岐阜で窯料理の魅力を紡ぐ「窯処コジ-コジ」を訪ねてみた。





窯にこだわり、地域に根ざした唯一無二の窯料理を提供している。今回は、オーナーの吉田 光宏(よしだ みつひろ)さんにお話をうかがった。
- 窯料理といえばコジ-コジ!
- 修行10年、石橋を叩いて夢を叶える
- 窯焼きで引き出す至極の味
- 新事業!薪のトータルプロデュース
- 大切なのは「お客様との会話」と「仲間との支え合い」
①窯料理といえばコジ-コジ!
「窯処コジ-コジ」は、2015年4月にオープン、2025年4月に10周年を迎えた。「気軽にカジュアルに楽しめる」をコンセプトに、日本人の舌に合うようにアレンジされた、親しみやすい味わいが魅力だ。お店のキーワードは「窯料理」。創業当初から窯にこだわり、イタリアンをベースとした窯料理を提供している。
「一般的なイタリアンでは、ピザだけを窯で焼くことが多いですよね。しかし、当店では、お肉や魚、野菜など焼き物すべてに窯を使って調理します。一度召し上がればわかりますが、窯で焼いた料理は格段に美味しいんです。私はそんな窯の魅力をより多くの人に広めたいと思っています。」
岐阜・各務原を拠点に、創業以来窯料理の魅力を発信し、多くの方に親しまれてきた。創業当初は、「Pizzeria e trattoria Cosi-Cosi」という店名だった。だが、窯で調理した料理もお皿に盛ってしまうと窯で焼いたことが伝わりにくく、なかなか窯の魅力が浸透しないことに、もどかしさを感じていた。
「今のままでは『よくあるイタリア料理店』という認識をもたれたままになる。『窯料理』の強みを全面的に打ち出さなければ、他店に埋もれてしまう。ではどうしたらお客様に伝わるのか?と約4年間模索しました。その結果、『窯処コジ-コジ』へと店名を変更しました。」
「Cosi-Cosi」はイタリア語で、「まあまあ」「ぼちぼち」という意味。「気軽にカジュアルに楽しめる」というコンセプトにぴったりだ。さらに、カタカナ表記にすることで親しみやすさを表現。「窯処」はその名の通り、窯へのこだわりとお店の特徴をダイレクトに伝えたい意図がある。
「店名を変更したことで、『窯料理の専門店』として地域での認知が広がりました。もっともっと窯の魅力を届けたいので、最近はInstagramを活用しながら、一人でも多くの方に届けるよう取り組みを強化しています。」
窯への強いこだわりを店名に込めた「窯処コジ-コジ」。本格窯料理をカジュアルに楽しめる唯一無二の空間だと、認知が広がっている。
②修行10年、石橋を叩いて夢を叶える
吉田さんは卒業後すぐに飲食業界へ進み、焼肉屋、高級居酒屋、うどん屋、レストランバーなど、さまざまな業態を経験してきた。
「いつかは自分のお店を持ちたいとずっと思っていました。ただ自分の中でこれっていうのがなかなか見つからなかったので、まずは一通り経験してから、ジャンルを定めようと考えていました。」
その中でレストランバーで出会ったイタリアンに強く惹かれ、30歳で本格的にイタリアンの道へ進むことを決意した。最初は名古屋でイタリアンの基礎を学び、数年経ちある程度の自信をつけた。そろそろ独立しても良い時期かと考えていた時、先輩から「新店舗の立ち上げに伴い厨房を任せたい」と声がかかったのだ。
吉田さんは、この機会を独立への最終ステップだと引き受けたが、そこで自身の力不足を痛感することになる。独立を目指すうえで、もっと力をつけなければと再修行を決意し、岐阜の有名店「ブカルッポ」で4年間の修行を行った。
「『40歳までに独立できなければ諦める』と自分にリミットを課して、朝から晩まで死に物狂いで、技術の研鑽に明け暮れました。ブカルッポでの修行が技術の集大成となりました。」
努力が報われ40歳で独立、『窯処コジ-コジ』をオープンさせた。お店を構える場所は学生時代から馴染みが深く、地域性を理解している各務原を選んだ。
卒業後常に独立を見据えながらも、自分が納得できる形まで技術を磨き、出店を実現させた。吉田さんは自身のことを「石橋を叩いて渡るタイプ」と言うが、まさに的を得た分析だ。吉田さんの芯のある行動力と徹底した探究心、そして地元を大切に想う気持ちが、今の「窯処コジ-コジ」の礎となっている。


③窯焼きで引き出す至極の味
吉田さんが初めて窯に触れたのは、修行先である「ブカルッポ」で、ピザ担当を任されたときのことだった。当時は、独立したら、イタリアンのメニューの一部としてピザがあればいいという程度の構想で、まだ「窯を中心に店を展開する」という明確なコンセプトは決まっていなかった。
「小麦粉の配合など全て一から作り上げました。小麦粉は強力粉・薄力粉、国産・外国産など種類が多く、毎日試行錯誤しながらレシピを開発。そんな環境下で窯の奥深さを知ったわけです。」
窯で調理する最大のメリットは、360度から均一に熱が加わることにある。薪には10%前後の水分が含まれており、燃やすことで水蒸気が発生し、さらに遠赤外線も放出される。これにより、窯全体が高温かつ均一に保たれ、素材全体を包み込むように熱が伝わる。
一方で、フライパンやオーブンでは下から熱を加えるため、火の通りにムラができたり、ひっくり返す必要がある。
「肉を窯で焼くと肉汁の流出が最小限に抑えられ、旨味が中に閉じ込められます。魚も同じで、皮がパリパリ、身はふっくらと仕上がる。素材本来の味をそのまま引き出すことができるのが窯焼きの魅力です。」
吉田さんは食材選びにも強いこだわりを持っている。牛肉は、化学肥料や成長ホルモン剤を使わず育てられた海外産の仔牛を仕入れている。豚肉は白川町の「あんしん豚」を使用。標高750m自然豊かな山頂にて無薬飼料で育てられたこだわりの豚だ。
野菜では、特に玉ねぎにこだわっており、甘みが強く、とろける食感が楽しめる淡路島産を採用している。
「玉ねぎの窯焼きは、オリーブオイルと塩だけの味付けで、甘さが引き立つんです。いつもお客様から驚きの声が上がる逸品です。」
窯の魅力を知り尽くした「窯処コジ-コジ」の窯料理は、素材の旨味を最大限に引き出す至極の味だ。この味を求めて多くの常連客が訪れている。

④新事業!薪のトータルプロデュース
窯料理にこだわる吉田さんだが、窯の管理は想像以上に奥深いという。
「窯の火入れや温度管理には高い経験値と感覚が求められます。窯の中は、場所によって温度が違うので、料理によって置き場所を調整しています。また、窯の中の温度を一定に保つには、店の回転状況に応じた薪の使い方も重要となります。」
薪の使用量はコストにも直結するため、できるだけ無駄遣いにならないように、無駄を省き、効率的に使うための工夫が欠かせない。そうした背景もあり、2024年に「暖欒の薪 いやさか」という名前で薪の製造・販売事業を始めた。
「『窯を扱うには薪から』という考えのもと、薪のトータルプロデュースに取り組んでいます。」
きっかけは、仕入先だった薪業者が高齢で廃業を検討していたこと。数年来「跡継ぎがいない」と悩んでいた様子を見て、吉田さんは「自分が引き継ぐ」と決意したという。現在は、その方にノウハウを教わりながら、一から学んでいる。薪事業と向き合う時間を確保するため、「窯処コジ-コジ」の昼営業を休止。定休日も火曜・水曜の週二日に増やし、夜営業に専念している。
吉田さんが薪事業に参入した理由は、後継者不足問題の他に、長期視点で見た時に、飲食業のみに依存することへの不安もあったと話す。とどまることのない物価高騰が続き、飲食以外でもう一つ事業の柱がほしいと考える中、薪事業に可能性を見出したのである。
「店で使用する薪を自給できることはもちろん、販売により新たな収益源となります。さらに、林業支援や防災、地域貢献といった社会的意義も持ち合わせているので、私にとってプラスにしかならない事業であると考えました。」
窯料理の技術を極める中で見えてきた「薪」というもう一つの世界。吉田さんはその火を絶やさぬよう、自ら薪事業に乗り出した。技術と情熱が、新たな挑戦へと火を灯している。
⑤大切なのは「お客様との会話」と「仲間との支え合い」
創業して10年、吉田さんは様々な取り組みを試行錯誤した結果、窯料理の魅力が確実に浸透してきた。それでも尚、多くの方に窯の魅力を知ってほしいと、吉田さんは強い想いを抱いている。
「窯料理の魅力を広めるため、これまでいろいろな方法を試してきましたが、やはり一番大切なのは、お客様との会話だと感じています。来店されるお客様と直接お話して、窯の魅力や窯料理への想いなどを伝えています。食事に加え、会話の中でも窯の魅力を伝えることで、リピートにつながっているのだと思います。」
吉田さんこだわりの料理を味わった上で、直接窯料理の魅力を聞くことで「ピザなら窯処コジ-コジで食べよう!」というお客様が増え、リピーターとなっているのだ。
また、吉田さんが事業展開するうえで大切にしている価値観についてうかがった。
「スタッフそれぞれ『自分が自分が』と主張するのではなく、スタッフ同士がお互いの強みを活かしながら助け合うことで、良好な関係構築や相乗効果が生まれると考えています。そのため、一緒に働く上で支え合う気持ちを大切にしながら取り組んでいます。」
自身が楽しく働けばスタッフも楽しくなり、その姿勢が店の雰囲気にも反映される。来店するお客様も居心地良く感じることで、リピートにつながっているのかもしれない。
「全てが思い通りにいくわけではありませんが、『うまくいく』というポジティブな気持ちで取り組めば、きっとチャンスは訪れると信じています。」
「窯処コジ–コジ」は、窯料理への強いこだわりを軸に、地域に根ざした唯一無二の窯料理を提供している。吉田さんの姿勢は、支え合いを大切にし、前向きに挑戦する姿そのものである。
カジュアルで親しみやすい空間で、素材を活かした至極の味をぜひ体験してほしい。五感に響く料理と、心温まる対話があなたを待っている。

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