新しいお酒との出会いを届ける「スパイス酒場 美殿商店」を訪ねてみた。
2025年10月にオープンしたばかりのスパイス酒場で、100種類以上の多様なお酒とスパイス料理で新しいお酒の楽しみ方を提案している。今回は、店主の野口 雄斗(のぐち ゆうと)様にお話をうかがった。
- 想いが重なる場所での新たな挑戦
- 「スパイス酒場」というコンセプト
- 独学から始まったスパイス料理
- 楽しみながら続ける店づくり
- 若い世代に届けたい新しいお酒の魅力
①想いが重なる場所での新たな挑戦
野口さんは、新卒で愛知県のお酒の問屋に入社し、営業として5年半ほど勤めていた。主な仕事は、小売店へ商品を卸す営業である。働く中で、少しずつ転職を考える時期が訪れたという。
「辞めるにしても、転職するにしても、お酒に関わる仕事は続けたいと思っていました。その頃は、酒屋さんやメーカーさんへの転職を考えていたんです。」
お酒の仕事を続けたいという想いはありつつも、次の道を模索していた野口さん。そんな中、さまざまなご縁とタイミングが重なり、「自分でお店を持つ」という選択肢が、現実味を帯びて浮かび上がってきた。
「いつかは自分でお店をやりたいという気持ちは、ずっと心の中にありました。それが思っていたよりもずっと早いタイミングで、しかも想像していなかった形で実現したんです。」
お店の場所は、NaturalBaseの片山さんから受け継いだ。美殿屋漬物店、そしてNaturalBaseと、これまで想いが紡がれてきた場所で、野口さんは新たな一歩を踏み出すことになった。
開業までの準備期間は決して長くなかった。仕事を続けながら試作を重ね、9月末に退職。10月28日のオープンまで、準備に充てられた期間はおよそ1か月ほどであった。
「仕事をしながら準備を進めるのは、正直かなり大変でした。」
それでも、片山さんをはじめとした周囲の助言や支えを受けながら、少しずつ形にしていった。脱サラという大きな決断と慌ただしい準備期間を経て、野口さんの想いは、ひとつのお店として実を結んだ。
②「スパイス酒場」というコンセプト
「スパイス酒場 美殿商店」という店名には、野口さんの考えがそのまま表れている。
「お店を出すと決めたときに、やっぱりお酒を中心にしたお店にしたいと思っていました。特に蒸留酒ですね。」
焼酎、ジン、ラム、テキーラ。蒸留酒を軸にお店のイメージを広げていく中で、野口さんが着目したのがスパイス料理であった。
「スパイスやハーブを使った料理は、蒸留酒と相性がすごく良いんです。ソーダ割りやロック、お湯割りなど、いろいろな飲み方ができる蒸留酒を、スパイス料理と合わせたいなと思いました。」
さらに岐阜エリア全体を見渡したとき、気軽にスパイス料理を楽しめる店が少ないことにも気づいたという。
「岐阜駅前には何軒かありますが、ふらっと入ってスパイス料理を楽しめるお店は、意外と少ないなと感じました。」
競合が少ないジャンルでありながら、自分のやりたいこととも重なる。そうした視点も踏まえ、「スパイス酒場」というコンセプトにたどり着いた。
お酒のラインナップは、居酒屋とバーの中間をイメージしている。100種類以上のお酒が並ぶセラーは、この店の象徴的な存在だ。
「酒屋ではないけれど、酒屋のようにお酒を選んでもらえるお店にしたいと思っています。」
蒸留酒はお客様が実際にセラーに入り、ボトルを手に取り、自由にお酒を選ぶことができる。タイミングが合えば、野口さんが飲み方の提案をすることもある。お酒と出会う時間そのものを楽しんでもらいたい、そんな想いが込められている。
③独学から始まったスパイス料理
スパイス酒場 美殿商店では、独学で料理を学び重ねてきた野口さんが、スパイス料理を通してその腕前を発揮している。
もともと中学生、高校生の頃から料理に興味があり、お酒を飲むようになってからは、自分でおつまみを作ったり、外で食べた料理を家で再現したりしていたという。
「好きなことから始まっている、という感じですね。その中でお酒もどんどん好きになっていきました。」
お店を出すと決めてからは、スパイスについて本格的に学び始めた。インターネットや書籍、実際に店を訪れるなど、試行錯誤を重ねている。
「今も勉強している最中です。」
そう語る姿は控えめだが、料理一つひとつには工夫と手間が込められている。中でも印象的なのが、約10時間かけて仕上げるプルドポークだ。
「かなり手間がかかります。豚肩ロースの塊に、塩・きび砂糖と十種類余りのスパイスで作ったBBQラブを擦り込み、じっくり低温でスモークして仕上げています。」
このプルドポークは、NaturalBaseの常連のお客様で、アメリカンバーベキューをされている方から教わったものだという。
「レシピを提供していただいて、メニュー開発でもご協力いただいています。こうしたつながりに本当に支えられています。」
人とのつながりを大切にしながら、コラボレーションも積極的に行っている。和CafeBeeesさんとのコラボメニューも、常連のお客様からの紹介がきっかけだった。
お酒の知識については、前職での経験が大きく活きている。蒸留酒それぞれの特徴や楽しみ方を、お客様に合わせて提案できるのも強みの一つだ。
最近のおすすめは、メスカルというお酒である。
「テキーラと同じアガベという植物から作られていますが、使う品種が違うんです。」
ソーダ割りにすると、フルーティーさと甘み、そしてスモーキーな香りのバランスが楽しめるという。
こうした知識も、興味を持ったお客様に対して、自然体で伝えていく。それもまた、この店の魅力の一つである。
④楽しみながら続ける店づくり
取材日は、オープンからまだ数日であった。そんな中でも、野口さんの心に強く残っている出来事がある。
「本当にたまたま通りがかって入ってきてくださったお客さんがいて、お酒と料理を楽しんでいただいて、『美味しい』と言ってもらえたんです。」
自分が選び、提供したお酒。自分が作った料理。その両方を目の前で評価してもらえたことが、何より嬉しかったという。
前職では、お酒を小売店に卸す立場だったため、その先のお客様の反応を見ることは難しかった。しかし今は違う。
「自分が積み重ねてきたものが、目の前で評価されることの嬉しさを実感しています。」
お客様の笑顔と「美味しい」という一言が、日々の原動力になっている。
メニュー開発も楽しみの一つで、今後は限定メニューなどにも挑戦していきたいと考えている。
「結局のところ、料理とお酒が好きという気持ちが一番大きいですね。」
好きだからこそ、探求し続けられる。その姿勢が、自然とお店の空気にも表れている。
⑤若い世代に届けたい新しいお酒の魅力
野口さんが特に力を入れていきたいと考えているのが、若い世代へのアプローチだ。
「やっぱり20代の方に来ていただき、もっとお酒の魅了を感じてもらいたいですね。」
お酒の消費量が減少する中、特に若い世代は、飲むお酒の種類が限られがちだと感じている。
「居酒屋にある定番メニューだけで終わってしまうのは、もったいないなと思います。」
しかし実際に、新しいお酒を勧めてみると、多くの人が「美味しい」と感じてくれるという。
「今まで飲んだことがなかったお酒でも、美味しいって言ってもらえることが多いです。もっと気軽にチャレンジできるようになるといいな、と思っています。」
初心者におすすめしているのが、マーガオという柑橘系スパイスを使った麦焼酎「チルグリーン」だ。ジンのような華やかな香りが特徴で、焼酎が苦手な人でも飲みやすい。
また、飲食店限定の芋焼酎「マスカットボンボン」など、若い世代向けの商品も増えている。
メーカーが工夫を重ねて生み出す新しいお酒の情報を、この店から発信していきたいと考えている。
「ここに来れば新しいものに出会える。新しい発見がある。そんな場所にしたいです。」
将来的には、メーカーや酒蔵の方を招いたイベントの開催も構想している。前職で築いたつながりを活かし、この場所ならではの体験を届けたいという想いがある。
気軽に立ち寄れて、フランクに楽しめる場所。1軒目でも2軒目でも、気軽に立ち寄れる憩いの場。それが、野口さんの目指すスパイス酒場 美殿商店だ。
新しいお酒に出会いたい人、スパイス料理を楽しみたい人、気軽にお酒を学びたい人は、ぜひスパイス酒場 美殿商店を訪れてみてほしい。野口さんの情熱と知識、そして100種類以上のお酒が、きっと新しい発見をもたらしてくれることだろう。
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