親子の毎日を支える料理教室「まなぶStudio」を訪ねてみた。
「包丁と火を使わない」という独自のコンセプトで、子どもたちが一人で料理できるようになる教室を運営している。今回は、代表の沢見 史恵(さわみ ふみえ)様にお話をうかがった。
- 子育ての「困った」から始まった料理教室
- 包丁も火も使わない、という選択
- 見守ることで育つ力
- 全国の子どもたちとつながる夢
①子育ての「困った」から始まった料理教室
沢見さんは、まなぶStudioでいくつかのレッスンを開いている。その中でも、特に力を入れているのが「お留守番キッチン」だ。
「包丁も火も使わずに、留守番中に子どもだけで料理ができるようにすること」をコンセプトにしたレッスンである。
この教室が生まれた背景には、沢見さん自身の子育ての経験があった。
「子育てと仕事を両立させようと思うと、夏休みなどの長期休みの時期は、子どもたちをお留守番させて、朝から仕事に出なければならなかったんです。その間のお昼ご飯を用意するのが本当に大変でした。」
一生懸命働いているにもかかわらず、お子さんを家に残していくことへの罪悪感。さらに、お昼ご飯を準備しなければならない精神的な負担も重なっていたという。
そんな日々の中で、沢見さんの中にある考えが浮かんだ。
「子どもが自分で作ってくれたらいいなと思ったんです。そうすれば、私も少し気持ちが楽になりますし、子どもも自分で作るという自由が持てます。」
一日中だらだら過ごすよりも、昼ご飯だけでも自分で作る時間があれば、自主的に何かに取り組むきっかけになる。そう考え、自分で作れるようになってほしいと思うようになった。
しかし、留守番中に包丁や火を使わせることには、不安もあった。
「やっぱり不安はあるし、何かあったらどうしようという気持ちはありました。」
そこでたどり着いたのが、包丁と火を使わない料理という発想だった。
「この悩みは、きっと私だけじゃないと思ったんです。世の中には、朝から仕事に出て、お昼ご飯のことまで考えないといけないお母さんがたくさんいると思います。」
同じような悩みを抱える家庭を少しでも支えたい。そんな想いから、「お留守番キッチン」はスタートした。
②包丁も火も使わない、という選択
包丁や火を使わないと聞くと、どうしても料理の幅が限られてしまうのではないかと感じる人は多いだろう。しかし、その問いに対して沢見さんは、少し笑いながらこう答えた。
「最初は私も、できることは限られるかなと思っていました。でも、やってみると、なんやかんや割とできるんですよね。」
切る作業には、キッチンバサミやピーラー、スライサーを使う。加熱は電子レンジか炊飯器。制限がある中でも、工夫次第でできることは意外と多い。
今では、オムライスやグラタン、ハンバーグ、ロールキャベツまで、すべて包丁と火を使わずに作っているという。
沢見さんの手元には、これまでに生み出してきた数多くのレシピが並ぶ。
「私が出しているレシピは、全部包丁と火を使わないものなんです。結構、何とでもなるというか、本当に何でもできるなって思っています。」
さらに、お留守番キッチンでは、料理を作った後の片付けまで大切にしている。
「洗い物や片付けまでやって、それが料理だと思っています。」
洗い物や掃除まで含めてが料理。その考え方は、家庭でのリアルな負担をよく知っているからこそ生まれたものだ。
また、対面だけでなく、オンラインでのレッスンも行っている。
「平日の昼間に家にいる子や、学校に行けていない子が、オンラインで一緒にお昼ご飯を作って食べる。そんな場所にもできたらいいなと思っています。」
料理を通して、子どもたちの居場所が少し広がる。そんな可能性も、この教室には込められている。
③見守ることで育つ力
まなぶStudioは、「教えない料理教室」でもある。
「基本的には、レシピを渡して自分で読んで、進めていってもらいます。その中で分からないところだけ聞いてもらう、というスタンスです。」
複数人でレッスンをしていると、子ども同士で自然に解決してしまう場面も少なくない。そのため、沢見さんは、できるだけ口も手も出さないようにしている。
なぜ、そこまで見守るのか。
「家でも自分一人でできる、ということを1番大切にしたいと思っているんです。」
ここで細かく指示をしてしまうと、家に帰った瞬間に手が止まってしまう。そのため、レシピは、学年に合わせて漢字を減らし、なるべくシンプルに作られている。
「レシピを読む力も、すごく大事だと思っています。」
次はどうするのかを考え、自分で進めて、最後までやり切る。その積み重ねが、子どもたちの自信につながっていく。
さらに、この教室での学びは教室内で完結しない。
「ここで体験して終わりではなくて、家でもう一回つくることがミッションなんです。」
今日作った料理を、いつ家で作るのかを決め、お父さんやお母さんに伝える。家で作ったら、写真と併せて報告をしてもらう。実践まで含めて初めて「できた」と言える仕組みだ。
ここに通う生徒さんは小学2年生から6年生が中心。特に低学年の子どもたちは好奇心が強く、積極的だという。
「ここに来る子は、自分でやりたいと思って来てくれる子が多いですね。小学2、3年生くらいだと、何でもやりたい、やってみたいという気持ちが前に出てきて、失敗をあまり怖がらずに手を動かしてくれる子が多いです。」
親御さんからは、「一人で作れました」「家でも何回も作っています」といった声が届く。
家庭の中で、自分から考えて動いている様子を聞けること。それが、沢見さんにとって何よりの喜びになっている。
④全国の子どもたちとつながる夢
沢見さんがこの活動を続ける原動力は、子どもたちの変化そのものだ。
「楽しそうにしている姿を見るだけでも嬉しいですし、『これ作ったよ』って報告をもらうと、本当にやってよかったなと思います。」
料理は、大人になってからも使い続けられる力だ。量の感覚や段取り、順序立てて進める力など、料理を通して自然と身についていくものは多い。
「誰もちゃんと教えてくれないけど、生活する上では絶対に必要な力だと思っています。」
今後の夢は、全国に生徒がいる状態をつくることだ。
「オンラインでつながって、私がどこかに行く時に、その地域の生徒さんに会える。そんなふうに全国を回れたらいいなと思っています。」
一方で、お留守番キッチンは生活に根ざした内容である分、魅力が伝わりにくいと感じる場面もあるという。
「お菓子作りやパン作りに比べると、ぱっと見て楽しそう、という感じではないので、どうしても地味に見えてしまうんです。」
それでも、沢見さんの中にある想いは揺らいでいない。
「このお留守番キッチンこそが、お母さんたちの負担を本質的に減らせる取り組みだと思っています。」
子どもが自分一人でご飯を作れるようになる。それは、ただ料理ができるようになるという話ではない。
留守番中の昼ご飯に悩む時間が減り、親御さんの気持ちに少し余裕が生まれる。そして子ども自身も、「自分でできた」という小さな成功体験を重ねていく。
その積み重ねが、日常を少しずつ変えていく。沢見さんは、そう信じてこの活動を続けている。
子どもの自立を育てたい人、留守番中の昼ご飯に悩んでいる人にとって、沢見さんの想いと工夫が詰まった料理教室「まなぶStudio」は、そっと背中を押してくれる存在になるだろう。
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