地域と旅行者をつなぐ観光ハブを目指す、「ゲストハウス岐阜羽島心音」を訪ねてみた。
東海道新幹線「岐阜羽島駅」からほど近い場所に位置する一軒のゲストハウスが、今、世界各地から訪れる旅行者たちの「旅の拠点」として大きな注目を集めている。今回は、運営元である有限会社オフィス・ケイの代表取締役・川島 勝彦(かわしま かつひこ)様にお話をうかがった。
- 異業種からの承継と、多角化経営の原点
- 国際交流の喜びから生まれたゲストハウス
- 独自の体験価値と、多角的事業が育むホスピタリティ
- 空き家の活用と地域への貢献
①異業種からの承継と、多角化経営の原点
東海道新幹線「岐阜羽島駅」は、岐阜県の玄関口として重要な役割を担っている。多くの旅行者にとって、ここは目的地へ向かうための通過点という側面が強いかもしれない。しかし、この駅周辺の利便性にいち早く着目し、岐阜羽島を「世界と地域をつなぐ拠点」としての役割を果たしているのが、『ゲストハウス岐阜羽島心音』である。
運営元である有限会社オフィス・ケイは、もともと地域に根ざした事業を展開してきたが、現在は宿泊業を中心に、金券ショップ、電気自動車レンタカー、コインランドリーといった多角的な事業を並行して行っている。
川島社長のキャリアの原点は、現在の事業とはまったく異なる、エレベーターの保守点検を行う技術職だったという。技術者として現場に立ち、実務に向き合っていた20代後半。そんな川島社長の人生に、大きな転機が訪れる。
家業である井戸掘削事業を支えてきた先代が、突然この世を去ったのだ。思いがけない出来事に直面し、川島社長は急遽、家業を引き継ぐことになった。当時はまだ若く、自身の将来についても模索していた時期。それでも、「家業を守る」という想いを胸に、これまで経験したことのない井戸掘削の現場へと足を踏み入れた。
慣れない環境の中で、戸惑いながらも一歩ずつ前に進む。こうして川島社長の、井戸掘削の世界での歩みが始まった。
「将来的に継ぐという意識こそありましたが、まだ20代後半という若さでした。心の準備が整う前に現場を任されることになり、当初はとにかく無我夢中で仕事を覚える毎日でした。岐阜を中心に、愛知や三重といった東海三県を広く駆け回っていましたが、現場を預かる身として、時代の推移とともに井戸掘削という事業の将来性について、冷静に見つめ直す必要性も強く感じていました。」
この冷静な視点が、川島社長を新しいビジネスの世界へと導くことになった。ある時、テレビ番組で都市部の金券ショップが活況を呈している様子を目にした川島社長は、まだ岐阜に馴染みの薄かったこの業態に大きな可能性を見出したのだ。当時、見かけた店舗のイメージを自らの手でもっと身近で、かつ信頼感のあるものへと一新できると考え、独学で準備を進めたという。
「本業の傍らで始めた事業ではありましたが、次第に店舗運営に重きを置くようになり、経営資源を集中させる決断をしました。約12年前、事業を譲渡する形で井戸掘削事業を整理し、金券ショップに専念することにしたのです。ピーク時には7店舗を展開するまでになり、地域の方々の利便性を支える存在となりました。この時、自分で決断し、形にする面白さを実感したことが、今の多角経営の原点にあるのかもしれません。」
しかし、社会のデジタル化や交通機関の回数券廃止、そして移動制限を伴う社会情勢の変化など、経営環境は常に変化し続ける。
川島社長はこうした変化を前向きに捉え、次なる可能性を模索し始めていた。金券ショップという「第一の柱」を大切にしながらも、それに代わる新しい価値を生み出すための準備を、着実に進めていたのである。技術者時代の緻密さと、経営者としての柔軟な発想。
この二つの資質が、後の『ゲストハウス岐阜羽島心音』の誕生へとつながっていく。
②国際交流の喜びから生まれたゲストハウス
宿泊業への参入のきっかけは、川島社長自身の「学びたい」という純粋な好奇心であった。50歳を過ぎてから、英会話の習得を志した川島社長は、教材での学習に留まらず、実際に外国人と対話する機会を求めて「カウチサーフィン」というサービスに注目した。これは世界中の旅行者に宿泊場所を提供するプラットフォームであり、ボランティア精神に基づいた交流が主な目的だ。
「実生活の中で英語を使う環境を作りたいと考え、自宅に旅行者を迎え入れることにしました。羽島という場所でどれほど需要があるか未知数でしたが、始めてみると毎週のように世界各地からゲストが訪れるようになりました。多くの外国人と交流し、彼らが何を求めているのかを直接聞く中で、この場所には素晴らしいポテンシャルがあることに気付かされたのです。彼らにとって岐阜羽島は、単なる通過点ではなく、移動に便利な拠点だということがわかりました。」
この経験を通じて川島社長が確信したのは、岐阜羽島という立地の稀少性と利便性であった。新幹線駅が至近にあり、京都や大阪、名古屋などの主要観光都市へのアクセスが良好な点は、旅の拠点を求める訪日外国人客にとって大きな魅力となる。川島社長は、この気づきをビジネスとして形にするべく、段階的に宿泊事業を拡大していった。
「まずは縁があった金沢で民泊を試験的に始めたところ、予想を大きく上回る反響をいただきました。その後、岐阜羽島駅に近い土地を取得し、1階に金券ショップ、2階以上にゲストハウスを設ける形で現在のビルを建て、本格的に『ゲストハウス岐阜羽島心音』をスタートさせたのです。自分自身が楽しんできた国際交流が、事業の大きな柱へと育っていきました。金券ショップの利用者がそのまま宿泊客になることもあれば、その逆もあり、事業間の相乗効果も生まれ始めました。」
現在は、ドミトリーと個室を備えた『ゲストハウス岐阜羽島心音』に加え、母が守ってきた実家を承継した『古民家COCONE』など、羽島市内で複数の宿泊拠点を運営している。金券事業の変化に合わせ、高い付加価値を生み出す宿泊業が、今や同社の経営を支える重要な役割を担っている。
川島社長の「英語を学びたい」という個人的な情熱は、いつしか「地域の魅力を世界に伝えたい」という大きな志へと進化していった。
③独自の体験価値と、多角的事業が育むホスピタリティ
ゲストハウス岐阜羽島心音が提供するサービスには、川島社長自身のライフスタイルやこだわりが随所に反映されている。そのひとつが、電気自動車「テスラ」を用いたレンタカー事業である。川島社長は、テスラの卓越した先進性能と環境への優しさに深い感銘を受けた。
その感動をゲストにも共有したいと考え、自社の太陽光発電パネルで得たエネルギーを活用する、独自のレンタカーサービスを構築したのである。
「最新のEVを体験していただくことは、単なる移動手段の提供ではなく、旅行そのものに新しい価値と発見を加えることだと考えています。また、私はかつて鈴鹿サーキットでレースに参戦していた経験があり、今でも情熱を持ち続けています。F1開催時期などは、私の知識や経験を活かしてゲストをサポートすることもあり、世界中から訪れるファンの方々と交流し、喜んでいただけることは、私にとっても非常に充実した時間となっています。」
こうした独自のホスピタリティに加え、事業の基本となる誠実な運営も欠かさない。施設に併設されているコインランドリーは、開設から7年が経過しても多くの方に利用されている。これは、技術者出身である川島社長が、清潔感と機器の効率維持を徹底して重視しているためだ。
「ランドリーの基本は清掃にあります。乾燥機のフィルターを毎日丁寧に掃除するだけで、乾燥効率は劇的に向上し、お客様の満足度に直結します。ゲストや地域の方々に気持ちよく利用していただくための小さな積み重ねこそが、信頼につながっているのだと感じます。ゲストハウスに滞在する旅行者は、1週間以上の長期滞在をされる方も多く、洗濯環境やWi-Fiの安定性などソフト面の充実を非常に喜んでくださいます。私たちは、単に眠る場所を提供するだけでなく、旅の一部として心に残る体験を届けることを常に意識しています。」
かつて自宅でゲストを迎え入れていた頃の「おもてなし」の精神は、事業規模が大きくなった現在も変わらずに受け継がれている。国籍を問わず、一期一会の出会いを大切にする川島社長の姿勢は、世界中のレビューサイトで高評価を獲得し、海を越えてリピーターを生む原動力となっている。
④空き家の活用と地域への貢献
現在、川島社長が取り組んでいるのが、社会課題となっている空き家の有効活用だ。大切に守られてきた実家を『古民家COCONE』として再生させた際、その活用方法には大きな反響があった。日本庭園などの風景は、外国人ゲストにとって「本物の日本文化」として大切にされている。
「空き家を宿泊施設として活用することで、建物に新たな活気が吹き込まれます。実家の再生を通じて、こうしたモデルを広く知っていただきたいと考えています。日本人は見慣れた風景の中に価値を見出すのが難しいこともありますが、海外の方の視点を通すことで、私たちの宝物に改めて気付かされることも多いのです。」

川島社長は、岐阜羽島が「観光ハブ」として優れた立地ポテンシャルを持っていると確信している。ここに拠点を置き、ある日は京都へ、ある日は高山や金沢へといった自由な旅を提案することで、地域全体に経済的な循環をもたらすことができると考えている。
「行政や地域の方々と協力しながら、この場所を滞在拠点にしていけたらと思っています。金券ショップも宿泊業も、すべてはお客様の喜びのため。時代の変化に合わせて、必要とされるサービスを提供し続け、この岐阜羽島を世界中から愛される場所にしたいですね。」
川島社長の視点は常に、岐阜羽島の未来を見据えている。かつて英語習得のために新しい世界へ飛び込んだ時と同じように、現在は宿泊業のあり方を深め、より充実した体制を整えようとしている。『ゲストハウス岐阜羽島心音』という場所を起点に、世界中の旅人と地域をつなぐ姿は、地域の資源を丁寧に紡ぎ直し、新しい価値を創造する開拓者といえるだろう。
有限会社オフィス・ケイが紡ぎ出す物語は、これからも続いていく。駅前に灯る一軒の明かりは、今夜も世界中からの旅人を温かく迎え入れ、この街の可能性を照らし続けている。
川島社長の情熱が、岐阜羽島に新しい風を吹き込み、世界中から届く感謝の言葉が、次の挑戦への活力となっている。岐阜羽島が「観光ハブ」として親しまれる日は、そう遠くないはずだ。
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