すべての子どもに学びの扉を開く!地域と共に歩む「一般社団法人まなびのとびら」を訪ねてみた。





「学びにつながっていない子どもをゼロにする」という強い信念のもと、不登校支援にとどまらず、すべての子どもたちが自分らしい学びにつながれる環境を地域と共に創り上げている。今回は、代表理事の木下 慎一朗(きのした しんいちろう)様にお話をうかがった。
- 使命感を持って
- 教師時代の経験から見えた学校教育の限界と可能性
- 「自主性」と「言葉」を大切にする教育理念
- 地域企業と連携した「まちなかスクール」で実践的学び
- 50年先を見据えた教育変革への挑戦
①使命感を持って
「まなびのとびら」という名前には、木下さんの強い想いが込められている。
「我々の一番のメインのミッションとして掲げていることが、学びにつながっていない子どもをゼロにすることです。『学びにつながってない』というワードにしたのは、いわゆる不登校支援っていうところに囚われずに、本当に子どもたちの中で自分の思うような学びにつながれてない子とか、成長のための活動につながってない子どもたちを何とかしてゼロにしたいなっていうところです。」
木下さんが視野に入れているのは、学校に行っていない子どもたちだけではない。相談室や保健室登校で学校には行っているものの、授業を受けられていない子どもたちも含めて、すべての子どもに学びの機会を提供したいと考えている。
全国の統計によると、不登校の小中学生は約32万人。さらに「隠れ不登校」と呼ばれる、学校では出席扱いになっているが相談室や保健室で過ごしている子どもたちが推計で45万人いるとされている。つまり、全国で70万人以上の子どもたちが学習機会を失っている可能性があるのだ。
「どの子にも学びっていうものは、次のステージにつながるどこでもドアだみたいなイメージで、『まなびのとびら』とさせていただいたのが私たちの始まりですね。」
まなびのとびらは、その名の通り、すべての子どもたちにとって新しい世界への扉となることを目指している。

②教師時代の経験から見えた限界と可能性
木下さんは11年間、小学校2校と中学校1校で教師として勤務した経験を持つ。教師を目指したきっかけは、小学校6年生の時の担任の先生に大きな影響を受けたことだった。
「小学校6年生の時の担任の先生には非常にお世話になりました。とっても親身になって寄り添ってくれたんです。そのあたりからぼんやりとですが、僕もこんな先生になりたいと思うようになったんです。」
教師として11年間勤務する中で、木下さんは自分なりの教育スタイルを確立していった。しかし、どんなに工夫を重ねても、クラスの中で授業についていけない子や、学校に来れなくなる子がいることに疑問を感じるようになった。
「自分なりに考えた結果、子どもたちにとって学校に来る必然性があんまりないのかなと思うようになったんです。そもそもですけど、なんでその学校に通ってるかって、その学校の校区だからです。子ども自身が選んでいるわけではないですよね。」
学校教育の画一性の必要性は理解しながらも、子どもたちが自分で選択していない環境で学ぶことの限界を感じた木下さんは、地域の中に選択肢を作る必要があると考えるようになった。
「子どもにも大人にも地域の中に選択肢がなきゃダメなんだなと思ったんです。なので、無いなら、自分で学校を作ればいいんだと考えました。」
この想いが、現在の「まなびのとびら」につながる第一歩となった。
③「自主性」と「言葉」を大切にする教育理念
2021年7月、木下さんは教師を辞めて塾と絵本屋をスタートした。同年11月からはフリースクールも開始し、2024年4月に一般社団法人「まなびのとびら」として新たなスタートを切った。
「まなびのとびら」が大切にしているのは「自主性」と「言葉」だ。
「自主性は何も無理せずにその子たちが今やりたいことを一番大事にする。必要感があって勉強するんだったらそれを応援するし、今はまだ、勉強をしたく無いとかなら、一緒に遊んだりして、その子との関わりを重視しています。」
また、言葉を大切にする理由について、木下さんは次のように語る。
「自分の気持ちを表に出せるような語彙がきちんとあることが大事かなと思っています。僕は個人的に本を読んだりすることはおすすめです。いろんな言葉が出てきたりするので語彙力は向上すると思います。」
施設内には多くの本が置かれているが、これらは地域の方々が棚を借りて自分の本を置いてくれる「みん図書」という制度を採用している。静岡の図書館が発祥の制度を岐阜県で最初に始めたのが木下さんだった。
「子どもが育つ空間はいい意味で乱雑じゃないとダメだっていう言葉があるんです。ただ散らかってるって意味じゃなくて、いろんなものがあって、それを子どもたちが選んで拾っていけるというか、自分の中で興味関心に合わせて拾えるような空間作りが大事というのにものすごく共感しました。」
秩序を最初から与えるのではなく、雑多な中から子どもたち自身が自分なりの秩序を見つけていく。これが「まなびのとびら」の空間作りの哲学だ。

④地域企業と連携した「まちなかスクール」で実践的学び
「まなびのとびら」の特徴的な取り組みが「まちなかスクール」だ。地域の企業に協力してもらい、子どもたちがさまざまな職場で学ぶ機会を提供している。
2024年度は32回の街中スクールを実施し、延べ110人の参加者があった。パソコン教室、藻の培養を通じた食料危機の学習、トランポリン体験、和菓子作り、顕微鏡を使った研究体験など、多様なプログラムが用意されている。
「楽しく、生きた知識を身につけてもらうような授業を地域の中で行うことがまちなかスクールのメインですね。」
この取り組みを通じて、木下さん自身も地域の魅力を再発見したという。
「僕はここが地元で30何年も住んでいますが、羽島市にこんなにもすごい会社や素敵な会社がたくさんあるって僕も実は知らなかったんです。この取り組みを通して改めて羽島が好きになりましたね。1年やってみて子どもよりも僕が一番感動してるかもしれないです。」
まちなかスクールは単なる職業体験ではなく、子どもたちが地域との関わりの中で自分の興味や可能性を見つける場となっている。


⑤50年先を見据えた教育変革への挑戦
木下さんは「探究型学習塾」も運営している。ここでは従来の塾の概念を覆すような自由度の高い学習環境を提供している。
「簡単に言うと、子ども一人ひとりに応じて課題設定するような感じです。学校の勉強を持ってきて、取り組む子もいますし、好きなお菓子について調べて、どうやって作るのか、どうしたら自分の理想のお菓子ができるのかと試行錯誤する子もいるんです。本当に子ども一人ひとり全然違う活動を行ったりもします。」
スプレーアートに取り組む子、ラジコンのPV制作に挑戦する子、政治や社会について語り合う高校生など、一人ひとりの興味や関心に寄り添った学習が行われている。
木下さんが目指すのは、50年先を見据えた教育の変革だ。
「よく仲間うちで笑い話みたいな感じで話すのが、100年前のお医者さんが現代にタイムスリップしてきても、今の病院では何もできないと思うんです。ですが、100年前の教員は現代の学校に入ってもそこそこできてしまうと思います。それぐらい教育って昔から変わってないですよね。」
時代は大きく変化しているにも関わらず、教育はほとんど変わっていない。この現状を変えていくことが、木下さんの使命でもある。
最終的な目標は学校法人の設立だ。
「いずれはここでやっていることがどんどん拡大していって、学校法人として大きなものを構えられるといいなと思います。」
そして、地域に選択肢があることで、すべての子どもたちの学びの質が向上することを目指している。
「選択肢が1個あるだけで地域の学力って上がると思っています。意識が変わるんです。やはり、主体性ってとても大事で、AとBのどちらかを選ぶ場面で、どちらでも選べるのに自分の意思でBを選んだっていう意識があれば、学びに向かう姿勢ってすごく変わると思います。」
現在、資金面での課題を抱えながらも、行政や民間からの支援の可能性を探りながら活動を続けている。フリースクールを利用する世帯への補助制度の実現に向けて、県内の他団体とも連携した勉強会を主催するなど、制度面での改善にも取り組んでいる。
木下さんの挑戦は、不登校支援を超えて、すべての子どもたちが自分らしい学びに出会える社会の実現を目指している。地域と共に歩みながら、50年先の教育の姿を描く「まなびのとびら」の取り組みから、今後も目が離せない。
教育に対して新しい視点を求めている保護者の方、子どもの学びについて悩んでいる方は、一度相談してみてはどうだろう。きっと、その子にとっての新しい「まなびのとびら」が見つかるはずだ。

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