世界に誇る本質的な服づくりを追求する「株式会社ネクトリー」を訪ねてみた。
「長く着られる服」「心地よくリラックスできる服」という普遍的な真価を追求する、繊維製品の企画製造も手掛けるアパレルメーカーだ。今回は、代表取締役を務める足立 貴志(あだち たかし)様にお話をうかがった。
- 揺るぎない「本質」へのこだわり
- 探究心と行動力で築いたモノづくりの基盤
- 技術の統合と事業の独自性
- 顧客体験の充実と世界を見据えた挑戦
①揺るぎない「本質」へのこだわり
岐阜県羽島市——古くから日本の繊維産業の中心地として栄えてきたこの地に、本社と縫製工場を構える株式会社ネクトリー。単に流行を追うのではなく、「長く着られる服」「心地よくリラックスできる服」という、本質を徹底的に追求したモノ作りで知られている。
ネクトリーという社名は、「Neo(ネオ:次の・新しい)」と「Factory(ファクトリー:工場・農園)」を組み合わせた造語だと教えてくれた。
「今ではだいぶ工場のイメージや体制も変わってきましたが、私が仕事を始めた約25年前は、生産現場の評価が十分ではない状況もありました。私は、『自分たちでこの業界のあり方を変えていきたい』という強い想いを持っていました。デザイン、縫製、技術など、あらゆる新しいものに積極的に挑戦していく気持ちを込めて、『ネクトリー』と名付けました。」
お祖父様の代から続く縫製工場の技術と精神を受け継ぎ、2017年に法人化された同社は、ファッション性の高い自社ブランドを展開。国内生産と厳選された高品質な素材にこだわるその姿勢は、現代の大量消費の時代において、服の真価を問い直すメッセージを発している。
ネクトリーの製品は、素材選びにも一切の妥協がない。天然素材の持つ魅力を最大限に引き出すことを基本とし、肌触りや着心地に優れた素材を採用している。
例えば、フランダースリネンとコットンを交織したオリジナル素材を使用するなど、常に新しい着心地を追求する姿勢が見られる。
また、国内で生産された上質な素材を活用することを基本方針とし、素材の背景や生産者の想いを理解し、製品に反映させることを重視している。
これらの服は、着るほどに身体に馴染み、素材の風合いが豊かに増していくのが特徴だ。「事業を大きくするより、本質を追求したい」という信念の通り、流行に流されない永続的な価値が、素材と縫製の両面から深く追求されている。
②探究心と行動力で築いたモノづくりの基盤
繊維業の家に生まれ、洋服作りを基礎から学び、そのDNAを受け継いできた足立社長。母体である足立商店は、もともと紳士スラックスの製造・卸売を行っていたが、卸売とは異なる、自社ブランドとOEM事業の立ち上げを決意した。
「昔から、『服屋さんになりたいな』という漠然とした夢がありました。東京で、同世代のクリエイターたちが自らのブランドを立ち上げている様子に刺激を受け、ブランドを始めることは実現可能な目標だと確信しました。特に岐阜は繊維産地という恵まれた環境にあったので、モノ作りの実現は遠い夢ではありませんでした。」
この熱意から始まった独学でのノウハウ習得は、足立社長の圧倒的な探究心と行動力の賜物である。
「できる、できないに関係なく、お客さまからの仕事は全て引き受けました。分からないことは工場に聞きに行き、仕事が終わってから縫製工場でミシンを習うなど、自ら技術を習得していきました。失敗を繰り返しながらも、実践を通して技術と知識を身につけていきました。」
この実践の連続こそが、ネクトリーのアパレル製品の全工程に対する深い理解と卓越した技術の源泉となった。
中でも、ネクトリーの主力ブランドである『TROVE(トローヴ)』は、「リラックス感」と「ファッション性」を兼ね備え、体に優しく寄り添うようなパターンと上質な素材を使用し、モダンで洗練されたデザインが特徴だ。シンプルでありながら細部にこだわり、着用した際のドレープやシルエットの美しさが際立つ。
「ヴィンテージと呼ばれる服は、作られた当時は特別なものではなく、その時代の最高の技術や素材が組み合わさることで、後世に残る価値を持つようになったものです。私たちの服も、いつか未来のヴィンテージになれるようにという願いを込めています。」
また、洋装の縫製技術を持つネクトリーだからこそ実現できた文化と技術の融合が、もう一つのブランド『和ROBE(ワローブ)』である。日本の伝統的な「和装」の要素を、洋服の生地と仕立てで現代的に解釈し、日常で気軽に着られる新しい形の和服を提案。特に海外からの注目度も高く、「日本の服飾文化をアップデートしたブランド」として高い評価を得ている。
③技術の統合と事業の独自性
ネクトリーは現在、自社ブランド事業、OEM事業、そして高度な技術を持つ縫製工場という三位一体の体制で事業を展開。一般的に細分化されがちな縫製工場において、ネクトリーは「全てのアイテムの縫製に対応できる」という大きな強みを持っている。
「縫製工場はカテゴリーで分かれていることが多いですが、うちは全てのアイテムが縫えるという専門性の広さを持っています。様々な素材やデザインに対応できる知識量があり、どの手法が最適かという確かな判断が可能です。」
ミシンで製作可能なものであれば、リメイクからアウトドアグッズ、防災グッズに至るまで、その技術力を応用し、柔軟に多様なオーダーに対応できる生産能力を持っている。フィギュアの服など、アパレルから外れた依頼も「考えてできることは全て」請け負い、創造性を広げているという。
ネクトリーのもう一つの強みは、「アパレル製品ができるまでの全ての工程の知識と実行力」を有している点である。
「うちは全ての工程に携わっているので、全ての知識があり、何でも受けられるのが強みです。他社に依頼する場合、生地や加工、販売などを個別に手配する必要がありますが、うちは全てを一貫して請け負うことができます。さらに、工程ごとの知識があるため、あらゆる面で適切なアドバイスを提供できるのです。これが、お客さまに心から信頼してご依頼いただける理由だと思っています。」
この総合力により、ネクトリーは国内の他社ブランドのOEMも手掛けるなど、業界内での確かな地位を築いている。
④顧客体験の充実と世界を見据えた挑戦
ネクトリーは、常に柔軟な経営戦略と、お客様との深い繋がりを大切にすることで、そのブランド力を高めてきた。性別や年齢を問わない「ジェンダーレス」「エイジレス」をテーマに、誰もが心地よく着られるベーシックで高品質な服を提案している。
「性別も年齢も関係なく、どんな方にも手に取っていただけるような服を作っています。サイズ展開も1サイズや2サイズで、どんな体型でも、身長差があっても、“その人が着る”ことで形になるようにデザインされています。」
販売戦略においても、常に顧客体験を最優先している。2008年から東京・渋谷に店舗を構えていたが、2022年3月に御茶ノ水へと移転した。
「お客さまが目的を持って足を運び、心から満足していただけるおもてなしができるお店にしようということで移転を決めました。私も店頭に立つことがありますが、やはり、お客さまが来店してくださり、喜んでいただけた瞬間が一番嬉しいですね。」
今後の展望として、会社の規模拡大よりも「継続していくこと」に重きを置いているという。目が届く範囲で技術と品質のレベルアップを図り続けることが、足立社長が目指す理想だ。
「日本だけに留まらず、日本のアパレル製品やファッションスタイル、カルチャーの素晴らしさを、うちの服を通じて海外により知ってもらうことが夢です。自社ブランド『和ROBE』も、ジャパンカルチャーに魅力を感じる外国人のお客さまから支持を得ています。SNSを通じて知ってもらい、実際に通販で注文してもらえるなど、手応えを感じています。」
祖父の代から受け継いだ「職人の誇り」と「本質を追求する信念」を武器に、大量生産の対極にある、丁寧で価値のあるモノづくりを体現している。足立社長が掲げる「継続」への強い意志は、技術と品質のレベルアップを絶えず追求し、日本の貴重な縫製技術を未来へと繋いでいくという深い意味を持つ。
岐阜から発信される、このモノづくりの情熱は、これからも国内外で多くの人々の心を魅了し、日本のファッション業界における確固たる地位を築きながら、未来のヴィンテージを生み出し続けていくことだろう。
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