バンジーエクササイズで美と健康を促進させるサロン「AgRIZE」を訪ねてみた。
2023年にオープンした、美と健康に特化した複合型サロンだ。今回はオーナーの今井 小百合(いまい さゆり)さんに、サロンの特徴や美と健康へのこだわり、さらに経営哲学までうかがった。
- 話題の新感覚エクササイズ「BurnG」
- 専業主婦から起業家へ転身
- 20年の会社経営から学んだこと
- 店舗を増やすより輝く女性を増やしたい
①話題の新感覚エクササイズ「BurnG」
AgRIZEには、バンジージャンプのようなエクササイズができたり、ハンモックに包まれてヨガができる施設がある。岐阜初ということで、多くのテレビや新聞などのメディアに取り上げられているので「知ってる!」「聞いたことがある!」という人も多いのではないだろうか?
新感覚バンジーエクササイズ「BurnG」は、ポーランドと日本で共同開発された高燃焼系空中エクササイズである。身体にハーネスを装着し、バンジージャンプと同じゴムで天井から吊られる。この状態で有酸素運動や筋力トレーニングを行うのだ。身体へかかる重力の負荷を減らし、かつ効果的に脂肪を燃焼できるという。
子ども向けの科学館の中には、月面ジャンプ体験ができるものがある。バンジーコードなどをつけた状態でジャンプし、地球の6分の1の重力を体験できる順番待ち必至のアトラクションだ。あれの大人版といえるかもしれない。Instagramにアップされている動画を見ると、みんな無重力に近い状態で、楽しそうに飛んだり跳ねたりを繰り返している。
また「痩せたいけど、膝が痛くて激しい運動ができない……」という悩みを持つ人は多いが、「BurnG」であれば、膝に負担をかけることなくエクササイズを楽しめる。実際70代以上の高齢の方も、多く体験に訪れるという。オーナーの今井さんはこう語る。
「9月のオープンから、300名以上の方に体験いただいています。大抵の方が、その後も何らかの形で継続的に来られています。通常のスクワットを何度もするのは大変ですが、BurnGなら楽しくスクワットできますよ。」
関節に負担をかけずに、体幹を鍛えられるというわけだ。男性の希望者も多く、男性コースも検討しているという。
一方、「エアリアルヨガ」では、天井から吊るされたハンモックに身を包み、さまざまなポーズを取って心身を整える。ぐずっている赤ちゃんを「おくるみ」に包んで揺らしてあげると、落ち着いて眠ってくれやすいのだが、あの感覚に近いのかもしれない。
皆さんはヨガは、身体が柔らかくないとできないという先入観がないだろうか。筆者の話で恐縮だが、身体がかなり固く、無様な姿を人前でさらしてしまいそうで、ヨガに行ったことがない。しかしこれなら身体が布で隠れるのでチャレンジできそうだ。思わず体を動かしたくなる、そして健康への意識が高まる、そんな魅力が「AgRIZE」には詰まっている。
②専業主婦から起業家へ転身
オーナーの今井さんはAgRIZEを始める前も25年間、美容関係の会社を経営してきた実績を持つ。
美の世界でさまざまな女性を見てきた今井さんは、あることに気付いた。
「少子高齢化の影響で、だんだん年配のお客様が増えてきました。私も今年で60歳になります。自分も年を重ねるにつれて、『美は健康でないと保てない』と気付いたんです。5年前は全く考えていませんでした。美容に気を遣ってさえいれば、綺麗になれると考えていました。しかしそうではないということを、自分の身をもって知ったんです。」
美と健康に関わる事業を手がけたい……そう考えていた今井さんは、知人のInstagramをきっかけに「BurnG」を知る。楽しそうだと思って調べてみたところ、岐阜どころか、東海地方全体で「BurnG」の施設が名古屋に1件しかないことがわかった。
「「BurnG」を体験してみたくて名古屋まで通ったんですよ。お客様たちと一緒に行っていました。しかし忙しいこともあり、名古屋だとせいぜい月1回しか通えないんです。お客様の健康のためにも岐阜で作らないと、と感じたんです。」
こうして、AgRIZEが誕生したというわけだ。
AgRIZEにはお子様連れも多く訪れる。キッズルームがあり、スタッフもお客様も使えることが大きな強みだろう。窓があるので、いつでもお子さんの様子を確認できる。保育士免許を持つスタッフが在籍しているので、安心して預けられる。スタッフが忙しいときは、オーナーの今井さんがお子さんを見ることもあるという。
Instagramの動画を見ていると「これ絶対流行るだろうな」と感じるのだが、全国で通える施設はまだまだ少ない。それもそのはず、導入のハードルがかなり高いのだ。
「天井から吊り下げるゴムには、450kgの耐荷重が必要です。AgRIZEでは、重量鉄骨の柱にこのゴムを取り付けています。うちはもともとBurnGを想定して施設を建てました。ですので既存の施設にプラスするのは何かと難しいですね。」
インスタ映えして、かつ参入障壁は高い。そしてなんといっても岐阜県初。めちゃくちゃ強みだといえるだろう。
「どこに目をつけるかですよね。女性と子どもに関する分野は、業績を伸ばしやすいんです。25年前に事業を始めたときも、化粧品は女性が絶対使うから、売れるはずだと考えました。」
経営者として辣腕をふるう今井さん。企業でOLとして勤めたあと、結婚後はしばらく専業主婦だった。美容の事業を始めたのは、お子さんが1年生のときだ。
ご主人は当時サラリーマンで、現在は退職しているという。専業主婦だった今井さんが、美容の事業をするといったときは、驚いたのではないだろうか。
「最初に化粧品の事業の話をすると『その化粧品は怪しくないか?』と聞かれました。ですから化粧品のメーカーのパンフレットを取り寄せて、夫に説得したんです。最終的には、家族に迷惑をかけたり、子どもたちに寂しい思いをさせなければ、やっていい、ということになりました。」
そして今井さんは売上を伸ばし、最初は半信半疑だったご主人も、そんな今井さんの活躍ぶりを見て応援してくれるようになった。5年後、借りていた店舗が手狭になり、自分で借金をして建てるとなったときも、旦那様は反対しなかったそうだ。
その後、ご主人は会社を退職し、現在は家事をしたり、ときどきAgRIZEの仕事を手伝ったりしている。
「会社をリタイアすると聞いたとき、今まで頑張ってくれていたのだから、いいかなと思いました。家事もやってくれますし。私は会社員ではないから、その気になればずっと働けますからね。以前は夫が会社で働いて、私が専業主婦として家事をやっていた。それが逆転するだけの話です。」
性別にこだわらず、働きたい方が働く。まさに令和の新しい夫婦の形といえるだろう。
③20年の会社経営から学んだこと
現在、今井さんはAgRIZEを始め、さまざまな美容に関する事業を手がけている。売れるものを見抜くためのポイントは何だろうか?
「差別化できるかどうかです。差別化できて、かつそれを理論的に説明できないものは売れません。最初に起業した化粧品もそうです。これは差別化できるだろうか、他に差別化できるポイントはないだろうかと、常に考えています。」
そう語る今井さんは、バイタリティに満ちあふれていて、とても60歳には見えない。身体の内側からパワーにあふれている若さを保つ秘けつは何だろうか。
「それはきっと、私のポジティブな性格から来ているのかもしれません。私は仕事で嫌なことがあっても、会社以外の場所に持ち込まないようにしています。一歩会社を出れば、嫌なことはすべて忘れる。その習慣を身に付けて、ストレスを溜めないように心がけているからです。それくらいでないと、経営者としてやっていけないですね。」
ストレスを溜めない、持ち込まない。それが美しさの秘けつなのだ。確かにストレスは顔に出る。そして抱え込むと一気に老け込んでしまう。健康面でも問題が出る。今井さんはこれまで、仕事の夢を見たことが一度もないという。それだけ、オンとオフの使い分けを徹底しているのだ。
「自分の責任で自分にストレスをかけるならまだしも、他人からのストレスで自分が病むなんて割に合わないですよね。嫌なことがあっても、そういう考え方の人もいるんだなとすぐに切り替えます。」
今井さんに、職場の人間関係を円滑に進める秘けつについても伺った。
「たとえば、Aさんが私に『Bさんにこう言われました。ショックです。社長はどう思いますか?』と相談してきたとしますよね。でも、そこで私が『それはひどいよね』って共感してしまうと、AさんはBさんのことを、もっと嫌いになってしまうと思うんですよ。私とBさんの間もぎくしゃくしてしまいます。ですから『もしかしたら、こういう意図だったのかもしれないよ?』と答えるようにしています。」
決して誰かに肩入れせず、中立でいることが大切というわけだ。せっかくなので、組織のリーダーとして、大切にしていることについても伺った。
「公明正大・平等を心かげています。私は誰かと人間関係でうまくいかなかったことがないんです。また、自分が率先して、一番の売り上げを出しています。決してスタッフを働かせて、自分は遊んでいるなんてことはありません。おそらくスタッフは『社長が一番がんばってる』と思っています。いつもスタッフが身体を気遣ってくれています。」
社長が部下に求められているのは「聴く力」だと今井さんは語る。
「社長が必要とされているのは、経営力だけでなく、部下の話を聴く力だと考えます。常にアンテナを張り巡らせておいて、あの人、今日は元気ないなと思ったら『何かあったの?』と声をかけます。5秒かからないこの言葉をかけるだけで、部下との関係性はかなり変わります。」
今井さんの会社は、スタッフの離職率が低いという。今井さんがスタッフの話に耳を傾け、職場改善の努力を惜しまないからだろう。
④店舗を増やすより輝く女性を増やしたい
今井さんに今後の展望をうかがってみた。
「法人のお客様を増やしていきたいです。企業の福利厚生に取り入れてもらえればいいなと考えています。」
確かにAgRIZEなら家族連れで行けるので、従業員本人の健康増進だけでなく、従業員の家族にも還元できるサービスになる。今はどこも人手不足なのもあり、少し変わった他とは違う福利厚生で人を集める企業が増えている。目玉となる福利厚生を用意したい企業の方は、ぜひ検討してみてはいかがだろうか。
たとえば、AgRIZEの多店舗展開などは考えているのだろうか。そう尋ねると今井さんは首を横に振った。
「今は考えていません。20年前なら考えたかもしれませんが、いろんな経験を積んで、建物を増やすよりも、活躍できる女性を増やして行きたいと考えています。」
活躍できる女性を増やしたいという今井さんの願いは、実はAgRIZEという名前にも込められている。ギリシャ神話に登場する美の三女神の一人「アグライア」に由来するという。アグライアは「光」の女神でもあり、輝く女性の象徴でもあるのだ。
「従業員が女性としてやりがいを持ち、自信を持って輝いて働ける環境っていうのを作りたいという想いを込めて付けた名前です。」
女性の経営者は、少しずつ増えてきているとはいえ、まだまだ少ない。帝国データバンクが2023年11月に発表した資料では、女性社長比率が8.3%だった。そして残念なことに、全国最下位は14年連続で岐阜県の6.0%なのである。46位は愛知県の6.5%であり、全体的に中部地方の女性社長が少なくなっている。
女性社長比率は 8.3%、 過去最高も依然 1 割を下回る
「個人事業主としてやっている女性はいますが、従業員を雇って経営している女性は多くはありません。私は納税こそが、最大の社会貢献だと考えています。ですから女性が稼いで、どんどん納税できる仕組みを作りたいです。」
最後に、今井さんの座右の銘について尋ねてみた。
「感謝報恩です。私たちはお客様に生かされています。お客様からお給料をいただいているわけです。その気持ちは絶対に忘れないようにしたいですね。恩も送りたいし、感謝に尽きます。私が今、ここにいられるのはお客様のおかげです。そしてそれは、私の力だけでやってきたわけではありません。スタッフやアドバイザーの力がないと、私の立場はありません。お客様にもスタッフにも感謝を忘れない。座右の銘というか、当たり前のことですね。」
「A sound mind in a sound body」(健全なる精神は健全なる身体に宿る)という言葉がある。まさにそれを体現したのが今井さんだ。今井さんのようなリーダーシップと包容力がある女性社長が増えれば、岐阜のまちはもっともっと面白くなるのではないだろうか。
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