福祉事業所の自立支援をサポートする米農園「アグリフレンドホリグチ株式会社」を訪ねてみた。
- 農業にかける想い
- 障がい者の自立支援
- 農園について
- 今後やっていきたいこと
- 後継者問題について
岐阜県本巣市にある米農園「アグリフレンドホリグチ株式会社」をご存知だろうか。
障がいのある方の自立支援のサポートも行っている米農園である。自立支援のサポートを始めた経緯などを伺うために訪れた。
①農業にかける想い
今回お話を聞かせてもらうのは、アグリフレンドホリグチ株式会社の代表取締役 堀口一平(ほりぐち いっぺい)さんと、奥様の真紀(まき)さんだ。広大な田畑の中に佇む事務所でお話を伺った。
社名の由来について尋ねてみた
「僕の祖父の代からこのアグリフレンドホリグチとしてやっていました。僕が中学2年生くらいの時におじいちゃんが亡くなってしまったので屋号に込めた想いとかは聞いてないんですけど、アグリは農業でフレンドは友達。農業は友達ということで農業全般に想いを込めて仕事をしていこう。と解釈をして、法人化する時にそのまま名前を使わせてもらってアグリフレンドホリグチという社名で立ち上げました。」
一平さんのお祖父様から3代続いているとのことだ。今の社名は、その最初の屋号から来ているのだと話してくれた。お祖父様は屋号を農業は友達という意味を持つ言葉にするほど、農業のことを大切にしていたことが分かる。一平さんはそんなお祖父様の意志を受け継いだ、素敵なお話を聞かせていただいた。
「父親は元々は公務員だったんですけど、脱サラをして農業を始めたんです。米はもちろんですが、野菜とかも色々作ってました。僕も25歳ぐらいのときに父と一緒に農業をやるようになりました、大体8年ぐらい前に代を変わって2年前に法人化したという流れですね。継ぐまでは様々な職種を経験しました、色んな経験を積んだからこそ農業の楽しさが分かるようになったと思っています。」
※インタビューは2023年8月
お話を聞いていると、一平さんは全くの異業種から農業に転身されて今に至るのだという。農業が元々好きだったのかを聞いてみた。
「最初は家業だし手伝わなきゃいけないと思っていたんです。でも手伝っているうちに農業の魅力が分かってきて、もっとこうしたい!!という気持ちが湧いてきて自分もやっていこうと決意したんです。」
元々は農業をやりたいと考えていた訳では無かったらしい。しかし、実際やってみたらとても楽しく、農業の良さに気付いたのだと話してくれた。
農業って大変ですよね?と純粋な疑問を投げかけてみた。
「はい!楽ではありません。休みはあってないようなものですし、この地域は夏は暑いし冬には雪も降るので過酷ですね。」
農家にとって気候や天候でどうにもならないことは多々あり、その中でやれることをやるしか無いという過酷な部分を教えてくれた。
「岐阜は中途半端な場所でもあるんですよね。北海道とか北陸のような広大な土地があるっていうわけでもないし、市街化はしてるけれど都会でもないし田舎でもない場所なので。」
確かにその通りである。本巣市は都市部と少し距離はあるものの、決して遠い訳では無く、ある意味、岐阜ならではの特徴だと感じる。
「町の発展という観点からは変わることが必要な部分もたくさんあると思うのですが、守っていかなければならない部分も多くあると思います。都会でも田舎でもない中途半端な場所かもしれませんが、僕はそんな町並みが好きなんです。だから、僕は農業の部分から守っていけたら良いと考えています。」
発展は受け入れつつも自分の出来ることで本巣の町並みや景色を守っていきたいのだと話してくれた。農業で支えていきたいという一平さんの人柄を感じられる素敵なお話をしていただいた。
②障がい者の自立支援
現在、堀口さんの農園では、お米がメインであると教えていただいた。お米以外には小麦とじゃがいもを少し作っていることも話してくれた。通り沿いの自動販売機で販売されていた野菜について聞いてみた。
「福祉事業所さんと一緒にお仕事をさせていただいてます。それがすぐ横のコンテナハウスだったりとか自販機のお野菜なんです。」障がい者の自立支援の一環として実際に作った作物を、敷地内の自販機で販売しているとのことだ。
実際にどんな取り組みをしているのか尋ねてみた。
「うちのお仕事を手伝っていただいてます。例えば、種まきのお手伝いとか田植えの時期だと苗を運んでもらったり。時期によっては草刈りのお手伝いをしていただいたり、秋になったら収穫のお手伝いもしてもらいます。」今までに20人程の方にお手伝いに来ていただいているのだそう。福祉事業所の方と二人三脚なのだという。
福祉事業所の方と一緒にお仕事をすることになった経緯について伺ってみた。
「僕が父親から引き継いだ7,8年前に、学生の頃の友人と偶然に再会したんです。その時に彼が福祉事業所を立ち上げて農業も用いて自立支援をしたいと考えているという話を聞いたんです。最初は彼に農業のノウハウを教えていました。でも、彼が福祉事業所の利用者さんに農家さんのお手伝いにも行きたいと計画していることを知ってうちに手伝いに来てもらうことになったんです。」「今もお手伝いしてもらっていますが、今後はお仕事をもう少し増やしてどんどん活躍してもらえたらいいなって思ってます。」
現在は米と麦がメインのため大きな機械を利用して作業をするお仕事が多く、手作業が少なくお手伝いしてもらえることが少ないのだそうだ。手作業のお仕事を増やすという面で、今後はさらに野菜の栽培を増やしていきたいのだと話してくれた。手伝ってもらうだけではなく、お仕事を通じて利用者さん自身が自立する力を身に着けてもらいたい、という強い想いを感じた。私は、この活動は農業を通じて多くの人を幸せにしているのだと感じた。
③農園について
現在育てているお米の品種について尋ねてみた。
「11品種ぐらいあります。餅米も3品種、お酒にする酒米もありますし、あとは黒米とか。品種によって多少収穫の時期とか田植えの時期が違うので、作業期間を分散させるという意味でも多くの品種を育てていますね。ただ11品種はちょっと多いので精査しようかと考えています。」「生産者にとっては作り易さや沢山穫れるとか病気や風害に強い弱いとか。消費者にとっては美味しいとか高い安いとか。両者のそういう部分を考慮しつつ精査していかなきゃいけないかなと思っています。」
品種それぞれの特性があり、実際に出来上がったお米を見るまで分からないことが多いことも話してくれた。また、品種選びがその年の収穫量にも大きく関わってくることや肥料との相性など、お話を聞いているだけでも本当に様々な悩みがあるのだと感じた。
「実は根尾の方にも田んぼがありまして、そこではコシヒカリを作ってます。やっぱりコシヒカリは美味しいですよ。」「根尾にある田んぼは薄墨桜よりもっと奥で車で45分ほどかかるんです。工作放棄地対策としてここを使ってくれないかと行政から声がかかったのがきっかけなんです。」「山の緑も綺麗で、隣を流れる川は山から直接流れてくる水でものすごく冷たいんですよ。そんな環境で育ったお米なので本当に美味しいんですよ。少し場所が遠いのが難点ですが。」
少し離れてはいるが、米作りの環境が良いのだと話してくれた。きれいな水で育つと聞くだけで、素人の私でも美味しいであろうと容易に想像ができる。
お仕事で楽しいと思うことを尋ねてみた。
「僕が一番好きなのは田んぼを耕してる時かな。機械を使って土ひっくり返したりとか、僕の中では土遊びだと思ってやってます(笑)」「それと当然ですが、お客さんから美味しかった!ってお褒めの言葉をいただいた時は、本当に励みになるし、頑張ってよかったなって思います。」「インスタを最近始めたのですが、思っていた以上に反応があるんです。対面ではありませんがSNSでも反応があるとやっぱり嬉しいですね。」
これまで聞こえていなかったお客様の声が、インスタグラムを始めた事でより聞こえるようになったのだと話してくれた。
「パレットピアおおのという道の駅でもお米の販売をしているのですが、他県から岐阜に引っ越してきた方がいろいろなお米を試したけど、うちのお米を選んで下さって、やっと美味しいお米に出会えましたってインスタでメッセージをいただいた時は、すごく嬉しくて。これからも頑張らなければと思いました。」
苦労してやり遂げた事が、誰かに感謝されたり喜んでもらえるのは本当に素敵なことだ。今後も堀口さんの育てたお米を待っている方達のためにも頑張って欲しいと感じた。
④今後やっていきたいこと
今後の展望について聞いてみた。
「今は卸売の会社やJAさんなどに収穫量の半分ほどを出荷してるのですが、将来は自分のところで全て販売できるようにしたいですね。」「この岐阜の地は名古屋にも近いじゃないですか。都市型の農業じゃないですけど、生産もしつつ自分のところでの販売もしつつ、そういった路線にも力を入れていきたいかなと思ってます。」「あとは、おにぎり屋さんをやりたいですね(笑)。農家さんがやってるおにぎり屋さんって絶対美味しいイメージがあると思うんですよ。」
これは出来たら絶対に行きたいと私は思った。意外と知られていないが、お米も鮮度で美味しさが決まるのだ。近年注目されている地産地消が、アグリフレンドホリグチでおにぎり屋をやった場合、自分のところで作ったお米になる。間違いなく安心安全で、美味しいおにぎり屋さんになるのだ。
奥様の真紀さんにもこれからについて伺ってみた「私は子どもたちの農業体験をやりたいです。」と話してくれた。
「農業体験で作ったお米をおにぎりにしてあげて、あなたたちが作ったお米だよと持って帰ってもらいたいです。農業体験や試食があって、普段できない体験を通じて食に興味を持ってもらいたいんです。」「今は私たちだけでやってるので、農業体験に一番いい時期は多忙過ぎてそこまで手が回らないんですけど、いつかはやりたいです。」
小学校の頃に農業体験をしたという方も少なくないだろう、思い返すと結構楽しかったのではないだろうか。真紀さんはご自身の経験からも、子供達や親達にも普段できない体験を通じて食育をしたいと話してくれた。お二人の話を伺い心から実現してほしいと感じた。
⑤後継者問題について
現在の課題を尋ねてみた。
「これはうちだけの問題ではなく農家全体の問題でもあるのですが、やはり人手不足かな。JA岐阜さんが間に入って求人広告を掲載してくれてはいるんです。ただ、法人として大きくやってるところの8割・9割が縁故採用なので。なかなか人材は集まらないんです。」
農家は縁故採用が多いらしく、JA岐阜の手助けがあってもなかなか見つからず困っているのだと話してくれた。ところどころお話に出てくる人手不足が深刻なのだという。かなり先の話だが、後継者問題についても尋ねてみた。
「娘が3人いるのですが、誰かに家業を継いでほしいとは正直考えてないです。」「実を言うと一番下の娘が、将来お米屋さんをやると言ってくれたんです。まだ小学生なので、本気かどうかは分かりませんが(笑)。」「無理に継がせるのも嫌なのであまり期待はしてませんが、とりあえずやるって言ってくれたことが僕の中でとても励みじゃないけど希望になりました。」
これを聞いた奥様の真紀さんが続けて話してくれた。
「娘からお米屋さんをやるとは聞いていたんですけど、本気だとは思っていませんでした。でも、10歳の時に小学校の発表会で、”将来はお父さんみたいな米農家になりたいって”みんなの前で発表したんです。それを聞いて本気だったんだなと改めて思ったんです。」「驚いた反面、本当にその気持ちが嬉しかったんです。」
お子様たちが心の支えとなっている、とても素敵なお話を聞かせていただいた。
様々な課題や社会問題がある中で、それに適応していくアグリフレンドホリグチ株式会社。今後どんな農園になっていくのか楽しみだ。
詳しい情報はこちら