建築を通じて豊かな生活を創造する「武藤圭太郎建築設計事務所」を訪ねてみた。
クライアントの要望や敷地の特性を生かし、印象的な建築物を多数手がける事務所だ。今回は代表である武藤圭太郎氏に、建築への想いを伺った。
- 岐阜を中心に印象的な建築物を手掛ける
- 東京の建築事務所で修行し経験を積む
- 岐阜に戻って独立した理由
- どんな建物も設計・建築できるのが強み
- デザインを通して世の中を豊かにしたい
①岐阜を中心に印象的な建築物を手掛ける
あまり建築に興味がない人でも、「北方町の新庁舎を設計した人」「馬喰一代本店を設計した人」と聞けば「ああ、あの建物?」とピンと来る岐阜の方は多いのではないだろうか。
武藤圭太郎事務所のホームページには、さまざまな建築物の実績がずらりと並んでいる。
本巣郡北方町の新庁舎は、明るく開放的な空間で、町の人たちの憩いの場となっている。また町の象徴である円鏡寺をイメージした大きな屋根は、デザイン面の良さだけでなく、災害時は避難所としての役割も果たしている。デザインが美しいだけではなく、機能面も極限まで追求されているのだ。
飛騨牛を使った焼肉やしゃぶしゃぶ、すき焼きを提供する「馬喰一代本店」は、道路に美しく配置された蛭川御影石が、大自然の手触りを感じさせる。通される部屋によって屋根の高さも変わるなど、それぞれ異なるつくりになっており、訪れるたびに新しい驚きと発見がありそうだ。
普段は住宅を手がけることが多い武藤さんだが、そのスタイリッシュな建築物を目にしたクライアントから、店舗をリニューアルしたいといった話が舞い込んでくるのだという。
「馬喰一代さんについては、僕が手がけた住宅の前を社長が通りかかって、電話をいただいたのがきっかけでした。最初は住宅を建てる話だったのですが、途中からお店を建てる話に広がっていったんです。」
お客様の要望、デザイン、雰囲気はそれぞれ異なっているが、武藤さんはそれらを丁寧にすくい上げ、訪れた人の心に残る建築物として昇華させている。
②東京の建築事務所で修行し経験を積む
武藤さんは1979年に岐阜で生まれた。実家は洋服を販売しているが、武藤さんは幼い頃から自身は販売には向いていなと感じていたという。
その後、高校に進学した武藤さんはデザインに興味を持つ。最初に惹かれたのは、オーディオなどのプロダクトデザインだった。その後、明治大学に進学して東京で建築を学んだ。
「東京では遊ぶのに忙しくて、あまり授業を受けていませんでしたね(笑)。」
しかし4年生のときに出された課題が、きっかけで本気で建築に向き合い始めたのだという。そのまま明治大学大学院に進学し、卒業後は設計事務所で勤務。大手ではなく、あえて中小の建築事務所を選んだ。
「最初から独立を視野に入れていました。短期間でスキルを伸ばすにはどうすればいいかと考え、小さな事務所でバリバリ働く方がよいと考えたのです。そこは5人くらいの事務所で、積極的に勝負していかないと、自分の担当が回ってきません。だから毎日必死でした。」
建築事務所の日々では、メンタル面でもかなり鍛えられたという。
「今振り返ったらかなり大変でしたが、当時はそれが普通だと思っていました。体力的にはしんどかったですが、つらいと感じたことはなかったですね。」
スキルを身に付けた武藤さんは、2010年に岐阜に戻り、満を持して事務所を設立した。このまま東京で開業することは考えなかったのだろうか?
「東京には若手の建築家がたくさんいます。たくさんいる割に、建築の需要はそこまで多くありませんでした。東京ではマンションのリノベーションの仕事が多かったのですが、それが本当にやりたいことか?と考えたときに、ちょっと違うなと思ったんです。」
③岐阜に戻って独立した理由
武藤さんは、地元である岐阜県に目を向け、あることに気付いた。
「当時の岐阜や名古屋近辺には、若手の建築家はそんなにいませんでした。ですからこっちで勝負した方が面白そうだと感じたんです。また、新築の住宅や店舗の需要は、東京よりもむしろ地方の方が多く、そこも魅力でした。」
勝手なイメージかもしれないが、確かに東京は土地が高い分、建築にかけられる予算も少なく、できることが限られそうだ。
「大らかな土地で、周辺の環境も良い場所で、開放的な住宅を建てたいなと思ったんです。それで岐阜に戻ってきました。」
ビジネス用語に「レッドオーシャン」「ブルーオーシャン」というものがある。レッドオーシャンは既に競合相手がたくさんいる市場、ブルーオーシャンは、強豪相手がほとんどいない市場の事だ。武藤さんは岐阜にブルー・オーシャンを見出したというわけだ。
しかし、岐阜で独立した武藤さんだが、最初から順風満帆というわけではなかった。
「東京では、かなり前衛的な建築物を設計している事務所に勤めていました。岐阜に帰ってきたとき、そこで手掛けていた物件をポスターやフライヤーにして、知り合いが全然いない中、あちこち挨拶に行ったんです。そしたら、岐阜は保守的だから、君がやりたくても、なかなかこんな建築はできないよと、いろいろな人に言われました。全員、見返してやろうと思いました。僕は落ち着いていると思われがちなんですが、実は考え方は武闘派なんですよ(笑)。」
その後の大活躍は、WebサイトやInstagramを見れば一目瞭然だ。
「岐阜の人は保守的だと思われがちですが、実はアーティスティックな人、職人気質な人など面白い人が多いんです。少し内向的な所はあるかもしれませんが、そこが逆に良い価値観を生んでいると感じています。」
武藤さんの手掛ける建築物からは、地元である岐阜県への愛情が感じられる。
④どんな建物も設計・建築できるのが強み
武藤圭太郎建築設計事務所の強み、それは「何でも建てられること」だ。
「クリニックも建てるし、公共の建物もできるし、幅はすごく広いですね。あとモスバーガーを建築できる建築家は、そんなにいないと思います。」
そう、武藤さんは何と、モスバーガーの建物も手がけているのだ。多治見市にあるモスバーガー多治見上野店は、昔からあるフランチャイズのお店のため、自由度が高いのだという。
「オーナーの方から、今までにないモスバーガーをつくりたいと相談を受け、建築しました。」
そうして2022年にリニューアルオープンした店舗は、まさに多治見市の新たな映えスポットとも言える場所だ。ドライブスルーが建物と違和感なく一体となって溶け込んでいて、思わず中に入ってみたくなる。一見の価値ありだ。
岐阜県民なら一度は目にしたことがあるような、素敵な建物をたくさん手掛けている武藤さん。疲れて建築の仕事を離れようと思ったことはないのだろうか?
「細かなものだったら山程ありますよ。特に当社はイレギュラーな建物が多いので、引き渡しの際は今でもドキドキします。お客様が気に入ってくれなかったらどうしようと不安にもなります。ただ、ものづくりは楽しいし、頭の中に浮かんだことが現実になるのもとても楽しいんです。それに自分が手掛けた家に住んで、楽しいと思ってくれる人がいるのは本当に嬉しいです。ですから、この仕事から離れるつもりは全くないですね。」
⑤デザインを通して世の中を豊かにしたい
武藤さんの座右の銘は「百折不撓(ひゃくせつふとう」だという。何度失敗しても、挫折感を味わっても、くじけずに立ち上がること、どんな困難にも臆せず、初めの意志を貫くことを意味する四字熟語だ。撓(とう)は、枝などがたわんだり、まがったりすることで、気力がなえることを意味する漢字である。
「独立する前の事務所で働いていたときに、百折不撓という文字を書いて見えるところに貼っていました。そういうメンタルで仕事をしたいと思っていたんです。その紙はもう、誰かにあげてしまいましたけどね。」
類似の言葉に「七転び八起き」があるが、7回どころではない。言葉のチョイスから、武藤さんの不屈の精神がうかがえる。
さて、読者の中には、これから一戸建てを建てたいと考えている人も多いのではないだろうか?
工務店が勧めるモデルハウスではなく、建築事務所に設計を頼むのは、何となく少し敷居が高いイメージがある。しかし今はごく一般的な公務員やサラリーマン家庭からの依頼も多いのだそうだ。昔は雑誌を見て電話をする、というケースが多かったが、現在はInstagram経由で相談にくるお客様が多いという。
「もちろん高額の依頼もありがたいですが、数百万円くらいのリノベーションでも、面白いと思えて、価値観が合うならチャレンジしていきたいと思っています。」
最後に、武藤さんに、今後の展望を伺ってみた。
「支店を増やしたり、建築の実績数を増やすことは考えていません。それよりも、一つひとつの質を上げていきたいと考えています。普通の建物も、建築家が間に入ってデザインすることによって、豊かな空間に変わります。デザインを通して世の中を豊かにしたい、それが私の信念です。」
武藤圭太郎建築設計事務所は、これからも建築を通じて、新たな価値を創造し続けることだろう。一生ものの家や店舗を手掛けたいと考えている人は、ぜひ一度WebサイトやInstagramから相談してみてはいかがだろうか?
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