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揖斐川町

薬草文化を未来へつなぐ「はるひの案内所」を訪ねてみた。

薬草文化を未来へつなぐ「はるひの案内所」を訪ねてみた。
TOM
TOM
ヨモギの葉っぱってふわふわしててかわいいよね〜
SARA
SARA
かわいいだけじゃなくて、お灸や薬草茶に使われてきたのよ
TOM
TOM
ボク、ヨモギ団子なら毎日食べたいなあ・・・
SARA
SARA
・・・ただの食いしん坊だと薬効も追いつかないわね
この記事は約8分で読めます。
揖斐郡揖斐川町にある「はるひの案内所」をご存知だろうか。
薬草の里として知られる旧春日村(かすがむら)の文化を伝え、地域の魅力を発信する観光案内所兼農林産物直売所だ。運営する合同会社いびはる商舎の代表・四井智教(しい とものり)さんと、小寺多誉子(こでらたよこ)さんに、薬草文化の継承への想いや、地域に根ざした活動について伺った。
今回のツムギポイント
  • 名前に春日への想いを込めて
  • 薬草文化を「地域のこし」の拠点に
  • 少人数でじっくり伝える体験型イベント
  • ぎふコーラで広がる薬草の新たな可能性
  • 宿泊もできる拠点づくりへの挑戦

①名前に春日への想いを込めて

 

「はるひの案内所」は、春日の「地域のこし拠点」として2024年5月にオープンした。「地域おこし」ではなく「地域のこし」。春日地域に伝わる薬草やお茶などの文化を残していくために設立された、観光案内所兼農林産物販売所だ。四井さんは薬草を「足元の宝物」と表現し、この文化を次世代へとつなげようと奮闘している。

 

「はるひの」というあたたかく柔らかい響きの名前の由来について尋ねると、地域を大切に思う四井さんの想いが返ってきた。

 

「2005年の平成の大合併で春日村は揖斐川町となり、村の名前が消えてしまいました。でも春日村を大事にしたい、春日にゆかりのある名前にしたいと考えたんです。」

 

数多くの候補を検討するなかで辿り着いたのが「はるひの」という言葉だった。

 

「調べていくと、春日にかかる枕詞に『はるひの』という言葉があることを知りました。本来は奈良の春日山に関するものですが、『カスガ』という硬い響きよりも、柔らかくはんなりとした『はるひの』の響きが良いと感じたんです。」

 

枕詞とは、特定の言葉を導き出したり、歌全体の調子を整えるために添えられる決まった言葉のこと。この場合「はるひの春日」とすることで七音となり、歌にのせやすくなる。

 

「僕らも枕詞のように春日地域に寄り添い、支える存在になりたい。少しでも春日に携われる拠点にしたいという想いを込めました。」

 

四井さんは、この建物でかつて「kitchen marco(キッチンマルコ)」というカフェを営んでいた。「五感で楽しむ伊吹薬草」をコンセプトに掲げ、薬草文化を町内外へ発信していたという。現在は飲食業のかたちではなく、別の方法で春日の文化を伝えており、その選択にも四井さんらしい想いが込められている。

 

「カフェという形だと、ただ食事をして終わりになってしまったり、本来の意図とは異なる要望を受けたりすることがありました。私たちは飲食店を開きたかったわけではなく、観光案内所として地域の生産者さんや作り手さんを紹介できる、複合的な拠点づくりに集中したかったんです。」

 

そこで飲食業はやめ、看板を「観光案内所」とシンプルな名称に変更したところ、道を尋ねたり観光情報を求めたりする人が、気軽に立ち寄ってくれるようになった。何よりもふらっと訪れやすい雰囲気づくりを心がけているのだ。

 

②薬草文化を「地域のこし」の拠点に

 

はるひの案内所が最も力を注いでいるのが、薬草文化の継承である。揖斐川町春日地域は古くから「薬草の里」として知られ、滋賀県との県境に広がる伊吹山には280種以上の薬草が自生している。約400年前、織田信長がポルトガル人宣教師の教えを受けて伊吹山に薬草園を開いたことが、その始まりだと伝えられている。

 

春日の人々にとって薬草は、かつて健康を守るために欠かせない存在であり、日常生活に深く根付いていた。しかし近年では、薬草を暮らしに取り入れる機会が少しずつ減ってきているという。

 

「この地域に根付いている薬草文化を、少しでも残していきたいと思っています。地域に触れていただくきっかけとしても薬草は重視されていて、行政からも薬草のPR事業を受託しています。」

 

四井さんは、薬草のブランディングにも積極的に取り組んでいる。

 

「薬草は簡単に手に入るというイメージが強く、安価だと思われがちです。ただ、価値を伝えるためには単に値段を上げればいいわけではありません。この金額にはどういう理由があるのか、例えば採取の大変さや、自然災害によって植生が変わりつつある現状なども含めて、しっかり伝えていく必要があると考えています。」

 

薬草が持つ効能だけでなく、その背景にある歴史や文化、そしてなぜその価格になるのかという価値を丁寧に伝えていくことに力を入れているのだ。

 

実際に店舗で扱っている薬草茶は8〜9種類。薬機法の関係で販売できるものは限られるが、ドクダミ茶をはじめ、ハーブティーのような新しい飲み方も提案している。

 

一方、小寺さんはニホンミツバチの蜂蜜を扱っている。

 

「薬草も蜂蜜も自然から生まれたものであり、自然に左右される点で親和性があります。私たちは二人とも春日にルーツがあります。春日の恵みをしっかりブランディングして伝えていくことを大切にしています。」

 

薬草と蜂蜜という自然由来の産物を通じて、地域の魅力を発信しているのだ。

 

はるひの案内所にかかわるまでは、事務員や保育士など、全く異なる仕事をしていた小寺さん。自分で考えて行動できるこの仕事に大きな喜びを感じているという。地域の人たちからのあたたかい応援の声が、活動の大きな励みとなっている。

 

さらに、春日地域にゆかりのある作家や事業者の商品の販売も行っている。単なる商品の販売にとどまらず、「どんな人がどういう思いで作っているか」という作り手のストーリーや背景まで丁寧に伝え、商品を通じて地域との感情的な繋がりを深めることを重視している。

 

③少人数でじっくり伝える体験型イベント

 

はるひの案内所では、さまざまなイベントを企画・開催している。なかでもユニークなのが、毎週水曜日に行われる「薬草健康麻雀」だ。

 

「各地で流行している健康麻雀を、薬草茶を飲みながら、より健康的に楽しめる企画として始めました。」

 

そう語るのは小寺さん。健康麻雀とは「賭けない・飲まない・吸わない」を基本ルールとした麻雀のこと。実は小寺さんのお父様は、揖斐郡池田町で健康麻雀の活動が始まった当初からのメンバーなのだという。健康麻雀は高齢者の認知症予防や、地域コミュニティの活性化にもつながっている。

 

麻雀を楽しみながら薬草茶に触れてもらえる場をつくり、参加者一人ひとりと丁寧に交流しながら薬草文化の奥深さを伝えることを目的としている。

 

「少人数で一人ひとりとしっかり向き合えるイベントが、私たちには合っていると感じています。じっくり想いを語り、薬草の魅力や地域の文化を伝えられるよう心がけています。」

 

その姿勢は、地域の人々との関係構築にも活きている。

 

「継続は力なりと言いますが、最近は地域の方から応援のお声をいただくことが本当に多くなりました。長く住まれている方に、この事業を認めていただけているように感じて、とても嬉しく思っています。」

 

薬草を介した交流の場は、地域の人々にとっても新たなつながりを生み出している。小寺さんたちの取り組みは、文化の継承だけでなく、春日の暮らしをより豊かに彩る役割を担っているのだ。

 

④ぎふコーラで広がる薬草の新たな可能性

 

はるひの案内所では、薬草を使った「ぎふコーラ」を提供している。四井さん自身も開発メンバーの一人であり、このプロジェクトは2020年にスタートした。薬草を取り入れたクラフトコーラとして注目を集め、地域の新たな名物となっている。

 

コーラの主原料には、揖斐川町旧春日村で採れるヨモギ、カキドオシ、ドクダミ、ヤブニッケイなどの薬草が使われる。これらを独自にブレンドし、スパイスと組み合わせることで、薬草特有の苦味を和らげ、健康的に楽しめる炭酸飲料へと仕上げている。

 

「薬草茶だけでなく、若い世代にも親しみやすいかたちで薬草文化を伝えたいと考えています。ぎふコーラは、その入り口として効果的だと感じています。」

 

この取り組みは単なる商品開発にとどまらない。製造過程で生じる薬草やスパイス、柑橘などの「ガラ」(素材のかす)を無駄にしないため、「ガラ循環活用プロジェクト」も立ち上げた。その一環としてクラフトジンやクラフトビールも誕生し、岐阜ならではの循環型のものづくりが広がりを見せている。

 

さらに、はるひの案内所では、クラフトコーラ作り体験も企画している。参加者は薬草について学びながら、自分だけのオリジナルコーラを作ることができ、薬草の効能や歴史、そして地域文化を深く知るきっかけとなっている。

 

薬草を活かした商品や体験を通して、春日ならではの文化は新たな形で息づき、次世代へと受け継がれている。

 

⑤宿泊もできる拠点づくりへの挑戦

 

今後の展望について、四井さんは宿泊施設の構想を語る。

 

「この地域には泊まれる場所が本当に少ないんです。2階の空きスペースを活用して、10人ほどが素泊まりできるゲストハウスや簡易宿泊所のようなものをつくりたいと考えています。」

 

はるひの案内所の近くには「かすがモリモリ村リフレッシュ館」があり、薬草風呂を楽しむことができる。薬草を袋に入れて湯に浸すと、爽やかな香りに包まれ、寒い季節には体の芯から温まる心地よさが広がる。もし周辺に宿泊施設が整えば、春日の自然や文化をより深く体験できるだろう。

 

「ここに泊まることをきっかけに、川遊びや釣り、紅葉狩りなど、それぞれの過ごし方で春日地域を楽しんでもらいたい。関係人口を増やしていくことが、地域の活性化につながると信じています。」

 

関係人口とは、地域に住む「定住人口」や、一時的に訪れる「交流人口」ではなく、地域と多様な関わりを持つ人々のことを指す。そうした人々が増えていくことで、春日はこれからも息の長い魅力を育んでいくに違いない。

 

小寺さんも今後の目標を語る。

 

「薬草に興味がある人、自然に興味がある人が安定してリピートしてくださる場所にしたいです。もっとたくさんの人と薬草について話したいし、体験してもらいたい。そして薬草やハチミツを生かした自社商品の開発も進めていきたいですね。」

 

春日地域は、透明度の高い清らかな川やアマゴ釣りのスポット、秋の紅葉など、四季折々の魅力にあふれている。体感温度は平地より7度ほど低く、夏は避暑地としても心地よい場所だ。

 

「サードプレイス(自宅や職場とは異なる心地よい第3の居場所)という言葉がありますが、第3でなくても第6・第7でもいい。ここに来た時に『お帰り』と言われるような拠点になれたら嬉しいです。」

 

四井さんの言葉には、単なる観光案内所を超えた、地域の「のこし」の拠点としての強い想いが込められている。

 

薬草文化という地域の宝を次世代に伝えながら、新しい価値を創り出していく「はるひの案内所」。岐阜県の山間に佇むこの場所は、薬草を通じて人と人、人と地域をつなぐ大切な役割を担っている。

 

揖斐川町を訪れる際には、ぜひ立ち寄って薬草茶を味わいながら、この土地ならではの深い魅力に触れてほしい。きっと都会では得られない、特別な時間を過ごせるに違いない。

 

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