赤いドアの先に広がる居場所「花曇」を訪ねてみた。
赤いドアを開けた先に広がる、まるで絵本の中のような不思議な空間が評判のカフェだ。今回は、オーナーの小竹 亜姫(こたけ あき)さんにお話をうかがった。
- 穏やかな心になれる場所を目指して
- 経験が形になった花曇の原点
- 赤いドアの先に広がる世界
- 年代問わず愛される理由
- 誰かの居場所であり続けること
①穏やかな心になれる場所を目指して
店名の由来を尋ねると、小竹さんは穏やかにその想いを語ってくれた。
「『花曇り』という季語があるんです。桜が咲く頃の、薄く曇った空模様を表す言葉なんですよ。」
花曇りとは、天気予報では「晴れ」として扱われることもある、明るさを含んだ曇り空のことだという。
なお、本来は「はなぐもり」と読まれる言葉だが、このお店では「はなくもり」と読んでいる。
強い日差しでもなく、冷たい雨でもない。そのやわらかな空模様に、小竹さんは心惹かれた。
「ずっと太陽が照っていて眩しすぎると、やっぱり疲れてしまうし、雨が降って暗くて寒いと不安な気持ちになりますよね。ここに来てくださる方には、花曇りみたいな、穏やかな気持ちで過ごしてもらえたらいいなと思ったんです。」
現実から少しだけ距離を置いて、時間がゆるやかに流れるような感覚。ぼんやりとした花曇りの空の下にいるような、不思議と心が落ち着く時間を過ごしてほしい。そんな願いが、この名前には込められている。
もともと桜が好きだったという小竹さん。桜の花の姿や、桜を題材にした音楽など、桜は多くの人に愛されてきた存在だ。
「桜の木って、そこにずっとあって、季節が巡るとまた同じ場所に花を咲かせますよね。そんなふうに、時間が経っても思い出してもらえて、また帰ってきてもらえる場所になれたらいいなと思いました。」
ここを訪れた人の心に、そっと桜の花が咲くように。そして、明日からまた頑張ろうと思いながら、それぞれの日常へ戻っていく。
その背中を静かに押せるような居場所でありたい。小竹さんのやさしい想いが、この店名には丁寧に込められている。
②経験が形になった花曇の原点
カフェを始めたきっかけを尋ねると、そこには小竹さん自身の、忘れられない経験があった。
「私自身が、あるカフェと、そこのオーナーさんに救われた経験があるんです。」
就職を機に実家から遠く離れた場所で暮らし始めた頃、精神的に辛い時期を過ごしていたという。そんな中、職場の近くにあった一軒のカフェが、小竹さんにとっての居場所になった。
休みの日になると、自然と足が向いていたそのカフェ。何気ない日常の中で、心を支えてくれる大切な存在だった。
「たくさんお話を聞いてもらって、美味しいものを食べて、元気と笑顔をもらいました。そういう場所があったから、私も同じように、誰かを支えられる場所を作りたいと思ったんです。」
そのカフェがなければ、自分がカフェを開くことはなかったと、小竹さんははっきりと語る。それほどまでに、その経験は大きなものだった。
「学生の頃から、関わった人を笑顔にしたいという気持ちはずっとありました。カフェを通して、自分が作った空間や接客、入れたコーヒーで、誰かを笑顔にできたらいいなと思って、開業を決めました。」
花曇の人気メニューであるレトロプリンも、実はその原点となったカフェから生まれている。
そのカフェではレトロプリンを提供しており、特別にレシピを教えてもらったことが、今の花曇のプリンの原点になっている。
そこから何度も試作を重ね、材料や卵の個数、焼き時間、砂糖の種類まで細かく調整し、今の花曇のレトロプリンが完成した。素朴でありながら、どこか特別な味わいが、多くの人に親しまれている。
開業を決めてからは地元・岐阜に戻り、カフェで働きながら、コーヒーの淹れ方やラテアートを学んだ。プリン以外のカップケーキやトースト、あんみつなどは、すべて小竹さんのオリジナルである。
「難しい名前のお菓子よりも、みんなが知っている、ちょっと馴染みのあるものを出したかったんです。いい意味で懐かしくて、温かみのある感じを大切にしています。」
誰もが知っているお菓子を、花曇らしい可愛らしい姿で届ける。それもまた、小竹さんが大切にしている想いのひとつだ。
③赤いドアの先に広がる世界
赤いドアをくぐると、そこには花曇ならではの世界観が広がっている。入り口に設けられた風除室は、現実世界と花曇の世界をつなぐ境目のような存在だ。
「ここは、現実と花曇の世界の通り道というか、タイムマシーンでいう移動中みたいな空間をイメージしています。」
風除室には、店内とは異なる音楽が流れ、ほんの少しだけ現実から切り離された感覚を味わえる。
店内は、動物たちがいるエリアと、絵画やアートが飾られた美術館のようなエリアに分かれている。筆やパレットが置かれた一角は、小さなアトリエのようだ。
「何かの絵本に出てきそうな、どこかの異世界のお家みたいなイメージで作っています。あまり他にはない感じにしたくて。」
壁に塗られた漆喰も、小竹さん自らの手によるもの。よく見ると、鳥の形がさりげなく隠されているなど、遊び心が随所に散りばめられている。
オープンから間もないながらも、花曇はすっかり地域に溶け込み、老若男女問わず、さまざまな人が訪れている。近隣の方だけでなく、遠方から足を運ぶ人も少なくない。
「想像以上に、いろんなところから来てくださっていて、本当に嬉しいです。」
ここで過ごす時間そのものが、誰かにとっての小さな物語になる。花曇は、そんな特別な空間として、少しずつ愛されている。
④年代問わず愛される理由
花曇の魅力について尋ねると、小竹さんははっきりと答えてくれた。
「店内や外観、メニューの見た目には、可愛い自信があります。あまり他では見ない雰囲気だと思います。」
クリームソーダや緑茶フレーバーティーなど、カラフルで目を引くドリンクも並ぶ。家ではなかなか目にしない色合いだからこそ、写真を撮って楽しむ人も多い。
花曇では、写真撮影も大歓迎だ。
「写真を撮って喜んでもらえている時点で、もう目的は達成なんです。楽しんで、笑顔になってもらえたら、それが一番です。」
コーヒーにも妥協はない。修行先のカフェで紹介してもらった焙煎士と相談し、オリジナルのブレンド豆を作り、それを一杯ずつ丁寧にハンドドリップで淹れている。
「ちゃんと豆にもこだわって、自分でハンドドリップしています。」
一人で営業しているという点も、小竹さんの大切なこだわりだ。
「一人だからこそ、話しかけやすい雰囲気になるのかなと思っています。」
可愛い空間と、気取らない距離感。その両方があるからこそ、花曇は幅広い世代に愛されているのだろう。
⑤誰かの居場所であり続けること
これからについて尋ねると、小竹さんの言葉には迷いがなかった。
「お店を始めた理由と同じで、癒しや笑顔が溢れる、誰かの居場所になれるカフェでありたいです。」
帰り際に「楽しかったです」と声をかけてくれる人が多いことが、何よりの喜びだという。
「美味しかった、だけじゃなくて、『楽しかった』って言ってもらえるのがすごく嬉しくて。一種の小さなテーマパークみたいな場所になっているのかなと思います。」
食べ物以上に、空間づくりが好きだと語る小竹さん。
「もちろん美味しいと思ってほしいですけど、それ以上に、楽しんで、笑顔になってほしい気持ちが強いです。」
一方で、一人営業ならではの悩みもある。ひとつは、混雑する時間帯と、比較的ゆったり過ごせる時間帯の差が伝わりにくいことだ。
「混んでいるイメージだけが先行してしまうのは、ちょっともったいないなと思っています。でも、一人でやるスタイルは変えずにいきたいですね。」
焦らず、無理をせず、少しずつ理想の形に近づけていきたいと、小竹さんは話す。
「アイデアはたくさん浮かぶので、ゆっくり形にしていけたらと思っています。」
そして、最後に語ってくれたのは大きな夢だった。
「岐阜で一番可愛いカフェに、いずれは日本で一番可愛いカフェにしたいです。たくさんの人に愛されるお店になれたらいいなと思っています。」
毎日ここに立つのが楽しい。その言葉どおりの笑顔が、花曇という場所を、今日もあたたかく包んでいる。
癒しを求めている人、居場所を探している人、美味しいコーヒーやスイーツを楽しみたい人は、ぜひ訪れてみてほしい。赤いドアの向こうには、現実から少し離れた、やさしい時間が流れているはずだ。
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