飲食業
神戸町

自由に焼き上げる街のパン屋「KANOA」を訪ねてみた。

自由に焼き上げる街のパン屋「KANOA」を訪ねてみた。
TOM
TOM
放課後の駄菓子屋って、第二の家みたいだったよね。
SARA
SARA
今の子たちは、そういう居場所が少ないのよ。
TOM
TOM
お小遣い握りしめて行く場所、貴重だったなあ。
SARA
SARA
あなたはお菓子に夢中で全然計算できてなかったけどね。
安八郡神戸町にある「KANOA」をご存知だろうか。
国産小麦や自家製あんこにこだわり、子どもたちが気軽に買えるパン屋を目指している。今回は、オーナーの深貝 里恵(ふかがいりえ)様にお話をうかがった。
今回のツムギポイント
  • 「自由」という名に込めた想い
  • パン教室から街のパン屋へ
  • 子どもに安心して食べさせられる素材選び
  • 地域のコミュニティを作りたい
  • 等身大で続けるこれからのかたち

①「自由」という名に込めた想い

 

KANOAは、深貝さんのご主人が営む石材店の一角を活用して営業しているパン屋だ。

 

「このスペースは、主人がやっている石材店の事務所兼商談スペースなんです。石材店は、常にお客様が出入りする場所ではないので、どうしても空きスペースになる時間があって。」

 

石材店の仕事柄、人の出入りが集中する場所ではないこともあり、その空間を有効活用できないかと考えたことが、今の形につながっている。

 

店名の「KANOA」は、ハワイ語で「自由」という意味を持つ言葉だ。

 

「名前を考えるときに、いろいろな言葉を調べていたんですけど、ハワイ語で『自由』という意味だと知った瞬間に、これだなと思いました。」

 

あまり難しい言葉や、気取った印象の名前にはしたくなかったという。誰でも口にしやすく、覚えやすい名前であることも大切にしていた。

 

お子様の学校行事やプライベートを大切にしたいという想いから、営業日は週3日に設定している。決まった形に縛られず、家族との時間を優先しながら続けていきたい。その考え方が、店名にも自然と重なっていった。

 

「基本的に営業日は週3日にしていますし、時々お休みをすることもあります。自由に営業できる場所、自由に生きるという意味も込めて、この名前にしました。」

 

深貝さん自身が大切にしてきた「無理をしすぎない働き方」や「暮らしに寄り添うペース」が、そのままKANOAという名前に表れている。

 

シンプルで親しみやすいその響きには、「気軽に立ち寄ってほしい」という想いも込められている。KANOAという店名は、深貝さんが目指すお店のあり方を、静かに物語っている。

 

②パン教室から街のパン屋へ

 

深貝さんがパン作りを始めたのは、ご長男を妊娠中のことだった。

 

「何か習い事をしたいなと思っていたときに、たまたま実家の近くでパン教室をされている先生がいらっしゃったんです。」

 

当時は、将来を見据えたものというより、日常の延長にある学びだったという。出産後も実家にお子様を預けながら、無理のないペースで教室に通い続け、講師資格を取得した。

 

「本当に、せっかくだから取ってみようかな、というくらいの気持ちでした。自分が講師として教えるとは、その時は全然思っていなかったです。」

 

その後、自宅でパン教室を開くようになると、生徒や周囲の知り合いから、少しずつ声が集まるようになった。

 

「パンを販売してほしい、という声を結構いただくようになったんです。」

 

そんな折、ちょうど人に貸していた持ち家が空き家になった。

 

「タイミングが重なったので、だったらその家を少し改装して、販売許可や保健所の許可を取って、工房にして、ここで販売すれば、パンを欲しい方に届けられるなと思って、すぐに準備を始めました。」

 

しかし、オープンまでの道のりは決して順調ではなかった。準備を進めていた最中、ご主人のお父様が脳出血で緊急入院することになる。

 

後遺症が残る中、デイサービスの手配や住環境の整備など、家族としての対応が一気に重なった。

 

「オープン日も決めている時だったので、どうしようと思うことも正直ありました。」

 

それでも、家族の支えが背中を押した。

 

「主人も協力してくれて、いろいろありながらも、私はやると決めたらやるタイプなので、前だけを向いて、進めていきました。」

 

また、パン屋を始めるにあたって、もう一つの想いもあったという。

 

「パンを買いに来たついでに、ここは石材店なんだって知ってもらえたらと思いました。なかなか墓石について相談する機会や、わざわざ石材店を訪れることもないので、気軽に足を運んでもらえる相談窓口のような存在になりたいんです。」

 

実際に、パンをきっかけに墓石の修理や墓じまいの相談につながることも増えてきている。

 

「パンをきっかけに、少しずつ修理の依頼などをいただくことが増え、すごく嬉しく思っています。」

 

パンが、地域との新たなつながりを生む入口になっている。

 

③子どもに安心して食べさせられる素材選び

 

KANOAのパンづくりの軸にあるのは、素材へのこだわりだ。

 

「今こだわっているのは小麦です。子どもでも安心して食べられるようにと思って、国産小麦を使ったり、砂糖も甜菜糖にしたり、塩も天然塩を使ったりしています。」

 

体にやさしいものをできるだけ選びたい。その想いは、あんこ作りにも表れている。

 

「あんこも、小豆を炊いています。作れるものは、なるべく自分で作るようにしています。」

 

時間も手間もかかる作業だが、安心して食べてもらうための妥協はしない。

 

お客様から一番人気の商品であるクリームパンは甘さを抑え、素材の味を引き立てている。それがKANOAのパンの特徴だ。

 

「クリームパンが苦手な方でも、甘さが控えめだから食べられると言っていただくことが多いです。主張しすぎない味というか、素材の味を感じてもらえたらと思っています。」

 

季節に合わせたパン作りにも積極的に取り組み、時にはコラボ商品の開発も行う。薬膳カレーパンも、地域のつながりから生まれた一品だ。

 

「カレーパン作りで悩んでいた時に、大垣で薬膳料理教室をされている先生を紹介してもらったんです。納得できるカレーを考案していただきました。」

 

こうした人との縁を大切にしながら、無理のない形で新しいパンを生み出している。

 

④地域のコミュニティを作りたい

 

KANOAには、リピーターのお客様も多い。週に一度の楽しみとして通う人や、県外から月に一度訪れる人もいるという。

 

「限られた営業日でも『先週初めて来て美味しかったからまた来ました』と言っていただけることが増えてきました。直接感想をいただけることも多くて、とても嬉しいです。」

 

お客様からは、「生地が美味しい」「いろいろなパン屋を巡っているけど、ここが一番好き」という声も届く。

 

2025年10月に迎えた3周年の際には、お祝いの品やあたたかいメッセージをもらい、胸がいっぱいになったという。

 

深貝さんは、パン屋という枠を超え、地域とのつながりづくりにも力を入れている。マルシェの実行委員を務め、商店街の夏祭りの運営にも携わっている。

 

「商店街でのイベントがコロナ禍でなくなってしまって、子どもたちが遊べる場が減ってしまったので、それなら自分で動こうと思いました。」

 

目指しているのは、「街のパン屋さん」だ。

 

「学校帰りのお子様が、お小遣いを握りしめて買いに来られるくらいの価格でありたいと思っています。」

 

素材にはこだわりながらも、価格はできる限り抑える。そのバランスを大切にしている。

 

「特にオープン当初から販売しているあんぱんやクリームパンは、できるところまでは頑張って価格を維持したいと思っています。」

 

材料や手間に向き合いながらも、誰にとっても身近な存在でありたい。その想いは、深貝さんが目指す「街のパン屋さん」という姿そのものだ。

 

⑤等身大で続けるこれからのかたち

 

現在、KANOAは深貝さん一人で運営しており、製造から販売まで、すべてを担っている。

 

機材も限られているため、何度も工程を繰り返す必要がある。体力的な負担は大きい。

 

「今は週1日から3日の営業だから続けられているんだと感じています。もし毎日の営業だったら、正直一人では難しいと思います。」

 

それでも、やりたいことは尽きない。

 

「お酒に合わせたハード系のパンも作ってみたいです。将来的にはお店を広げて石材店の相談スペースを作ったり、気軽に集まれる地域コミュニティの場になったらいいな、と思っています。」

 

大変さと向き合いながらも、前を向き続ける。その姿勢が、多くの人を惹きつけている。

 

安心して食べられるパンを探している人、地域とのつながりを大切にしたい人は、ぜひKANOAを訪れてみてほしい。深貝さんの手づくりパンと、あたたかな人柄が、きっと日常にやさしい時間を届けてくれるだろう。

 

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