ハンドメイドの木製家具を製造販売している「久保田家具工房」を訪ねてみた。
ハンドメイドで木製家具を製造、展示販売しているギャラリーだ。今回は久保田芳弘(くぼた よしひろ)さんにお話を伺った。
- 久保田家具工房の誕生まで
- ショールームと展示会
- グリーンウッドワーク・ラボとは?
- 今後の展望は?
①久保田家具工房の誕生まで
まるで絵本の中に登場するようなおしゃれさと愛らしさを併せ持っている建物が「久保田家具工房」のショールームだ。このショールームには常時200点以上の木工製品を展示販売している。久保田家具工房は芳弘さんのお父様である久保田堅(くぼた つよし)さんが始められたお店だ。
まずは久保田家具工房の誕生のお話を伺った。芳弘さんが生まれて間もない頃だと言う。
「父は大学を出てから東京で家具のデザインや彫刻をしていたんです。その後僕が生まれて少ししてから岐阜に戻って家具製作を始めました。僕は20歳になったタイミングでここに入って父と一緒にやっているという感じですね。今は家具製作だけではなく木工製品全般を製作しています。父は家具製作を行っていますが、僕は木工製品であれば柔軟になんでも作っています。」
久保田家具工房の創設者である芳弘さんのお父様の作品は家具に彫刻を施すのが特徴的だ。
「父はもう何十年も前から彫刻を続けています。何度かショールームに来ていただいて家中の家具をうちで揃えてくれるようなお客様もいらっしゃいます。テーブルを買って、次は椅子を買って小物も揃えてみたいに、順番に購入してくださる方は多いです。」
と話してくれた。中でも時計製作は注文が多いのだという。時計はいくつあってもいい品であり、お祝いにもぴったりだ。新築祝いに年号を彫ったり、結婚祝いに名前を彫って贈りたいというお客様からのオーダーが多いのだという。
②ショールームと展示会
そうして誕生した久保田家具工房は毎年展示会の開催もしているという。
「年に2回展示会をやっています。ゴールデンウィークと紅葉の時期、11月の終わりくらいから12月の頭にかけての年に2回です。案内を出して、来ていただくという感じです。展示もですが、僕が実際にスプーンを作る作業風景も見てもらったりする事もあります。そのスプーンを作る方法も、昔ながらの作り方を皆さんに伝えています。材料は家具に使うような材料を使うのではなく、山に生えている木を伐ってきてその場で斧とナイフだけでスプーンにしていくんです。」
生えている木を伐ってその場で製品にする昔ながらの加工を「グリーンウッドワーク」と言うそうだ。芳弘さんは現在、生木の製品作りの面白さを伝える活動を行っている。
「そのスプーンの製作方法を”グリーンウッドワーク”というんですけど、山に立っている状態の木は、伐ったばかりだとまだ水分を多く含んでいて、ベタベタなんですよ。通常は水分を多く含んだ状態の木は製品に向かないとされているんです。乾く途中で木が動いてしまったり割れたりすることがあるので、乾かして木の動きを止めた後に加工するというのが一般的な木工です。けれど生木の加工というのは、山から伐ってきてその場でスプーンや椅子などの形にしていくんです。」
一般的な木工の在り方とは異なるものの、木を探し選ぶところからわくわくを感じられそうな製法だと感じた。生木の良さとして、不要な木を切りたいと相談を受けたときにすぐに製品にすることができる点もあると芳弘さんは話してくれた。さらに生木は、特有の味が出るものなのだという。
「例えば最初はまん丸のお椀の形に加工するとします、ですが、ラグビーボールみたいな形になるんですよ。形が変わって乾燥して。それがまたいいんです。自分が狙った形にできないというか、木任せの形になります。その変形がむしろ良くて、縮み方も木の取る部分によっても違ってきますし、動く方向というのがそれぞれあるので、ひとつとして同じものができないというのもまた魅力的かなというふうに思います。」
一般的な家具の製造とは異なる生木の加工に興味を持った読者の方も多いことだろう。魅力的な生木のお話はまだまだ続く。芳弘さんは生木加工を教える活動にも力を入れているそうだ。
③グリーンウッドワーク・ラボとは?
近年グリーンウッドワーク・ラボの代表に就任したという芳弘さん。
「グリーンウッドワーク・ラボは生木を伐ってモノづくりをする方法であったり、生木の扱い方などをレクチャーする団体です。その上で、そういった生木加工用の道具の開発や、テキストなどの作成を行ったりするのがグリーンウッドワーク・ラボでの活動です。」
お話を聞いていて面白いと思ったのが、このラボに集まる受講者たちの学習目標がただ「生木加工を覚えひとりで行えるようになること」ではないという点だった。グリーンウッドワーク・ラボが開催する講座に集まる人たちにはある共通点があるようだ。
「ラボでやっている講座は生木加工の指導者を育てる指導者養成講座なんです。なので、指導者になることを目的として、皆さん同じ目的の人が集まるわけです。だいたい10名以上の方が泊まりで全国から来てくださるのですが、前回の講座の時は北は青森、南は宮崎から来てくださりました。来てくださる方々はみんな熱い想いを持ってくるんですよ。そういった方がご自身の地域に戻られてその場所で指導していけるように講座を開いています。刃物の扱い方であったりとか、教え方であったり、森を見るという講座もあります。座学や実戦で学んでもらう講座です。」
ラボで芳弘さんが行っているのは指導者志望の人を指導する活動なのだそうだ。集まる人はみんな生木加工の指導者になりたいという方達。同じ志を持つさまざまな年代の方達が全国から集まり、数日共にする講座は楽しく、参加者の皆さんの思い出にもなることだろうと感じた。
学ぶことができるだけではなく、全国に同じ志を持った仲間がいることを認識できる貴重な機会でもあるのだろうと感じた。
「年齢も性別も住んでいる地域も職種もバラバラなんだけど、みんなが同じ目的を持って集まっている場所。そこでああでもないこうでもないって話をして、夜はみんなで一緒に食事をしながら、想いを語り合う会でもあるんです。」
そう話す芳弘さんはとても楽しそうだった。芳弘さん自身も様々な地域にいる同じ志を持った方達との交流は貴重でとても楽しいのだろうと感じた。
④今後の展望は?
家具と、木工製品を丁寧に製造しショールームで販売する久保田家具工房。さらに生木加工の魅力を伝えることにも注力している芳弘さんに、自身が今後目指していきたいことを尋ねてみた。
グリーンウッドワーク・ラボの活動を今後も広げていきたいという芳弘さん。
「岐阜を拠点に各都道府県に支部ができたら面白いなと思います。当然、指導者養成講座を行っているので、受講された方々がそれぞれの地域で活躍されることを僕も願っていますし、そういった方のサポートは今後もずっと続けていきたいなと思います。グリーンウッドワークのコミュニティが全国に広がって行くといいなと思います。」
そう語る芳弘さんが大切にしているのは「丁寧に生きる」ということだと話してくれた。
「僕自身抜けている所でもあるのですが、丁寧に生きる事はとても大切だと考えています。木の加工に関してもそうですけど、生きていく事に関しても、状態を把握したり事前の準備とか、全てにおいて丁寧にやらないと上手くいかないと感じています。僕は結構雑な部分が多いと自分で思っているので、完璧ではなくて丁寧にやらないといけないなと、たまに立ち止まって自分に言い聞かせてます。」
まさに木工のような繊細な職人技こそ丁寧さの極みのように筆者は感じたのだが、常々「丁寧さ」を追求する方だからこそ行うことができる技巧作品なのかもしれないと改めて感じた。木の温もりをこれからも大切にして、木工製品をエンドユーザーへ届けてくれるであろう久保田家具工房と、堅さん芳弘さん親子。素敵な木工家具に囲まれた空間に惹かれ工房へ立ち寄ったすべての人へ、これからも癒しと感動を届けてくれることだろう。
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