自分と向き合う時間をつくる「candle atelier GLIM」を訪ねてみた。





店内は、可愛らしい絵が描かれたものや、花々をあしらったものなど、さまざまな手作りのキャンドルが並ぶ癒しの空間。今回はオーナーの末武 優希菜(すえたけ ゆきな)様にお話を伺った。
- キャンドルが導いた、自分らしい生き方
- 偶然の出会いが導いた必然
- 灯りのそばで、自分と向き合う時間を
- キャンドルとともに育つ、自分と教室の物語
- 街に灯りをともす、“GLIM”のこれから
①キャンドルが導いた、自分らしい生き方
2025年4月、中津川市に「candle atelier GLIM」がオープンした。キャンドル教室とオリジナルキャンドルの販売を行う小さなアトリエだ。2024年11月末に物件を内見し、年末に契約を決定。デザイン会社に店舗デザインを依頼し、約3ヶ月という短期間で形にしたという。
「物件を決めて、デザイン会社にお願いしてから完成まで、あっという間の3ヶ月でした。」
末武さんが「自分のアトリエを持ちたい」という夢を描いたのは、今から5年前。キャンドル作りの楽しさに出会ってから、自身の技術を磨き、マルシェでの販売やレンタルスペースでのレッスンなど、少しずつ活動を広げながら準備を進めてきた。
「キャンドル作りの楽しさを知ってから、自分はもちろん、もっと多くの人が自分らしくキャンドル作りを楽しめる場所をつくりたいと思っていました。教えられるようになるまで練習を続けて、販売やレッスンにも挑戦してきたんです。」
キャンドル作りとの出会いは、社会人になりたての頃。リフレッシュを求めて友人と訪れた名古屋・大須のキャンドル教室が、そのきっかけだった。
「初心者でも歓迎してくれる雰囲気で、先生がとても優しく教えてくださったんです。すごく楽しくて。まさかそのとき一緒に行った友人も、私が将来お店を開くなんて思っていなかったと思います。」
その後もキャンドル作りに通い続けるうちに、「これを仕事にしたい」と思うようになった。2時間のレッスンはあっという間で、仕事や日常のことを忘れ、自分自身に集中できる大切な時間だったという。
「キャンドルを作っている時間は本当に濃密で、頭の中がすっと空っぽになるんです。友達と一緒に作っても全く違うものができて、それがまた面白くてどんどん夢中になっていきました。」
愛知県内の複数の教室で基礎を学び、東京へも足を運び、さらに技術を磨いた。その後は、長野県松本市にも3ヶ月間、毎週通って技術を学んだ。そうして積み重ねた経験が、今の教室づくりにつながっている。
キャンドルの灯火は、慣れない社会人生活の不安を和らげ、心を癒してくれる存在だった。その出会いが、いま「GLIM」というかたちになり、中津川の街に新しい光を灯している。

②偶然の出会いが導いた必然
「GLIM」という名前には、どんな想いが込められているのだろうか。
「他とかぶらない名前を探していた時に、通勤中に聴いていた“GLIM SPANKY”というバンドの曲からインスピレーションを受けました。調べてみたら、“GLIM”には“光”や“ろうそく”という意味があると知って、キャンドル教室にぴったりだと思ったんです。」
その偶然の出会いから生まれた「GLIM」という名前は、やがてお店の個性と世界観を形づくる大切な言葉になった。
末武さんは現在、手描き模様をあしらった「おえかきキャンドル」というオリジナルキャンドルを制作している。まるで絵本から飛び出してきたような、水彩タッチの優しいデザインが特徴だ。その温かみある世界観に惹かれて訪れる人も少なくない。
「絵本のようなデザインのキャンドルが多いので、『グリム童話の“グリム”から取ったの?』と聞かれることも多いです。でも、それがきっかけで“グリムらしさ”が自然と育っていったように感じています。」
偶然から始まった名前が、今ではブランドの象徴に。“GLIM”という言葉には、末武さん自身の想いと、キャンドルのように静かに灯り続ける信念が重なっている。

③灯りのそばで、自分と向き合う時間を
家庭や仕事など、日々さまざまな役割に追われる人たちが、自分を大切にできる時間を過ごしてほしい――そんな想いから、この教室は生まれた。
「皆さん、キャンドル作りの過程を本当に楽しんでくださっていて、集中して作業されています。レッスン後には『こんなに無心になれたのは久しぶり!』と言ってくださる方が多く、スッキリした表情で帰られるのを見るととても嬉しいです。」
訪れるお客様は女性が中心だが、カップルや男性のみで来られる方も少なくない。
「以前、彼女へのプレゼントを作りたいと来てくださった男性が、後日“楽しかったからまた作りたくて”とリピートしてくださったことがありました。とても嬉しかったですね。」
キャンドル作りは一見ゆったりとした作業に見えるが、実はタイミングを見計らう工程も多く、集中力を必要とする。
「意外と忙しい瞬間もあるので、驚かれる方も多いです。でも基本的には無心になれる工程が多く、キャンドル作りを通して自然と肩の力が抜け、自分と向き合える時間になると思っています。」
そして、キャンドル作りの醍醐味は、完成した作品を灯す瞬間にもある。
「日常で悩みや不安を感じているときも、キャンドルをひとつ灯して静かな時間を過ごすだけで、『なんだか大丈夫かも』と思えるんです。そのまま眠って、翌朝すっきり目覚めることも多くて。本当に不思議な存在だなと感じます。」
キャンドルがもたらす安らぎ――それは、忙しい毎日を過ごす人たちにとって、静かな灯火がくれる小さなご褒美なのかもしれない。

④キャンドルとともに育つ、自分と教室の物語
インストラクターとして教室を運営する一方で、作家として個人の作品も発表し続けている。将来的には、さらに技術を磨き、「GLIMから学びたいと思ってもらえるような教室にしたい」と意欲を語る。
「初心者の方にも楽しんでいただけるレッスンを提供しながら、しっかり学びたい方のために知識を深め、サポート体制を整えていきたいと思っています。」
キャンドルを通して伝えたいのは、「力を抜くことの大切さ」だという。
「切羽詰まっていると、どうしても考えが狭くなって、余計に力が入ってしまうと思うんです。でも一度肩の力を抜いて、“まあ大丈夫か”と思えるだけで気持ちが軽くなる。キャンドル作りが、そのきっかけになればいいなと思っています。」
レッスン後、参加者の表情が和らぐ瞬間も、末武さんのモチベーションを支えている。
「晴れやかな顔で帰ってくださる方を見ると、本当に嬉しいです。何度か体験を重ねるうちに、自分との向き合い方が少しずつ優しくなっていく方も多くて。その変化を見られるのは大きな喜びです。」
自分と静かに向き合う時間、小さな灯火を囲むひとときが、前を向くための切り替えとなり、自分らしさを取り戻すきっかけになる。
「GLIM」が届けているのは、キャンドルとともに心を軽くする時間だ。

⑤街に灯りをともす、“GLIM”のこれから
インストラクターとしてレッスンを教えながら、作家として自分の作品を発表し続ける。その両立こそが、自分らしい道だと末武さんは語る。
「レッスンを教えるインストラクター業と、作家として自分の作品を販売するのはまた別のもの。だからこそ、どちらも大切にして両立していきたいと思っています。」
作家としての挑戦はまだ始まったばかりだが、少しずつ、確実に歩みを進めている。代表作の「おえかきキャンドル」には、カラフルで絵本のような世界が広がり、見る人の心を明るくする魅力がある。
季節ごとに変化を取り入れる作品づくりも心がけており、クリスマスにはツリー型のキャンドルを制作するなど、見る人を楽しませる工夫も欠かさない。ものづくりの中で、自分の感性やセンスがダイレクトに表れる瞬間こそ、作家活動の醍醐味だという。
「キャンドル作りと一言で言っても、技法の幅は本当に広く、その中でどれだけ自分の個性を出せるかが鍵になると思っています。インストラクターとしての学びも深め、“GLIMらしい”教室にしていきたいです。」
コロナ禍で“おうち時間”が増えたことにより、キャンドルを取り巻く環境も変化した。全国的にキャンドル作りを学ぶ人が増え、教室の数も急増している。そんな中でも、末武さんは「地域に根付く活動」を大切にしている。
「将来的には“キャンドルナイト”を中津川の名物にしたいんです。地元に貢献し、地域の方と一緒に楽しめるイベントをつくっていきたいと思っています。」
柔らかな灯りのもとで、作って楽しい、灯して癒されるキャンドル。その魅力を伝えながら、地域に根付き、人を育てる教室へ――。「GLIM」は、街の明かりとなるような存在を目指して、静かに進化を続けていく。
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