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関市

創業152年目の挑戦者「三星刃物株式会社」を訪ねてみた。

創業152年目の挑戦者「三星刃物株式会社」を訪ねてみた。
TOM
TOM
この前、老舗の刃物メーカーに行ってきたんだ!100年続く伝統の技に感動したよ!
SARA
SARA
わかる!磨き上げられた包丁って美しいわよね。
TOM
TOM
だから僕も感化されて、今朝は自分の爪を研いできたんだよ!見てこの仕上がり!
SARA
SARA
ちょっと危ないわよ!しかも爪はナチュラル装備だから!無理に研がないでよ・・・
この記事は約7分で読めます。
関市にある「三星刃物株式会社」をご存知だろうか。
明治創業の152年を誇る老舗刃物メーカー。関鍛冶の伝統を継ぎ、自社ブランド「和NAGOMI」で話題の企業である。今回は、代表取締役 渡邉 隆久(わたなべ たかひさ)様と、営業企画の佐藤様のお二人に、お話をうかがった。
今回のツムギポイント
  • 152年の伝統と革新!三星刃物の軌跡
  • 和NAGOMI!一生使える相棒
  • 職人と乗り越えた和NAGOMI誕生
  • 海外展開へ!課題は生産とアフターケア
  • 和NAGOMIといえば関!世界へ!

①152年の伝統と革新!三星刃物の軌跡

 

三星刃物のルーツは、明治6年(1873年)、創業者・渡辺善吉によって設立された「渡辺善吉商店」である。

 

渡邉家は、関鍛冶の伝統「石七流(せきしちりゅう)・兼景派(かなかけは)」に連なる刀鍛冶の家系で、600年以上の歴史を誇る。

 

「起業当初は刀作りがメインでした。しかし、廃刀令(明治9年)後は刀が作れなくなったので、刃物技術を生かして農機具用ハサミの販売など、家庭用品の製造へとシフトしていきました。その後、海外への事業拡大を果たし、今に至ります。」

 

三星刃物は、創業152年を迎える老舗企業であり、現在は5代目・渡邉社長が継承している。

 

社名は、渡邉家に伝わる家紋「渡辺紋」に由来していると話す。

 

「渡辺紋は皿の上に団子が3つ並んだ形状で、これを『三星』に見立てたことから『三星紋』と呼ばれています。そこから派生して社名が生まれました。」

 

渡邉社長は、渡邉家の長男として幼少期から家業を継ぐ為に様々な教育を受けたそうだ。

 

「これまで商社での勤務や海外留学を経験してきました。そこで多様な国や商売を見聞きし、経営者としての視野を広げる機会をいただきました。後継ではありましたが、社会経験を積むために外に出して、伸び伸びと育ててくれた両親に感謝しています。」

 

三星刃物は長年、OEMによる刃物製造を主軸に事業を展開していた。OEMビジネスはかつて収益性と安定性を兼ね備えていた。

 

しかし、時代の変化とともに市場が縮小し、競争も激化。価格競争に巻き込まれ、利益率は低下し、エンドユーザーの顔が見えないビジネスモデルへの限界を感じるようになった。

 

「OEMは指示通り量産するビジネス、自社ブランドは消費者ニーズを汲み取り育てるビジネス、この二つは方向性がまったく異なるのです。ですから、経営者として大きな勇気と決断が求められ、なかなか踏ん切りがつきませんでした。」

 

しかし、このままでは会社の未来がないと悩み続ける中で、自社ブランドの製造販売に大きく舵を切った。その際に、渡邉社長の背中を押したのは、奥様の何気ない一言だったそうだ。

 

「老舗企業なのにどうしてうちには自社ブランドがないの?と妻に言われたんです。その一言で決心しました。」

 

渡邉社長は、OEMに依存せず自ら在庫を持ち、販路を切り拓きエンドユーザーと直接つながる、新たな挑戦を決意した。

 

「何度も試行錯誤を繰り返しました。そして満を持して、2015年に『和NAGOMI』という自社ブランドを立ち上げました。」

 

三星刃物は現在、152年の歴史を誇りながら、時代に柔軟に対応する姿勢を示している。刃物づくりの技術と想いを直接届ける、新たな道を切り開いているのである。

 

②和NAGOMI!一生使える相棒

 

「『和NAGOMI』は、長く使うことを前提に開発された包丁です。単に買い替える消耗品ではなく、道具に愛着を持ち、パートナーのように育ててほしいという想いを込めています。」

 

「和NAGOMI」の特徴は、製品の品質の良さはもちろん、購入後のアフターケアの面まで、細やかに配慮されている点が秀逸である。

 

研ぎ直しや柄のケア、新品同様にリフレッシュするメンテナンスサービスを用意。さらに、レンタル包丁サービスも展開し、常に切れ味の良い状態を家庭に提供している。

 

製品は、ハンドルを手磨き仕上げで作るなど、職人の丁寧な技術が光る。美しい光沢と手になじむ感触が魅力で、磨き直しによって再び輝きを取り戻すことができる。

 

「実際に「和NAGOMI」をご使用いただき、お客様にも当社のコンセプトが届いたようで、最近は大切な人への贈り物としてもご購入をいただいております。」

 

OEMでは得られなかった「お客様の喜びの声」が直接届くことで、社内全体に熱意が生まれ、社員一人ひとりが誇りを持って対応している。社長自身も料理を始め、製品の良さを自ら体感しながら、「和NAGOMI」の魅力を広げている。

 

営業兼広報担当の佐藤さんも「和NAGOMI」を愛用しており、生涯使い続けたいと話す。

 

「実際に作っているところを直接目の当たりにした時は、『こんなに大変な工程を経て作られているんだ!』と衝撃を受けました。この感動を多くの方に広めたいと、Instagramを通じて魅力を発信しています。

 

「和NAGOMI」は、長く愛せる相棒のような存在だ。高品質な製品と徹底したアフターケアにより、暮らしに寄り添う包丁として多くの支持を集めている。

 

③職人と乗り越えた和NAGOMI誕生

 

「和NAGOMI」は、「良い包丁とは何か」という根本的な問いからスタートしたプロジェクトである。それまでのOEM製造とは異なり、スペック指示に従うのではなく、理想の包丁を一から考えるところからの挑戦だった。

 

「まずは、妻が主催するパン教室の生徒さんに包丁の使い勝手や困りごとについてアンケートを行うところからスタートしました。その後、その結果を元に検討を重ねました。その結果、包丁を単なる道具ではなく、『料理を通じて人と人とをつなぐコミュニケーションの道具』であるという考えにたどり着きました。」

 

包丁は、家族や友人との楽しい食卓の中心にある、生活に寄り添う存在。それを象徴する言葉として、「和み」というコンセプトを掲げ、「和NAGOMI」と命名したのである。

 

製品開発は、「家庭で使いやすい包丁」を目指したのだと教えてくれた。

 

三星刃物では、「家庭で研げる」「新聞紙でも切れ味が戻る」(※1)といった家庭で手軽にメンテナンスができる事を重視し、料理好きな主婦層や家庭料理を楽しむ人をメインターゲットに設定。

(※1)「パン切り包丁、ケーキナイフ、チーズナイフを除く茶色ハンドルのレギュラーシリーズ」

 

さらに、プロ仕様ラインも展開し、鋼材や刃付け、仕様を細かく変えることで、幅広いニーズに対応している。

 

 

「開発当初は、社内で、賛否両論がありました。OEM時代の量産重視から品質重視へ変化するわけですから、現場が戸惑うのも当然の事だと思います。ですので、社内で何度も話し合いを行いやっと完成にこぎ着けました。」

 

「和NAGOMI」は、図面だけでは表現できない細かな調整が必要なため、現場でも多くの試行錯誤を重ねたという。

 

こうした努力の結果、「和NAGOMI」は現在も生産が追いつかないほどの人気商品となり、お客様から高い評価を受けている。

 

「和NAGOMI」は、職人の方々と共に挑んだ理想の包丁である。手間を惜しまぬ製造姿勢と情熱が、多くのユーザーの心にも届いている。

 

④海外展開へ!課題は生産とアフターケア

 

現在、三星刃物が直面している課題は、海外展開に向けた生産数量の確保と、購入後のアフターケア体制の構築である。

 

「生産数量がまだ限られているので、いかに生産数量を効率よく上げていくかが重要です。当然品質は落とすことなく、需要に応えられる体制を整えることが命題です。」

 

さらに、「良いものを長く使う」というブランドコンセプトを守るため、海外でも研ぎ直しなどのケアサービスを浸透させる必要がある。

 

「当社は、販売後のケアまでサポートする包括サービスを理念にしているので、海外の方にも『研ぐ』ことを理解し実践いただく啓蒙活動が必要だと考えています。」

 

海外には「研ぐ」という文化が根付いていない。一方で、海外の方にとっては「研ぐ」ことは「cool(かっこいい)」でもあるという。

 

海外にも研ぐことができる方がいるため、現地パートナー企業と連携しながら、啓蒙活動を進める方針である。

 

三星刃物は海外展開を見据え、生産拡大とアフターケア体制の強化を目指している。特に「研ぐ文化」を海外に啓蒙する挑戦は、ブランドの本質を伝える重要な試みである。

 

⑤和NAGOMIといえば関!世界へ!

 

三星刃物は、世界に向けて「関市発の刃物ブランド」としての存在感を確立することを目指している。

 

三星刃物の『和NAGOMI』といえば関の刃物だよねと、世界の誰もが認識しているような冠たるブランドに作り上げ、関の製品力の高さを世界に発信したいです。

 

今後は、国内でも「研ぎ文化」を再興させるため、社長自らイベントやプロモーション活動に参加し、砥石の販売や研ぎ方の普及活動を積極的に展開している。

 

昔は自分で研ぐのが当たり前だったので、慣れれば難しくないです。研ぎ方によって様々な色が出て包丁も変化するんです。包丁を自分で育てる感覚が面白くて、愛着も湧きますし、もし、失敗したとしてもうちが直しますから安心してください(笑)

 

三星刃物は152年の歴史を誇る老舗刃物メーカーである。伝統を守りながらも「和NAGOMI」によって革新を遂げた。最大の魅力は、職人技による高品質な製品と、購入後も続く手厚いアフターケアにある。

 

料理が好きな方はぜひ一度、和NAGOMIを手に取って、自分だけの「相棒」と出会ってほしい。

 

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