こだわりの完熟いちごで笑顔を届ける「セイントベリー」を訪ねてみた。





身近な大切な人を笑顔にするイチゴをコンセプトに、最も美味しい状態のいちごをお届けすること、いちごを通じたさまざまな活動で多くの人々に笑顔を届けられる農園を目指している。今回は、江﨑 聖仁(えさき せいじ)さん・くるみさんご夫妻に、美味しさへのこだわりや今後の展望など、幅広くお話をうかがった。
- 酪農家からいちご農家への転身
- 失敗から生まれた奇跡の一粒
- おいしさの秘密は"完熟"
- 夫婦二人三脚で描く未来
①酪農家からいちご農家への転身
もともとは家業である酪農の後継者として育ち、幼いころから牛と触れ合ってきた聖仁さん。短大卒業後、一度は酪農の道に進むも、やはり自分には向いていないと痛感。同時に、市街化していくこの地域で酪農を続けることの難しさも感じていたという。
そんな時に偶然見つけたのが、新規就農者を募集しているいちご研修施設の存在だった。迷うことなくその門を叩き、およそ10年前にいちご農家への転身を決意。
しかし、その道のりは決して順風満帆ではなかった。当初取引をしていた企業の求める「大量生産」のスタイルは、聖仁さんの信念とは相容れなかったのだ。どれほど丁寧に時間をかけて育てても、味ではなく量で評価される現実に、次第に疲弊していったという。
「僕は美味しいいちごをみなさんに届けたい。でも実際に求められるのは、味よりもある程度の量を安定して出荷することなんです。当時は本当に葛藤していました。」(聖仁さん)
そんな聖仁さんの支えとなり、現在の販売スタイルへ転換するきっかけとなったのが、くるみさんの存在だ。
「かなり追い込まれていた時期だったと思います。このままではいけないと二人でたくさん話し合い、「失敗しても仕方ないし、うまくいかなかったらその時に考えよう」という覚悟で、思い切って個人販売に方向転換しました。」(くるみさん)
そこからホームページやインスタグラムなどの広報活動にも力を入れ始め、着実にファンを増やしてきた。現在も、セイントベリーのさまざまな活動を日々発信し続けている。
「いちご農家さんのレシピ」と題し、『エンジェルフレッシュ』を使用したスイーツやドリンクなどのレシピを定期的に紹介している。ふるさと納税返礼品への登録、マルシェや農業フェスティバルへの出店も積極的で、県内外のさまざまな場所で見かける機会も増えている。

②失敗から生まれた奇跡の一粒
聖仁さんが今も追い求め続ける「幻のいちご」は、皮肉にも、1年目の大失敗から生まれたという。栽培マニュアルを無視して我流で育てたいちごは、見た目は決して完璧ではなかったが、一口食べてみると、そこには言葉を失うほどの感動があった。
「メロンや桃のような、今まで感じたことのない芳醇な香りが口いっぱいに広がったんです。今まで食べたいちごの中で一番甘くて美味しかったです。」(聖仁さん)
その糖度は18~19度にも達し、一般的なイチゴの糖度をはるかに超えていた。この驚くほどの甘さと香りを味わった経験が、現在の販売スタイルやコンセプトのはじまりでもある。
「いまだにあの味を超えるいちごは生まれていません。あの味を出す栽培方法は分かっているのですが、安定して再現するのは簡単ではありません。それでも、より美味しいいちごを届けるために、日々工夫と挑戦を続けています。」(聖仁さん)
いちご農家1年目に偶然生まれた「幻の一粒」を安定的に提供すべく、独自の栽培方法を日々研究中だという。芳醇な香りと甘みが特徴の「とびきり美味しいいちご」を楽しめる日も近いかもしれない。


③おいしさの秘密は"完熟"
セイントベリーでは、よつぼしやかおり野、恋みのりといった全7種類のいちごを栽培している。一般的に見られる流通日数を逆算した早採りではなく、もぎたての美味しさを届けることにこだわっており、生産直売ならではの新鮮さと熟れ具合を楽しむことができる。
甘みと酸味が絶妙に重なった奥深い味わいの秘密は、聖仁さんの徹底的なこだわりにある。
まず一つ目が、五感を刺激する「完熟」へのこだわりだ。セイントベリーでは、いちごの完熟度を色、形、ツヤ、ヘタの反り具合、そして香りまで五感を使って見極めている。通常の農家よりもハウス内の温度を低めに設定し、ゆっくりと時間をかけて完熟するように育てることで、味と香りを最大限に引き出す。この栽培法は手間と時間がかかるが、スーパーでは決して味わうことのできない、とびきり美味しいいちごが生まれるのだという。
そして二つ目が、人と環境に優しい「減農薬栽培」である。土づくりや水、肥料、温度や湿度管理を徹底することによって、小さな子どもからお年寄りまで、誰もが安心して食べられるいちごが完成する。
「ありがたいことに、多少値段が張っても、うちの完熟いちごを使いたいと指名してくださるお客様も多いんです。本当にありがたくて嬉しい事ですね。」(聖仁さん)
また、フードロスの観点から生まれた3種のオリジナルジャム『エンジェルフレッシュ』も大好評だという。熟れすぎてしまったいちごや、軽い傷のついたいちごなど、味は美味しいものの“規格外”となってしまういちごに、ハーブやスパイス、ミルクを合わせて加工したジャムは、プレゼントとしても喜ばれる一品だ。


④夫婦二人三脚で描く未来
江﨑さん夫妻の夢は、単に美味しいいちごを作ることだけにとどまらない。
「まだまだ構想段階ではありますが、小さな子どもから大人まで、みんなが心から楽しめるようなアミューズメント施設を併設したり、セイントベリーを単なるいちご農園ではなく、“人が集う場所”にしていけたらいいなと思っています。」(聖仁さん)
2024年8月には「ぎふSDGs推進パートナー シルバーパートナー」に登録されており、いちごを通して社会に貢献する「べりーぐっとふぁーみんぐ活動」の展開にも、その想いが表れている。
「現在、『エンジェルフレッシュ』の製造を福祉施設の加工場に依頼しています。セイントベリーが、多くの方にとって“社会とのつながりを持てる場所”になることで、貢献をしていきたいと考えています。」(くるみさん)
形が不揃いなだけで味は変わらないいちごを、規格外として廃棄することなく、オリジナルジャム『エンジェルフレッシュ』に加工。この取り組みはフードロス削減に貢献するだけでなく、福祉施設に製造を依頼することで、障がいを持つ人々の仕事創出にも繋がっている。
また、就労支援機関と連携し、「半日だけ」「月に1回だけ」など、働きたいと思っていても健康上の理由から長時間働くことが難しい人々にも、短時間でも労働できる場所を提供している。就労体験の実施やセイントベリーでの働き方の講義を行うなど、誰もが自分らしい働き方を認めることで、社会との接点を生み出しているのだ。
さらに今年からは、いちごのシーズンが終わる夏場にメロンやスイカ、来年からはハーブの栽培にも挑戦し、“年間を通して楽しめる場所”に変えていきたいと意気込みを語ってくれた。
「一番美味しいいちごを届けたい」という情熱と、「社会に貢献したい」という二人の想いが詰まったいちご農園『セイントベリー』。江﨑さん夫妻の挑戦は、これからも続いていく。
いちご農家への転身から10年。さまざまな葛藤や試行錯誤を乗り越え、江﨑さん夫妻がたどり着いた景色は、まだ始まりにすぎない。唯一無二の「奇跡のいちご」が、これからどんな未来を紡いでいくのか、さらなる飛躍に期待が高まるばかりだ。


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