技術、倫理、多角経営で未来を切り開く、老舗菓子メーカー「日幸製菓株式会社」を訪ねてみた。
創業から70年以上にわたり、チョコレートとゼリーの製造を主軸として、日本の菓子業界を支え続けてきた老舗企業だ。今回は、代表取締役社長の可児 直往(かに なおゆき)さんと、セールスチーム課長の野田 和宏(のだ かずひろ)さん、トップと現場を牽引するお二人にお話をうかがった。
- 確かな技術力と柔軟な生産体制
- 食の多様性と倫理的経営への挑戦
- 従業員と地域を大切にする企業文化
- 多角的な事業展開で未来を創造
①確かな技術力と柔軟な生産体制
昭和29年(1954年)の創業以来、一貫して「安全・安心」を最優先にした菓子づくりを継続している日幸製菓株式会社。長年の経験で培われた製造ノウハウは同社の最大の強みであり、多くの企業からOEM先として選ばれる理由でもある。現在は、グループ全体で約200名が働く企業へと成長を遂げている。
そんな日幸製菓の主力製品の一つが、多くの人々に愛されるチョコレートだ。アーモンドチョコやピーナッツチョコなどの定番商品はもちろん、ファミリー層向けの食べやすい一口サイズの商品群を豊富に製造している。
「新規参入が難しいチョコレート製造の分野において、当社は大手メーカーにも引けを取らない高い技術と設備を有しています。特に、テトラパックをはじめとする多種多様な製造形式に対応できる柔軟な生産体制は、お客様の幅広い要望を実現する大きな強みだと自負しています。」(野田課長)
この多様な製造への対応力が、多くの小売業や有名ブランドの信頼を勝ち取り、日幸製菓の盤石な経営基盤を築いている。
また、チョコレートと並ぶもう一つの柱がゼリー製品である。同社のスティックゼリー製造に採用されているのは、一本一本に熱をかける「ウェーブ殺菌製法」という独自の技術だ。この製法は、一般的な殺菌方法よりも確実に殺菌できるため、長期保存と高い安全性を両立できるのだそう。
②食の多様性と倫理的経営への挑戦
日幸製菓は、老舗でありながら、「食の多様性」という現代社会の大きな課題に向き合い、果敢に挑戦し続けている。単に「お菓子を作る」だけでなく、食物アレルギーを持つ方々へ安全な製品を届けるため、徹底した管理体制を敷くことで、「食の安全」と「持続可能性」に取り組んでいる。
「アレルギーに関する表示義務が厳格化する中、当社は微量なアレルギー物質の混入も防ぐため、アレルゲンフリー製品専用の製造工場を設けています。」(可児社長)
あえて手間とコストをかけ、アレルゲンが混入しない専用設備と製造ラインを構築することは、製品の信頼性を高めるだけでなく、社会貢献への強い決意の表れでもある。そして、この取り組みは食物アレルギーを持つ多くの人々からの厚い信頼にも繋がっている。
さらに、日幸製菓は業界でも稀な倫理的経営を証明する複数の認証を積極的に取得している。
「原材料生産者を支援する『フェアトレード認証』と、地域の森林保全に取り組む『レインフォレスト·アライアンス認証』を同時に保持している企業は、日本国内でも珍しいと思います。当社は、他社が手がけにくいこうした取り組みを率先して行っています。」(可児社長)
この二つの認証の同時取得は、原材料の調達から製品化に至るまで、人権や環境に最大限配慮していることの証明だ。この他にも、地球環境への取り組みを示す『SBT認証』や、最高水準の食品安全マネジメントシステムである『JFS-C規格』の取得など、「製品だけでなく、その製造背景にも安心できる」という高い価値を提供している。
アレルゲンフリーだけでなく、ヴィーガンや健康志向の人々向けの製品も開発・製造しており、国内外の多様な食のニーズに応える製品ポートフォリオを構築。この高い倫理観と品質へのこだわりこそが、日幸製菓の製品価値を裏付け、倫理的消費を重視する現代の消費者からの購買意欲を高めていると言えるだろう。
③従業員と地域を大切にする企業文化
日幸製菓は、製品づくりだけでなく、企業活動そのものが社会貢献につながるよう、人と地域を大切にする取り組みを重視している。地域経済を牽引する「地域未来牽引企業」への認定、「岐阜県ワーク・ライフ・バランス推進企業」に登録されていることも、その取り組みの成果の一つだ。
可児社長が掲げるのは、「全従業員が楽しく仕事をすること」を基本とする組織づくりである。この背景には、社長自身の海外経験から得た、現代的でフラットな組織観がある。社内では役職名ではなく「さん付け」で呼び合うフランクな文化が根付いており、経営層と現場の距離が非常に近く、意見交換が活発だという。
「役職は役割の違いで必要なだけで、人は皆イコールという考えを基本としています。パートさん、派遣社員の方も含めて、人間としては皆一緒です。」(可児社長)
この平等性の理念は、インクルーシブ(包括的)な職場環境づくりに活かされており、フルタイムでの勤務が難しい方々や、働く機会が少ない方々を積極的に雇用するなど、多様な人材の活躍を支援している。
また、従業員とその家族を大切にする手厚い福利厚生も魅力のひとつだ。社員の子どもの教育補助や、社長からの心のこもった手紙やバースデープレゼントなど、ユニークな制度を充実させることで、社員一人ひとりが安心して、楽しみながら、長く働ける環境を整備している。さらに、外部講師を招いた従業員研修を毎年実施し、推奨資格の取得補助制度を設けるなど、社員の成長とキャリア形成にも積極的だ。
こうした社内文化に加え、地域への貢献活動も欠かさない。年に2回開催される直売会は、周辺の道路が渋滞するほどの人気ぶりだという。地域住民からの常設での販売を望む声に応える形でスタートした自販機事業は、現在、東海エリアで屈指の売上を記録し、地域からの要望が新たな事業の柱へと成長した。
④多角的な事業展開で未来を創造
日幸製菓は、長きにわたり日本の菓子業界を支えてきた確かな技術と、現代の多様なニーズに応える革新的な精神を併せ持つ企業だ。
すでに業界での確固たる基盤を築いているように思えるが、やはり社会的な環境変化、特に市場・ターゲットの縮小傾向への懸念は拭えない。現在の課題、そしてそれを乗り越えるための戦略、今後の展望についても話してくれた。
「販売先や事業を複数持つことで、会社は安定し強固になります。軸が太くなれば、どのような困難も乗り越えられると考えています。」(可児社長)
従来の流通に加え、今後は通販事業、自販機事業の拡大、そして新たなルートとなる土産物市場の開拓を推進していく予定だという。さらに、既存のチョコレート・ゼリー事業に加え、ビスケット製造を行う会社がグループ傘下に加わったことで、製品ポートフォリオを多角化。確かな技術基盤の上に、新たな柱を構築している。
これまで数多くのOEM製造で培った信頼性の高い品質管理体制、そして食物アレルギーという社会課題に真正面から向き合った専用工場の設置は、「すべての人に食べる喜びを届けたい」という、同社の強い想いの結晶だ。
日幸製菓の製品は、多くの人々に「安心」と「幸せな時間」を提供してくれる。その挑戦的な歩みと、未来を見据えた事業展開から、今後も目が離せない。
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