サービス業
岐阜市

不要なものからエネルギーを。資源で地域をつなぐ「株式会社サンウエスパ」を訪ねてみた。

不要なものからエネルギーを。資源で地域をつなぐ「株式会社サンウエスパ」を訪ねてみた。
TOM
TOM
捨てられるはずだったものをエネルギーにするなんて、すごい技術だね!
SARA
SARA
しかも、その技術を応用してお酒まで作れちゃうんだから、ほんとすごいわよね~
TOM
TOM
見て!実はこのラグ、換毛期に抜け落ちたボクの毛で作ったんだ!てことはボクもすごい技術者だよね!!
SARA
SARA
抜け毛で作ったラグって・・・
岐阜市にある「株式会社サンウエスパ」をご存じだろうか。
1969年の創業以来、古紙回収によって地域を支えてきた老舗企業。しかし、その実態は驚くほどにアグレッシブだ。今回は、総務部人事課 課長・松田 紘明(まつだ ひろあき)様と、再生資源部 情報課・今村 桜介(いまむら おうすけ)様にお話をうかがった。
今回のツムギポイント
  • 外部要因に左右されない経営基盤の構築
  • 厄介者の水草を、世界一の美酒へ
  • 「ぐりんく」がつなぐ、岐阜の教育とリサイクルの絆
  • 自らレールを敷き続ける、組織風土

①外部要因に左右されない経営基盤の構築

 

長良川の豊かな流れを間近に感じる、岐阜市岩田西に本社を構える株式会社サンウエスパ。1969年の創業以来、この街の古紙回収を支えてきた老舗企業がいま、世界を驚かせている。彼らが向き合っているのは、単なる廃棄物の処理ではない。「不要なもの」を「価値あるもの」へと定義し直す、地球規模のイノベーションだ。

 

サンウエスパという社名は、太陽(サン)と古紙(ウエストペーパー)を組み合わせたもの。地域のリサイクルを支える担い手として歩んできた同社だが、近年、その歩みは急加速している。背景にあったのは、資源相場という外部要因に左右されやすい業界構造への強い危機感だった。

 

「私たちは、ずっと再生資源のリサイクルをメインに歩んできた会社です。しかし、紙の相場というのは非常に変動しやすく、1円変わるだけで経営が大きく左右されてしまいます。この相場に振り回されるのではなく、自分たちの力で新しい柱を作ろうと考えました。」

 

そうして2020年に誕生したのが、子会社「アンウエスパ(UNWASPA)」である。社名の頭文字である「S」を取り、否定を意味する「UN」を冠したその名称には、「WASPA(古紙)」という枠組みを一度脱ぎ捨て、新たな価値を創造するという決意が込められていた。岐阜の本社工場で地道に蓄積してきた技術とノウハウが、のちにカンボジアという新天地での大きな挑戦へと繋がっていくこととなる。

 

②厄介者の水草を、世界一の美酒へ

 

サンウエスパの技術革新を語る上で欠かせないのが、2015年から本格始動したバイオエタノール事業だ。きっかけは2012年、マリアナ海溝の水深約1万900メートルに生息するエビの体内から、紙などを高効率で分解する酵素が発見されたというニュースだった。

 

この酵素を使えば、古紙から次世代燃料を作れるのではないか——そんな思いから始まったプロジェクトは、本来リサイクルが難しく、捨てられるしかなかった「シュレッダーダスト」に光を当てた。特別な酵素を用いて、紙の細胞壁(セルロース)を糖化・発酵・蒸留させることで、バイオエタノールを抽出する独自の技術を確立した。

 

この高度な蒸留・精製ノウハウを、飲料用アルコールの製造へと転用したのが、カンボジアでのプロジェクトだ。トンレサップ湖で異常繁殖し、環境被害を及ぼしていた水草「ホテイアオイ」を原料にアルコールを製造。さらに、自社農園の胡椒と融合させ、クラフトジン『MAWSIM(マウシム)』を誕生させた。このジンは、2023年の「ワールド・ジン・アワード」にて世界最高賞を受賞している。

 

「完成までの背景や物語だけで選ばれるのではなく、純粋に『味』で勝負したかったんです。ストーリーを知る前に、一口飲んだ瞬間の感動で選ばれるクオリティを突き詰めました。」

 

当時は採算性の壁に阻まれたが、そのノウハウを異国の地の環境課題へと転用。廃棄物が、世界の愛飲家を魅了する「至高の一滴」へと昇華した瞬間だった。リサイクルを「善意のボランティア」に留めず、圧倒的な付加価値を生む「最高峰のビジネス」へと押し上げたその手腕は、業界の既成概念を鮮やかに塗り替えたと言えるだろう。

 

③「ぐりんく」がつなぐ、岐阜の教育とリサイクルの絆

 

世界での華々しい活躍の一方で、サンウエスパが地元・岐阜を拠点として情熱を注いでいるのが、地域循環型プロジェクト『ぐりんく(GLink)』だ。このプロジェクトは、かつて地域コミュニティの象徴だった「集団資源回収」を現代のニーズに合わせて再構築し、環境(Green)を通じて岐阜(Gifu)を元気(Genki)にするために地元をつなぐ(Link)ことを目的としている。

 

地域の協力企業から排出される段ボールをポイントとして換算し、蓄積されたポイントに応じて、サッカーボールやバレーボールなどの備品を、企業の名前入りで地元の学校へ寄贈する。 2025年3月には各務原市立蘇原中学校へ備品を届けるなど、目に見える成果を上げている。

 

「集団資源回収がなくなっていく事で、子どもたちがリサイクルを知る機会も失われてしまうと感じ、知る・学ぶのなら、ワクワクも届けたい。自分たちが持ち込んだ紙が、自分たちが遊ぶボールに変わる。その目に見える手応えこそが、一番の教育になると考えています。」

 

さらに、全校生徒に向けて、協力企業の事業内容や社会貢献への想いを伝える「ぐりんく新聞」を発行。単なる物資の寄付に留まらず、地元の産業を知る「キャリア教育」としての側面も持たせている。

 

利便性が優先されがちな現代において、資源の回収を「次世代への投資」として可視化する「ぐりんく」。それは、リサイクルの枠を超え、岐阜の未来を共創するサンウエスパならではの地域共生のカタチである。

 

④自らレールを敷き続ける、組織風土

 

こうした独自の事業を支えているのは、型にはまらない自由な組織風土だ。サンウエスパでは、毎年度スローガンを見直しているが、今年度掲げているテーマが「自主自律」である。

 

指示を待つのではなく、全従業員が同じベクトルを向き、一人ひとりが自分ごととして考え、行動すること。それこそが、個人の成長につながり、ひいては会社の飛躍を生み出すと考えている。

 

「大企業のような決まったレールはありません。むしろ、自分たちで新しいレールを敷いていく楽しさがあります。『これはいける!』と確信したものがあれば、社歴に関係なく挑戦を後押ししてくれるスピード感があります。」

 

社内では若手社員が自ら新しい取組みを立案し、上司がそれをバックアップする文化が根付いている。1年目の社員であっても、自ら新しい取組みを立案し、運営を主体となって行うのが同社の強みだ。

 

その熱量を支えているのは、圧倒的な「心理的安全性の高さ」だという。若手が失敗を恐れずに動けるよう、上司が真摯に寄り添い、共に課題を面白がりながら解決していく。こうした温かな文化が、岐阜から世界へと羽ばたくエネルギーの源泉となっている。

 

「不要なものからエネルギーを」という言葉通り、サンウエスパは捨てられるはずだった水草や古紙から、世界を唸らせるジンを、子どもたちの笑顔を、そして新しい産業の形を紡ぎ出してきた。彼らの活動を見ていると、リサイクルとは単なる資源の再利用ではなく、私たちの「未来への想像力」を試す試みであることに気づかされる。

 

伝統を大切にしながらも、既成概念を鮮やかに塗り替え続けるサンウエスパ。岐阜の地から湧き上がったこの力強い循環の渦が、これからどんな驚きを私たちに見せてくれるのか。より豊かで持続可能な明日を創り出すトップランナーとして、その歩みにこれからも目が離せない。

 

SNSで記事をシェアしよう

RECOMMEND

記事一覧へ戻る

Instagram