4代に渡りこだわり製法の牛乳を販売する「株式会社棚橋牧場 THE MILK SHOP」を訪ねてみた。
- 4代続いてきたものを継ぐ決意をした頃
- THE MILK SHOPの併設
- 昔ながらの製法
- 希望がたくさんの棚橋牧場の今後
揖斐郡池田町にある「株式会社棚橋牧場 THE MILK SHOP」をご存知だろうか。棚橋牧場は昔ながらの製法で作られた牛乳を販売し、おしゃれなカフェを併設している企業だ。今回は現4代目代表の息子さんであり、棚橋牧場の5代目にあたる棚橋 和也(たなはし かずや)さんにお話を伺った。
4代続いてきたものを継ぐ決意をした頃
棚橋牧場は現社長が4代目で、和也さんは5代目に当たる人物だ。初代の創業はなんと明治時代。100年以上続いている家業を意識したのはどういったきっかけがあったのだろうか。
「大学時代に上京しました。実家を出たいという思いがあって。僕は長男だし、ゆくゆくは棚橋牧場を継ぐことになるのかなと意識はしておりましたが、一度家を離れてみたくなりました。大学で学んだのは建設系の学部でした。当時、僕の父である4代目は僕に継がずに自分の代でたたむことを考えていたそうです。祖母からも家業を継ぐのは大変だし、休みはほとんど無いし、継がなくてもいい、好きなことをやりなさいという風に関東へ送り出してもらった事をしっかりと記憶しています。」
4代続く家業を持つ家に生まれるとはどのような景色なのだろうか。プレッシャーのようなものはなかったのかと尋ねると、プレッシャーはあまりなかったと和也さんは答えてくれた。
「家業を継がなくてもいいと家から出してもらったので。プレッシャーはありませんでした。でも、継がずに、歴史ある家業を閉めてしまうのはちょっともったいないとも思っていました。当時大学で友達に”せっかくあるものをやらないのは、なんかもったいない気がするな”という助言をもらったんです。父は自分の代で辞めるつもりでしたが、やるなら多分僕にしかできないと思って家業を継ぐことを決断しました。」
さらに1度、家を離れたからこそ見えてきたものもあったのだと言う。自身が都会で生活してみた経験から、棚橋牧場を継いでみようという思いがより強くなったと話してくれた。
「都会にはなんでもあって、便利ですよね。でもずっと生活をするのは大変そうだなっていう風にも思いましたね。いろんな憧れもありましたけど、たまに遊びに来られればいいかなと思ったんです。棚橋牧場へ帰ることを決めたときに、売る力がないと、この先厳しいからそこを勉強するようにと家族には言われました。東京で働いていろいろ学びました。それで岐阜へ戻ってきてから、今度は牛乳のことを学ぶために同じ製法を取り入れている企業へ勉強させてもらいに行きました。」
家業を継ぐ決意をしたあとに、すぐに戻って手伝うのではなく、広い目線で様々なことを学ばれてきたのだというお話には素晴らしい熱意を感じさせられた。
THE MILK SHOPの併設
棚橋牧場は牛乳の製造工場のほかに、販売とカフェを担うオリジナルブランド「THE MILK SHOP」を併設している。THE MILK SHOPに事業展開を進めた当時のことを、和也さんはこう語る。
「2014年に、THE MILK SHOPを立ち上げました。若い人にも手に取ってもらいやすい商品や池田町を出て知らないところで周知をさせたいという思いから、初めは週末のイベントに出掛けて牛乳を売りに行くというところからのスタートでしたね。それがもうそろそろ10年経ちます。」
移動販売車で瓶入りの牛乳を売る移動販売事業に始まったTHE MILK SHOP。その後2016年にカフェを開いたのだと教えてくれた。
「2016年にここのお店をオープンしました。イベントなどの出先出店をするたびに”普段はどこで買えますか?”とか”お店はどこにあるんですか?”と聞いていただけるようになっていきました。やっぱり週末だけしか買えないというのもあれかなと思い、どこかに販売する拠点を持ちたいなと考えました。カフェ部分の古民家は実はうちの実家なんです。実家の離れを、自分でDIYしてみたり大工さんにお願いをしながらこのカフェを作り上げました。」
「牛乳を定期的に買いに来てくださるお客さんは本当に年齢層が広いんです。店舗では小学生や中学生が牛乳やソフトクリームを食べていってくれます。」
ドリンクとデザートを提供するカフェ店舗を構えたことは、結果的にお客さんへの利用シーンをより幅広く提案する事となった。THE MILK SHOPカフェ店舗に2022年に設置したというペレットストーブが店内空間に映え、とてもおしゃれで温かみのある空間となった。
昔ながらの製法
棚橋牧場では古くからの方法を遵守して、現在では珍しくなった「パスチャライズ製法」で牛乳を製造している。
「パスチャライズ製法というのはすごく昔からあるやり方です。その後には機械や技術が進化して、もっと早く安全に、大量の牛乳を作れるようになりました。だいたい今、スーパーなどで市販されている牛乳はこちらの早く大量に作ることができる方法で作られた牛乳なんです。うちとはちょっと違う装置で殺菌をして製造しているんですけど、それだとどうしても牛乳本来の風味が損なわれるかなと思っています。主に製法の違いとしては殺菌する温度の違いなどがありますね。」
棚橋牧場の牛乳について和也さんは、パスチャライズ製法という本当に昔ながらの製法で作ることで、牛乳らしい味わいの牛乳になっているのではないかなと思う。と話してくれた。
パスチャライズ製法は、乳製品などの工場ではすでに一般的ではない方法だという。珍しくも昔ながらの製法を守り抜いてきたことについて、和也さんはこう語る。
「こだわりはもちろんですが、工場の状態やお客さんのニーズに合わせていたらパスチャライズ製法を変わらず導入していたという感じです。受け継がれてきた製法が今は強みに変わっているかなと考えています。」
和也さんは自分が美味しいと思って作ってるものを美味しいって言っていただけるのが一番嬉しいのだと話してくれた。そのためにはクオリティは落としたくないと話し、牛乳のクオリティだけではなくSNS宣伝の写真撮影などにも、和也さんのこだわりのクオリティの高さが反映されているという。
希望がたくさんの棚橋牧場の今後
これから自身が5代目に就任される和也さん。現在棚橋牧場の事業展開として、さまざまなものに挑戦しているという。
まずはTHE MILK SHOPオンラインショップ。可愛らしい雑貨とともに乳製品やプリンが並ぶオンラインショップだ。
「今週は北海道から注文をいただいているんですよ。なんかちょっとドキドキしながら用意しています。北海道は美味しい牛乳がたくさんあると思うので、お客様に喜んでいただけるかなと考えるとドキドキします。」と嬉しそうに話してくれた。
来年2024年からは愛知県のジェラート工場と協力して製造をスタートする予定があるという。
「100年以上続く牛乳屋さんが作るジェラートを愛知県からお客さんへ届けるために注力しているんです。」と和也さんは語った。
さらに近年では大手企業のお歳暮のカタログに掲載されたこともあるという。贈答用の商品もこれから拡大していくのかもしれない。
“謙虚”という言葉をずっと大切にしていたという和也さん。そう聞いてとても柔らかな雰囲気の筆者は納得の思いだった。しかし現在は少し違った捉え方をしているという。
「今のような転換の時期には、謙虚さも大事だけど突き進む突破力というか、時には何かをこう押しのけてでもっていうパワーもやっぱり必要なのかなって、最近ちょっと思っています……。」「やらずに終わるのは、ちょっともったいない。僕は今、本当に色々やりたいことを考えてやらせてもらえているんです。」
そう話す和也さんが今後どのように棚橋牧場をさらに大きく新しくしていくのか、見守って応援していきたくなるインタビュー内容だった。
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