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岐阜大学発ベンチャーが挑む素材革命「FiberCraze(ファイバークレーズ)」を訪ねてみた。

岐阜大学発ベンチャーが挑む素材革命「FiberCraze(ファイバークレーズ)」を訪ねてみた。
TOM
TOM
蚊って夏の天敵だよね。なんであんなにピンポイントで僕だけ刺されるんだろ?
SARA
SARA
あなたが刺されやすいのはさておき、世界では蚊が原因の感染症で命を落とす人も多いのよ。
TOM
TOM
え、そうなの!? じゃあ僕が刺されるのも世界平和への第一歩ってことだね!
SARA
SARA
何言ってんの?世界の課題を“素材”で解決しようとしている会社があるって話よ。
FiberCraze(ファイバークレーズ)株式会社をご存じだろうか。
岐阜大学発のスタートアップとして、繊維・素材業界に革命を起こそうとしている企業だ。代表取締役社長を務める長曽我部竣也(ちょうそかべ しゅんや)氏は、大学院生時代の23歳という若さで同社を設立。彼らが武器とするのは、取締役CTOを務める武野明義教授(岐阜大学工学部)が30年以上にわたって積み重ねてきた研究成果を基盤とした「多孔化技術(ナノ・クレージング加工)」である。世界規模の社会課題解決に挑む長曽我部氏に、思い描いている未来を伺った。
今回のツムギポイント
  • 30年世に出なかった技術に挑戦
  • 「欠陥」に秘められた無限の可能性
  • 世界最大の脅威「蚊」との闘い
  • 「世界が誇る素材」を目指して
  • 飽くなき好奇心と「0.01%」の現在地

①30年世に出なかった技術に挑戦

 

長曽我部氏がFiberCrazeを設立したのは2021年9月、彼がまだ大学院生だった時のことだ。

 

もともとの専門は繊維ではなく、プラスチックやフィルムといった高分子科学を専攻していた。大学4年生の時に研究室に配属され、現在のコア技術である「クレーズ(クレージング)」という現象に出会ったことが、事業化に向けた活動の原点となった。

 

「この技術には大きな可能性があり、ビジネスとしても大きな成長が見込めると直感しました。」

 

調査を進めた長曽我部氏は、ある事実を知る。この技術はすでに30年ほど研究されてきたにもかかわらず、一向に社会実装が進んでいなかったのだ。

 

課題は2点に集約されていた。

 

1点目は、市場に適したコストに合わせるために量産化が必要であること。そして2点目にして最大の障壁が、研究シーズを事業化する企業が不在であることだった。

 

「大学と民間企業が、共同研究という形で一緒に開発しても、認識の相違などで、うまくいかないことも多くあります。それなら研究者である自分自身が社会実装に向けて働きかけをすれば、良い技術として世界に向けて打ち出せるのではないかと考え、事業化に向けた活動を始めました。」

 

その強い想いと、純粋な好奇心が原動力となり、1年半の準備期間を経て起業へと至ったそうだ。

 

②「欠陥」に秘められた無限の可能性

 

FiberCrazeのコア技術、それは一言で言えば糸一本あたりに目に見えないほどの無数の“あな(孔)”を開ける加工技術である。通常、プラスチックなどの材料を曲げた際に白くなる現象は「クレージング」と呼ばれ、破断の前兆となる「欠陥」とみなされてきた。

 

しかし同社の技術は、この亀裂(クレーズ)をあえて制御し、材料の強度を落とすことなくナノサイズの多孔質構造を作り出す。この目に見えない微細な孔に、さまざまな成分を閉じ込めることができるのが最大の強みなのだ。

 

CTOの武野教授が30年以上前、別の研究テーマで扱っていた高分子フィルムを傷つけた際、見る角度によって光り方が変わることに気づいたことが、多孔化技術(ナノ・クレージング加工)のきっかけとなった。

 

「例えば、保湿剤を入れると肌に優しい素材が生まれます。冷感剤を入れると、夏を涼しく過ごすための素材にもなります。」

 

従来の機能性繊維(練り込み方式やコーティング方式)と比較しても、同社の技術は優位性が高い。

 

「繊維の中に練り込む方式では、含有量を増やすと強度が落ちやすいという課題があります。また繊維表面に成分を塗るコーティング方式では、洗濯すると効果が落ちやすいです。」

 

FiberCrazeの技術はナノサイズの“あな”の中に成分を埋め込むため、繊維の強度を維持したまま最大20%程度の高含有を可能にし、持続性にも優れているのだ。

 

③世界最大の脅威「蚊」との闘い

 

事業を形にするプロセスで、長曽我部氏が着目したのは「世界の社会課題」だった。彼が事業の「種」を見つけたのは、大学4年生の時の調査だったそうだ。

 

「調査をしていたときに、世界でいちばん多くの人の命を奪っている動物は何か、という記事を偶然目にしました。そこに“蚊”と書いてあり、戦争よりも多くの人が、デング熱やマラリアを媒介する蚊によって命を落としていると知り、本当に衝撃を受けました。」

 

彼はそこで止まらなかった。その衝撃を確信に変えるため、コロナ禍の最中、自らインドネシア、ベトナム、フィリピン、マレーシアの4か国へと足を運ぶ。そこで目にしたのは、新型コロナの患者以上に、デング熱の患者で溢れかえっている現地の惨状だった。

 

「自分たちの技術で、この世界の社会課題解決に貢献できるのではないかと考えました。」

 

この志は具体的なプロジェクトとして結実している。2024年4月にはマレーシアの感染症研究機関「マラヤ大学 TIDREC」と契約を締結し、同年12月には国際協力機構(JICA)の2025年度「中小企業・SDGsビジネス支援事業(JICA Biz)」に採択された。現地のニーズに合わせ、蚊を媒介とする感染症から人々を守る防虫素材の開発を、実証実験を通じて加速させている。

 

FiberCrazeの挑戦は、決して一社だけで成し遂げられるものではない。長曽我部氏は、拠点とする愛知県や岐阜県の「地域力」に大きな信頼を寄せている。

 

この地域は古くから繊維産地として知られ、羽島市に本社を置く長谷虎紡績をはじめとする優れた技術力を持つメーカーが集積している。スタートアップと地域の企業が手を取り合うことで、大学の研究室から生まれた「机上の空論」を、実際に手に取れる「製品」へと昇華させているのだ。

 

「スタートアップの私たちが、自分たちでゼロから工場を作ってやるのはやはり困難です。この地域の企業の皆さまの協力なしにはできません。本当にありがたい限りです。」

 

そう、長曽我部氏は語る。最先端のナノテクノロジーと、地域に根付いた職人技。この「上流から下流までをつなぐ協力関係」こそが、同社の挑戦を支える土台となっている。

 

④「世界が誇る素材」を目指して

 

FiberCrazeが掲げるミッション。それは「世界に誇る」ではなく「世界”が”誇る素材を作る」という言葉だ。

 

「世界に誇る」という言葉は、自分たちが外に向けて発信するニュアンスが強い。しかし彼らが目指すのは、世界中の人々が当たり前のようにその素材を使い、その素材があることで生活が豊かになっている状態だ。

 

「技術を通じて社会課題を解決し、日々のあたりまえの生活を豊かにしたい。その状態をいかに作り出せるかを、スタッフ全員がイメージしながら日々取り組んでもらいたいという想いで、このミッションを掲げています。」

 

長曽我部氏がベンチマークとしているのは、アメリカの「GORE-TEX(ゴアテックス)」である。ブランド名ではなく、素材の機能性と価値で選ばれる。そんな地位を、アウトドアの領域に留まらず、社会課題解決や地球環境保護の文脈で築き上げたいと考えている。

 

その第一歩として、2025年1月にはパリ・ファッションウィーク(パリコレ)において、自社の高機能性繊維「Craze-tex®(クレーズテックス)」が採用されるという、大きな成果を得た。素材の力で世界の社会課題を解決するブランドとして、その認知は着実に広がっている。

 

⑤飽くなき好奇心と「0.01%」の現在地

 

元サッカー少年で、大学まで部活動に打ち込んできた長曽我部氏。自身の強みを「あきらめずにやりきる力」だと分析する。

 

「諦めないし、しぶといのが強みだと感じています。自分がやると決めたことは納得いくまでやり続ける性格なんです。」

 

2023年8月には4000万円の資金調達を実施。組織としての基盤を固めている。現在、チームは業務委託を含め約17名規模に成長したが、長曽我部氏は今でも毎日、自身の想いをメンバーに伝え続け、現場の情報をシェアすることを欠かさないという。

 

これまでの進捗を問うと、彼は「0.01%」という意外な数字を口にした。

 

「この技術はまだまだ本当に奥が深いです。まだまだ世界に広げる余地があります。これからだと思っています。」

 

傍目には順風満帆に見える進撃も、彼が見据える「世界が誇る素材」という高みからすれば、まだ始まったばかりの挑戦に過ぎないのだろう。

 

30年眠っていた技術を掘り起こし、世界を変える可能性を秘めた素材へと育てようとしている若き経営者の視線は、すでに次の「現場」を見据えている。岐阜から世界へ、FiberCrazeのあくなきその挑戦の続きに、ぜひ注目したい。

 

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