も広げていけたらいいなと思っています。」
AIで絵が簡単に作れる時代になったからこそ、「自分だから描けるものや人に届けたい温度感を大切にしたい」と話してくれた。
「chococoaのイラストを、もっと地域の人や子どもたちにも身近に感じてもらえるようにしたいですね。普通の主婦だった私がこうして描き続けてこられたこと自体が、誰かの勇気になれるといいなと思って活動を続けています。」
絵を描く喜びを思い出したあの日から、伊藤さんの物語はずっと続いている。その物語はこれからも、地域とともにゆっくり育っていくのだろう。
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