関市で4世代で紡ぐ衣料店「ファミリーファッションいしはら」を訪ねてみた。
安価で多彩な商品が評判で、4世代にわたり地域に根差す総合衣料店だ。今回は、代表取締役の石原 巧雅(いしはら よしまさ)さんにお話をうかがった。
- 創業85年地元に根づく衣料品店
- トライアンドエラーで重ねた挑戦と継承
- 細かな気配りのある接客が強み
- 「スタッフを大事にする」伝統を紡ぐ
- みんなで成長し利益を還元したい
①創業85年地元に根づく衣料品店
「ファミリーファッションいしはら」は、創業85年の歴史を持つ企業で、現在の石原社長で4代目となる。
もともと、戦前に曽祖父が大工の棟梁を務めたのが始まりで、祖父の代までその仕事を続けていた。ところが、戦争の影響で、祖父の下で働いていた職人たちが多く帰還できず、大工の仕事を続けられなくなったという。
「戦前から曽祖母が古着屋を営んでいたこともあり、祖父はそのノウハウを活かして洋品店に業態を変えました。これが、私たちが今取り組んでいる衣料品業態への参入につながっています。その後、父が店を継ぎ、『本町通り商店街』から現在の関市へ移転し、現在の営業スタイルができました。」
当時お父様は、商店街の衰退を見越し、借金をして思い切った移転を決断。これは31年前、石原社長が高校1年生のときの出来事だった。
「私は関市出身で、地元に根付く店を目指しています。だから、関市内で『いしはら』と言えば『ファミリーファッションいしはら』しかないと言われたいんです。そんな中、『親子三代で通っている』とお客様から声をいただけることがあり、それが嬉しい瞬間です。」
このように「親子三代で通っている」という声が寄せられることこそ、地元に根付き信頼されている証拠だろう。一方で、「ファミリーファッションいしはら」という店名は、先代のお父様が変更したものだと、石原社長は話す。
「もともとは、『石原洋品店』という名前でした。しかし、父は『衣料品にこだわらない』という考えがありました。これからの時代に合わせ、何でも扱える柔軟な業態が必要だと考え、会社名は「株式会社いしはら」、屋号は「ファミリーファッションいしはら」に変更したんです。」
先見の明を持ち、柔軟な発想で経営していたお父様の判断は、石原社長へと受け継がれている。
こうして「ファミリーファッションいしはら」は、時代に合わせた変化を続けながら、4世代にわたって地元に貢献してきた企業なのである。
②トライアンドエラーで重ねた挑戦と継承
石原社長は、子供の頃から大工へ憧れ、卒業後は大工業に就きたいと考えていたそうだ。しかし、両親の話を聞き進学する事を選んだ。
「高校3ぐらいから、家業を継ぐ事に興味が出てきたんです。その後、短大時代卒業を控えていた頃から、家業を継ぐ為に修行に行く事が決まっていたので、準備に励んでいました。」
当時の衣料品業態には、2年間は修行に行く制度が色濃く残っていたそうだ。当時、石原社長も住み込みで、同業種の繁盛店に修行に行かれたのだそうだ。
「私の場合、自分の行きたい店は選べませんでした。結局、研修先は水が合わず、途中で辞めてしまいましたが、その後、さまざまなところに就職させてもらい、経験を積ませていただきました。中でも、当時100店舗以上経営していた、『雑貨屋ブルドック』で学んだのノウハウは、今でも役立っています。」
さまざまな挫折と失敗を重ねながら、石原社長は家業に就いた。家業を受け継ぐにあたって、最初は不安しかなかったと、石原社長は語る。
「当時の商品の仕入れは、今では考えられないのですが、書面を交わすなどの風習がなく、信用で売買が成り立つ慣習でした。ですから、電話一本での買い付けになり、中には現物を見ないで入荷するという商品もありました。」
即決が必要な上に、大きな金額が動くと思うと、それだけで多くの人が怖気づくものである。石原社長も、当時は物凄くプレッシャーを感じていたと振り返る。
「最初の頃は仕入れに注力するがあまり、支払いへの意識が足りておらず、その事を父に指摘され会社の財務状況を見せてもらったことにより、現実を知ることができました。良い意味で失敗経験の一つです。このように、トライアンドエラーを重ねながら、成長して今に至っています。」
お父様から代表の座を引き継いで約10年経つ。現在は、お父様お母様共に、他のスタッフ同様に、一般社員として在籍しているという。この形は、いわゆる家族経営であるが、それについての苦労をうかがった。
「考え方の違いから、これまで父との意見の対立はありました。ただ、『会社を安定させたい』、『会社の売り上げを作りたい』、『スタッフの生活を守りたい』など、一番大切にしている想いは一緒なんです。」
想いが一致していたからこそ、家族経営を続けてこられたと石原社長は話す。
「何かトラブルがあると、会社が良くなるように、家族一丸となって解決に向かうのは、家族経営の良いところだと考えています。」
世の中には「家族と一緒に働くことはできない」という意見が一定数あるが、家族だからこそ一致団結できる強みもある。石原社長は、最終的な想いという本質を見極めることで、良好な家族経営を見出している。
③細かな気配りのある接客が強み
石原社長に代表が変わってから、「ファミリーファッションいしはら」を強化したことが2つある。
1.就業規則を定めた
「この業界では、家族経営の延長で就業規則を定めていない会社が多いのですが、スタッフがより働きやすく会社に対して安心できるように、という想いがあります。」
2.新しい商品を取り入れている
「うちは今、総合衣料品店としてさまざまな商品を扱っています。寝具など一部は、父の代から扱っていましたが、私の代になって本格的に力を入れ始めました。他にも、食品や化粧品を始めたりと、次々と新しい分野を開拓しています。」
このように、先代の考えも踏襲しながら、石原社長オリジナルの発想を加え、形にしている。
今の「ファミリーファッションいしはら」の強みは、細かな気配りのある接客であると、石原社長は語る。
「うちの特徴はディスカウンターです。お客様のために、できるだけ安く提供することを意識しています。ただし、大手企業には価格で負けることもあります。それでも多くのお客様がうちを選ぶのは、細かな気配りのある接客を心がけているからだと考えています。例えばうちでは、『お客様が見やすく、分かりやすく、取りやすい売り場を作りましょう。』という考えを全スタッフへ周知し、目が届く接客を実現しています。」
石原社長は、このように自身の想いを、全スタッフへ共有している。
「私は楽しく仕事をしたいんです。その考えの根幹には、スタッフも楽しく働き、お客様にも楽しい買い物をしていただきたい、という想いがあります。ですので、楽しく買い物をしていただくには?という部分を意識しながら、自分達の接客姿勢についていつも考えています。」
これが、細かな気配りを実現する秘訣だろう。実際に、競合他社は非常に多い。大手総合衣料のメーカーを筆頭に、県内の有名店、コスメの分野も入れるとドラッグストアなど、扱う品目によって多岐にわたるので、全てを追い切れないのだと話す。
一方で、どんな状況でも新しい試みを続ける石原社長。集客活動において、最近はインスタグラムを有効活用していると話す。
「インスタグラムを見ていらっしゃるお客様は多いです。特に、関の店舗よりも各務原の方が反響が大きいです。来店されるお客様の中には、土岐市を筆頭に、愛知県、滋賀県など、地元の方以外のリピーターの方も一定数いらっしゃいます。」
昔は紙媒体の広告を週1回入れていたが、新聞を取る家庭が減ったことにより、全盛期の半分ぐらいとなった。紙媒体の広告からシフトしようと、ブログ、フェイスブック、LINE、そしてインスタグラムという形で試行錯誤してきたのだと、石原社長は笑顔で話す。
トライアンドエラーをモットーに、既存の顧客を大切にしつつ、新規顧客を取り込み、「ファミリーファッションいしはら」ファンを増やし続けている。
④「スタッフを大事にする」伝統を紡ぐ
石原社長の今後の大きな展望は、別事業に挑戦することだという。「これからもスタッフの生活を守っていく」という考えのもと事業を考えると、既存業態では伸び代に期待ができず、不測の事態に対応できる新たな展望が見えない。
そこで、コスメのフランチャイズ事業を考えていると話す。
「コスメのフランチャイズ経営をしている取引先の社長の、商売やスタッフへの想いに共感する部分が多いんです。それもあり、一緒にできないかと話が膨らみました。ただ、ターゲット層が異なるため、地域密着のビジネスモデルで効果が出る案を模索しています。」
「スタッフの生活を守る」という責任感のもと、まだクリアすべき問題はあるものの、前向きな話し合いを重ねることで、新たな挑戦の一報を期待せずにはいられない。
石原社長が考える展望。その根本には、「スタッフを大事にする」という考えがある。この考えは、「ファミリーファッションいしはら」で継承されてきた伝統でもある。
「スタッフがいるから会社が成り立つという想いを受け継いでいます。祖父の代に戦争から帰って来られなかった方がいた影響で、人がいなければ、仕事が回らないことを痛感して、人が大切であると感じ、その理念が生まれたようです。」
戦争という避けられない悲劇の中で、人の大切さを身にしみて実感したのであった。石原社長はその想いを継承した上で、自分の想いを語る。
「誰かの為に頑張ったとしてもその人達全員が僕を支えてくれるわけではないし、ときには裏切られることもあります。それでも、うちの会社や僕たちと繋がってくれた方達を、私は大切にしたいのです。」
一見強面の石原社長から、人に対する奉仕の想いを聞き、謙虚で温かい人柄であることを実感した。代々引き継がれる、伝統を紡ぐ想いである。
⑤みんなで成長し利益を還元したい
石原社長が現在、最も熱心に取り組んでいることは、人材育成である。
「端的に言うと、私でなくともできる仕事をスタッフにお願いして、私は私にしかできない仕事に集中したいんです。そのために、さまざまな工夫をしながら、スタッフの成長を促しています。」
石原社長が担っている、店舗を回すための仕事をスタッフに振ることで、空いた時間を社長業に当てられる。それにより、健全な経営と会社の成長につなげられると考えている。
一方で、スタッフがスキルアップし、仕事を担うことで売上に貢献できる。それが、給料アップに反映され、生活の質が向上するわけだ。
「ファミリーファッションいしはら」のスタッフの多くは、育児を経験しているスタッフだが、10代のスタッフも4人いる。彼女らは働く意欲が高く、アルバイトから準社員になりたいと主体的に手を上げているという。
「うちでは、髪型や髪の色は自由で、ピアスやネイルもOKです。ただ、接客では見た目での第一印象が重要で、ケースによってはマイナススタートになるため、その分接客で補って、むしろプラスの印象にしていこうと伝えています。その上で、将来的には、会社として何かしてあげたいと思わせる人材を目指してほしいとも話しています。」
多様性が認められる社会であるが、人によっては、外見で第一印象を悪くする可能性もある。外見を尊重した上で、第一印象を補い、それを上回る接客を心がけるよう、個性を高める方針の石原社長。
逆に、10代のスタッフが頑張ることで、年上のスタッフが、刺激を受けてさらに向上心を持って仕事に取り組むという。
「『若いスタッフに大人の仕事の仕方を見せよう』と激励することで、お互いが切磋琢磨してくれます。職場の活性化にもつながりますし、みんな楽しみながら仕事ができていると思います。」
お互いを奮い立たせるという、相乗効果を生んでいる。さらに、最近ではスタッフのモチベーション向上のため、数字を伝えるなどの工夫をしている。
「自分で考えて行動できるようになって欲しいと思い、賃金の引き上げに伴い、その分会社の経費が高くなることや今までと同じやり方では、純利益が減っていく一方だが、どうしたらさらにお客様が来店してくださるのか、どんな売り場なら良いのかなど、スタッフが考えて行動してくれる様にしたかったんです。もちろん頑張ったら頑張った分だけ評価をすると伝えました。」
このように、「売上アップ=自分の給与アップ」になることを、スタッフもイメージしやすくなると、石原社長は話す。
このマネジメントであれば、スタッフのみんなが成長でき、会社に利益還元できる人材が育つ企業となるだろう。「ファミリーファッションいしはら」の未来への可能性を感じさせる。
「ファミリーファッションいしはら」は、4世代にわたり地域に根差し、伝統と革新を融合させた企業である。石原社長の熱意に基づくスタッフ育成と、細やかな接客と安価で多彩な商品で、顧客からの信頼を得ている。
ぜひ一度、楽しい買い物を体験してみてはいかがだろうか?
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