子どもたちの成功体験を紡ぐ革職人「lesamie」を訪ねてみた。





革製品の製作販売を行い、子どもたちへのものづくり体験を通じて「好きなもののきっかけ」を提供している。今回は、代表の長沼 紗也加(ながぬま さやか)様にお話をうかがった。
- 変わらぬ想いを込めた新しい名前
- 布から革へ、自然に広がったものづくりの道
- 子どもたちの成功体験を育む革づくり体験教室
- 経年変化を楽しむ自然なめしの革づくり
- 工房開設へ向けて歩み出す新たな挑戦
①変わらぬ想いを込めた新しい名前
2025年9月、長沼さんは活動名を「kikka」から「lesamie(レザミー)」へと変え、革職人として新たなスタートを切った。
「kikkaだと革屋というのが伝わりにくいので、lesamieという屋号で再スタートすることにしました。レザーは革、ミーは私。私の革という意味を込めています。」
シンプルな言葉の中に、革への想いが込められている。覚えてもらいやすさを意識し、ブランドとして立ち上げるための一歩となった。
前の活動名「kikka」にも、大切な意味があった。
「kikkaは次のきっかけを見つける、という意味で名付けました。発達がゆっくりな子どもの子育てを通してたくさんの人に助けてもらったので、その子が大きくなった時に何か返したい、という気持ちから、私にできることでお返ししていこうと思ったんです。」
長沼さんの活動の原点には、息子さんの子育て経験がある。子どもが好きなものに出会った時の強さを知っているからこそ、ものづくりを通して「好きなもののきっかけ」を届けたいと願っている。
「子どもって好きなものがあるとすごく強いんですよ。大人もそうだと思いますが、好きなものがあるから頑張れる。そのきっかけを見つけてもらえたらと思って活動しています。」
新しい屋号になっても、その想いは変わらず受け継がれている。

②布から革へ、自然に広がったものづくりの道
長沼さんが革職人として歩み始めたのは、意外にもコロナ禍から。まだ日は浅いが、ものづくり自体は20年近く続けてきた経験がある。
「昔からものづくりが好きで、布でいろいろ作っていたんです。子どもの保育園バッグや服、服飾小物などを作っていました。販売はしていなかったんですけど、周りの人にあげたりしていて。そんな趣味が自然と仕事につながっていった感じですね。」
布から革へ移ったのも自然な流れだった。
「以前から革も好きだったので、『これも作れるんじゃないかな?』と思って触り始めました。」
しかし布と革では勝手が大きく違う。長沼さんは独学でその壁を越えていった。
「全然技術が違うので、最初はひたすらキーホルダーを作ってました。実は私は不器用なタイプで、カッターを使って革をまっすぐに切ることも難しくて。それでも1年くらいはキーホルダーばかり作り続けて、少しずつ感覚をつかんでいきました。」
学びを求めて、自ら人に会いに行くことも忘れなかった。
「垂井にあるレザーファクトリーフジツカさんで道具の使い方を教えていただいたり、愛知まで行って職人さんに話を聞かせてもらったりしました。とにかく自分の足で情報をつかみに行ってます。」
多くの人から学んだ技術や考え方を、自分なりの作品へと反映している。革の道のりは決して平坦ではないが、一つひとつ積み重ねてきた歩みが今の作品を形づくっている。
③子どもたちの成功体験を育む革づくり体験教室
長沼さんの活動の柱のひとつが、子どもたちに向けた革製品づくりの体験教室だ。ハンマーを使った刻印体験を通じて、子どもたちが自分の力でつくり上げる成功体験を届けている。
「刻印はハンマーでトントンと模様を打ち込むんです。自分の好きな形を選んで刻むので、ハンマーを持てるお子さんなら2歳くらいから体験してもらっています。」
体験では何よりも子どもの自主性を尊重している。
「できるだけ大人は手を出さないようにしているんです。私もそうですし、お母さんたちにも『ここにハート打ったら可愛いよ』みたいな声かけはしないようお願いしています。子どもの好きなようにやってもらうのが大切だと思っています。」
コンセプトは「成功体験をより早く、より長く」。
「ものづくりは早く成功体験を得られるんです。そして革は長持ちするので、小学生の時に作ったキーホルダーを大人になるまで持つことができます。経年変化で色が変わっても、それを見るたびに『あの時頑張ったな』って思い出せるんです。」
クラウドファンディングを通じて200人分の無料体験を提供するなど、より多くの子どもに機会を広げる取り組みもしてきた。体験から生まれる変化も少なくない。
「発達がゆっくりな子が体験に来てくれて、その後『ものづくりが好き』と話し始めたんです。そこから個別でアクセサリーづくりを教えてほしいと依頼があって、訪問したこともあります。」
一度体験した子が再び訪れることもある。
「前に体験した子が、次はお小遣いを握りしめてやって来て、『ママの誕生日プレゼントを作りたい』『パパに贈りたい』と言ってくれるんです。誰かを想って、もう一度来てくれるのが嬉しいですね。」
革製品づくりを通じた体験は、子どもたちに小さな自信を積み重ね、やがて大きな力へと育っていく。


④経年変化を楽しむ自然なめしの革づくり
長沼さんの革製品は、素材選びにもしっかりとしたこだわりがある。特に大切にしているのは、自然ななめし方法でつくられた革だ。
「動物の皮を革にする過程を“なめす”って言うんですけど、そのやり方にもいろいろあって。化学薬品を使うものもあれば、自然の素材を使ってなめすものもあります。私はできる限り自然な方法でなめされた革を使うようにしています。」
理由は、革が時間とともに見せる表情にある。
「革って、使い込むほどに味が出てくるんですけど、その変化が強く出るのが自然な方法でなめされた革なんです。人間が年を重ねて深みを増すように、革も一緒に変化していく。その過程を共に楽しめるのがいいなと思っています。」
今後は、三つのラインでの展開を予定している。牛革の「TOMONI」、鹿革の「RUNTO」、そしてランドセルリメイクの「ITOWA」だ。
特に鹿革への取り組みは、地域の課題にもつながっている。
「今は駆除対象になっている鹿の革を活用して製品にしていきたいと思っています。古来、日本の革製品は鹿革が主流だったんです。国宝にも残っている鹿革があるくらいで、1000年経っても残っているんですよ。鹿って本当に優秀なんです。」
現在は猟師と連携し、駆除された鹿の革をなめしに出している段階だ。
ランドセルリメイクもまた、地域のニーズに応える新しい取り組みだ。
「6年間使ったランドセルって処分しづらいんですよね。岐阜県内を調べると、リメイクをやっているお店は数店舗しかなく、女性職人で取り組んでいる人はいませんでした。だからこそ、自分がやってみようと思ったんです。」
自然素材へのこだわりは、革の魅力を引き出すだけでなく、地域の課題解決や暮らしの小さな声に寄り添う形となって広がっている。


⑤工房開設へ向けて歩み出す新たな挑戦
長沼さんは明確なビジョンを描きながら、事業を一歩ずつ進めている。将来的には大野町に工房兼ショップを開設する計画だ。
「工房兼ショップをオープンしようと思っています。もう動き始めていて、古民家を改装してつくる予定です。」
そこでは販売だけでなく、体験教室を中心に据えたいと考えている。
「いろんな体験をしてきて思うのは、自分で作ったものの方が買ったものよりも大事にできるし、思い出も残るんですよね。私が作って販売するのも嬉しいんですが、できるだけ自分の手で作ってもらえる場にしたいと思っています。」
特に力を入れたいのは親子での体験だ。
「子どもの習い事の一つとして選んでもらえたら嬉しいです。親子で一緒に作ることで、思い出としても残せるような場所にしていきたいですね。」
課題を尋ねると、長沼さんは笑いながら答えてくれた。
「事業計画はすでに進める段階に入っているのですが、あとは私自身が怠けないようにするだけです。そこは自分でも注意しなければと思っています。」
謙遜しつつも、これまでの活動で築いた仲間たちの存在が支えになっている。
「kikkaとして活動してきた中で出会った仲間たちが助けてくれているので、そのおかげで順調に進められています。」
ブランドのコンセプトもはっきりと定まっている。
「手にするたび使うたびに愛おしいと思う、触れるだけで嬉しくなるアイテムを、大切な今を、未来につなぐものづくりを目指して届けるというコンセプトなんです。手に取ってくれたお客様がそういった想いを感じてくれたら嬉しいですね。」
革製品に興味のある方、子どもにものづくり体験をさせたい方、そして地域の新しい挑戦を応援したい方は、ぜひlesamieに注目してほしい。一針一針に込められた想いと、子どもたちの未来への願いが、きっと心に響く世界を見せてくれるだろう。

詳しい情報はこちら