27歳店主の挑戦!自家製麺を楽しめる「蕎麦とゴハン 72% (nananii)」を訪ねてみた。
2023年6月2日、粟野にオープンしたばかりのお蕎麦屋さんだ。今回はオーナーである加藤 隆弘(かとう たかひろ)さんに、お話を伺った。
- 72%の人がまた来たいと思える店に
- ガッツリ肉系など豊富なメニューが強み
- 地元・奥三河にこだわったメニューも
- 「代わりはいる」からこそ大切にしたいもの
①72%の人がまた来たいと思える店に
今、岐阜では「冷したぬきそば」がブームになりつつある。そんな中、2023年6月にオープンしたのが、「蕎麦とゴハン 72% (nananii)」だ。場所は岐阜市の粟野東。「だるま観音」で知られ、毎年8月には願い事を書き込んだろうそくに灯をともす観音灯籠まつりが行われる大龍寺の近くにある。
お店の前に行くと「蕎麦とゴハン」と筆で力強く書かれた大きな一枚板に目を奪われる。さぞかし名のある職人さんが手がけたのかと思いきや、オーナーの加藤さんの後輩が作成したものだという。その看板は、ドンと存在感を放ち、お店の目印となっている。
お店のコンセプトは「72%の人がまた来たいと思える店」である。
「どういう意味ですかとよく聞かれます。ですから屋号の由来をメニューに書くようにしました。」
ある調査によると、飲食店のリピート率は約4割だという。その約2倍近い数字を目指すというわけである。無理をしすぎず、肩肘はらない経営を目指しているのだという。老若男女、さまざまな人に受け入れてもらえるよう、さまざまなメニューを用意している。
「72」というのは、加藤さんの年齢にも由来する。加藤さんは27歳で「蕎麦とゴハン 72% (nananii)」をオープンした。
27歳で開業することを決めたきっかけは、尊敬する先輩からの「27歳までに開業しろ」という言葉だそうだ。その先輩とは、各務原市でセレクトショップ「gouter le cabinet」を経営しているAsahiさん。
Asahiさんはもともと美容師をしていたが、ファッションが好きで美容師を辞め、セレクトショップを開業した。そして23年には10周年を迎えている。そんな先輩の言葉だからこそ、加藤さんの心にも響いたのだろう。
お店の塗装は加藤さんが手がけているが、配色などはAsahiさんからアドバイスをいただいたそうだ。周辺のお店と一線を画したスタイリッシュかつ居心地の良い空間となっている。
「蕎麦とゴハン 72% (nananii)」があった場所には、もともと「呂呂」という中華料理屋があった。加藤さんはこの場所を居抜きで使っている。30年以上続いたお店に敬意を払い、「呂呂」の雰囲気を残しつつ、お店を改装している。
「洗面所と電気系統と水回りは手を加えました。でも柱とかは残しました。身長が書いてあります。懐かしい感じで、お客様もよく見ていきますね。」
取材時にも実際に来店していた一人のご婦人が、
「私、前の中華料理屋さんからよく通っていたの。大将達は元気?わぁ懐かしいわね。」
そう言って身長が刻んである柱を懐かしそうに眺めていた現場に遭遇できた。お店のつくりにも、オーナーである加藤さんの人柄がよく表れている。
②ガッツリ肉系など豊富なメニューが強み
お店の看板メニューは、屋号を冠した「nananiiそば」。にんにくと深煎りごまの香りが鼻腔をくすぐり、食欲をそそられる。ネギのシャキシャキ感、天かすのサクサク感、炙り煮豚のトロトロ感、そして自家製麺のツルツル感が絶妙なバランスで調和している。
これらの個性豊かな食材を、特製のごま油が包み込み、一口ごとに違った味わいや食感を楽しめる蕎麦となっている。お酢をかけて味に変化をつけるのもおすすめだ。取材時がお昼時だったこともあり、実際に筆者も頂いた。筆者は40手前の中年であるため、「nananiそば」が目の前に来た時食べ切れるか少し心配になった。しかし、文字通りあっという間に完食してしまった。
他にも、牛バラ肉をふんだんに使った肉玉蕎麦・国産のバラ海苔をふんだんに乗せた花巻そば・肉だけでなくにんにくを入れ、辛味を効かせた、寒い季節にぴったりの旨辛肉蕎麦など、さまざまなメニューがある。「蕎麦とゴハン」という名前だけあって、ゴハンのメニューも充実している。蕎麦屋のかえし醤油に漬けた卵黄が乗ったゴールデンエッグ丼・蕎麦出汁を使った割下で煮込んだ牛すき丼、お客様のリクエストから生まれたえび天丼などがいただける。
「お蕎麦に限らず、いろいろな用途に合わせ、肩肘はらずに気軽に日本食を楽しんでほしいと考えています。」
冬は国産の牛もつを使ったもつ鍋を提供している。2人前から注文可能だ。牛もつを使った料理は、他に「牛もつ鉄板野菜炒め」もある。新鮮な牛もつをつかっているため、臭みが少なく食べやすい。
「お店を始める前は、蕎麦屋で働いていました。ただお昼のみの営業だったので、夜は焼肉木曽という所でアルバイトをしていたんです。そこで良い仕入れ先を教えてもらったので、現在はそこから仕入れています。」
蕎麦と焼肉、一見つながりがなさそうなアルバイトだが、さまざまな経験を無駄にせず、しっかりと今のお店の経営に生かしている。
③ 地元・奥三河にこだわったメニューも
オーナーの加藤さんは、もともと愛知県の北東にある奥三河の出身だ。自然豊かで、紅葉の名所として有名な天竜奥三河国定公園や鳳来寺山、香嵐渓などの絶景スポットがある。五平餅、鮎の塩焼き、味噌田楽などの郷土料理も美味しいところだ。
そんな奥三河で育った加藤さんは、岐阜大学への進学を機に岐阜県へ。卒業後、愛知で就職したものの、「これが自分のやりたいことなのか」と考えていた頃に大学時代のバイト先の店長が蕎麦屋を作るというので声をかけていただき岐阜に戻ってきたのだそうだ。
大学の卒業論文では町おこしをテーマにするなど、地元愛がある加藤さん。「蕎麦とゴハン 72% (nananii)」の場所を現在に決めたのも、粟野という緑豊かな場所が、どこか生まれ故郷を彷彿とさせるからだという。
「集客のことを考えたら市街地の方が有利かもしれませんが、岐阜は車社会なので、話題性があれば来ていただけると考えました。」
同店では、奥三河ならではのメニューも味わえる。東栄コーチンの焼き鳥もそのひとつ。東栄コーチンとは、愛知県東栄町産の純系名古屋コーチンを指す。東栄町の豊かな自然環境で育った東栄コーチンは、名古屋コーチンの中でも評価が高い。一般的なブロイラーよりも長い時間をかけて平飼いで育てられており、ジューシーだ。そんな東栄コーチンを、蕎麦屋のかえし醤油で味つけした焼き鳥は、お酒にもゴハンにもよく合う一品となっている。
「蕎麦とゴハン 72% (nananii)」はお酒も種類が豊富で、奥三河の地酒も用意されている。その一つが蓬莱泉「空(くう)」だ。こちらは関谷醸造が造る純米大吟醸酒だ。関谷醸造は、愛知県北設楽郡設楽町に本社がある。選びぬかれた米・酵母・麹、考えぬかれた発酵や熟成の工程により、さまざまな味わいのお酒を造りあげている。
蓬莱泉は同社を代表するブランドだ。山田錦を贅沢に使用し、1年間の熟成期間を経て出荷される。果物を思わせる芳醇な香りと米の旨み・甘味を引き出した味わいのあるお酒だ。入手困難な幻の酒と言われており、岐阜県でも飲めるお店は少ない。
東栄コーチンの焼き鳥と蓬莱泉「空」。日々の喧騒を忘れ、「蕎麦とゴハン 72% (nananii)」で、奥三河の自然が生み出したマリアージュを体験してみてはいかがだろうか。
④「代わりはいる」からこそ大切にしたいもの
「蕎麦とゴハン 72% (nananii)」は、夜だけでなく朝7時からモーニングも実施している。また、「学生証の提示で蕎麦(ご飯)大盛り無料、100円以下のトッピング無料」という学割サービスも実施している。
これらもまた「老若男女、さまざまな人に来てもらいたい」という加藤さんの工夫のひとつだ。テレビに取り上げられるなど、話題の「蕎麦とゴハン 72% (nananii)」だが、加藤さんは、多店舗展開を考えていないという。
「移転や店舗の拡大は考えていますが、多店舗展開は考えていないですね。料理を作るのが好きでやっているので、あくまでお店に自分がいることを前提にしています。」
では、どのような展望を持っているのだろうか。
「理想は、私の家族を岐阜に呼んで、一緒にお店をやることなんです。」
「蕎麦とゴハン 72% (nananii)」では、現在モーニングをやっている。いろいろな人に来て欲しいという気持ちが一番だが、実はもう一つ理由がある。
「私の母親が、パン屋をやっていたんですよ。今すぐではないですが、いつか一緒にできたらなと思って始めたんです。」
家族思いの加藤さん。最後に、加藤さんに大事にしている言葉を伺ってみた。
「代わりはいる、ですね。」
「代わりはいないというのはよく聞きますが、そんなことはないと僕は考えています。この人にしかできないというのは、そんなに多くはありません。私はこのお店を経営していますが、私と同じように経営できる人はきっとたくさんいます。だからこそ、その人にしか出せないコンセプトや、人間性が大事なんです。」
人間性が大事だと語る加藤さん。お店の屋号からも謙虚な印象が伺えるが、そんな加藤さんだからこそ、たくさんの人たちが、彼に力を貸すのだろう。新進気鋭の若き料理人がつくる蕎麦とゴハンを、ぜひ味わってみてはいかがだろうか。
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