書道の楽しさを伝え続ける温かな学び舎「桃苑書道教室」を訪ねてみた。





「書道って楽しい」という想いを大切に、一人ひとりに寄り添う指導で多くの人に愛され続けている。今回は、講師の竹腰 迪代(たけこし みちよ)様にお話をうかがった。
- 大学時代に授かった雅号
- 3歳から続く書道との深いつながり
- 子育てをきっかけに再燃した書道への情熱
- 6畳間から始まった楽しい学びの場
- 地域をつなぐ多彩なイベントへの挑戦
①大学時代に授かった雅号
「桃苑(とうえん)」という響きの美しい教室名の由来には、竹腰さんの書道人生が込められている。名前に込められた想いをたどると、大学時代の大切な思い出に行き着く。
「大学で書道を専攻していたんです。卒業の時に担当の先生が黒板いっぱいにいくつもの雅号を書いてくださって、『頑張ったから、せっかくだし選びなさい』って言ってくれたんです。その中から私が選んだのが『桃苑』でした。」
雅号とは、芸術家や作家が本名とは別に名乗る名前のこと。学生たち一人ひとりの努力を讃えるために先生が用意した数多くの候補。その文字の中で、竹腰さんの心を強くとらえたのが「桃」と「苑」の組み合わせだった。
「桃も苑も、すごく好きな文字だったんです。きれいでやさしい響きがあって、一目見て、これしかないと思いました。」
その瞬間に選んだ名前は、今も竹腰さんを支え続けている。単なる呼び名ではなく、自分自身の書道への想いを映す大切な象徴として心に根付いているのだ。現在もその先生とは別の師匠のもとで学びを重ね、日々作品に向き合う姿勢の中で「桃苑」という名は、静かに背中を押してくれる存在になっている。
「今も毎月、師匠に作品を提出しています。書道を一生続けていくなら、この学びも途切れさせるわけにはいかないと思っているんです。」
師匠は今も第一線で活躍しており、その姿は大きな目標だ。努力を惜しまず、常に新しい挑戦を続ける師匠の姿を見ているからこそ、自分も前に進み続けようと思える。竹腰さんは「桃苑」という名前に誇りを抱きながら、これからも書道の道を歩み続けていく。


②3歳から続く書道との深いつながり
竹腰さんと書道との出会いは、まだ物心もつかない3歳の頃にさかのぼる。偶然から始まった出来事だったが、その瞬間が後の人生を大きく形づくる運命的な出会いとなった。
「私は実家が京都なんですが、3歳か4歳くらいの時に、たまたま前の家に書道の先生が引っ越して来られたんです。両親が『せっかくなら習わせてみよう』と言ってくれて、それが始まりでした。」
最初は絵を描くような感覚で筆を握っていた。けれども小さな心に自然と文字の美しさが刻まれ、楽しさとともに愛着が育っていった。先生は途中で代わったものの、高校を卒業するまで途切れることなく教室に通い続けた。
「本当に好きだったんだと思います。嫌な気持ちになったことは一度もありませんでした。」
そんな環境をさらに後押ししたのが家庭だった。お父様は書道を習った経験こそなかったが、とても美しい字を書く人だったという。
「父は字がすごく上手だったんです。書道は習っていないと言うんですけど、写真のように文字を見て覚えて、それを正確に再現するのが得意で。本当にすごいなと思っていました。」
そんなお父様の姿を間近で見ていたこともあり、竹腰さん自身も自然と文字を写真のように記憶する力を身につけていった。
小学校6年生の時には特待生に合格するなど、幼い頃から着実に実力を積み重ねてきた竹腰さん。書道は単なる習い事の域を超え、気づけば日常や生き方の一部として深く根づいていた。


③子育てをきっかけに再燃した書道への情熱
高校卒業後、大学で書道を専攻した竹腰さんだったが、社会に出てからは一度その道を離れることになった。
「一度は事務職に就き、書道から離れてしまったんですが、結婚して子どもができたタイミングで、急に書道への想いがふたたび芽生えたんですよね。」
子どもが生まれた出来事は、心の奥に眠っていた書道への想いを呼び覚ますきっかけとなった。母親になったからこそ、改めて「自分の好きなこと」に真剣に向き合いたいという気持ちが大きくなっていったのだ。
「子育てと一緒に、自分の好きなことができたらいいんじゃないかなって思ったんです。子どもにとって書道が身近にある環境をつくって、『ママはこれが好きなんだよ』って自然に伝えたい気持ちもありました。」
その想いを行動に移すために、まずは師範の資格取得に挑戦した。妊娠中の大きなお腹を抱えながらも、書に向き合う時間はかけがえのないものとなり、筆先に込める真剣さは増していった。
「子どもがお腹にいる時に、師範の資格を取りました。生まれてからだと、ゆっくり時間を取ることは難しいと思ったので、お腹にいるうちに、と決めて、必死に取りました。」
出産という大きな転機に、母としての想いと書道への情熱が重なった。その重なりが、竹腰さんを再び筆の道へと導いていく。子どもへの愛情を込めながら歩み出した一歩が、やがて自身の教室を開く大きな決断へとつながっていった。


④6畳間から始まった楽しい学びの場
現在の桃苑書道教室には、子どもだけで60人もの生徒が通っている。小さな教室から始まった活動が、今では多くの子どもたちにとって大切な学びの場へと成長していることは、竹腰さんの指導への信頼と教室の魅力をそのまま表している。
「最初は自宅の6畳間で、3、4人の生徒さんを迎えてのスタートでした。でも口コミで広がって、今の古民家の教室にまで発展していったんです。」
教室の雰囲気は、従来の書道教室のイメージとは一味違う。子どもたち一人ひとりに合わせた指導を心がけながら、笑顔と楽しさを大切にしている。
「いろんな子がいるので、一人ひとりに合わせた対応を心がけています。今は基本的に私ひとりで担当しているので、今の人数が一人ひとりに目を配りながら楽しく続けられる、ちょうど良いバランスだと思っています。」
竹腰さんの指導は「楽しいよ」という空気感が常に漂っている。単なる文字の練習ではなく、記憶に残るような体験を工夫しながら取り入れている。
「楽しい雰囲気を出すことは常に意識しています。ちょっと脳を刺激するようなイメージで、一般的な書道教室とは少し違うんです。面白おかしく覚えられるように工夫していますね。」
具体的には、筆の動きに名前をつけたり、オリジナルのなぞり書きを作ったりと、子どもが楽しめる要素を散りばめている。
「筆をポンと押さえるところを『しずくちゃん』と、かわいい呼び名を作って伝えるなど、親しみやすさを大切にしています。」
また、子どもたちが前向きに取り組めるように、常にモチベーションを高める声かけを忘れない。
「なぜこの練習をするのかをちゃんと伝えたうえで、『絶対に上手に書けるよ』って励まします。みんなが楽しく取り組めるように、工夫しながら進めています。」
こうしたユニークな指導法は確実に成果を生んでいる。実際に生徒の中からは、各種コンクールで最優秀賞を受賞する子どもも現れており、学びの楽しさと成果の両立を実現している。


⑤地域をつなぐ多彩なイベントへの挑戦
桃苑書道教室は、単なる書道教室にとどまらず、地域の人々が集まるコミュニティスペースとしての役割も担っている。教室を使わない時間には、さまざまなイベントが開かれ、学びや交流の場が生まれている。
「最近は友達のお片付けの先生に、ここで2か月に1回講座を開いてもらっているんです。」
ヨガ教室や座禅会なども開催され、訪れる人たちに新しい体験を提供している。
「ここでヨガをやったり、座禅会をやったりしていますね。ご縁がつながって、自然に広がっていきました。」
書道そのものについても、伝統的な学びだけにとどまらず、新しい挑戦を重ねている。夏休みには特別教室を設け、宿題サポートを行うことも恒例となった。
「生徒さん以外にも来ていただける特別教室を毎年やっています。夏休みの習字の宿題をここで仕上げてもらうんです。毎回大人気で、お母さんにとっても息抜きの時間になっているんじゃないかなと思います。」
さらに、今年の12月には大きな挑戦としてパフォーマンス書道に臨む予定だ。
「今年12月に別の書道教室の先生と柳ヶ瀬でパフォーマンスをやる予定なんです。墨まみれになるのが本当に楽しくて。子どもたちにもそういう機会をどんどん増やしていきたいですね。」
竹腰さんの夢は、地域の人々がもっと気軽に書道に親しめる場所をつくること。特別な学びの場であると同時に、日常の延長にあるような教室を思い描いている。
「近所の人があまり来られていないので、ふらっと『ちょっと習字やりに来たよ』って感じで立ち寄ってもらえたらと思います。お年寄りの方にとっても外に出る機会になるし、みんなの交流の場にもなりますから。」
書道を通じて人と人をつなぎ、地域に温かなコミュニティを育てていきたい。その想いはこれからも多彩な形で実現されていくだろう。
美しい文字を書きたい人、心を落ち着けたい人、新しいコミュニティとの出会いを探している人。そんな人はぜひ桃苑書道教室を訪れてみてほしい。竹腰さんの温かな指導と楽しい雰囲気が、きっと書道の新しい魅力を発見させてくれるはずだ。

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