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命と真剣に向き合う「株式会社NICOX」を訪ねてみた。

命と真剣に向き合う「株式会社NICOX」を訪ねてみた。
TOM
TOM
動物を見ていると本当に癒されるよね。
SARA
SARA
本当ね、ペットの存在って素敵よね。
TOM
TOM
僕も動物と過ごそうかな~
SARA
SARA
・・・あなたも動物なんだけどね・・・
この記事は約8分で読めます。
岐阜市大福町にある株式会社NICOXが運営する「にじのはしスぺイクリニック」をご存知だろうか。
拠点は岐阜市に置きつつも移動式の手術車で獣医療が不足する地域に猫の不妊去勢手術を届け、猫の過剰繁殖によって起こる様々な問題の解決に取り組んでいる動物病院だ。今回は代表取締役を務める髙橋 葵(たかはし あおい)さんと、取締役を務める菊地 円(きくち まどか)さんにお話を伺った。
今回のツムギポイント
  • 「笑顔の乗算」を表す社名
  • 動物が好きになった頃
  • 行政獣医師という仕事
  • NICOX独自の取り組み
  • 今後の展望は?

①「笑顔の乗算」を表す社名

 

株式会社NICOX(ニコックス)は猫の過剰繁殖問題に取り組むソーシャルベンチャーだ。

 

行政獣医師をされていた髙橋さんが代表取締役を務め、不妊去勢手術専門病院「にじのはしスペイクリニック」と移動式動物病院「ニコワゴンシリーズ」の企画・販売、さらにこれらを普及させるため「スぺイクリニック開業コンサルティング」をメイン事業として行っている。これらを総括した企業名である「NICOX」という社名の由来はとてもクリエイティブだ。

 

「笑顔×〇〇というコンセプトです。笑顔をニコニコということで”NICO”にして、掛け算の×(かける)という記号をアルファベットのX(エックス)にしました。〇〇の部分には本当にいろいろなものが当てはまればいいな、それかける笑顔でたくさんの組み合わができればいいなと思っています。ただ当面は猫の繁殖に関する社会問題が山積みなので、たくさんの人たちと手を組み、人も猫も笑顔に幸せになれたらいいかなという思いです。」

 

「笑顔を乗算する会社」というコピーをホームページにも掲げていらっしゃる髙橋さん。ニコニコとした幸せの輪が、小さなきっかけからどんどん広がって行く様子をイメージしている社名なのだろうなと感じた。

 

②動物が好きになった頃

 

「野良猫」と呼ばれる飼い主のいない猫たちの世界は過酷だ。その野良猫たちを「不妊去勢手術」によって減らすための事業を積極的に行う髙橋さんは、自身が大の動物好きだという。子どもの頃動物が好きになったエピソードや活動のきっかけになった出来事について質問をすると、このようなお話を聞かせてくれた。

 

まずは自分の将来の夢が獣医師だと明確に認識した経緯だ。

 

「そもそも獣医師になりたいと思ったのが小学生の時です。卒業文集で将来の夢とか書くじゃないですか。そこに獣医師って書いたのが小学6年生の時だったんです。それよりも前に獣医師という存在は意識はしていましたが、自分の夢だと明確に言語化したのが小学6年生でした。」

 

ちなみに幼少期に動物を飼っていた経験はなかったのだという。ご両親に反対されていたため犬や猫と暮らしたことがなかった髙橋さんは、その分自身の中で想いを熱く温めていたのかもしれない。

 

「今から30年くらい前の私がまだ小学生だった頃、小学校の通学路でダンボールに入れられた捨て犬や捨て猫をよく見かけました。当時、捨て犬捨て猫は珍しくなかったんです。本来家庭の中にいる動物が箱の中に入れられて捨てられているのを見て幼いながらに、”この子たちはどこへ行くのかな”って思ったのが本当のスタート地点だったと思います。調べて行くうち、飼い主のいない動物たちは最終的に保健所に連れて行かれてそこで処分をされているのだということを知りました。動物を見てただかわいいって思うというよりは、『人間の勝手で可哀そうな思いをしてしまっている動物を何とかしたい』と考えるようになったんです。かわいさや愛しさよりもそっちの気持ちが強かったです。まあ今もそうなんですけど、人間から捨てられた動物を何とかしたいという想いが獣医師という夢を持つきっかけだったと思います。」

 

残念ながら飼い主から捨てられてしまう動物たちの悲しい現状は当時から30年経った今でも存在する。しかし小学生時代にこれだけの志を胸に抱く子どもは、とても少ないように思える。幼少より使命感を胸に抱き、学ばれたそうだ。

 

③行政獣医師という仕事

 

髙橋さんのお話を聞いて初めて筆者が知ったのが、獣医師さんは動物病院以外のところで勤めている人もいるということだった。動物病院の他に行政に勤める獣医師さんがいるということをあなたはご存知だろうか。

 

髙橋さんは動物病院の勤務を経て、行政の獣医師として保健所などで働いた経験を持っている人物だ。初めて獣医師免許を持って動物病院で働いた当時のことを、髙橋さんはこう話した。

 

「6年制の大学を出て最初に入ったのは一般の動物病院です。飼い主さんがいる動物を見る病院だったんですよね。そこで目にするのは必要なときに医療を受けることができる動物たち。次第に、やっぱり私は飼い主がいない、だれからも愛情をもらえない動物を助けたいという思いが大きくなり、病院を2年で辞めました。そして、獣医師を目指すきっかけとなった「捨てられた動物」に関わる行政の獣医師という道を選んだのです。様々な経験を経て、最終的に元の思いに立ち返った感じですね。」

 

その後、思い描いていた世界に飛び込んだわけだが、「飼い主のいない犬猫」「捨てられた犬猫」を取り巻く状況は想像していたよりもはるかに厳しいものだった。生まれたばかりの野良猫の仔猫の引き取り(後に殺処分となる可能性が高い。)や、野良猫が増えることに関する苦情の電話に、毎日のように対応していた。

 

筆者もなんとなくではあるが、”処分”のイメージはできた。しかし、実際に経験をされた髙橋さんは筆者の想像よりもさらに辛い現実と向き合ってきたのだろう。動物たちの最期に立ち会う中で、本来犬猫を守るべき立場の人間が安易にそれらを捨てることに対する憤りと、捨てられた犬猫への不憫さを常に感じていたという。

 

「精神的にハードな仕事なため、疲れ果てて辞めてく人たちもいっぱいいましたね。」と当時の同僚や後輩を思いやる言葉があった。

 

お話を伺いながら、高橋さんのおっしゃる通りに辛いお仕事だろうなと察した。それと同時に一貫した意志で働き続ける髙橋さんの熱意もよく伝わるお話だと感じた。しかし、髙橋さんのその後に影響を与えたのは、殺処分されるたくさんの猫たちの存在だけではないという。

 

野良猫に関する苦情の対応をしていると「猫を増やしたくて増やしたわけでない人たち」や「野良猫が増え、様々な被害を被っている人」の存在の多さを実感しました。すべてに通じるのは「猫に不妊去勢手術をする手段が身近にない」という状況だった。

 

猫と人を取り巻く悲惨な状況に毎日のように打ちのめされるうちに、「野良猫が増えることで起こる社会的な課題」に、獣医師として不妊去勢手術を提供することで取り組みたいと強く思うようになり、行政獣医師を辞したそうだ。

 

④NICOX独自の取り組み

 

そうして、野良猫への不妊去勢手術を行う病院を立ち上げた髙橋さん。同時に「不妊去勢手術が身近にない人」の元に手術を届けるための車を作りたいと、菊地さんに相談を持ち掛けていた。それは救急車のような車を作り、行った先で野良猫に不妊去勢手術ができないだろうかという相談だった。

 

「車関連の仕事をずっとやっていました。髙橋から、救急車みたいに荷室が部屋になっていて、車内で手術ができる車を作れないかという相談を受けたのですが、そんなの簡単だよ、ってことで“移動式手術室ニコワゴン“の構想が立ち上がったんです。」と話す菊地さん。

 

「獣医療が不足する地域に、手術車で定期的に手術を届けるという活動をパッケージ化しているのは、おそらく私たちが最初だと思います。」とご本人たちは語る。

 

ニコワゴンを使った移動式不妊去勢手術専門病院Mobile Spay Clinic(モバイルスぺイクリニック)は、啓発や周知の役割も果たしているという。

 

「まず猫の過剰繁殖という問題を知ってもらうためのひとつの手段として、この車が役割を果たせたら良いと思います。ただ単に手術をする車というだけじゃなく、こんな問題が各地で発生しているんだ、こういう取り組みがあるんだ、などと沢山の方々に知ってもらう啓発的な役割を担うことが重要な役割だと考えています。また、不妊去勢手術が普及しない要因の一つとして『不妊去勢手術ってなんだかかわいそう』という感情的なものがあるように感じていて、車内に入って実際の手術を見てもらうことも大切にしています。イベント会場で手術を行うこともあるのですが、その際は大型のモニターを車外に置いて来場者に手術している映像を見てもらう方法もとっています。すべては、繁殖問題の存在と、その解決方法をたくさんの方に知っていただくためです。」

 

実際に筆者も、不妊手術の様子を拝見させていただいた。確かに血などが苦手な方もいらっしゃるかもしれないが、社会問題となっている過剰繁殖問題の取り組みを間近で見ることが出来るのは、現実と向き合うとても貴重な体験となった。

 

その中でも、親しみやすさを重視し、怖い場所だという認識や、哀しいとか難しそうなイメージを払拭していきたいと髙橋さんは言う。髙橋さんのおっしゃる通り、怖いから自分には関係がないからと目をつぶってしまってはいけない。命に関わる重要な事なのだ。不妊去勢手術によって、過酷な世界に生きる猫を減らし、猫の繁殖に悩まされることのない社会を作ることを自らの使命と話す髙橋さん。

 

筆者にとって今回の取材はまさに「命の授業」だと感じた。

 

⑤今後の展望は?

 

「私たちだけでやれることには、限界があります。だからこそ、同じ考え・志を持った仲間(獣医師や活動家)とつながり、一緒に活動していきたいですね。組織を越えた集合体ができれば、この巨大で根深い猫の過剰繫殖という社会問題に立ち向かえるはず、と考えています。それと同時に「普通」の人たちが、気軽にこの問題に取り組むための仕組みも重要だと考えています。それを表しているのが、この言葉なのです。」

 

と、大切にされている言葉がクリニックの壁一面に大きく書かれた言葉を指さした。

 

「HOW CAN 1 PERSON SAVE 100 CATS? 」
どうすれば1人で100匹の野良猫を救えるだろう?

 

「IT’ EASY! JUST SPAY ONE!」
簡単だよ!1匹の猫に手術をするだけさ!

 

「この言葉は「一人が1匹の猫を手術するだけで、その後生まれるであろう100匹の猫を過酷な生活から救うことができる」という意味ですが、私たちはさらにもう一つの願いを込めました。」

 

「今は活動家さんという特別な方々が走り回って100匹の猫に手術をしている状況です。しかし、私たちが目指す過剰繫殖の無い未来を実現するためには、どこにでもいる1人1人が目の前の1匹の猫に手術をするんだという意識の転換が必要です。私たちはそういった方たちにハードル低く手術を提供する仕組みを創造していきたいと考えています。」

 

「過剰繫殖問題は、その発生原因や取り巻く環境など、様々な社会課題が重なり合っており、私たちが挑むには大きすぎると感じることもしばしば。その度に落ち込んだり、疲れたりすることもあるのですが、この言葉を見るとまた頑張れるんです。ひとつひとつの積み重ね、一人一人に変化が起これば、無理だと思うことも出来るようになるんじゃないかって。私たちは主役ではなく、あくまでツール。獣医師が、活動家が、自治体が、そして住民一人一人がこの問題を解決するツールとなれるよう、これからも走り回ります!」

 

今回の取材を通して筆者が感じたことは。それは、ただの同情で終わってしまってはいけない。辛い事実から目を背けてはいけないという事。この記事を読んでくださった皆様が、小さな事でも自分に出来る事をしてほしい。我々も微力ながら今回のお話を記事にさせていただき、より多くの人に届ける事が出来ればと思う。

 

そして何より、髙橋さんたちの願いや活動がもっと世に浸透し広がっていくことを心より願っている。

 

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