街を楽しむ人たちの居場所「オオガキノイマ」を訪ねてみた。





明確な目標やゴールを持たず、ただ街を楽しむ人たちが集まる地域コミュニティである。今回は、立ち上げメンバーの青木 美緒(あおき みお)さんにお話をうかがった。
- 居間と今、二つの意味を持つ名前の誕生
- 4人から始まった実験的なフラットコミュニティ
- 目的のない雑談が生む新たなつながり
- 紹介制で築く安心できるコミュニティづくり
- 友達作りから始まる地域の輪の広がり
①居間と今、二つの意味を持つ名前の誕生
「オオガキノイマ」という名前には、このコミュニティの本質が込められている。当初は「かかみがはら暮らし委員会」に準えて、「おおがき暮らし委員会(仮)」として活動していたが、約1年が経ち、改めて自分たちらしい名前をつけようということになった。
青木さんは、その経緯をこう振り返る。
「みんなで、“どんな名前がいいかな”って案を出し合ったんです。そこで出てきた“オオガキノイマ”っていう言葉が、家の居間と現在の今という二つの意味を持っていて、“それいいね”と自然に決まっていきました。」
この「イマ」には二つの想いが込められている。ひとつは、家族が自然と集まり、くつろぐことのできる家の「居間」。そしてもうひとつは、現在この瞬間を大切にするという「今」だ。居間のように誰もが気兼ねなく集える場をつくりたい。そして「今」を共にする人たちと、時間を大切に重ねていきたい。そんな願いが一つの名前に凝縮されている。
決め方もまた、このコミュニティらしい。特定のリーダーが主導するのではなく、Slackというオンラインツールを使ってメンバーが自由にアイデアを出し合い、その中から自然と「いいね」と思えるものにまとまった。
「誰が最初に言ったのかは覚えていないんです。でも誰かが口にして、“いいじゃん、それにしよう”っていう流れで決まったんです。」
このやりとりそのものが、オオガキノイマらしさを物語っている。肩肘を張らずに、誰もが対等に意見を出し合い、自然な形で決まっていく。そのプロセスには、まさに「居間」のような温かさと、今を大切にする姿勢が映し出されているのだ。
②4人から始まった実験的なフラットコミュニティ
オオガキノイマが始まったのは4年前。当初はわずか4人のメンバーによる小さな試みだった。きっかけは、かかみがはら暮らし委員会に参加していた大垣在住のメンバーが、『大垣でも同じようなコミュニティをつくりたい』と考えたことだった。
「もともと、かかみがはら暮らし委員会に入っていて、大垣在住のメンバーが私を含めて4人いたんです。その4人で“じゃあ立ち上げてみようか”と始めました。」
立ち上げ時に画期的だったのは、あえて代表を置かずにスタートしたことだ。一般的には誰かがリーダーを務める形をとることが多いが、オオガキノイマでは「フラットな関係性」を重視した。
「各務原の方には一応代表がいるんですけど、大垣ではあえて何もなくして、フラットな関係でやってみようってなったんです。実験的な感じで始めてみて、主体性を大事にしながら、“どうしたらコミュニティとしてうまく機能するか”を試行錯誤しながら続けています。」
その実験は今ではしっかりと成果を見せている。立ち上げ当初のメンバーが必ずしも参加できなくても、後から加わった人たちが自然と運営を担うようになったのだ。
「最近は私を含め、最初の4人が寄り合いに行けないことも多いんです。でも今は、途中から参加してくれた方が主体的に場を運営してくれています。特定の人に依存しない、属人性のない形ができてきたのがとてもいいなと思っています。」
現在、Slackに登録しているメンバーは46人、常時アクティブに参加しているのは15人ほど。誰かが欠けても自然に補い合える体制が整っている。持続可能で風通しのよいコミュニティが、少しずつ、しかし確実に形づくられている。

③目的のない雑談が生む新たなつながり
オオガキノイマの活動の中心となっているのは、毎月第3金曜日の夜7時30分から9時までに開かれる「寄り合い」だ。この集まりの最大の特徴は、はっきりとした目的や到達点を設けていないことにある。
「街を楽しむ人たちのコミュニティというのがコンセプトです。何かを作り上げたり、ここをゴールにしようと決めて動くような場ではありません。まちづくりを意識した団体でもありませんし、あえて『大垣を盛り上げよう』という旗を掲げているわけでもないんです。」
参加者が集う寄り合いの進行はとてもシンプルだ。まず全員で自己紹介を行い、最近の出来事や日常で気になったこと、個人的な関心事を共有する。その後は自然に質問や意見が飛び交い、特定のテーマに縛られない自由な対話が広がっていく。初めての参加者でも入りやすい雰囲気があり、毎回の会で生まれる話題もまったく異なるのが特徴だ。
「毎回最初にお伝えしているのは、『この会には目的がない』ということです。寄り合いは何かの成果を出す場ではなく、ゴールも設定していません。そのため、話題は毎回違った方向に広がっていきますし、むしろその違いが面白いんです。」
一方で、誰もが安心して参加できるように守っているルールがある。
「大切なのは、誰かの発言を頭ごなしに否定しないことです。一度受け止めた上で自分の意見を言うのは歓迎ですが、ただ否定をしたり批判をぶつけ合う場にはしたくありません。喧嘩をする場所ではなく、安心して声を出せる場所でありたいんです。」
こうした雰囲気づくりによって、寄り合いは参加者にとって居心地の良い空間になっている。話題はさまざまで、趣味のことから仕事での気づき、最近の街での出来事まで幅広い。特に共通の目的がないからこそ、個性や多様性がそのままに受け入れられ、思わぬ出会いや学びにつながっている。
「月に1回集まっていると、本当に友達が増えていくような感覚になるんです。街を歩いていて、知り合いに『こんにちは』と声をかけてもらえる機会が増えました。普段の生活ではなかなかそうした環境はありませんが、このコミュニティを始めてから自然とそういう関係が築かれるようになりました。」
集まりの場に特別な使命や計画がなくても、人は会話の中から新しい視点や仲間を見つけていく。むしろ余計な目的を持たないことが、参加者にとって気負いなく関わることを可能にし、自然なつながりを育んでいる。オオガキノイマの寄り合いは、地域での日常を少しずつ温かく変えていく存在となっている。

④紹介制で築く安心できるコミュニティづくり
オオガキノイマの特徴の一つに、寄り合いは誰でも参加できるが、コミュニティメンバーとして関わるには紹介制を採用している点がある。オープンな場とクローズドな仕組みをバランスよく組み合わせていることが、このコミュニティの独自性を形作っている。
「寄り合いは基本的に誰でも来ていただけるんです。ただ、オオガキノイマのメンバーになるには一応紹介制にしています。既存のメンバーが『この人なら大丈夫だな』と思える方をお誘いして入っていただくようにしているんです。寄り合いに一度来てもらえれば、だいたい雰囲気が分かりますので、そのうえで『どうですか?』と声をかけています。」
この仕組みによって、安心して参加できる環境が維持されている。オープンでありながら、無秩序にはならない。外に向けてはインスタグラムを通じて寄り合いへの参加を広く募集しているが、コミュニティそのものへの勧誘はあえて積極的に行っていないという。無理に拡大を目指さず、自然な流れで関係が広がっていくことを大切にしているのだ。
実際の参加者の層は非常に幅広い。大垣で長く暮らしている人から、転勤をきっかけに新しいつながりを求めて訪れる人、自らの事業を営む個人事業主や経営者、また会社員まで、立場も背景も多様だ。年齢層も幅広く、若い世代からベテラン世代までが同じ場を共有している。
「例えば、ご主人の転勤で大垣に来られて、最初は知り合いが全くいなかった方が『こういう場があると聞いて』と来てくださったりします。知り合いを増やしたいという理由で来られる方もいますし、事業をしていて人脈を広げたい方や、普通に会社員をされている方もいらっしゃいます。本当にさまざまな方が混ざり合っているんです。」
さらに寄り合いの会場も固定されていない。毎回異なる場所で開催されるのも大きな特徴だ。これまでには大垣のシェアスペース『ミドリバシ』、垂井町のカフェ『TONARI GA KAWA』、大垣公園、青年の家など、多彩な場所が使われてきた。会場を変えることで、その都度新しい雰囲気や地域の魅力に触れることができるのも、この活動の副次的な価値となっている。
⑤友達作りから始まる地域の輪の広がり
青木さんにとって、オオガキノイマを立ち上げた動機はとてもシンプルなものだった。特別にコミュニティをつくろうと計画したわけではなく、自分自身の素直な気持ちから始まっている。
「私はもともとコミュニティを持ちたいと思ったことは全くなかったんです。全然そういう発想もありませんでした。気がつけばコミュニティのようになっていた、というのが正直なところです。最初から目標があったわけではなくて、ただ単に私は友達がたくさん欲しい人間なんです。」
この率直な想いが、多くの人の共感を集めている。大人になってから新しく友達をつくることは簡単ではない。仕事や家庭を中心とした日常では、どうしても交友関係が固定化されがちだからだ。
「この年齢になると新しい友達はなかなかできませんよね。仕事を始めるとどうしてもその職場の仲間ばかりになってしまいます。だから交友関係が広がりにくいんです。でもオオガキノイマでは全然違う分野の人ばかりが集まっています。やっていることや背景が全く違うので、本当に面白いんです。」
オオガキノイマをきっかけに、参加者の間からはさまざまな展開も生まれている。例えば、写真展を開催する人がいたり、イベントを企画する人、新たに事業を立ち上げる人も現れた。青木さん自身もマルシェへの出展を始めるなど、個人の新しい挑戦につながっている。寄り合いは単なる雑談の場にとどまらず、それぞれの生活や活動に良い影響を与えているのだ。
今後の課題について尋ねると、青木さんはオンラインでの日常的な交流をもっと活発にしたいと語る。
「各務原のコミュニティではSlackでの雑談がとても活発なんです。例えば『自転車が壊れたけどどこに持っていけばいいですか』とか、『良い歯医者さんを知りませんか』といった、身近だけれど普段は聞きづらいことを気軽に相談できるんです。大垣でも、もう少しそういうやり取りが増えてくれると嬉しいですね。」
将来の展望としては、メンバー紹介の仕組みを整えたり、趣味や関心ごとをベースにした「部活動」を展開したりといったアイデアもある。さらに、若い世代に向けた寄り合いの開催にも期待が寄せられている。高校生や大学生が参加することで、世代を超えた交流が生まれ、地域に新しい活力をもたらす可能性が広がっている。
現在オオガキノイマでは、毎月第3金曜日の夜7時30分から9時まで、誰でも参加できる「寄り合い」を開催している。会場によって参加費は変わるが、最大でも500円程度と気軽に参加できる価格だ。参加を希望する人は、InstagramのDMから気軽に連絡できる。
友達をつくりたい方、新しいつながりを求めている方、地域で安心できる居場所を探している方は、ぜひオオガキノイマの寄り合いに足を運んでみてほしい。目的のない雑談から生まれる温かな人間関係が、日常をより豊かにしてくれるはずだ。

