心に寄り添うスコーン専門店「iris」を訪ねてみた。
こだわりの食材を使った手作りスコーンで、訪れる人の心にそっと寄り添う小さなスコーン専門店だ。今回は、オーナーの上松 由佳(うえまつ ゆか)様にお話をうかがった。
- 店名に込めた「希望」と「寄り添う」想い
- 好きをきっかけに始めたスコーン専門店
- 飛騨の食材で作る温かい味わい
- 一人ひとりとのコミュニケーションを大切に
- 新しい味わいを生み出し続ける日々
①店名に込めた「希望」と「寄り添う」想い
「iris」という店名は、あやめの花の英名から名付けられたものだという。そこには、上松さん自身の大切にしている想いが込められている。
「あやめの花言葉には『良いたより』や『希望』など明るい言葉が多いんです。茎や葉はまっすぐ凛と伸びているのに、花びらや音の響きはどこか柔らかくて寄り添ってくれる感じがあって。あやめの花のように、当店に足を運んでくださった方の気持ちに寄り添えたらと思っています。」
さらに、頭文字が「愛(ai)」であることにも、お客様への想いを重ねているという。店名は単なる呼び名ではなく、お店のあり方そのものを表しているようだ。
その想いは、店内の雰囲気やインスタグラムの世界観にも自然とにじみ出ている。
「自分が可愛いと思える空間に、お客様をお招きしたいなと思って。好きなものを、詰め込めるだけ詰め込んだお店にしました。」
温かく、柔らかく、そして明るい。上松さんが想い描くそんな空気感は、店名から空間づくりに至るまで、すべてにつながっている。ひとつひとつの選択に、ぶれない想いが流れていることが伝わってくる。
②好きをきっかけに始めたスコーン専門店
上松さんがスコーン専門店を始めたきっかけは、とてもシンプルなものだった。
「ただただ私がスコーン大好きなんです。」
もともと料理やお菓子作りが好きで、自分や家族のために作る日々を過ごしてきた。しかし、最初からお店を開くことを目標にしていたわけではなかったという。
「いつかお店を開きたいと思って作っていたわけではなくて、何か自分の強みを活かせることはないかなと考えたときに、“スコーン”が一番最初に思い浮かんだんです。」
そこには、ただ好きなものを作るだけでなく、誰かの心にそっと寄り添える場所をつくりたいという想いがあった。
「私自身、お店を始める前から、行くと気分が上がったり、落ち着いたりするお店があって。このお店も、誰かにとってそんな場所になれたらいいなと思っています。私のスコーンを食べてほっとひと息ついて、心が少し明るくなって、今日を過ごせる。そんな時間のきっかけになれたら嬉しいなと思って作りました。」
オープン前からマルシェや催事に出展し、少しずつ認知を広げながら、2024年4月のオープンに向けて準備を進めていった。
「オープンする日を先に決めて、そこに向かって進んできた感じです。もう無我夢中で、今振り返ると、よくあんなに頑張れたなと思います。」
周囲からアドバイスをもらいながら、一つひとつ段階を踏んで進んできた時間。その積み重ねが、今のirisにつながっている。
③飛騨の食材で作る温かい味わい
irisのスコーンの大きな特徴のひとつが、上松さんの地元である飛騨の食材を取り入れていることだ。
「飛騨には美味しい食材がたくさんあるので、より多くの方に知っていただきたいなと思い、なるべく飛騨の食材を取り入れて、メニューを考えています。」
なかでも特に人気なのが、エゴマバターのスコーンだ。
「飛騨ではエゴマがよく使われていて、以前はエゴマの五平餅も多かったんです。私自身、そのエゴマの五平餅が好きだったので、スコーンに取り入れたいなと思って。飛騨のエゴマを仕入れて、お店でバターと合わせて、特製のエゴマバターにしています。」
マルシェに出展した際にも、「エゴマバターはないの?」と声をかけられるほど、楽しみにしているお客様が多いという。
エゴマバター以外にも、常時5~6種類のスコーンを用意しており、そのうち2種類は約2か月ごとに入れ替わる季節限定商品だ。昨年に続き、今年の夏も販売したお食事系スコーン「トマトベーコン」には、飛騨産のトマトを使用している。
「飛騨のトマトの種を一つひとつくり抜き、低温のガスオーブンで長時間乾燥させて、一から作ったドライトマトを使っています。甘くないスコーンなので、軽食やおつまみとしてもおすすめですね。」
ブラックペッパーが効いた少し大人な味わいの「トマトベーコン」だが、意外にも小さなお子様にも人気だという。
手間のかかる工程を経て作られるスコーンには、上松さんのこだわりが詰まっている。
お客様からは「スコーンが好きになった」「今まで食べてきた中で一番美味しかった」など、嬉しい言葉をもらうことも多いという。
「今までは『パサパサするイメージがあって、あまり食べたくない』とおっしゃっていたご主人も一緒に食べられたとか、小さなお子様がいるご家族でも、みんなで安心して食べられたと言っていただけると、本当に嬉しいですね。」
ひとつひとつ丁寧に作られたスコーンが、お客様の家族時間にも寄り添い、何気ない日常のひとときをやさしく彩っている。
④一人ひとりとのコミュニケーションを大切に
irisでは、上松さんひとりで製造から販売までを行っている。
「一人でやっているので、午前中に焼いて、午後から販売する形にしています。」
朝8時から仕込みを始め、オーブン2台を使って焼き上げ、冷ましてから店頭に並べる。毎日70個前後のスコーンを焼き上げ、日によっては午後3時ごろに完売することもあるそうだ。
一人で営業しているからこそ、上松さんが特に大切にしているのが、お客様とのコミュニケーションだ。
「コミュニケーションはすごく大切にしています。何度も通ってくださる方とは、プライベートなお話を伺ったり、私からもお話ししたりして。お客様との会話も、私の楽しみのひとつですね。」
地元の方だけでなく、インスタグラムをきっかけに、県外から定期的に訪れるお客様もいるという。インスタグラムでの交流も含め、一人ひとりと丁寧に向き合う姿勢が、自然とリピートにつながっているのだろう。
⑤新しい味わいを生み出し続ける日々
オープン前は、不安が大きく厳しい現実を覚悟していたという上松さん。しかし、実際に始めてみると、想定外の出来事が待っていた。
「想定外にお客様に恵まれました。本当に温かい方ばかりです。お店を構える前から、お客様からたくさん元気をいただいていて。お店が始まったらお返ししていこうと思っていたんですけど、相変わらず私が元気をいただいている状況です。」
実店舗を構えた今でも、マルシェや催事への出展を続けている。店舗だけでなく、さまざまな場所でirisのスコーンを届けたいという想いがある。
「より多くの人に知っていただける機会を、少しずつ増やしていけたらいいなと思っています。」
オープンから1年半が経ち、季節を一周した。去年の季節メニューを今年も販売することで、リピーターのお客様には「またこの季節が来たな」と感じてもらえるようになった。
それでも、上松さんは立ち止まらない。
「来年はまた新しい季節商品も考えたいですし、そこにも飛騨の食材を使いたいなと思っています。」
お客様からの温かい言葉が、新しいスコーンを生み出す原動力になっているのだろう。
「焼き上がって並んでいるスコーンを眺めて、このスコーンを楽しみにしてくださっているお客様の顔を思い浮かべると、本当に幸せなんです。」
お客様の顔を思い浮かべながら、一つひとつ丁寧に焼き上げる。その想いが、irisのスコーンの味に表れている。
スコーンを通して、ほっとひと息つける時間を届けたい。また明日も頑張ろうと思えるきっかけになりたい。そんな想いが込められたスコーンが気になった人は、ぜひirisを訪れてみてほしい。飛騨の食材と上松さんの優しさが詰まったスコーンが、きっと心を温めてくれることだろう。
詳しい情報はこちら