医療・福祉
岐阜市

プーさんのような温もりと信頼を届ける「はちみつペットクリニック」を訪ねてみた。

プーさんのような温もりと信頼を届ける「はちみつペットクリニック」を訪ねてみた。
TOM
TOM
サラ、ここの空気…甘いね。たぶん酸素に“はちみつ”溶かしてるよね。
SARA
SARA
何言ってるのよ。甘い香りなんてしないわよ?
TOM
TOM
え!?じゃあぼくからこの甘い香りがしてるのかも!これ以上、モテモテになっちゃったらどうしよ〜
SARA
SARA
あなたって本当にポジティブね・・・多分それ、ただのはちみつの食べ過ぎじゃないかしら・・・
この記事は約6分で読めます。
岐阜市にある「はちみつペットクリニック」をご存知だろうか。
温かい雰囲気を大切にし、特にエキゾチックアニマル診療に力を入れる動物病院として、この10年間で多くの飼い主さんから信頼を集めている。今回は、院長の杉浦 陽介(すぎうら ようすけ)様にお話をうかがった。
今回のツムギポイント
  • 「はちみつ」に込めた温もりと空間づくり

  • 牛への愛から始まった獣医師への道

  • 広がる専門性と信頼の診療

  • 家族経営が生む温かい診療

  • 地域密着と専門性のこれから

①「はちみつ」に込めた温もりと空間づくり

 

「はちみつペットクリニック」という可愛らしい名前の由来について杉浦院長に尋ねると、笑顔でこう答えてくれた。

 

「私も妻もプーさんが大好きなんです。ただ、著作権の問題もあるので、そのままでは使用できないと考えて、なんとなくプーさんっぽい雰囲気の名前にしたいと思って『はちみつ』にしたんです。それに『はちみつ動物病院』や『はちみつペットクリニック』で検索してみると意外にもヒットしなかったので、この病院名に決めました。」

 

名前だけでなく、クリニック全体の雰囲気づくりにもプーさんのように柔らかい雰囲気となっている。物件選びの段階から「柔らかい雰囲気」にこだわっており、白い屋根で三角形の可愛らしい建物を選び、内装もパステルカラーで統一されている。

 

「かかりつけとして気軽に来ていただける病院にしたかったんです。例えば小児科のように子どもが病院を嫌がらないように、動物も病院を嫌がらないようにしたくて工夫しました。内装も白一色ではなく、やわらかくて安心感のある色にしました。」

 

こうした発想の背景には、杉浦院長が海外の動物病院で見てきた雰囲気にあるそうだ。日本の動物病院は白衣姿で無機質な印象が強いが、海外ではもっとフランクで、先生も私服で診療していることが多いという。その温かさを自分のクリニックでも表現したい――そんな想いが、空間全体に反映されている。

 

② 牛への愛から始まった獣医師への道

 

杉浦院長が獣医師を志したのは、幼少期に出会った牛たちがきっかけだった。

 

「私は子供の頃に東京に住んでいたのですが、少し離れた八王子の近くに放牧している牧場があったんです。そこで牛が好きでよく見ていたんです。将来は牛の獣医さんになりたいと思っていました。」

 

しかし、就職時には牛の専門医になる難しさに直面した。知識や技術面ではなく、生まれ育った地域が都会だったことが理由だそう。経験を積もうと北海道などの勤務先を希望しても「どうせすぐに辞めてしまうだろう」と敬遠され、夢を断念せざるを得なかったと話してくれた。

 

「悔しかったですが、どうしようもないので気持ちを切り替えて、犬や猫など、いろんな動物を診る方向に切り替えようと思って、動物病院の道に進んだんです。」

 

獣医大学で6年間学んだあと、動物病院での勤務をスタートするが、体調を崩して一度退職。その後、大学院で研究をしながら、動物病院と救急病院を掛け持ちしていた。朝6時過ぎに出勤し、夜10時に帰宅。夜中に呼び出されることも多々あったそうだ。そんな日々は、心身ともに過酷だった。

 

「自分で選んだ道ではありましたが正直、過酷でした。向いてないのかなと思ったこともありましたが、やっぱり現場が好きなんですよね。研究を続けようかとも考えましたが、実際に動物たちと向き合える現場のほうが自分には合っていると感じました。」

 

転機は、大学院でお世話になっていた岐阜の先生から「夜間救急病院を立ち上げたけれど、人手が足りないから来てみないか」と声をかけられたことだった。

 

結婚を機に奥様と岐阜で暮らすことを決意をし、岐阜に移住した。そして、開業への道が開けていく。

 

「東京と比べると不便なところもたくさんありますが、暮らしやすいと感じる点はそれ以上に多かったんです。環境も良いですし、何より人が優しかったんです。なので、開業するならこの地だと、決めました。」

 

③ 広がる専門性と信頼の診療

 

2015年に開業した「はちみつペットクリニック」は、今年で10年目を迎える。開業当初の数年は苦しい経営が続き、お子様の誕生と重なってさらに厳しい時期を経験した。

 

「当時は本当に赤字で大変でした。でも3年くらいした頃から患者さんが増えていきましたね。エキゾチックアニマルもその頃から急に増えて、今では全体の12割を占めるまでになっています。

 

今では、エキゾチックアニマルの診療を行わない日はほとんどないほど。最近もウサギの手術を行ったばかりだという。

 

当初は応急処置程度しかできなく、エキゾチックアニマルを診療できる病院自体も少ないという。「診てもらえるだけで助かる」と言ってくれる飼い主さんに背中を押され、知識と経験を積み重ねていった。

 

「知識はあっても、経験したことのない処置があったりします。その際は正直に『初めてですけどやってみます』と言いいますが、皆さん『お願いします』って言ってくださるんです。本当にありがたいです。」

 

現在では、体重12gのマウスから50Kgの大型犬まで、幅広い動物たちに対応している。診療の対応範囲も、ウサギ・モルモット・ハムスター・ハリネズミ・フェレットなど多岐にわたる。

 

「本当に幅広いと思います。マウスから大型犬まで任せてもらえること自体がとてもありがたいことなので、これからも飼い主さんの不安に寄り添えるように日々精進したいと思います。

 

④ 家族経営が生む温かい診療

 

現在クリニックは、院長と奥様(動物看護士)、受付スタッフのパートさんの3人で運営されている。1日に診る動物の数は1550匹ほど、月間では500700匹にものぼるのだそうだ。

 

「ありがたいことに毎日たくさんの患者さんが来てくれます。スタッフが少ないので、『あと3人ぐらいは雇ってもいいんじゃない』って言われたりもします(笑)」

 

家族経営ならではの利点は、柔軟な働き方と家族との時間を両立できることだと教えてくれた。奥様が産後1ヶ月で復帰した時も、皆さん温かく見守ってくれたという。

 

「うちに来てくれている方は本当にみなさん優しくて、温かい気遣いの言葉をかけてくださったりするんです。本当に人に恵まれていると思います。」

 

印象的なのは、小学生と保育園児の2人のお子さんたちが、放課後になると自然と病院にやってくることだ。両親が働くこの場所は、子どもたちにとっても日常の一部なのだ。

 

「子ども達は来院している動物達と遊んで、緊張をほぐしてくれたりするんです。それに、飼い主さんが子ども達に誕生日プレゼントをくれたりもするんです。子どもたちもこの空間の一部なんです。開業してここが患者さんだけでなく、飼い主さんや私たち家族の大切な場所になっていると感じます。心から開業してよかったと感じます。」

 

このように、病院という堅苦しい印象を与えない「温かみのある安心できる場所」として認知されている。それこそが、はちみつペットクリニックならではの魅力だと感じた。

 

⑤ 地域密着と専門性のこれから

 

杉浦院長は、がん学会の認定医資格を持ち、特にがんの内科治療に力を入れている。

 

「例えば、整形外科の手術などはやらないんです手術の必要な骨折などはすぐに専門医をご紹介します。」

 

この正直さが、飼い主さんとの信頼関係を深めている。また、病気のために必要な処置であれば、動物が多少嫌がってもやりきる、という強い信念も持っている。

 

「患者さんの動物達に嫌われる覚悟はしています。病気が治ればそれでいいんです。僕はあくまで獣医師ですから、苦しんでいる子達を助けるためなら仕方ないと思います。」

 

最近では、爬虫類や鳥類など、より専門的な分野にも関心を広げているが、得られる情報の少なさや飼い主側の知識レベルの高さから、慎重に取り組んでいる。

 

「中途半端な知識で手を出すと、逆に飼い主さんからの信頼を失うことになります。だからきちんと勉強していますし、難しい場合は最初から専門の先生をご紹介するようにしています。」

 

杉浦院長の勉強熱心で動物ファーストな姿勢こそが、飼い主さんからの信頼に繋がっていると感じさせるお話だった。また、今後についても伺った。

 

「現在は3人で運営しているので、何人かスタッフを増やして、対応できる数や治療できるレベルを上げていくのも選択肢として考えています。

 

「はちみつペットクリニック」は、プーさんのような温かい雰囲気の中で、家族のような関係性を大切にしながら診療を行っている。

 

杉浦院長の「治して感謝されるのは当たり前だから、それができない時にどうやって心のケアまで含めて責任を持つかが大事」という言葉からは、動物だけでなく飼い主さんの気持ちにも寄り添う深い思いやりが伝わってくる。

 

また、「売上を上げていく経営」と「自分の目の届く範囲で動物ファーストの診療」の間で揺れる院長の姿勢も印象的だった。どちらも正解で、どちらも難しい。けれど、その揺らぎさえも誠実で温かく、ここに通う動物と飼い主さんたちはその真摯に向き合う姿に、何より信頼を寄せているのだろうと感じた。

 

多くの動物たちを大切に診療する地域の中核的な存在として、これからも「はちみつペットクリニック」は、優しさと誠実さを大切に歩み続けていくだろう。

 

SNSで記事をシェアしよう

RECOMMEND

記事一覧へ戻る

Instagram