技術者の「誇り」を立体にする。プロフェッショナルが集う「株式会社和模型工房」を訪ねてみた。
ここは、単なるミニチュア製作の枠を超え、JAXAの人工衛星や巨大な産業プラントなど、日本の最先端技術を「目に見える形」へと翻訳するプロフェッショナル集団の拠点だ。今回は、代表取締役の小山 周一(こやま しゅういち)様にお話をうかがった。
- ものづくりの原点と、模型製作への道
- 「商売の一連を自分でやる」独立によって見えた強み
- 「動く仕組み」を再現する工夫と、若手が主役の現場
- 技術の価値を形にする「翻訳者」として
①ものづくりの原点と、模型製作への道
岐阜市の閑静な住宅街に位置し、日本の宇宙開発や巨大インフラを支える技術者たちから厚い信頼を寄せられる「株式会社和模型工房」。一般的な建築模型の枠を超え、プラントや人工衛星、さらにはプログラム制御で動く機械模型など、極めて専門性の高い分野で「複雑な仕組みを形にする」プロフェッショナルである。
小山社長のものづくりの原点は、幼少期に熱中したプラモデルやラジコン製作にある。当時は現代のようにデジタルゲームが普及していなかったこともあり、手を動かして何かを作り上げる喜びが、日常の大きな楽しみであったそうだ。
大学進学に際しては、社会の仕組みを知りたいという考えから法学部を選択したが、就職活動の時期を迎え、自身の本質的な志向を再確認することになる。
「法学部での学びはとても興味深いものでしたが、いざ就職を考えたときに、毎日スーツに身を包み会社に通う自分の姿がどうしてもイメージできませんでした。幼い頃から、個人事業主として店舗設計を営む父の姿や、現場で働く職人さん達の姿を見て育ちました。就職ガイダンスをきっかけに、自分も、同じ価値観で働きたいと思うようになりました。」
決意を固めた小山社長は、大学時代に建築・インテリアの専門学校へダブルスクールで通い始める。その過程で、設計事務所でのアルバイト中に模型製作を頼まれたことが、大きな転機となった。
「設計事務所で模型を作った際、模型という仕事の面白さを初めて知りました。模型製作を専門とする会社があるのかと先生に相談し、愛知県内の企業へ入社しました。そこでの5年間、愛知万博や中部国際空港といった、大規模なプロジェクトに携わることができました。様々な種類の模型に触れ、技術を磨いたこの期間が、今の自分の土台となっています。その後、別の職場で2年間経験を積み、自分のやりたいことを形にするために独立を決意しました。ものづくりが好きだという一心で、ここまで走り続けてきた感覚です。」
現在、若手スタッフの指導にあたる際も、この「好き」という純粋な気持ちを大切にしている。基礎的な法学の知識を学んだ経験と、専門学校での実技、そして現場での叩き上げの経験が、今の小山社長の多角的な視点を形作っているのである。
②「商売の一連を自分でやる」独立によって見えた強み
小山社長が独立を志したのは、単に模型を作るだけでなく、「ビジネスの全行程を自分自身の責任で担いたい」という、経営者としての強い意欲があったからだ。それは、自分で仕事を受注し、制作し、納品してお金をいただくという、商売の基本を自らの手で実践したいという想いがあった。
「父が個人事業主として働いていた姿を幼い頃から見ていたこともあり、自分でお客様のところへ行き、見積もりからご依頼をいただく。そして自分で作って納品し、請求書を発行する。この一連の流れをすべて自分でやりたかったんです。独立当初は、以前の勤め先から下請けの仕事をいただきながら、地道に実績を積み重ねていきました。サラリーマン時代とは違い、全責任が自分にかかるプレッシャーはありましたが、それ以上に自分の好きなように進められる環境にやりがいを感じていました。」
小山社長が活路を見出したのは、多くの模型会社が専門とする建築分野ではなく、より難易度の高い「機械・プラント・土木」といった産業模型の分野だった。これらは形状が複雑なだけでなく、その機械がどう動くのかという仕組みを理解しなければならない。
「私は、目の前にある仕組みや機械に対して、『これはどういうものなんだろう』と考えることに、強い興味を持つタイプなんです。メーカーの方から直接お話を伺うと、設計者の方が「ここは他社とは違うんです」と、熱心に説明してくださることがあります。その想いを丁寧に汲み取り、強みが伝わる形で表現していくと、設計者の方にもとても喜んでいただけます。これまで、他社ではあまり手がけられてこなかった、機械の図面を読み解くような専門性の高い案件に向き合ってきたことが、今の私たちの大きな強みにつながっています。現在では、ホームページなどを通じて、全国からこうした特殊な模型に関するご相談をいただくようになりました。」
模型製作は、図面通りに縮小するだけの作業ではない。小山社長が重視するのは、クライアントの「プライド」がどこにあるのかを理解することだ。特許技術の部分や、他社が真似できない構造、あるいはメンテナンスのしやすさなど、目には見えにくい「設計の意図」を形に落とし込む。その徹底した顧客志向が、ダイレクトな指名案件へと繋がっているのである。
③「動く仕組み」を再現する工夫と、若手が主役の現場
和模型工房の大きな特徴は、模型に「動き」を与えるギミックにある。プログラム制御で実際に駆動したり、内部の構造を可視化したりする模型は、展示会などで技術を説明するための重要な道具となる。その製作プロセスは、最新技術と地道な試行錯誤の連続だ。
「私たちの工房では3Dプリンターやレーザー加工機をフル活用していますが、すべてを最新機器で作るわけではありません。例えば、市販のチェーンやギアを組み込んだり、時には100円ショップで使える素材を探しに行ったりすることもあります。大切なのは、どうすればお客様の機械の動きを再現できるかを自分たちで考えることです。プログラムを組んでモーターを動かし、センサーを付ける。そうした構造を自分たちで一から考えていくのは、模型製作の中でも特にやりがいのある部分です。模型だからといって手を抜くのではなく、実際に動かして見せることで、図面だけでは伝わらない納得感を提供したいと考えています。」
また、若手スタッフが活躍する組織体制も同社の特徴だ。平均年齢20代という若いチームの中で、小山社長は「一貫担当制」を採用している。
「一人の担当者が、お客様との打ち合わせから完成、納品までをすべて担当します。分業した方が効率はいいかもしれませんが、作り手本人が依頼者と直接話をしないと、本当の想いは伝わりません。若いスタッフが直接お客様の意図を聞き、試行錯誤しながら一つの作品を仕上げ、納品の際にお客様の反応を肌で感じる。この経験が、彼らを成長させます。スタッフには、ここでただ作業をするだけの人になってほしくない。外に出て刺激を受け、自分の頭で考えられる職人であってほしい。そんな思いで、日々の製作を任せています。好きなことを仕事にしているからこそ、みんな楽しみながら取り組んでくれています。」
この一貫担当制は、スタッフに高い自律性を求める。素材の選定から制御プログラムの作成まで、自ら手を動かし、頭を悩ませる。その苦労があるからこそ、完成した模型をお披露目した際の達成感は格別だ。小山社長は、スタッフたちが自立したプロフェッショナルとして、外の世界と対等に渡り合えるよう、温かな眼差しで背中を押し続けている。
④技術の価値を形にする「翻訳者」として
現在、和模型工房の仕事は、地上から遥か彼方の宇宙開発の最前線にまで及んでいる。JAXA(宇宙航空研究開発機構)や内閣府からの依頼を受け、人工衛星の精密模型を製作。H-3ロケットの打ち上げに関連する記者会見の場などで、最先端の技術を一般の人々にも分かりやすく伝える役割を担っている。
「宇宙関連の模型は、その性質上すべての詳細なデータを最初からいただけるとは限らないことも多く、お客様と何度もやり取りを重ねながら、「ここはこうなっているのだろうか」と一つひとつ確認しつつ制作を進めています。先日も、内閣府からご依頼を受けて衛星模型を手がけましたが、打ち上げ後の記者会見で、自分たちが制作した模型が会場に置かれているのを目にしたときは、改めて身の引き締まる思いがしました。私たちが作っているのは、単なる模型ではありません。技術者の皆さんが時間と労力をかけて開発してきたものの「特徴」や「強み」を、できるだけ分かりやすく形にすることを大切にしています。自分たちが関わったものが、社会にとって重要な場面で活用されていると感じられることは、大きな励みになっています。」
小山社長は、今後も特定のジャンルに固執することなく、あらゆる産業のパートナーとして、模型製作に邁進する。その根底にあるのは、創業以来変わらない「良いものを提供し続けたい」という誠実な願いだ。その挑戦を支えているのは、社内のスタッフだけではない。小山社長は自ら「一般社団法人日本建築模型協会」を立ち上げ、会長として全国の模型製作会社の経営者たちとの交流の場を年に数回開催している。
「経営を続ける中で、この協会のメンバーに助けてもらったり、心の支えになってもらったことが何度もありました。全国に散らばる同じ志を持つ仲間たちは、私にとって大切な『宝物』です。こうした繋がりがあるからこそ、常に前向きに挑戦を続けてこられました。今後も、お客様が求めている模型を、最高のクオリティで出し続ける。それが一番だと思っています。私自身、独立して自分の好きな模型を仕事にできたことを本当に良かったと感じていますし、社内のスタッフにも、この仕事の面白さを感じながら、充実感を持って取り組んでほしい。模型は、言葉や図面だけでは伝わりにくい熱意や工夫を、一瞬で共有できる力を持っています。私たちの製作した模型が、展示会で誰かの足を止め、技術の素晴らしさを知るきっかけになれば、これ以上の喜びはありません。」
岐阜市から世界へ、そして宇宙へ。和模型工房の挑戦は、精密なパーツの一つひとつに込められた情熱とともに、これからも多くの人々に驚きと感動を与え続けていく。複雑な社会や高度な技術を「誰にでもわかる形」へ。彼らが紡ぐ模型という名の物語は、これからも日本のものづくりの未来を明るく照らしていくことだろう。
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