子育てのそばまで来てくれる託児所「WINWIN CAR」を訪ねてみた。
移動型の一時預かり託児車という全国的にも珍しいサービスで、車一台分の駐車場があればどこでも利用できる。今回は、代表の日比 真由(ひび まゆ)様にお話をうかがった。
- すべては、子どもと向き合ってきた時間から
- 子育ての中で立ち止まった瞬間
- 移動型託児所との運命的な出会い
- 移動型だからこそできること
- 頑張りすぎない子育てのために
① すべては、子どもと向き合ってきた時間から
WINWIN CARは、2025年12月1日から移動型託児所として事業をスタートした。まだ始まったばかりの取り組みだ。
日比さんは、もともと保育士として働いてきた。保育士を目指したきっかけは、幼少期にあった。
「幼稚園の頃から年下の子と遊ぶのが好きで、幼稚園の先生に憧れてこの先生みたいになりたい、と思ったのが始まりでした。そこからずっと、保育士になりたい気持ちは変わらなかったですね。」
一方で、日比さんにはもう一つ、大切にしてきた世界があった。それが野球だ。小学生の頃から続け、妊娠するまで、真剣に野球と向き合ってきた。
「高校までは寮生活をしながら野球をやっていて、本当に“野球か、保育か”という選択でした。」
当時は女子野球の環境も整っておらず、プロとして生活していくことは現実的ではなかった。そこで日比さんは、野球を趣味として続けながら、保育の道に進む決断をする。
短大卒業後は、児童養護施設に就職し、子どもと向き合う現場で経験を積んだ。その後、保育園へと職場を移し、保育士としての歩みを重ねていく。
そして結婚、妊娠を経て、日比さんの人生は大きく動き始めた。
② 子育ての中で立ち止まった瞬間
転機となったのは、コロナ禍だった。野球選手であるご主人の球団移籍に伴い、生後6か月の娘を連れて福島県へ。緊急事態宣言下で、外出もままならない時期だった。
「支援センターも児童館も閉まっていて、近所の方とも関係を築けないまま、家の中で子どもと二人きりでした。」
ご主人は遠征や試合で家を離れることも多く、ほぼ365日、ワンオペ育児が続いた。その後、第二子を授かった頃にご主人は野球選手を引退し、ご主人の実家がある岐阜へ戻ったが、頼れる環境が急に整うわけではなかった。
日比さんの実家は滋賀県、義実家も仕事で忙しく、気軽に子どもを預けられない状況。そんな日々が重なり、日比さんは一時、体調を崩してしまう。
「気持ちが沈んでしまう時期がありました。そのときに、お母さんの体が一番大事なんだと、身をもって感じました。」
当時の日比さんには、「お金を払って子どもを預ける」という選択肢がなかった。
「自分のために預けることへの罪悪感がすごくて、泣いている子を預けて美容室に行く、という考えが持てなかったんです。」
しかし振り返ると、限界を迎える前に頼ってもよかったのではないか、と感じていた。
2025年の4月から下の子も保育園に入園し、保育の現場に戻る選択肢もあったが、日比さんの中には別の想いが芽生えていた。
「自分の子育て経験を生かして、今まさに子育てをしている方の役に立てることがしたい、と思うようになったんです。」
その想いが、次の出会いへとつながっていく。
③ 移動型託児所との運命的な出会い
そんなある日、何気なく見ていたSNSに、移動型託児所の投稿が流れてきた。
「検索していたわけでもなく、本当にたまたまでした。でも見た瞬間に、“これだ”と思ったんです。」
すぐに連絡を取り、実際に話を聞き、少しずつ形を描いていった。きっかけは、やはり自分自身の子育て経験だった。
「体調を崩してしまってから、改めて思ったんです。お母さんの体が一番大事で、そこが崩れたら何もできなくなってしまう、と。」
児童館や地域の中で出会う保護者の多くが、「預けること」への抵抗や罪悪感を抱えていることにも気づいた。
「産後うつも増えていますが、誰もなりたくてなっているわけじゃないんですよね。」
体と心の健康は、努力だけではどうにもならないこともある。だからこそ、無理をしすぎる前に、頼れる選択肢が必要だ。
その想いが、WINWIN CARの原点になっている。
④ 移動型だからこそできること
移動型託児車の最大の特徴は、車一台分の駐車場があれば利用できることだ。美容室やネイルサロン、イベント会場など、場所を選ばず対応できる。
「子連れOKのサロンやキッズスペースのある店舗もありますが、同じ空間にいると、どうしても気になってしまって、ゆっくりできないことも多いですよね。少し距離のある場所でお預かりすることで、お母さんが気持ちを切り替えて、よりリフレッシュできるのかなと思います。」
店舗型託児所との違いも大きい。
「通常の託児所だと預けてから、目的地までの移動時間にも料金が発生します。移動型なら、直前に預けて、終わったらすぐ迎えに行けるんです。」
車内という限られた空間も、子どもにとっては“秘密基地”のように感じられることが多い。テレビやおもちゃを用意し、安心して過ごせる環境づくりを心がけている。
美容室やサロン、様々な企業とも柔軟な形で連携しており、利用者からの反応も前向きだ。
「福利厚生として従業員さんのお子さんを預かることもできますし、お店のお客様向けに使っていただくこともできます。『こういうの、本当に欲しかった』という声や、『探してみると意外となかったよね』という声を多くいただいています。」
“ウィンウィン”という名前の通り、関わる人すべてにとって無理のない形を目指している。
⑤ 頑張りすぎない子育てのために
移動型託児所は、全国的にもまだ珍しい。日比さんが調べた限りでは、全国でも数えるほどしか事例がなかった。
それでも、日比さんの描く未来は大きい。
「1台だと回れる範囲が限られるので、将来的には台数を増やして、もっと広げていきたいです。」
目指すのは、託児車が特別な存在ではなく、「当たり前」にある社会だ。どこへ行っても、子どもを安心して預けられる選択肢があること。
「子どもと過ごす時間は大切にしてほしい。でも、リフレッシュが必要なときは、上手に使ってほしいです。」
限界を迎える前に、頼ってほしい。それが、日比さんの一番の願いだ。
もう一つの夢は、スポーツ選手のお子さんを預かること。出産をきっかけに競技を諦めてしまう女性が多い現状を、変えていきたいという。
「子どもがいても、また挑戦できる環境をつくれたら、それだけで嬉しいです。」
日比さんは、子どもと関わる仕事が嫌になったことは一度もない。児童養護施設での経験も、今の想いにつながっている。
「お母さんのストレスが減ることで、家庭の空気や関わり方も変わっていくと思っています。それはきっと、子どもにとっても、より安心できる環境につながっていくはずです。」
育児に悩んでいる人、リフレッシュしたいけれど預け先がない人。移動型託児という新しい選択肢に興味がある人は、ぜひWINWIN CARを知ってほしい。
日比さんの経験と想いが詰まったこの取り組みが、ママとパパ、そして子どもたちの心と体を、そっと支えてくれるはずだ。
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