犬と人の心をつなぐ唯一無二の場所「Dog Style Chi Co」を訪ねてみた。





”まぁるく寄り添う愛情トリミング”をコンセプトに、ワンちゃんと飼い主さんに寄り添ったサービスが好評のドッグサロンだ。
今回は、代表取締役の織田 遥(おだ はるか)さんに、サービスや空間に込められた想いから今後の展望まで幅広くお話をうかがった。
- 「唯一無二」の想いを形に
- 苦悩の先に見つけたトリマーの道
- トレーニングとトリミングの融合
- ずっとそばにある場所を目指して
①「唯一無二」の想いを形に
2023年4月6日にオープンした「Dog Style Chi Co(ドッグスタイルチコ)」。店名に掲げられた「Chi Co」は、ベトナム語で「唯一」や「~だけ」を意味する言葉だ。
「実は父の経営する会社の工場がベトナムにあり、私も開業前にベトナムを訪れる機会がありました。そこで出会った、一生懸命に働く方々の姿にすごく心を打たれたんです。それまでの自分の働き方を見つめ直すきっかけにもなったし、店名をベトナム語にしたいなと思って、この名前にしました。」
織田さんにとって愛犬は、世界にたった一匹の、まさに「唯一無二」の存在であり、飼い主さんからその大切な家族を預かる身として、「飼い主さんと同じ気持ちで向き合うことを絶対に忘れない」という強い決意がこの店名には込められているという。
また、会社の屋号を「株式会社Only One Wan(オンリーワンワン)」としたことにも、その想いの強さが表れている。一見すると遊び心のある名前に感じられるが、そこには織田さんが犬と人との関係に抱く、真摯な想いが凝縮されている。

②苦悩の先に見つけたトリマーの道
織田さんにとって、ワンちゃんは生まれる前からずっとそばにいて、人生の中心そのものの存在だ。「ワンちゃんと関わる仕事がしたい」という想いは、幼少期から漠然と抱いていたという。
当初は獣医師を目指していたものの、命を救うという使命感の裏で、どこか心の奥では「本当に自分がやりたいことは、もっと犬と寄り添うことなのではないか」と感じ始める。
そんな想いを胸に、別の道を模索する決意を固めた。帝京科学大学で動物行動学をはじめ多岐にわたる分野を学ぶ中で、次第にドッグトレーニングの世界に心を奪われていく。自身の愛犬とともにアジリティ(犬の障害物競技)のトレーニングに没頭し、その楽しさと達成感に夢中になり、大会にも出場するほど情熱を注いだ。
しかし、プロのトレーナーになる道は想像以上に険しいものだった。問題行動を抱えた犬を預かることへの責任感、住み込みで働くという厳しい環境、そして何よりも「自分が楽しんでトレーニングをしなければ、相手にもその気持ちが伝わってしまう」という葛藤が、織田さんを悩ませた。
「トレーニングは、自分自身が心から楽しんでやれないと意味がないんです。そう思った時、トレーナーという仕事は私の性格には合わないのかもしれないと感じました。」
そんな苦悩の中で、織田さんの人生を再び動かす出来事があった。大学院時代、トリマーを目指す後輩に「愛犬のトリミングをさせてほしい」と頼まれ、自宅で愛犬のトリミングをしてもらったことがきっかけで、「自分が本当にやりたかったのはこれだ!」と直感したのだそう。その日からの行動は早かった。大学院に通いながら、貯金をすべて投じ、一流の技術を習得する為に都内のトリミングスクールに通い始めた。
「当時、大学院が山梨でしたので、東京のトリミングスクールまで片道2時間以上かけて通っていました。正直楽ではありませんでしたが、この機会を絶対に無駄にはしないと心に強く決めていたので、最後までやり切ることができました。」
卒業後、東京でトリマーとしてのキャリアをスタートさせた。品川でオープニングスタッフを経て、麻布のドッグサロンで店長という大役を任されることになる。そこはトリミングだけでなく、トレーニングも行う多角的なサロンだったため、トリマーでありながら、飼い主さんの対応や他のスタッフとの連携、そしてトラブル対応など、多岐にわたる業務を行っていたと話してくれた。
特に印象的だったのは、フリースペースで犬同士が触れ合う中で起こるハプニングや、トレーニングに関する対応だった。自分の目が届かない場所で何かが起きたとき、その状況を正確に把握し、飼い主の方に誠意をもって伝える経験を通して、対応力や判断力が大きく磨かれたと当時を振り返った。
「本当に濃密な経験の連続でした。でも、ひとつひとつの出来事が私を成長させてくれたと心から思います。技術だけでなく、人としてどう向き合うか、という大切な学びを得ることができました。」
こうした経験が、現在のワンちゃんたちや飼い主さんと真剣に向き合い、笑顔あふれる時間を生み出しているのだろうと感じるお話しだった。


③トレーニングとトリミングの融合
都内で経験を積み、地元・愛知に戻った織田さん。いくつかのサロンを経験する中で、違和感を拭えなかったことが、独立を考えるきっかけとなったそうだ。
「トリミングも美容師さん同様に、技術の差が人によって大きく出やすく、トリマーによって仕上がりが全く違うんです。そんな中、『カットのレベルを他のスタッフに合わせてほしい』と言われたとき、自分の技術を制限されるようで、正直心に深く刺さりました。だからこそ、自分の技術を最大限に活かして、唯一無二のカットスタイルを提供したいという気持ちが、さらに強くなったんです。」
その後、お父様の会社がある岐阜県各務原市にて、自身の夢を形にする拠点として「Dog Style Chi Co」を開業した。「Dog Style Chi Co」の最大の特徴は、織田さんが培ってきたトリミングとトレーニングの経験を融合させた、独自のスタイルだ。通常、トリミングサロンでは預かったワンちゃんをそれぞれケージに入れることが多いが、ここでは極力ケージを使わず、ワンちゃんが自由に過ごせる「フリー」な空間を提供している。
「うちでは、トリミング料金内でワンちゃんをお預かりしています。子犬の時期は社会性を身につけるのにとても重要な時期なので、朝から夕方まで預けてもらいお店の環境や他のワンちゃんに慣れてもらうことで、社会化を促すことができます。」
これは、織田さんがかつて目指したドッグトレーナーとしての経験が活かされている部分だ。飼い主さんの悩みに耳を傾け、しつけや日々のケアについてのアドバイスも積極的に行っている。
「『うちの子、吠え癖があって…』『噛み癖が治らなくて…』といった相談を受けることがよくあります。そうした悩みに寄り添い、飼い主さんと同じ目線で解決策を考える。それが私のやりたかったことなんです。」
織田さんが提供するサービスと空間は、単に愛犬を可愛くするだけではない。飼い主と愛犬が抱える悩みに寄り添い、ともに解決へと導いてくれる、いわば「ワンちゃんの総合サポートサロン」なのだ。


④ずっとそばにある場所を目指して
開業から2年4か月(2025年8月現在)、「Dog Style Chi Co」は順調に成長を続けている。スタッフも増え、2人体制での運営が始まったことで、より多くのワンちゃんと飼い主さんに対応できるようになった。
「今後は犬のリハビリやマッサージも学んでいきたいです。パピーの頃から通ってくれている子が、シニアになってもずっと安心して過ごせるように、人間には当たり前にあるサポートを、ワンちゃんにも提供できるようにしたいんです。」
現在15歳になる愛犬のトイプードルの存在も、織田さんの挑戦を後押ししている。大切な家族と同じように、お客様のワンちゃんたちの未来も考えながらお店を運営しているのだ。
「『なんとかなる』と信じてここまでやってきました。これからもずっと、このお店を続けていきたいです。」
この言葉には、ワンちゃんと飼い主さんへの深い愛情と、プロフェッショナルとしての誇り、そして「Dog Style Chi Co」を唯一無二の場所に育てたいという強い決意が込められている。これからも多くの犬と飼い主の心をつなぎ続ける、特別な場所であり続けるだろう。

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