職人の手仕事と人との縁を大切に輝き続ける「株式会社キラ・シザーズ」を訪ねてみた。





美容師・理容師向けのハサミ(シザー)の製造・販売・メンテナンスを一貫して手掛けており、理美容師の“相棒”とも言えるハサミを、職人の手で一つひとつ丁寧に作り上げる。今回は、代表取締役の本田 靖人(ほんだ やすひと)さん、工場長の柴田 哲(しばた さとし)さん、そして営業部の佐野 泰基(さの やすとも)さんにお話をうかがった。
- 「輝き」でつながる、社名とロゴに込められた想い
- 「お客様第一主義」を貫く、揺るぎない信念
- 熟練の技と最新技術が融合した、唯一無二のハサミづくり
- アナログを強みに、デジタル化と海外展開で未来を切り拓く
①「輝き」でつながる、社名とロゴに込められた想い
包丁、爪切り、カミソリ、ハサミなど、伝統的な刃物産業が盛んで、「世界三大刃物産地」の一つとして知られる関市。その地でひときわ強い輝きを放つハサミメーカーが『株式会社キラ・シザーズ』だ。
まず、社名の由来について尋ねてみると、「私たちも、お客様も、いつも“キラキラ”輝いていられるように」という願いが込められていると教えてくれた。
本田社長:「当社のロゴは、太陽、月、地球のマークを組み合わせ、社名の頭文字である『K』と『ハサミ』をかたどっています。太陽が私たち、月は全国の販売代理店、そして地球が理美容師さんを表していて、このロゴマークの太陽のように『私たちがいつも輝いていることで、お客様を輝かせられる』という考えがあります。」
ハサミを作るメーカー、それを販売する販売店、そしてそのハサミを使う理美容師が、一つのマークの中で輝きを分かち合う。このコンセプトが、キラ・シザーズの根底にあるという。

②「お客様第一主義」を貫く、ゆるぎない信念
2000年、当時33歳だった本田社長は、「もっと高品質な商品と安心を、スピーディーに届けたい」という“お客様第一主義”の信念からキラ・シザーズを立ち上げた。
前職のナイフメーカーで働いていた頃、本田社長は納品やメンテナンス対応の遅さに、たびたびもどかしさを感じていたという。その経験から、「この状況をなんとか変えたい」という強い思いが芽生え、やがて独立への一歩を踏み出す原動力となっていった。
その姿勢は、東日本大震災の際にも強く表れた。使われなくなったハサミを全国の理美容師たちから集め、無償で修理。その後、わずか2週間という短期間で、被災地で活動する理美容師たちのもとへ届けた。
本田社長:「少しでも、被災された皆様の役に立ちたいという気持ちでした。もちろん新品を送る方が早いとは思います。でも、それでは意味がないんです。ハサミを通して理美容師さん同士が繋がって、お互いに喜びを分かち合えたら――そう思って、この取り組みをさせていただきました。」
柴田工場長:「私は入社したばかりの頃でしたが、『東北を応援したい』という全国の方々の想いが込められたハサミを、しっかり届ける“つなぎ役”として自分にできることをやりたいと思いました。結果として、全国で一番早く届けることができたのではないかと思っています。」
理美容師の相棒とも言える“ハサミ”という道具を通じて、人々の心を繋ぎ、支える。これこそが、キラ・シザーズの根底に流れる哲学である。
本田社長:「私たちは、人と人とのつながりをとても大切にしています。だからこそ、購入後のアフターメンテナンスもこちらから直接お会いしに行く、という昔ながらのスタイルを大切にしているんです。」
本田社長をはじめ、会社全体が“一期一会”の精神を大切にしているという。目の前のお客様に真摯に向き合い、丁寧な対応を心がけている。その積み重ねが、多くの人からの信頼へとつながっているのだ。


③熟練の技と最新技術が織りなす、唯一無二のハサミづくり
キラ・シザーズのハサミは、「職人の手による繊細な作業」と、「機械による高い精度」が重なり合うことで、生み出されている。
柴田工場長:「当社のハサミは、熟練の職人による手作業を重要視しています。まず、刃物用の鋼材をハサミの形に切り抜き、粗削り後、硬い刃の部分と柔らかい持ち手部分を溶接で接着します。」
溶接されたハサミは、その後も機械と職人の手によって何度も研磨され、最終工程は手作業で丁寧に仕上げられる。
柴田工場長:「機械だけでは最後の調整が難しいので、最終的には職人の手で丁寧に仕上げていきます。たとえば梳きバサミのクシの目は、機械で均等に美しく整えることができますが、一方で、通常のハサミの切れ味に関しては、人の手による微細な調整が不可欠です。より良い製品を生み出すために、機械の精密さと職人の繊細な感覚、それぞれの強みを活かしながら作り上げています。」
このように、機械と手作業の良いところを融合させることで、最高の切れ味を実現している。さらに、キラ・シザーズのハサミには、見た目だけでなく、お客様への細やかな配慮も施されている。
金属アレルギーの方でも安心して使えるチタンコーティングを施したハサミや、ミサンガを巻くことで握りやすさやフィット感をアップさせた『シザンガ』、地元のシルバー職人とコラボし、本格的なシルバー加工を施したシザーなど、オリジナル性を大切にしながらも、お客様への細やかな配慮を忘れない製品開発を行なっている。
本田社長:「みんなで意見を出し合いながら、時代の流れやデザインのトレンドをしっかりと捉え、製品に反映させています。他社との差別化を図るためにも、現状に満足せず、常に新しいことに挑戦し続けているんです。」
自社ブランド一本で勝負しているからこそ、すべての製品にキラ・シザーズのこだわりと技術が詰まっていることがわかる。


④ アナログを強みに、デジタル化と海外展開で未来を切り拓く
キラ・シザーズは、アナログな強みを活かしつつも、未来を見据えた新たな挑戦を続けている。今後の目標として「海外進出」を掲げており、「最近、インスタグラムを通じて海外からの問い合わせが増えている」と手応えを感じている。
佐野さん:「海外製のハサミは安価で使い捨てのようなものも多いと聞きますが、当社のハサミは、大切に使っていただければ20年、30年と使えます。そういう意味でも、日本のものづくりを海外にもっと普及できたらと考えています。」
近年、アニメの影響もあり、日本の製品は海外で非常に高い評価を得ていることを挙げ、日本の「ものづくり」とともに、キラ・シザーズの製品を世界に広めたいと意欲を見せる。また、新たな事業展開の可能性についても、前向きな姿勢を見せてくれた。
佐野さん:「僕はもともとアパレル業界にいたので、たとえばオリジナルのステンシル加工を施したエプロンなど、これまでの経験を活かして、新しい事業にもチャレンジしていけたらと考えています。」
現状の悩みや課題について尋ねると、キラ・シザーズの強みと表裏一体となるような難しさが見えてきた。
佐野さん:「見た目はほとんど変わらない梳きバサミでも、カットした時の毛の量が5%ずつ違うんです。この5%の違いはプロにとっては非常に大きくて、実際に使ってもらわないと分からない部分も多い。だからこそ、直接会って感触を確かめてもらうことが大切なんです。そのため、営業や販売はどうしてもアナログになりがちですが、出張費も高騰しているので、今後はアナログを大切にしつつ、デジタルや海外展開など、新しい販売の形も模索していきたいと思っています。」
アナログの良さを大切にしながらも、デジタル技術の活用や海外展開といった新たな挑戦を通じて、時代に即した営業・販売のあり方を模索しているのだ。
最後にそれぞれが思う「キラ・シザーズの魅力」を尋ねてみた。
本田社長:「うちの強みは、やっぱりコミュニケーションですね。メンバーは6名ほどの少数精鋭ですが、みんなが気持ちよく働ける環境づくりを心がけています。経営の上でも、人と人とのつながり、そして月並みですが“感謝”の気持ちはとても大事にしています。デジタルとアナログ、それぞれの良さをうまく融合させながら取り組んでいます。」
柴田工場長:「少人数だからこそ、全員が会社全体の流れを把握できていて、自然と目指す方向も揃ってくるんです。これからも同じ価値観を共有できる仲間が少しずつ増えて、会社としての輪が広がっていけばいいなと思っています。」
佐野さん:「すごく居心地のいい会社だと思います。和気あいあいとしていて、本当に仲がいいんです。メンバーそれぞれに得意分野があって、僕はデザインやアパレルの経験を活かして動いています。『おしゃれしていいよ』と言ってもらえるのも嬉しいですね。金髪で髭を生やしている営業マンは珍しいかもしれませんが、お客様から『髪の毛いいね』と声をかけられることも多く、それが結果にも繋がっていると感じています。自由で、面白くて、のびのびと働ける環境です。」
社員一人ひとりの個性と経験を尊重し、コミュニケーションを密にすることで、キラ・シザーズは強いチームワークを築き上げているのだ。
『株式会社キラ・シザーズ』のハサミは、単なる道具ではない。そこには、職人の熟練の技と情熱、そして何よりも「お客様第一主義」という揺るぎない信念が込められている。
人と人との繋がりを大切にし、「一期一会」を胸に、常に最善を尽くす。そんな彼らのハサミが、これからも多くの理美容師の手に渡り、その手を通じて、さらに多くの人々の髪を輝かせていくことだろう。
日本の誇る「ものづくり」の技術が、キラ・シザーズのハサミとともに、世界へと羽ばたく未来を期待している。

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