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土岐市

700年の逸話と想いを紡ぐ「山神温泉 湯乃元館」を訪ねてみた。

700年の逸話と想いを紡ぐ「山神温泉 湯乃元館」を訪ねてみた。
TOM
TOM
サラ、日常の喧騒を忘れに温泉に行かない?
SARA
SARA
突然どうしたのトム?もしかして、山神温泉に行きたいの?
TOM
TOM
ゆっくり起きて、温泉に入って、おいしいごはんを食べて、昼寝して・・・いい時間だよねえ・・・
SARA
SARA
・・・あなたの場合、日常とさほど変わらないけどね・・・
この記事は約9分で読めます。
土岐市にある「山神温泉 湯乃元館」をご存知だろうか。
700年の歴史を持つ山神温泉を源泉とする、創業105年の老舗温泉旅館である。今回は、統括支配人の日比野 博史(ひびの ひろし)様にお話をうかがった。
今回のツムギポイント
  • 700年前の逸話が息づく湯乃元館
  • 地元と育む「何もしない贅沢」がある宿
  • 世界で磨いたおもてなしの心が武器
  • 伝統を守る技と、問われる継承力
  • 山神温泉発、旅の新拠点構想

①700年前の逸話が息づく湯乃元館

 

山神温泉は、700年以上前からあったとされる長い歴史を持つ温泉である。その後、山神温泉の旅館として「山神温泉 湯乃元館」が設立され、創業して105年を迎えている。

 

「もともとは、地域の方々に親しまれた大きな桶の銭湯が前身でした。銭湯の隣には料理店があり、多くのお客様がお風呂に入ったあと、食事やお酒を楽しんで帰るというスタイルで賑わっていました。その流れを受けて、銭湯と料理店を一体化し、宿泊ができる温泉旅館へと発展しました。」

 

地域に根ざした憩いの場から、宿泊施設としての役割を持つまでに発展したのが「山神温泉 湯乃元館」の始まりである。「山神温泉」は、岐阜県土岐市下石町にある温泉で、「山神」という名前は、この地域に古くから伝わる二つの逸話に由来すると言い伝えられている。

 

一つ目の逸話では、戦で深手を負った落武者が薬師如来から「湧き水のある場所へ行けば癒される」とのお告げを受け、たどり着いた湧き水が今の山神温泉であったとされている。山神温泉で傷を洗ったところ傷が癒え、救われたという。

 

もう一つの話も、落武者が湧水にたどり着き、傷を癒やすことができたという点は類似している。違う点は、湧水へ導いてくれたものが、妻が託してくれたお守りに入っていた髪の毛だったということある。戦地で死を覚悟した落武者がお守りを広げると手ぬぐいと髪の毛が入っており、風で舞った髪の毛を追っていくうちに湧水にたどり着いたとされている。

 

「この二つの逸話から、山神温泉は薬師如来の力と妻の愛の力、ふたつの力が宿った特別な湯とされ、『山に宿る神の温泉=山神温泉』と呼ばれるようになりました。」

 

また、「湯乃元館」という館名は、旅館の敷地内に温泉源泉が湧いていることから、「湯の元」という意味を込め名付けられた。建物の上には薬師堂もあり、逸話と結びついている。

 

山神温泉 湯乃元館は、時代の流れに合わせて進化を重ねてきた旅館でもある。

 

「現在の3代目社長と女将の尽力により、かつての素朴な宿から、料理も楽しめる高級旅館へと方向転換が図られました。館内はこれまでに2〜3回の改装と増築が行われ、その都度、施設やサービスが時代に合った形になるように変化を遂げてきました。」

 

山神温泉 湯乃元館は、伝統を守りつつも、新しい風を取り入れ、現代のニーズに応える宿へと進化し続けている。

 

②地元と育む「何もしない贅沢」がある宿

 

山神温泉 湯乃元館は、「価格以上の価値を提供する旅館」を目指している。

 

まず最大の特徴は美濃焼の器を使った本格的な京風懐石料理にある。季節感あふれる器は一つひとつ形や色が異なり、料理の美しさを引き立てる視覚的な演出も魅力のひとつ。また、料理は地酒との相性も良く、五感で味わう食体験が用意されている。

 

また、館内の客室は全室から自然の風景を楽しめるよう大きな窓が設けられており、四季折々の景色を眺めながら「何もしない贅沢」が味わえるのも大きな魅力である。

 

「静寂に包まれた自然の中で、小川のせせらぎや鳥のさえずりを耳にしながら過ごす。その時間は、日常の喧騒を忘れさせてくれる癒しの空間となっています。何もしない贅沢を体験できますよ。」

 

さらに、湯乃元館では地元の方々を巻き込んだイベント開催にも力を入れており、宿泊者だけでなく地域住民も気軽に訪れられる環境づくりを進めている。

 

特に、月一回開催されている「産後ケアプラン」は、地域の方々と連携して発足したイベントで、人気を集めている。子どもを預けて、整体や食事、温泉をゆったり楽しめる独自の取り組みで、旅館でありながら福祉的役割も担っている。「贅沢な癒し」というコンセプトに共鳴する人たちとともに、イベント運営を積極的に行なっている点も湯乃元館の強みの一つだろう。

 

「イベントの主催者とチラシづくりや進行表作成や価格設定など、成功まで一緒に伴走しています。当館は、単なる会場貸しではなく、『地域の方々が挑戦できる場』としてトータルサポートすることが強みで、地域貢献を重視しています。」

 

また、地産地消へのこだわりも強みであり、岐阜県瑞浪市の日吉高原産の米や地元産の食材、美濃焼の器など、素材から器まで地域資源を活かしている点が評価されている。

 

「以前お客様から、『地元で生産された器を利用して食事を提供する地産地消の取り組みがとても良い』と、お褒めの言葉をいただき、それも当館の魅力であると学ばせていただきました。」

 

さらに、温泉は敷地内から湧き出るラジウム泉の冷泉(21度)を加温して提供しており、大浴場のほかに3室にはプライベート温泉も完備。何度でも好きなタイミングで入れる贅沢な空間も、宿泊体験をより特別なものにしている。

 

美濃焼の器、静寂な自然、地元との連携。105年の歴史と共に進化する湯乃元館は、贅沢な癒しと挑戦の場を提供する唯一無二の温泉宿である。

 

③世界で磨いたおもてなしの心が武器

 

統括支配人の日比野さんは、山神温泉 湯乃元館で生まれ育った。父は3代目の社長、母は女将という家庭に育ち、幼い頃から旅館業の現場を身近に見てきた。旅館業の大変さと責任の重さを肌で感じつつ、接客や宿の営みにも魅力を感じていたという。

 

両親から継いでほしいと直接頼まれたことはありませんでしたが、山神温泉 湯乃元館は私のアイデンティティでもあるので、『いつか何らかの形で携わりたい』という想いをずっと抱いてきました。

 

大学時代は湯乃元館でアルバイトをしながら、名古屋の大学に通い、卒業後は名古屋市内のホテルにて約5年間フロント業務を担当するなど、宿泊業界でのキャリアを歩み始めた。

 

ホテル勤務中、中国語を話すお客様との意思疎通に苦労し、国際接客における言語の壁を実感した。これを機に台湾へ渡り、現地のラグジュアリーホテルで正社員として7年間勤務した。

 

台湾にワーキングホリデーとして行きましたが、その間中国語を学びつつ、台湾人特有の接客の良さを学びました。台湾の方は、人懐っこさを武器にお客様と仲良くなる商習慣があり、『おもてなしをしつつ商売を成立させる柔軟なホスピタリティ』として、大きな収穫を得ました。

 

日比野さんは、元来人とつながることが好きで、現地でも幅広い人脈を築きながら順調にキャリアを重ねていた。その後、コロナ禍の収束とインバウンド需要の回復を背景に、「今こそ自分の経験を地元に還元できる」との想いが強まり、2023年に「山神温泉 湯乃元館」へ帰郷した。

 

「私にとって宿泊業の最大の魅力は、日常では出会えない方々との出会いと、その方々の背景に寄り添いながら役に立てていると実感できる点です。」

 

日比野さんは、単なるサービスではなく、服装や所作からお客様が求めるものを読み取り、思いやりを持って考え抜いたおもてなしを提供することこそが、宿泊業の本質であると捉えている。そのため、自身の心配りがお客様に的確に伝わり、リピートにつながったときの喜びは格別であり、大きなやりがいとなっている。

 

また、宿泊業は個人の力だけで完結するものではなく、チームワークが鍵を握る職種であると考えている。

 

チーム全体が同じ気持ちで、均質なおもてなしの心を持ってないとお客様に響かないので、チームワークを重視しています。私が感じたことを積極的に共有し合い、他の従業員も同じ肌感覚で実践する、この積み重ねによって旅館全体の底上げになると考えています。

 

お客様一人ひとりに対して適切な対応を見極める中で、チームで支え合うことの大切さと面白さを感じており、それもまた宿泊業の醍醐味であるという。現在、日比野さんは4代目としての継承を目指し、実践を通じて日々学び続けている。

 

④伝統を守る技と、問われる継承力

 

山神温泉 湯乃元館が直面する最大の課題は、世代交代と経営体制の転換である。創業以来、家族経営を続けてきたが、日比野さんは持続可能な企業体制の構築が必要だと考えている。

 

山神温泉をもっと良くしたい、岐阜県の土岐市や東美濃をもっと盛り上げたいなどの想いをもったと一緒に、共鳴しながら創り上げていくのが理想です。一緒に山神温泉を盛り上げてくれる料理人、おもてなしスタッフを募集しているので、興味がある人はご連絡をお待ちしております。

 

また、建物の老朽化も深刻な課題のひとつである。改装してから30年以上経過した現在、清掃や修繕を重ねながら「明るく光が差し込む綺麗な旅館」を保つ努力を続けているが、修繕費や設備更新の負担は重く、運営上の大きな懸念点となっている。

 

さらに、料理長も兼務していた3代目が確立した京風懐石料理×美濃焼のスタイルを、今後どのように継承、発展させていくかも大きな課題である。

 

3代目が、徹底的に料理研究を行い、今の京風懐石料理を提供しています。社長は、京都にお店を構えミシュランガイドで16年連続3つ星を獲得している菊乃井の村田さんと共に、同じ修行先で技術習得した経歴もあります。また、器も社長のオーダーメイドで地元の窯元に特注したり盛り方にもこだわったりなど、料理と合わせて美濃焼も研究した結果、今の五感で味わう食体験を実現させました。3代目が作り上げたものを継承していきたいのですが、まだ模索段階です。

 

これらの複合的な課題に対し、社長や家族、スタッフと協力しながら一つひとつ解決していくことが、やりがいと達成感にもつながっていると、日比野さんは語る。

 

伝統を守りながら、次世代に向けたさらなる発展に挑む日比野さん。山神温泉 湯乃元館の未来を形づくる挑戦は、今まさに次の章へと進んでいる。

 

⑤山神温泉発、旅の新拠点構想

 

山神温泉 湯乃元館に訪れるお客様は、大きく分けて宿泊客と宴会利用客に分かれる。

 

「宴会のお客様は、商工会議所や学校関連の団体、組合などの関係者がメインですが、お子様のお食い初めや節句祝いなど、人生の節目に合わせた食事にご家族で利用される方もいらっしゃいます。」

 

宿泊は、ゆったりとした滞在を求めて来館される60代以上のお客様が中心。

 

「お客様の多くは、長年の仕事を終えられ、余暇を楽しまれています。日常の喧騒から離れ、静けさの中で大切な人とともに食事を味わい、読書や写真撮影、自然観賞など、穏やかな時間を過ごされています。中には、3〜4ヶ月に一度のペースで訪れるリピーターの方もいらっしゃいます。」

 

地域ごとの傾向としては、愛知県からの来訪が最も多く、次いで神奈川、東京、大阪の順となっている。そういった背景から、今後はさらに他県からの宿泊客を迎えることを展望している。

 

静岡や三重など、近隣の県にお住まいのお客様にも、もっと知っていただきたいと思っています。お客様の中には、車で1時間半程度の距離の宿泊地のニーズがあると考えているので、そういうお客様に向けて発信を続けていきたいです。

 

また、日比野さんの想いの根幹には、「山神温泉を未来に残したい」という強い決意がある。

 

土岐市の市章は、美濃焼の釜の炎と温泉の湯気を象徴しているんです。土岐市の温泉の湯気は山神温泉の湯気でもあるので、どんな形であれ山神温泉を存続させていきたいのです。

 

今後も現在のスタイルを守りながら、贅沢な癒しを提供し続けたいと語っている。

 

さらに、日比野さんは、山神温泉がローカルな日本を楽しめる旅行先として、海外の方にも選ばれることを目指している。そのため、海外の旅行者に向けた情報発信や受け入れ体制の整備を現在進めている。

 

「私は3カ国語に対応できるので、私が通訳して日本のおもてなしを楽しんでもらう構想です。ただ、カタコトの日本語や英語でコミュニケーションを取り合うことも、異文化交流の醍醐味だと考えていて、日本のスタッフと海外のお客様がお互いの習慣を受け止め合いながら日本の旅館の良さを味わっていただきたいです。

 

また専用ガイド付きの個別観光ができるツアーを企画するなど山神温泉が「東美濃エリアを丸ごと楽しめる旅の拠点」になることを目指しており、山神温泉 湯乃元館は、地域と世界をつなぐ存在として、新たな役割と可能性を切り開こうとしている。

 

山神温泉 湯乃元館は、700年の歴史を持つ温泉地に佇む、おもてなしの心を大切にする地域密着型の温泉旅館である。美濃焼の器を用いた京風懐石料理を楽しみ、体の芯まで温まる温泉で休み、静寂な自然に囲まれながら、思い思いに過ごせる贅沢体験が魅力である。

 

非日常の体験や、自分や大切な人へのご褒美として、一度訪れてみることをおすすめする。心身ともに癒される価格以上の唯一無二な体験ができるだろう。

 

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