落ち着いた時間が流れる「お酒とおばんざい こでまり」を訪ねてみた。
大正から昭和をイメージした落ち着いた空間と、豊富なお酒の種類、季節ごとに変わる料理が特徴だ。今回は、オーナーの堀内様ご夫婦に店づくりへの想いや、これまでの歩みについて話をうかがった。
- 花の名前を冠した店のはじまり
- 日常の延長線上にあった開業のきっかけ
- 自分たちで作り上げた、落ち着いた空間
- お酒と料理、それぞれの楽しみ方
- 目の前の積み重ねと、これからの目標
①花の名前を冠した店のはじまり
「こでまり」という店名は、奥様の誕生花に由来している。
「居酒屋をやるなら、どんな名前がいいだろう、という話は前からしていて。そのときに、『こでまり』という名前が出てきました。」
開業前、ご夫婦で何気なく交わしていた会話の中から、この名前は生まれた。特別な場で決めたというよりも、日常の延長線上にあったやりとりだったという。
こでまりは、春に白い小さな花を咲かせる植物だ。響きのやわらかさもあり、奥様が好きな花でもあった。
「そういう名前なら、いろいろな想いも込められるかなと思いまして。」
店名を決めるにあたって、大きな意味づけを前に出したわけではない。ただ、自分たちらしい名前であることを大切にした結果が、「こでまり」だった。
誕生日花という、ささやかなきっかけから名付けられた店名。その背景には、ご夫婦らしい距離感と、自然な流れがあった。
②日常の延長線上にあった開業のきっかけ
ご主人は、もともと建築の仕事を生業としてきた。20歳を過ぎた頃に独立し、30年以上にわたって自営で建築業を続けている。店舗デザインや施工を手がけることも多く、飲食店の工事に携わる機会も少なくなかった。
「人の店を見ていても、いいなと思うところがあって、もし自分がやるなら、こんな感じかな、と考えることは前からありました。」
現場に立ちながら、自然とイメージを膨らませていったという。そうした日々の積み重ねの中で、飲食店をやってみたいという気持ちが、少しずつ形になっていった。
居酒屋を選んだ理由は、とても身近なところにあった。
「飲みに出ることが多くて、特に一人で飲むことも多かったので、もっと一人でも入りやすい店があったらいいなと思っていました。」
そのことに気づいたとき、「自分だったら、こんな店があったらいいな」という想いが、より具体的になっていった。とはいえ、飲食業の経験はなかった。それでも、始めること自体に強い迷いはなかったという。
「コロナが落ち着いた頃ではありましたが、影響も多少はありましたし、周りからの反対もありました。全く気にしなかったわけじゃないですけど、とにかくやってみよう、というところからのスタートでした。」
現在は、建築の仕事も続けながら、飲食のほうにより力を注いでいる。長年培ってきた建築の経験は、店の空間づくりや考え方の随所に生かされている。
③自分たちで作り上げた、落ち着いた空間
こでまりは、岐南町の住宅街の中にひっそりとある。昼間は看板も出していないため、初めて訪れた人から「最近できたお店ですか」と聞かれることもあるという。
「昼間通る方は気づかないですね。僕自身、いつも通る道でも、何年も通っていて、あとから『こんなところにあったんや』って気づくことがあるので、そういうことなのかなと思って。」
場所柄、結果的に目立ちにくくなっているが、隠れ家を目指しているわけではない。
「全然、隠れ家を目指しているわけではないです。場所的に、結果的にそうなっただけで、少しでもお客さんには来てもらえた方がいいですしね。」
店内の雰囲気は、大正から昭和にかけての時代をイメージしてつくられている。設計から施工まで、すべてご主人自身が手がけ、自分たちの手で作り上げた空間だ。
「店内には、昭和の和を意識した空間と、大正時代の少しハイカラな雰囲気を取り入れた一角があります。こういう雰囲気のところに出かける機会も多かったですし、興味もありました。自分としては、一番落ち着く雰囲気を目指しました。」
店内には、アンティークのオルガンも置かれている。アンティークショップで見つけてきたもので、開店当初は、知り合いの提案でライブを行ったこともあった。現在は空間づくりの一部として、静かに店内に置かれている。
目立つことを狙ったわけではないが、結果として生まれた落ち着いた雰囲気。その空気感が、この店らしさの一つになっている。
④お酒と料理、それぞれの楽しみ方
こでまりでは、日本酒をはじめ、さまざまな種類のお酒を扱っている。
「このお酒の種類は、ここら辺では多分多い方なんじゃないかなと思います。」
最初から数を揃えようと決めていたわけではないという。
「自分たちが飲むのが好きなので、瓶を見ながら飲めるのって楽しいなと思って。そうしているうちに、だんだん増えていった感じですね。」
店には、一人で訪れるお客様も多い。たまたま同じ日に居合わせた一人飲みのお客様同士が、自然と会話を交わすこともある。約束をしているわけではなく、「ここに来ると顔を合わせる」という関係性が生まれている。
ご主人が思い描いていた「一人でも入りやすい店」は、結果として、こうした日常の風景の中で形になっている。
料理は、中央市場の魚屋から仕入れた魚介類を中心に構成されている。
「魚って、生でも焼いても揚げても煮てもいいし、肉や揚げ物と比べると、選択肢が多くて食べ飽きないのかなと思ったんです。」
メニューは、既存の型に頼らず、ほぼ一から考えられている。メニューを考えるとき、まず頭に浮かぶのは、「お客さんが食べたらどう感じるか」ということだという。味だけでなく、提供までの時間や、保存性なども含めて考えている。
「美味しくないといけないし、時間がかかりすぎると提供が遅くなってしまう。保存のことも考えないといけないので、一つのメニューを出すまでに、いろいろ試します。」
季節ごとの入れ替えはもちろん、その合間にも少しずつ内容を変えている。大きく変えるのではなく、細かな調整を重ねていく。その積み重ねが、今のメニュー構成につながっている。
この料理を楽しみに訪れるお客様も少なくない。
「この料理が好きだから、という理由で通ってくださる方もいます。」
お酒と料理、それぞれに目当てがあっていい。こでまりには、そんな余白が残されている。
⑤目の前の積み重ねと、これからの目標
営業を重ねる中で、飲食業の現実と向き合う場面も増えてきた。
「楽しいことばかりではないですけど、料理が好きなのは変わらないですし、仕事として向き合うと大変さもある、という感じですね。」
趣味としての「好き」と、仕事として続けることは別だと感じている。それでも、やりがいを持ってこの仕事を続けている人たちがいる。その姿を思い浮かべながら、自分も同じように向き合っていきたいと話す。
今後について尋ねると、まず挙がったのは、目の前の店をより良くしていくことだった。
「お酒や料理も含めてこの店全体のクオリティーをもっと高めていきたいですし、お客さんの満足度も上げていきたいですね。」
その上で、将来的な目標として、多店舗展開という言葉も口にした。
「この店だけじゃなくて、ゆくゆくは多店舗展開というのも、始めるときからの一つの目標ではありました。」
ただ、具体的な形はまだ決めていない。同じような店になるのか、まったく違う内容の飲食店になるのかも、現時点では分からないという。
今、課題として感じているのは、平日の集客だ。
「特に平日ですね。平日にどうやって来てもらえるか、そこは結構考えています。」
週末は予約で埋まることも多く、予約なしで来店したお客様を断らざるを得ない日もある。一方で、初めて訪れるお客様は、インスタグラムをきっかけに予約をするケースが増えている。
日々の営業を大切にしながら、少しずつ認知を広げていく。代々通ってくれる常連のお客様を大切にしつつ、新しく店を知ってくれる人とも、丁寧に向き合っていきたいと考えている。
一人でも入りやすい店を探している人、豊富なお酒の中からその日の一杯を選びたい人、季節ごとに変わる料理を楽しみたい人は、ぜひ一度、こでまりを訪れてみてほしい。
大正から昭和をイメージした落ち着いた空間で、ご主人の手による料理とお酒が、静かに流れる時間をつくってくれることだろう。
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