地域とつながるよもぎ蒸しサロン「kanoa」を訪ねてみた。
地元伊吹山で採れる無農薬のよもぎを使い、よもぎ蒸しやよもぎ風呂などを通じて女性の体の不調に寄り添うサロンだ。今回は、オーナーの西川 可菜美(にしかわ かなみ)さんにお話をうかがった。
- 「自由」を意味する店名に込めた想い
- トリマーから転身。よもぎ蒸しとの出会い
- 伊吹山のよもぎで体の不調を整える
- ラフな雰囲気が魅力のプライベートサロン
- 移住者を増やし、地域を盛り上げたい
①「自由」を意味する店名に込めた想い
揖斐川町の古い町並みが残る通り沿いに店を構える「kanoa」。その名前には、ハワイ語で「自由」という意味が込められている。店名の由来を尋ねると、西川さんの日常と価値観がそのまま反映されていることがわかる。
「海とか沖縄が好きで、宮古島に移住していた時期もあるんです。高校生の頃から、冬はスノーボード、夏は沖縄という生活で、今もかなり自由に過ごしている方だと思います。」
自由を大切にするライフスタイルと、南国への憧れ。その感覚が自然に重なり、店名として形になったという。そしてこの「自由」という言葉には、訪れた人にも緊張せず、のびのびとした気持ちになってほしいという願いが込められている。
もともと愛知県出身の西川さん夫妻が揖斐川町に移住したのには、意外なきっかけがあった。
「すぐ近くに有名な盆栽工房があるんですよ。主人が盆栽好きで、独身の頃から10年近く通っていたんです。」
何気ない趣味がきっかけとなり、気づけば揖斐川町そのものに魅了されていった旦那様。静かな町に流れる昔ながらの景色は、長年憧れ続けてきた理想の環境にも重なった。
「主人はもともと古い街並みが好きだったみたいで、揖斐川町は本当に理想的な場所だったようです。」
盆栽との出会いから始まり、やがて夫婦は揖斐川町への移住を決意した。その選択が、のちに西川さんの新しい挑戦を大きく後押しすることになる。
②トリマーから転身。よもぎ蒸しとの出会い
移住前、西川さんは愛知県でトリマーとして働いていた。しかし出産を機に退職し、仕事と子育てをどう両立するか思案する日々が続いた。
「退職してから、次に何をしようかなって悩んでいました。働く中でも子育てとの両立に難しさを感じていたので、それだったら自分でできることを考えようと思ったんです。」
その時、自然に興味を持ったのが「よもぎ蒸し」だった。健康分野への関心は以前からあり、地域のイベントに参加する中で、伊吹山のよもぎに出会ったことが大きな転機となった。
「移住者イベントに参加して、揖斐川町の特産は何だろうって調べたら、伊吹山のよもぎがあったんです。それがちょうど私の興味とよもぎ蒸しに結びついたんですよ。」
自然の力で体を整えるサポートがしたい。そんな想いから、よもぎ蒸しを事業として始めることを決断した。
「私自身、生理不順があったんです。でもきちんと整えていったら妊娠して出産もできました。だから、同じように悩んでいる人の力にもなれたらいいなと思って。」
よもぎや蒸し方の知識は協会で専門的に学んだ。
「よもぎの効果や扱い方を一から教えてもらいました。知らなかったことばかりで、とても勉強になりました。」
地元の資源と自身の関心がぴたりと結びつき、西川さんは新しい道を歩み始めた。
③伊吹山のよもぎで体の不調を整える
kanoaの最大の特徴は、地元・伊吹山で採れる無農薬のよもぎを使用している点だ。伊吹山は、古来より薬草の産地として知られ、「和ハーブの宝庫」ともいわれている。
「地産地消を大切にして、揖斐川町のものを使っています。伊吹山は信長の薬草の宝庫と言われていて、信長が濃姫に伊吹山のよもぎを飲ませたという話も残っているんですよ。」
よもぎ蒸しは、この伊吹山のよもぎを鍋で煮出し、その蒸気を体の下から巡らせることで行う。
「椅子に穴が開いていて、そこから蒸気を体に当てるんです。30〜40分座るだけなんですが、汗がしっかり出たり、じんわりと体が温まったりします。」
感覚としてはサウナに近いが、よもぎの薬効成分が蒸気に乗って体に入り込むため、より深いリラックスと温まりが得られるという。お客様は女性が中心だが、意外にも男性の来店も徐々に増えている。
よもぎ蒸しには、生理不順、妊活、更年期障害、むくみ、冷え、ダイエット、健康維持など、多様な目的で通う人がいる。
「体の調子を整えたくて、2週間に1回のペースで通われる方もいます。」
西川さん自身も、よもぎ蒸しの効果を身をもって実感した一人だ。
「妊娠する前は、定期的によもぎ蒸しをしていました。お腹を冷やさないようにタオルを巻いたり、レッグウォーマーを使ったりして、徹底的に冷え対策をしたら妊娠できたんです。」
よもぎは蒸し以外にもさまざまな使い道がある。
「よもぎ風呂もおすすめです。煮出した汁と葉っぱをお風呂に入れると、汗がびっくりするほど出ますよ。」
そのほか、よもぎ茶や匂い袋としての利用、ローズやラベンダーなどのハーブと組み合わせたブレンドも可能だ。
「ローズは女性特有の不調によくて、ホルモンバランスを整えたりリラックスを促したりします。」
イベントでは、よもぎとハーブを使ったお風呂パック作りのワークショップも開催しており、地域の人々にとっても身近な存在になりつつある。
④ラフな雰囲気が魅力のプライベートサロン
kanoaの魅力は、リラックスできるラフな雰囲気にある。気取らず、身構えずに利用できる心地よい空気感が、訪れる人の緊張を自然とほどいてくれる。
「本当にラフにやっているんです。堅苦しい雰囲気が苦手な方は、ここが合っていると思います。料金も平均より少し抑えているので、気軽に来てもらいやすいんじゃないかなと。」
お客様は町内に限らず、周辺市町からも訪れる。特に主婦層には、子ども連れで来られる点が喜ばれている。
「お子さん連れでも大丈夫です。小さい子がいても気にせず通えるって言っていただけます。」
個人サロンならではの柔軟性と温かさがリピーターを生み、お客様からは多くの嬉しい声が届く。
「すっきり眠れた、体が軽くなった、生理がちゃんと来るようになった、などと言っていただけて、本当に励みになります。」
東京のような都市部には、完全にシステム化されたよもぎ蒸しサロンもあるという。しかし、西川さんのサロンのように、距離感の近い温かさを求めて通う人も多い。
⑤移住者を増やし、地域を盛り上げたい
西川さんは、地域イベントにも積極的に参加している。
「揖斐祭りという伝統のお祭りがあって、山車の上で子ども歌舞伎をやるんです。でも、継承する人が少なくて困っているんですよ。」
子ども歌舞伎には小学1年生から中学1年生までの子どもが出演するが、人口減少の影響で参加希望者が年々減っているという。若い世代が減った結果、掃除や準備などの作業が高齢者には負担となっており、地域の支え手が求められている。
「うちの主人も含めて、若い人が積極的に手伝っています。地域貢献への気持ちは強いです。20代〜40代の人がもっと移住してきてくれたら良いなと思って、イベントを盛り上げています。」
自身が移住者だからこそ、揖斐川町の魅力や暮らしやすさを伝えたいという思いも強い。今後の目標を尋ねると、西川さんは明確に語る。
「移住してくれる人が増えたら嬉しいです。主催しているイベントや揖斐まつりを通じて、そのきっかけを作れたらと思っています。」
よもぎ蒸しの事業については、趣味の延長として楽しみながら、産後や体調に悩む人のサポートを続けていくつもりだという。
「産後で辛い思いをしている方や悩みを抱える方のお力になれたら嬉しいなと思っています。」
自然な方法で体を整える西川さんのアプローチは、多くの人に寄り添い、確かな安心感を与えている。
体の不調に悩む人、薬に頼らず自然の力で整えたい人は、ぜひ一度kanoaを訪れてみてほしい。伊吹山のよもぎと、西川さんの温かな人柄が、きっと心と体を癒してくれるだろう。
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