ふわっと可愛くて、ちょっと強い―そんな古着に出会える「roly poly」を訪ねてみた。





ただ古着を販売するだけでなく、訪れる人それぞれの新しい一面を引き出す特別な場所だ。今回は店主の谷口 由美子(たにぐち ゆみこ)様にお話をうかがった。
- 「転がっても起き上がる」想いを込めた店名
- 古いものへの愛から生まれた独自の世界観
- マルシェから実店舗へ、タイミングと縁に導かれた開業
- 「ストーリーのある古着」とリメイクへのこだわり
- お客様の新しい一面を引き出す接客スタイル
①「転がっても起き上がる」想いを込めた店名
「roly poly」という愛らしい店名は、意外にも身近な生き物を指す言葉だという。
「『roly poly』という言葉は、英語で『ダンゴムシ』っていう意味があるんです。お店を始めた頃、2歳だった下の子が虫が大好きで、保育園から持ち帰ってきたダンゴムシを見て思いつきました。」
子どもがダンゴムシを手のひらで転がして遊ぶ姿を見て、谷口さんはその生き物の持つ特性に心を打たれたという。
「小さな虫だけど、転がってもまた起き上がる姿がたくましいなって思ったんです。そういう生きる力がすごく好きで、そんな想いを込めて店名にしました。」
お店のロゴになっている虹色のダンゴムシは、知り合いの画家の方が描いてくれたもの。本格的な油絵画家が「適当に描いてみた」というラフなタッチが、かえって谷口さんの心に響いた。
「お客様からも『これ、お子さんが描かれたんですか?』ってよく聞かれるんですけど、本当の画家さんに描いていただいたんです。気取ってない感じが可愛くてとても気に入っています。」
小さくても強く、転んでも立ち上がる。そんな想いを店名に込めて、谷口さんは自分らしい古着屋を始めた。

②古いものへの愛から生まれた独自の世界観
roly poly の店内には、古着だけでなく、古道具や花器などもさりげなく置かれている。ドライフラワーに似合う理科瓶や味わいのある陶器の花器など、“飾る”ことの楽しさに気づかせてくれるアイテムがあちこちに潜んでいる。衣服だけでなく、暮らしそのものを彩るヒントが散りばめられた空間だ。この店を形づくる源泉には、谷口さんの“好き”がある。
「昔から古いものが好きだったんです。小花柄の茶色いワンピースがお気に入りでよく着ていましたし、新品の浴衣よりも、お隣のお姉さんから譲り受けた古い柄の浴衣の方を大切にしていました。」
古いものに、理由のいらない魅力を感じていた。色味、風合い、かすれた模様――新品にはない“時間の積み重ね”に、自然と惹かれてきたという。
「子どもの頃からずっと、古いものや味のあるものが好きで、大人になってもその気持ちはまったく変わらなかったんです。だから今の仕事になったんだと思います。根っこにあるのは、“好き”という気持ちだけですね。」
ひとつひとつの古着や古道具を丁寧に扱い、それが誰かの暮らしに寄り添っていくことを想像しながら店頭に並べていく。色合いや素材の組み合わせにも心を配り、自分の「これが好き」を信じて形にしていく。そうした積み重ねが、roly poly らしい“懐かしくて物語のある雰囲気”をつくり上げているのだろう。
③マルシェから実店舗へ、タイミングと縁に導かれた開業
2024年10月にroly polyをオープンした谷口さん。実は当初、実店舗を構える予定はなかったのだという。
「お店を構える前は、マルシェで古着の販売をしていました。いろんな場所で出店することで、新しいお客様との出会いがあり、とても楽しかったです。その場で服を手に取っていただき、思いがけない会話が生まれる。それが古着販売の面白さだと思っています。」
マルシェ出店を通じて、お客様と直接言葉を交わしながら距離を縮めていくスタイルは、今の接客にも通じている。現在もマルシェ出店は続けており、新しい出会いを楽しみにしているという。そんな中、ご縁を感じる出来事があった。
長年親しくしていた古着屋から、思いがけず素敵な物件を紹介してもらったのだ。
「お世話になっている古着屋さんが『いい物件があるんだけど、どう?』と声をかけてくださったんです。最初は店舗を持つことは考えていなかったのですが、『とりあえず内見だけでも』という気持ちで、この場所を訪れました。」
もともと物件を見たり、空間を想像したりするのが好きだった谷口さん。実際に足を踏み入れた瞬間、その場の空気や佇まいに惹かれたという。
「路地の奥という立地や、お店の持つ雰囲気がとても素敵で。ここなら自分らしくいられるかもしれないと思いました。もちろん迷いもありましたが、たくさんの人に相談して背中を押してもらいました。」
現在は、roly polyという空間で、訪れる人に“自分の好き”を共有する日々を過ごしている。気がつくと長居してしまうような、そんな居心地のよい場所になっているのは、谷口さんの接客そのものが、空間の魅力として伝わっているからだろう。


④「ストーリーのある古着」とリメイクへのこだわり
谷口さんが考える古着の魅力は、単なる中古衣料品を超えた「ストーリー」にある。
「時々『古着ってなんで高いんですか?』と聞かれることがあります。確かに、見た目は今の技術で似たようなものを作ることもできます。でも、昔の生地ならではの質感や風合い、時を経たからこその味わいは、やっぱり真似できないんですよね。私は、そうした“その時代にしかない空気感”や、そこに込められたストーリーにこそ、古着の価値があると思っています。」
さらに谷口さんは、店内でのリメイク作業にも力を入れている。70年代のフランス軍の軍幕を使った試着室のカーテンや、ヴィンテージラグを使ったパンツなど、独創的なアイテムを手作業で制作している。
「お客様から丈の調整やポケットの追加などのご要望があった際も、ミシンをお店に置いているので、すぐ対応ができるんです。それに、直接お客様の声を聞くことで、新しいアイデアが思いつくこともあるんです。一人で静かに籠って作業する時間も好きですが、こうしたお店の空間で過ごす時間も、同じくらい大切にしています。」
お客様との対話を通して生み出される自由度の高いリメイクアイテムは、「roly poly」の大きな特徴となっている。

⑤お客様の新しい一面を引き出す接客スタイル
「roly poly」の最大の魅力は、谷口さんの独特な接客スタイルにある。お客様が長時間滞在するのは、単に居心地が良いだけではない。
「無理に相手に合わせる接客では、本当の満足にはつながらないと思うんです。だからこそ、自分が心からいいと思えるものをおすすめして、お客様にも納得して選んでいただける接客を大切にしています。」
谷口さんの接客で特筆すべきは、お客様の新しい一面を引き出す提案力だ。
「お客様へご提案する際、最初は少し悩まれることもありますが、実際に試着していただくと『これ、思っていたより似合う!』と笑顔になる方が多いんです。新しい魅力に気づいてもらえる瞬間に立ち会えるのが、とても嬉しくて。この仕事のやりがいを強く感じる瞬間です。」
この提案により、お客様の変化を目の当たりにすることも多い。
「白しか着てなかった人がピンクの服を着るようになったり、お花に興味がなかった人がワークショップに来てくれて、家にお花を飾るようになったり、嬉しい変化を見せてくださるお客様がたくさんいます。」
谷口さんは、古着や古道具、花器を通じてお客様の生活に新たな彩りを添えている。ストーリーのある古着、手作りのリメイクアイテム、そして何より、お客様一人ひとりの新しい一面を引き出す接客。これらすべてが谷口さんの感性から生まれている。
訪れる人々に新しい自分との出会いを提供しているroly poly、谷口さんのこだわりがつまった空間をぜひ訪れてみてはいかがだろうか。

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