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大垣市

オリジナル福祉車両製作を手掛ける「坪井鈑金おくるま専科」を訪ねてみた。

オリジナル福祉車両製作を手掛ける「坪井鈑金おくるま専科」を訪ねてみた。
TOM
TOM
さいきん車の改造を考えてるんだ♪
SARA
SARA
改造って色々あるけど、どんな改造なの?
TOM
TOM
水陸両用車とか!? 空飛ぶ車もいいよね!!
SARA
SARA
・・・カスタムでは済まないじゃない・・・事前に調べたのかしら・・・
この記事は約9分で読めます。
大垣市にある「坪井鈑金おくるま専科」をご存知だろうか。
坪井自動車鈑金有限会社が運営する、自動車事業から展開して福祉事業を手掛けたところ、ぎふSDGs推進パートナーのゴールドパートナーに選出された鈑金塗装工場だ。今回は代表取締役の坪井 英倖(つぼい ひでゆき)さんにお話を聞かせていただいた。
今回のツムギポイント
  • 「ぎふSDGs推進パートナー」について
  • 受け継いできた技術と事業展開
  • 事業転換の数々
  • 福祉事業とSDGsの取り組み
  • 今後について

①「ぎふSDGs推進パートナー」について

 

インタビュー以前より、坪井鈑金おくるま専科はSDGsの取り組みで注目されている印象があった。ぎふSDGs推進パートナーについて尋ねてみた。

 

「岐阜県がSDGsを推進するに当たってゴールド認定、シルバー認定っていう2つの認定制度も設けたんですね。実はそのゴールドパートナーに選んでいただけたんです。」

 

岐阜県では2023年11月の発表により「ぎふSDGs推進パートナー」という、岐阜県内の事業者の中から県の認定を行う登録制度が導入されている。SDGs達成に向けた取り組みに関する評価項目が多数あり、第一回の発表ではシルバーが157社とゴールドが53社選出された。

 

坪井自動車鈑金有限会社は、そのゴールドパートナーに選ばれたのだという。県内の企業から選ばれたという事だけでも、ものすごく倍率が高いのだ。

 

「ぎふSDGs推進パートナー認定と言うと、大企業がプロジェクトチームを作って専属スタッフがいてやっと取れるって聞くくらいのレベルなので、正直驚きましたよ。」

 

坪井社長ご自身も予想以上の事だったと話してくれた。岐阜県の公式サイトにて一覧が公開されているが、一覧に名を連ねているのは誰でも聞いた事のある大手企業ばかりだった。

 

「ゴールドパートナーの8名が県知事から直接認証書を授与されるっていうことがあったんですよ。弊社はその4番目に選ばれたんですけど、点数みたいな物があったので、ゴールドの中でもその項目を多く満たせていたということだと思います。」

 

代表で認証書を受け取る場にも呼ばれたのだという。それだけ県から期待されているという事なのかもしれない。

 

「もちろん認定なのでこれから証明していかないと行けないんですよ。その代わり県の方の言葉を借りられるというのは物凄く強みになります。」

 

数少ないゴールドの中に選ばれたということは明確な理由がありそうだ。実際にゴールドパートナーになった後の変化について伺ってみた。

 

「認証書授与の後に、県知事などが見える中でSDGsフォーラムというのを開催してもらったんですけど、そこで事例発表ということで20分ずつお時間をいただいたんです。ものすごく貴重な経験と同時に自身の立場を意識するようになりました。完璧は難しいところもあるかもしれないですけどSDGsの取り組みが出来ていますって言えるようにしていかないといけないなっていうのはより一層強く思っています。」

 

授与式の後には要人がいらっしゃる中で事例の発表をする場もあったのだという。ゴールドパートナーという形で信頼されたという事から、その期待に応えないといけない責任感を感じたのだと話してくれた。

 

「とはいえ、この規模この人数なんです。その中で大企業と同じことを求められていくと、休みがちゃんと年間120日あるだったり残業の事だったりということも含まれているので、クリアできているのかは発信していくべきかなって考えています。」

 

基本的には報告が出来ていれば良いところを、なぜ自発的に発信していくのか理由を尋ねてみた。

 

「僕が発信して伝えていきたいのは、お金をかけなくても活動はやっていけるっていうことです。最近は減りましたけど以前は認定バッジか何かを取るのに何百万とかって言われる方がいらっしゃいましたけど、そういうのも本来は真逆で、お金をかけずにやらないといけないと思うんです。」

 

発信する理由は、これまで坪井社長が温めてきた想いを自らが模範となって伝えていきたいという思いからだった。お金で解決していた事案は実際にあるが、その方法ではその場を凌げても本質的には何も変わらず何も解決していない。

 

その違和感を払拭するために自ら発信していくという覚悟から、坪井社長の正義感溢れる人柄を感じる。インタビューの序盤にものすごく貴重なお話を聞かせていただいた。この後どんなお話が聞けるのか、すごく楽しみだ。

 

②受け継いできた技術と事業展開

 

会社の創業について尋ねてみた。

 

「祖父が創業してから65年目を迎えます。創業の背景としては、元々祖父は刀鍛冶の見習いをしていて一度戦争に行ったんですけど、鉄加工できるなら戦闘機を作れと呼び戻されたんです。大垣にあったゼロ戦工場でゼロ戦の部品を作っていたら終戦を迎えて、これからは車だと予想して自動車鈑金屋を始めたそうです。」

 

当時の車はほとんどのパーツが鉄で出来ていたため、凹んだら叩いて直すという事が常識だったため、鉄加工の技術が生かせたのだという。

 

「当時は鉄工場が重宝された時代だったらしくて、祖父が自動車板金の片手間でエレベーターを作り始めたそうなんです。それが今でも会社の事業として存続していますね。」

 

お祖父様の代で自動車鈑金と同じ鉄の加工ということで、現在の事業の1つでもあるエレベーターの製造を始めたのだと話してくれた。創業時に始めたことが現在どちらも続けている事業ということには正直驚いた。

 

福祉事業について尋ねてみた。

 

「福祉車両の製作はオーダーメイドで、車椅子の方が自分で運転するための車を作ります。例えば車椅子の方が左足でアクセル操作がしたいっていう場合も対応出来ますし、手だけで運転したいって言う場合も対応出来ます。うちがやっているのは言葉を選ばずに言うと福祉向けの改造に近いですね。」

 

メーカーの出している福祉車両はあくまでも車椅子の運搬を効率良くするための車なのだと話してくれた。福祉車両を作るのはどういったことを行うのか尋ねてみた。

 

「オーダーで鉄を加工して部品から作るので、自動車と鉄工場をやっていた両方の技術をミックスして成り立っています。身体が不自由な方が使えるような車に作り直すぐらいの勢いです。」

 

創業当時から培ってきた自動車と鉄加工のノウハウを組み合わせているのだと話してくれた。エレベーターを作っていた事を考慮すると、そういった車両カスタムが可能なのは納得出来る。持っているノウハウ同士を組み合わせるのは事業展開として理想的だと感じた。

 

③事業転換の数々

 

坪井鈑金の強みについて尋ねてみた。

 

「全ての事業です。まずエレベーター製作事業では、歴史ある技術と設備を受け継いでいることです。プロトタイプ試作品とか小ロットの特別な一点物にも対応出来るので、大手からご相談をいただける事は強いです。」

 

具体的に他社とどのような違いがあるのか聞いてみた。

 

「昭和の鉄工場はバブル崩壊時にたくさん倒産したんです。同時にそれを機にエレベーターの作り方が一気に変わって、最新技術のロボットを導入した大企業だけが残ったんです。そんな中うちは車屋と鉄工の二軸で生き残ったのですが、以前の技術と機械を持ったままというのはかなり貴重なんです。」

 

「そういったこともあり、試作品などの一点物や記念品など小ロット生産といった、大手では出来ない事のご依頼は全てうちに来ています。」

 

バブル崩壊を乗り切った事によって、坪井鈑金でしか出来ないことが確立したのだと話してくれた。その他にも、現在の主流のレーザーカットでは焼けてしまうなど、以前の加工方法の方が優れているところもあるのだという。

 

便利になった反面で弱点が生まれ、それを補う事ができるのが昭和の技術を存続させている坪井鈑金なのだ。技術の進化とはいうものの、何もかもにメリットとデメリットがあるのだと改めて考えさせられた。

 

「自動車事業の方はと言うと、実は最近やっと下請けを脱却する段階に来たんです。」

 

最近まで下請け主体でひたすら数をこなす仕事が多かったのだという。ユーザーと疎遠でスタッフが意義を感じられなかったり、作業的でモチベーションが上がらないなど、様々な課題を解消するために取り組んでいた下請け脱却が動き出すのだと話してくれた。

 

具体的にどのような取り組みをしていたのか伺ってみた。

 

「実はTUV(テュフ)っていうドイツの第三者機関に依頼して、うちの鈑金塗装を世界基準と照らし合わせた時にどれくらいかっていうのを見てもらいました。それでプラチナという最高ランクを取ることが出来たんです。その他にもBMWの認定とBMW MINIの認定を受けてヤナセの協力工場にもなったので、エンドユーザーからのお仕事が来るようになったんです。」

 

テュフ ラインランド ジャパンの最高位「プラチナ」認証取得に加え、BMWとBMW MINIの認定ボディショップとなったのだと話してくれた。また岐阜県でヤナセと同等の鈑金塗装が出来るという事もかなりの強みになっているのだという。

 

「いろんなブランドから信用を得て、それをまたフィードバックしてお客様の信用を得ることができるっていう好循環で、下請け脱却が順調に行ってスタッフのモチベーションもかなり上がったと感じています。」

 

元々スタッフのためにと思って動いていたことが実現したのだ。坪井社長のビジネスセンスとこれまで積み上げてきた技術も、どちらも確かなものだったからに違いない。

 

「いよいよ福祉車両の話になりますが、輸入車と国産車全てに対応出来るというのが一番の強みです。全てに対応できるというのは差別化どころか岐阜県内にはライバルがいないんです。」

 

競合できる企業がいないレベルなのだと話してくれた。事前に聞いてはいたものの、正直ここまでの強みだということには驚いた。鈑金塗装の認定を取ったことで扱える車の幅が広がったことも大きいのだという。

 

「差別化というか対応できる所がここしかないわけですからお客様が来てくれるんです。それは当然強みだし、実際に体験してもらえる車もたくさん準備していますので、さらに強みとして年々上がっていってます。」

 

実際の福祉車両を体験出来るように環境を整えて行っているのだと話してくれた。お客様が安心して依頼できるようにすることも非常に重要なのだ。競合がいないメリットを最大限に発揮している。エンドユーザーの声が聞こえるお仕事をしたいという坪井社長の想いが、ここまで良い形に作り上げたのかもしれない。

 

④福祉事業とSDGsの取り組み

 

SDGsの取り組みについて尋ねてみた。

 

「うちの手掛けている福祉車両は社会的問題の解決に大きく貢献しているんです。例えばこの車を手だけで運転出来るようにしたいって言われても、大改造が必要で採算が合わないからメーカーどころか民間もやらないんです。そんな方々を見て、困っている方がいるのであればなんとかしてあげたいと思って車両改造レベルの福祉車両を請けるようになったんです。そういった事で置き去りにされている人たちが社会問題になっていたので、それがSDGsの取り組みとして要件を満たしていたというのが一番最初でした。SDGsだからやろうとかそういった理由ではなかったんです。」

 

福祉事業がSDGsの取り組みに大きく貢献していることを話してくれた。坪井鈑金しかこの社会的問題を解決出来ないということは、ゴールドパートナーに選ばれる理由の1つとして納得だ。

 

「時代としてもご高齢の方が多くなってきていて、杖が必要な方だったり膝が痛い方だったりという方は障害者ではありませんがサポートが必要なんです。だからそういった方にはステップがあったほうが良いのではないかと考えて提案したりというお仕事も多くなったので、スタッフのモチベーションも非常に高いんです。」

 

元々作業的にこなすだけだったところから、目の前の相手の困りごとを解決する”人助け”の仕事に変わったことで社内に与えた影響も大きいのだと話してくれた。そういった事からもスタッフの仕事に取り組む姿勢も大きく変わったのだという。

 

坪井社長の原動力になった当初の目的はしっかりと達成したのではないだろうか。当初の目標より更に良い方向に進んでいるに違いない。

 

⑤今後について

 

ここまでは坪井社長がどのように現在まで経営をされてきたのかを聞かせていただき、想いを大切にされているという印象だ。

 

坪井社長の好きな言葉や大切にされていることについて尋ねてみた。

 

「佐藤一斎さんの「一燈を提げて暗夜を行く。暗夜を憂うること勿れ。只だ一燈を頼め」という言葉が昔からすごく好きです。自分がしっかりしていれば行き先はおのずと見えてくるということ意味なんですよ。だからどんな時代でも、自分を信じて進む事を大切にしています。」

 

坪井社長がずっと大切にしている言葉を話してくれた。まさに今回聞かせていただいたお話は、坪井社長の正義感で動き、自分を信じた結果現在に繋がっていることばかりだ。坪井社長がその言葉の意味を深く理解して、実際に体現した結果と言えるのではないだろうか。今後の取り組みについて尋ねてみた。

 

「福祉事業をもっと展開していきます。実際にやってみて分かったのが、本当に困っていて生活が立ち行かない人の役に立てた時のありがとうは、重みが違うんだって実感したんです。福祉車両の製作は利益のプラスマイナスだけでは断れないなと。困っている方がいるなら助けたいってより強く思うようになりました。」

 

「この想いは私に限らずスタッフも同じように感じているので、一致団結してより多くの人の助けになれば良いと考えています。」

 

この福祉事業をスタートしたきっかけが困っている人を助けたいという想いから始まり、それが実際やってみたところ、より一層助けになりたいという気持ちが強まったのだという。

 

坪井社長の正義感溢れるお人柄を感じられる、すごく素敵なお話を聞かせていただいた。坪井鈑金おくるま専科の、今後の活躍から目が離せない。

 

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