水まわりをデザインし、生活を豊かにする「株式会社水生活製作所」を訪ねてみた。
生活に密着したユニークかつ高性能な製品を開発する、水まわり製品の総合メーカーである。今回は、取締役社長の早川 精二(はやかわ せいじ)様にお話をうかがった。
- 企業理念と技術の原点
- 地域と共にある会社の形
- 危機を越えたブランド開発力
- 世界を視野に広げる、次なる挑戦への一歩
①企業理念と技術の原点
山県市を拠点に、人々の暮らしを水まわりから豊かにする製品を展開する株式会社水生活製作所。高性能浄水器「磨水」や美容ナノバブルシャワーヘッド「バブリージョワー」をはじめ、防犯機能付き蛇口、非常用浄水器など、人々の美容、防犯、防災、健康、美食といった幅広い生活テーマに貢献する製品を数多く展開している。
まずはじめに、社名の由来についてうかがった。
「生活に欠かせない『水』に関わる製品を通じて、人々の『生活』に役立つものを作る『製作所』である、という意味が込められています。」(早川社長)
本社を構える山県市は「水栓バルブ製造の発祥の地」とも言われ、全国の水栓バルブ製品出荷額において、岐阜県は40%を占め、No.1のシェアを誇る。
同社のルーツは、早川社長のお祖父様にあたる初代社長が1954年1月に「早川メッキ工業所」を興したことに遡る。戦後の住宅需要の増加に伴い、お祖父様が地場産業の鋳造所から独立する形で創業したのが始まりだという。
早川社長は、創業期から培われてきた技術の源泉を、「臨機応変な対応力」にあると語る。
「お客様からの要望に応える形で、技術と知識を習得してきました。メッキを起点に、1961年には鋳造工場を建設し、1963年12月には「早川バルブ製作所」に改組。鋳造、加工、メッキ、組立へと事業を広げたことは、まさに顧客のニーズに真摯に向き合い続けた証だと思っています。」(早川社長)
お客様からの依頼に対して、一つずつ丁寧に解決策を探り、実直に技術とノウハウを積み重ねてきたこの歴史が、現在の高い技術力と、多岐にわたる製品を自社で一貫生産できる体制を強固に支えている。
②地域と共にある会社の形
創業以来、「早川メッキ工業所」「早川バルブ製作所」として一族の名前を冠してきた社名は、2012年8月に「株式会社水生活製作所」へと変更された。この決断の背景には、一族経営からの転換と、企業としての社会貢献への強い意思があった。
「もちろんこれまでの歴史や培ってきた技術はかけがえのないものです。ただ、名字を冠した社名だと、『一族の会社』というイメージが強く、これからの時代にそぐわないと感じていました。『株式会社水生活製作所』への変更は新しい会社の形を目指すための宣言でもあると同時に、ともに歩んできた地域に恩返しをしていきたいという想いを込めました。」(早川社長)
この理念のもと、同社は新卒採用を積極的に継続し、多様な社員が活躍できる環境整備にも注力。その結果、2018年には「岐阜県ワークライフバランス推進エクセレント企業」に認定されている。さらに、地域連携も非常に活発だ。
「先日、中学校の防災キャンプで、防災用の非常用浄水器を使って、川やプールの水をろ過する体験をしてもらいました。地域の皆さんに『地元にこういう技術を持つ会社がある』というのを知ってもらい、将来の選択肢の一つとして考えてもらえるきっかけになれば嬉しいです。」(早川社長)
このように、水生活製作所では、社会の仕組みや防災意識を学んでもらう機会を創出するなど、さまざまな取り組みを通じて地域社会に貢献している。
③ 危機を越えたブランド開発力
創業から約60年間、水生活製作所では大手メーカーから依頼された製品の製造を中心にしていた。しかし、それだけではなかなか利益につながらず、早川社長が入社した頃には、経営危機に直面していた。この危機が、会社を大きく変える転換点となった。
その転機を作ったのは、早川社長のお父様にあたる三代目社長の「突拍子もないものづくり」の精神である。
「父は、自己流で習得した図面を描いて突拍子もないものを作っていました。自社製品を増やすことで、『自分たちで値段を決めて、営業し、販売する』という経営体制を目指していたんです。この頃の父のものづくり精神が、今の自社ブランド製品のベースになっています。」(早川社長)
早川社長は、この「開発型経営」への本格的な転換期ともいえるタイミングで入社。当時、実質機能していなかった営業を立て直し、展示会への出展や節水商材の営業開発を推進した。
三代目社長のものづくり精神と、これまでに培った高い技術力、そして品質システムの整備が融合したことで、市場で独自の地位を築く製品が次々と生まれている。
現在、自社製品の割合は4割まで拡大しているという。
同社の製品は、機能性だけでなくデザイン性も高く評価されている。屋外用の蛇口や電気自動車の充電もできる屋外水栓柱など、複数の製品がグッドデザイン賞を受賞。さらに、ドイツのiFデザイン賞やレッドドット·デザイン賞といった世界のデザイン賞も受賞している。
「山間の田舎の会社ですが、デザインにも力を入れて頑張っています。ただ、メーカーなので商社を通じて製品が展開されることが多く、ここを通る人からも『水生活製作所って何を作っているの?直接買えるの?』などと言われることも多いです。今後はメーカー直営のウェブショップにも力を入れ、作り手の想いや製品の魅力を直接伝えていきたいです。」(早川社長)
こうして自社ブランドの拡大と発信に取り組む動きが広がり、ものづくりの姿勢にも少しずつ新しい変化が生まれてきている。次の挑戦に向けて、同社はさらに歩みを進めている。
④世界を視野に広げる、次なる挑戦への一歩
早川社長は、今後の展望として、会社の明るい未来と、従業員が誇りを持って働ける環境づくりを最優先に掲げた。
「私が目指すのは、従業員のココロとフトコロの温かくなるような明るい会社です。中小企業だからこそできることも多いですし、今後も社員の意見を大事にし、循環的な挑戦と成長の場を提供し続けたいと思っています。」(早川社長)
事業面では、国内の「節約」「猛暑対策」「防犯」「美容」などのテーマに沿った製品展開を進めつつ、海外市場の開拓にも意欲を見せる。
「インドネシアやベトナムの在留邦人から、現地の水質に対する懸念を聞くと同時に、当社の除塩素シャワーが評価されています。また、健康志向をテーマとした、アルカリイオン整水器の部品など、日本の水技術が海外で求められているんです。」(早川社長)
さらに、会社の未来像と地域貢献を結びつけるユニークな夢を語った。
「私の個人的な夢としてはいつかこの地に植物園を作りたいと思っています。自社製品を展示するのはもちろん、季節ごとのイベントを開いたり、地域の子どもたちを迎えたり、地域の方が集えるような場所が作れたらいいなと思っています。」(早川社長)
最後に、早川社長は、企業理念「私たちは、水まわりに、より良い価値を提供し、幸せな暮らしと、社会に貢献します」の達成に向けて、新しい人材の採用が不可欠であるとして、強いメッセージを送った。
「私たち水生活製作所は、社員の意見を大事にし、挑戦の機会を豊富に提供できます。地元·岐阜県の方々、特に若い人にもっと入社していただき、一緒に会社を変え、地域を盛り上げていきたいと考えています。」(早川社長)
水生活製作所は、創業以来の「臨機応変な技術力」と「突拍子もない開発精神」を原動力に、地域の歴史と深く結びつきながら、独自の進化を遂げてきた。早川社長が目指す「ココロとフトコロの温かい会社」というビジョンは、単なる企業成長に留まらず、地域への深い感謝と、社員とその家族の幸福を追求する揺るぎない決意に裏打ちされている。
水の恵みを通じて、人々のより良い暮らしと社会の実現に貢献し続ける水生活製作所の挑戦は、これからも続いていく。そして、地域に根差しながらも世界を見据える、無限の可能性を秘めた中小企業として、未来を担う若い世代の参画を心待ちにしている。
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