食育の学びから生まれた惣菜屋さん「おうちDELI」を訪ねてみた。
食育指導士としての活動を経て、無添加・無農薬にこだわったお惣菜とお弁当を提供しているお店だ。今回は、代表の仲井 ゆり(なかい ゆり)様にお話をうかがった。
- 家庭の食卓を支えたいという想い
- 学び続けた先にあった食のかたち
- 身近で安心できる惣菜を届けるために
- 食の経験を次の世代へ
- 必要とされる場所であり続けたい
①家庭の食卓を支えたいという想い
おうちDELIという店名には、仲井さんがこれまで向き合ってきた「食」と、そこから生まれた想いが、静かに込められている。
「もともと食育指導士として、15年ほど食育を広げる活動を続けてきました。食育って、食べることで命を育むという考え方があって、人はみんな、食べたもので体が作られているんですよね。」
その考えを伝え続ける中で、仲井さんが何より大切にしてきたのは、日々の食事が心と体の土台になるということだった。
そうした想いがあるからこそ、忙しい日々の中で「今日は作れない」と感じるお母さんたちの姿にも、自然と目が向くようになった。
「外食ももちろん良いと思うんですけど、やっぱり家でお母さんが作る料理って、一番体に良くて、心も温まるものだと思っていて。忙しいお母さんの代わりに、お家のご飯を作れたらいいなと思ったんです。」
ただ食事を用意するだけではなく、食卓に並んだ瞬間に気持ちが動くようなものを届けたい。そんな気持ちから、少し手の込んだおかずや彩りのあるサラダなど、見た目にも心が弾む惣菜を意識するようになったという。
「見た目が良くて、食欲が湧くものを作りたい。そういう思いから、おうちDELIという名前にしました。」
「DELI」は惣菜を意味する言葉であり、家庭の延長線上にある存在でありたいという願いも込められている。
一方で、仲井さんはもともと食の世界にいたわけではない。次女を出産するまでは、岐阜のアパレル業界で働いていた。しかし、子どもを授かったことをきっかけに、自分の中で大切にしたいものが少しずつ変わっていく。
「ファッションも好きでしたし、着飾ることが大好きで、ずっとアパレルにいました。しかしファストファッションが主流になっていく時代で、これから子どもを産み育てていく中、何を大切にするべきなのかを考えたときに、まず『食べること』だなと思ったんです。」
子どもを授かり、守りたいものが増えたこと。その変化が、仲井さんを食の世界へと導き、やがて「おうちDELI」というかたちになっていった。
②学び続けた先にあった食のかたち
仲井さんが食の世界へ踏み出した当初、専門的な知識があったわけではない。ただ、身近な環境の中で、ある違和感に気づいていた。
「周りを見渡すと、アトピーや体調に悩みを抱えている子どもたちがたくさんいることに気づきました。一方で、自分自身は大きな不調もなく過ごせていて、それは元気に育ててもらえた環境や、日々の食事が関係しているのかもしれないと感じるようになったんです。だからこそ、食を通して、少しでもその差を小さくできたらと思いました。」
知識一つで変えられることがあるのなら、それを断ちたい。そんな想いから、仲井さんは食育を広めるサークルに参加し、学びを深めていった。
やがて食育指導士の資格を取得し、岐阜市のNPO法人で本格的に活動を始める。料理教室や幼児対象の親子教室、小学生を対象にした食育講座など、幅広い年代に向けて食の大切さを伝えてきた。
「私が主に行っていたのは、小学生のお子さんに、1年を通して食の大切さを伝えることでした。お正月やひな祭りなど、日本ならではの行事って、必ず食とつながっているんですよね。」
季節の行事と食文化を結びつけながら、子どもたちに「食べることの意味」を伝える。その積み重ねが、仲井さんの活動の軸となっていった。
さらに学びを深める中で、中医薬膳指導員の資格も取得する。
「薬膳って、特別な食材を使うイメージがあるかもしれないですけど、普段スーパーで買える食材で、季節に合わせて体を整えることができるんです。」
身近な食材で、無理なく体を整える。その考え方もまた、仲井さんの料理の土台となっている。
③身近で安心できる惣菜を届けるために
食育活動を続ける中で、仲井さんは同じ声を何度も耳にしてきた。
「知識は分かった。何を食べたらいいのかも分かる。でも、どこで買ったらいいのかが分からない、という声をずっと聞いていました。」
無添加やオーガニックの食品は確かに存在している。しかし、仕事や子育てに追われる毎日の中で、気軽に手に取れるものばかりではない。そんな悩みや相談を受けるうちに、仲井さんの中で一つの答えが浮かび上がってきた。
「それなら、私が始めようと思いました。いつかは自分でやりたいという想いがありましたし、両親や兄も自営業だったので、お店を持つことへの不安はありませんでした。」
家族の理解と協力にも支えられ、おうちDELIはスタートした。
営業日は週に2日。お惣菜を中心に、週末はマルシェへの出店や、お弁当の予約にも対応している。1日に作る量は、8人前ほどのお惣菜を10種類前後。それに加えて、お弁当をいくつか用意する。
お惣菜は、好きなものを選んでもらうスタイル。規定のパックに入れた量を一人前として提供している。
野菜はオーガニックを中心に、オーガニックマルシェで出会った農家さんから直接仕入れることもある。
「同じ想いで始めている方が多いので、協力してもらえることが多くて、困ることはあまりないですね。」
メニューはすべて仲井さんが考えている。季節の食材を意識しながら、「自分が食べたいもの」を基準に、毎週内容を変えている。
「お母さんが家で家族に食べてもらいたい献立を決めるのと同じ感覚です。」
そして、何より大切にしているのが手作りだ。手間はかかるが、そのひと手間こそが、おうちDELIらしさでもある。
「加工品は一切使いません。特別な料理を作っているわけではないので、手間ぐらいはかけたいんです。」
誰かの代わりに食卓を支えるという役割を担うからこそ、手を抜かない。おうちDELIの惣菜には、仲井さんのその姿勢が、静かに表れている。
④食の経験を次の世代へ
仲井さんが大切にしている考え方の一つが、「今の食欲は未来への準備」という言葉だ。
希薄になりつつある食文化を、次の世代へつなげていく。それは、食育活動を始めた頃から変わらない想いでもある。
おうちDELIを始めてからも、食育活動は続けている。夏休みには、公民館からの依頼を受け、子ども向けの料理教室を開催している。
参加は、基本的に子どもだけ。親御さんがそばにいると、どうしても手助けが入り、達成感が薄れてしまうからだ。
「まずは基本的なことを伝えたくて、お子さんだけの参加にしています。座学と実践を組み合わせた形ですね。」
将来、大人になったときに、自分で料理ができなければ生きる力は身につかない。そんな想いで、子どもたちと向き合ってきた。教室では、子どもたちの表情が大きく変わる。
「自分でできたという自信を感じます。最後に試食をするのですが、やっぱり自分で頑張って作った料理は特別ですよね。」
小さな経験の積み重ねが、将来の生きる力につながっていくのだ。
⑤必要とされる場所であり続けたい
おうちDELIの仕込みは、基本的に仲井さん一人で行っている。営業日はスタッフの手を借りるものの、日々の準備はすべて一人だ。
オーガニックの野菜は仕入れに費用がかかり、手作りには時間も手間も必要になる。それでも、価格を大きく上げることはできない。
それでも続けられる理由は、ただ一つ。
「必要とされている、という実感だけですね。」
お客様からの言葉も、仲井さんの原動力になっている。
「一番嬉しかったのは、『おうちDELIさんのお弁当を食べると元気が出る』って言ってもらえたことです。」
ただの家庭料理かもしれない。しかし、手作りで、想いを込めて作っているからこそ、それが食べる人に伝わる。
今後は、お惣菜を真空パックにして、市外や県外の人にも届ける取り組みも始めている。ただ、量が作れず、まだ模索中の段階だ。
「人手を増やすことで解決できる部分ではありますが、教えるのも簡単じゃないので、そこはまだ悩み中です。」
おうちDELIを始めて4年。目標は、まず10年続けること。その先は、また新しいやりたいことが見えてくるかもしれない。
無添加・無農薬のお惣菜を求めている人、家庭の味を大切にしたい人、子どもに安心な食事を届けたい人は、ぜひ一度おうちDELIを訪れてみてほしい。
仲井さんの想いと手作りの温かさが、きっと体と心をそっと支えてくれることだろう。
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