雨の日でもベビーカーでもいちご狩りが楽しめる「やまへい農場」を訪ねてみた。
2023年2月14日にオープンしたバリアフリーのいちご農園だ。天井からいちごが吊るされており、床が平らなので車椅子の方もいちご狩りを楽しめる。今回は農場主の山田 修平(やまだ しゅうへい)さんと、農場責任者の矢沢 いちごさんにお話を伺った。
- オランダ式ハウスと出会い農業を始める
- キッズルーム完備で子連れ出勤OK
- 地元の高校生とコラボで地域貢献
- 未経験から農業責任者に挑戦
- 挑戦を続けて価値観をアップデート
①オランダ式ハウスと出会い農業を始める
「やまへい農場」の運営会社は東海3県で鳶工事や鉄骨工事を請け負う「株式会社ユニティー」だ。なぜ鳶の会社が農場を始めることになったのだろうか?
「当社では、カンボジアからの実習生を多数受け入れています。彼らは3年で実習が終わるんです。当社としては、長年働いてほしいんですね。日本でずっと働いてもらうにはどうしたらいいかと考えた結果、思いついたのが、実習生の家族が日本で働ける場所を提供することでした。ただ、実習生の奥さんに鳶職をやってもらうのはハードルが高いので、どうしようかなと悩んでいました。」(山田社長)
そのタイミングで山田社長が出会ったのが、農業先進国であるオランダのダッチライト型ハウスだ。軒高が3.5mから4mと高く、換気効率が高いという特徴を持っている。
「池田町に、トマトを栽培しているファームがあります。このダッチライト型を採用しているんです。このハウスを当社で施工したのですが。『何だこれは!』と衝撃を受けたんです。そこで、施主さんから今流行りのスマート農業について教えてもらいました。これなら女性でも働きやすいと考え、当社でもやってみようということになりました。」(山田社長)
山田社長は、将来的には、カンボジアにもダッチライト式のハウスを建てて、むこうでも作物を栽培したいと考えている。
②キッズルーム完備で子連れ出勤OK
今は人手不足で、どの業界でも人材の確保が課題となっている。しかしやまへい農場は、子育て世代の女性が多く在籍している。山田社長はどのようにして人材を集めたのだろうか?
「子育て世代のお母さんは、働きたいけど働く場所がないというのが現状だと思います。しかしずっと家にいると息が詰まってしまいますよね。そこで、やまへい農場ではキッズルームを作り、お子さん同伴で働けるようにしました。農場は見晴らしが良いので子どもの様子を見ながら作業ができるんですよ。」(山田社長)
子連れOKで働いてもらうことについては、他のスタッフにも説明して理解を得るようにしたという。スタッフの中には、赤ちゃんをおんぶ紐でおんぶをしながらいちごの手入れをしている人もいる。家庭とは別の居場所を見つけ、イキイキと働いている姿が印象的だ。
また、やまへい農場では床に自由に落書きができる。スタッフやお客様のお子さんの落書きがあちこちにある。大きなキャンバスに自由に絵が描けるのだから、子どもが退屈するかもしれない……という心配は無用だ。
「最初は落書きできるところを限定していたのですが、子どもたちが楽しそうに書いているのを見て、もう全部OKにしちゃおうか、となりました。」(山田社長)
農場では、スタッフのお子さんと、お客様のお子さんが一緒に遊んでいる姿も見られる。その場にいるだけで、幸せになれそうな空間だ。もしかしたらやまへい農場から、未来の画家が生まれるかもしれない。
③地元の高校生とコラボで地域貢献
いちご狩りというと、土に生えているものをしゃがんで取る、というイメージがある人も多いのではないだろうか?
しかし、やまへい農場では天井からいちごが吊るされている。だからベビーカーを押しながらいちご狩りができるし、床にレジャーシートを敷き、みんなでピクニックもできる。小さなお子さんが、うっかり植えられたいちごを触ってしまう心配もない。食べ物が持ち込みOKなのも、家族連れには嬉しいポイントだろう。
農場には「かおり野」「あきひめ」「紅ほっぺ」「よつぼし」「恋みのり」といったさまざまな品種のいちごが植えられている。それぞれの特徴がまとめられたパンフレットがあるので「いちごの違いなんてわからない!」という人でも安心だ。
家族で出かけた場合、特に小さいお子さん連れだと、出かけても「バタバタしてゆっくりできなかった!」という親御さんも多いだろう。しかしやまへい農場であれば、お子さんが広い農場ではしゃぎ回るのを見守りながら、ゆったりといちごの食べ比べができるのだ。
やまへい農場では余ったいちごは冷凍のうえ、キッチンカーで「削りいちご」などのスイーツとして販売。キッチンカーでは、豆から挽いた本格的なハンドドリップコーヒーや、食事も提供されている。
またファミリー向けだけではなく「夜のいちご狩り」などカップル向けのイベントも行われている。ライトアップされた農場でのいちご狩りや他では味わえないロマンチックな思い出を作れそうだ。
とても魅力的なやまへい農場だが、課題は広報だという。現在は、地元にある関市立関商工高校とタイアップしてWebサイトを作り、広報に力をいれている。関商工高校とのタイアップは、Webサイト制作だけでなく、廃材を使ってテーブルやクリスマスツリーの製作、キャラクターグッズの販売など、多岐に渡っている。
「高校生のみなさんは、デザインとかも手がけてくれるので、すごく助かっています。僕では思いつかないような発想を持っているので、良い刺激になっています。」(山田社長)
関商工高校とは、やまへい農園からも講師を派遣するなど、双方向の良いお付き合いが続いている。やまへい農園での学びは、高校生にとってもかけがえのない経験となるだろう。
④未経験から農業責任者に挑戦
やまへい農場は、広報の成果が少しずつ実り、NHKなどのテレビや、新聞、ラジオなど各メディアにも取り上げられるようになってきた。そんな忙しくなりつつある農場を支えているのが、矢沢いちごさんだ。責任者として、10代から60代までのスタッフをまとめている。
いちごさんは入社後、ユニティーが施工した神戸町のいちごファームで、1年間農業経験を積んだ。現在、山田社長は農場の運営をほぼ彼女に任せているという。農業未経験で任されることに、不安やプレッシャーはなかっただろうか?
「農業の経験がなかったので、失敗したらどうしようという不安はありました。いちごを1つ植えるだけなら簡単なのですが、同じものをたくさん作らないといけないですから。でも不安よりも、いちごができる喜びの方がずっと大きいです。一緒に喜べる仲間もいて、つらさやしんどさが吹き飛びます。いちごをよりおいしくするにはどうすれば良いかを、いつも考えていますね。」(いちごさん)
そんな、いちごさんの前職は飲食店。長くフロアリーダーを務めてきた経験がある。明るくポジティブないちごさんは、やまへい農場のムードメーカー。一緒に話しているだけで、こちらも元気をもらえそうだ。
やまへい農場は、従業員が企画を提案しやすい良さがある。そのひとつが、「こたつdeいちご」である。こたつでミカンならぬ、こたつでいちご狩り。やまへい農場ならではのイベントだ。インスタでもかなり映えそうである。
「社長はいつも、『それ、面白いからやってみようよ』と言ってくれます。だから思いついたことをすぐ言えるんです。」(いちごさん)
社員が臆せずアイディアを出せる風通しの良さも、やまへい農場の特徴といえるだろう。
⑤挑戦を続けて価値観をアップデート
山田社長に、今後の展開を伺ってみた。
「岐阜だけでなく関東でも、このようなハウスを作りたいと考えています。そこではいちご狩りだけではなく他の作物も植えて、ドッグランやアスレチックを作って、家族で一日中遊べるパークにしたいです。」(山田社長)
話を聞くだけでワクワクしてくる。最後に、お二人に座右の銘を伺ってみた。
「僕の場合は『楽しむ』です。これは会社の経営理念でもあります。楽しくなければ、仕事も続かないですからね。」(山田社長)
「私は『アップデート』です。現状維持ではなく、新しい空気を取り入れるようにしています。この仕事は高校生と関わることが多く、若い感覚を盗ませてもらっています。頑固になりすぎず、あまりこだわりを持たず、柔軟にチャレンジしていきたいです。」(いちごさん)
「そうだね。時代は変わっていくからね。ずっと上を向いていかないと。現状維持は、時代に逆行していくことだからね。衰退しているのと一緒だから。」(山田社長)
・オランダ式のスマート農業を導入
・多様性を尊重したスタッフ採用
・高校生との協働で地域に貢献
時代の最先端をいくやまへい農場は、これからの農業、そして新規事業を模索する建設業のロールモデルといえるだろう。メディアで取り上げられる機会が増え、まさに今、ブレイク寸前の状態。予約が取れなくなってしまう前に、いちご狩りを体験してみてはどうだろうか。
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