飲食業
岐南町

痺れる一口を追い続ける「パティスリー ルコネートル」を訪ねてみた。

痺れる一口を追い続ける「パティスリー ルコネートル」を訪ねてみた。
TOM
TOM
シンプルって簡単そうに見えるけど、実は難しいんだね。
SARA
SARA
余計なものがない分、誤魔化しがきかないのよ。
TOM
TOM
よし、ボクも今日からシンプルかっこいいクマになる!寡黙でクールなクマ!
SARA
SARA
・・・3分後には騒いでる未来が見えるわね。
岐南町にある「パティスリー ルコネートル」をご存知だろうか。昔ながらのシンプルなお菓子を通して、一口で心が震えるような美味しさを追い求めている。今回は、オーナーパティシエの小嶋 良隆(こじま よしたか)様にお話をうかがった。
今回のツムギポイント
  • 「もう一度知る」という名前の理由
  • 憧れから修行へ、そしてフランスへ
  • 心を揺らしたあの瞬間を追いかけて
  • 目指すのは“痺れる”一口

①「もう一度知る」という名前の理由

 

「ルコネートル」という店名は、フランス語に由来している。

 

reconnaîtreはフランス語の動詞で、「再認識する」「気づく」「思い出す」という意味を持つ言葉であり、“re”は「再び」、“connaître(コネートル)は「知る」という意味を持つことから、「もう一度知る」というニュアンスも含まれている。

 

小嶋さんは、その響きと意味に惹かれたという。

 

「自分は、昔ながらのシンプルなお菓子を作りたかったんです。そういうお菓子の良さを、もう一度思い出してもらえたらいいなと思いました。」

 

近年は多くの素材や食感を重ねたケーキも増えている中、ショートケーキやチーズケーキ、ロールケーキなど、時代が変わっても残り続けてきた菓子がある。華やかな装飾や複雑な構成ではなく、素材と技術で真っ直ぐに勝負する菓子たちである。

 

シンプルであることは、決して簡単という意味ではない。

 

「誤魔化しがきかない分、本当に美味しいかどうかがはっきり出ると思っています。」

 

流行を追うのではなく、自分が納得できる味を追い続ける。その姿勢こそが、小嶋さんにとっての原点である。

 

「流行りを取り入れるというよりも、自分が心から美味しいと思えるものを丁寧に作り続けたいです。」

 

もう一度知るという店名には、古典的なお菓子の価値を改めて見つめ直してほしいという願いが込められている。

 

そしてそれは、ただ懐かしさに立ち返るためではなく、味そのものの本質に近づくための選択でもある。シンプルなお菓子を選ぶという姿勢は、その先にあるある感覚へ近づくための道でもあるのだ。

 

②憧れから修行へ、そしてフランスへ

 

小嶋さんが製菓の道を志したきっかけは、意外にも一本のドラマだった。中学生の頃に観た洋菓子店を舞台にした作品の中で、パティシエという職業の世界観に惹かれたという。華やかなケーキ、真剣なまなざしで菓子と向き合う姿。その空気感が、心に残った。

 

「ドラマを観て、単純にいいなと思ったんです。格好いいというか、憧れのような気持ちですね。」

 

強烈な使命感があったわけではない。ただ、その直感に素直に従い、製菓専門学校へと進学した。

 

学び始めると、次第に菓子作りそのものの楽しさにのめり込んでいった。授業で技術を学び、休日には気になる店を巡って味を確かめる。作ることと食べること、その両方を通して菓子の奥深さを体感していった。

 

「やってみたら、純粋に楽しかったです。いろいろなお店のケーキを食べるうちに、どんどん好きになっていきました。」

 

卒業後は岐阜県内の洋菓子店に就職し、基礎から丁寧に技術を磨いていく。56年ほど修行を重ねる中で、経験は確実に積み上がっていった。その頃から、心の奥に小さな変化が生まれていた。

 

「経験を重ねる中で、本場フランスを自分の目で確かめたいという気持ちが強くなっていきました。」

 

ワーキングホリデー制度を利用し、単身フランスへ渡る。現地のパティスリーで働きながら、菓子文化に直接触れる日々が始まった。

 

フランスでの経験は、小嶋さんの価値観を大きく揺さぶった。菓子との向き合い方そのものが、日本とはまるで違っていたのだ。

 

「流行を追うというより、それぞれが自分のやりたいことを徹底していました。シュー専門店やエクレア専門店など、一つの菓子に特化した店も多くて。自分の世界観を貫いている印象でした。」

 

その光景を見て初めて、日本の洋菓子業界の傾向にも気づかされたという。

 

「ヒットした商品があると、似たようなものが他のお店にも広がることが多いです。売れる構成や味の方向性が、自然と似てくるのだと思います。」

 

もちろん、日本の技術力は高い。しかし、フランスでは多少形が不揃いでも、その店ならではの個性が前面に出ていた。並べ方ひとつで、菓子が生き生きと見える。

 

「見た目が完璧でなくても、並べ方や雰囲気でとても格好よく見えるんです。味も力強くて、自分の中では衝撃でした。」

 

ぼんやりと抱いていたいつか独立できたらという想いは、フランスでの時間を経て輪郭を持ち始める。流行を追うのではなく、自分が本当に良いと思うものを貫く。その覚悟が、少しずつ固まっていった。

 

帰国後は一度東京で経験を積み、再び岐阜県内の店舗で働いたのち、独立への道を選ぶ。ドラマに憧れた少年は、気づけば自分の価値観を携えた職人へと成長していた。

 

③心を揺らしたあの瞬間を追いかけて

 

小嶋さんが目指す味の基準には、原体験がある。それは専門学校時代、ある洋菓子店で口にした一つのケーキだった。

 

「その一口を食べたとき、衝撃を受けました。」

 

そのときの感覚を振り返るように、こう話してくれた。

 

「生ビールの最初の一口のような感じでした。嫌なことを忘れてしまうような、そんな美味しさでした。」

 

単に甘いという言葉では言い表せない。体の奥にまで届き、気持ちが一瞬で軽くなるような感覚だったという。

 

その体験以来、味の基準は常にそこにある。

 

「自分が感じたあの衝撃を、誰かにも感じてもらえたらと思っています。」

 

多くのケーキを食べ歩く中で、ある傾向にも気づいた。

 

「強い印象を残すのは、意外とシンプルな構成のお菓子が多いと感じました。」

 

要素が少ない分、素材と技術の完成度がそのまま味に現れる。だからこそ難しく、同時に可能性も大きい。

 

「見た目も大切ですが、自分はまず味を優先したいと考えています。」

 

材料は特別に高級なものを使うというより、状態を見極めて丁寧に扱うことを重視している。その積み重ねが、あの一口の衝撃に近づくための道である。

 

④目指すのは“痺れる”一口

 

小嶋さんが追い求めているのは、食べた瞬間に心が震えるような体験だ。いわば、一口で空気が変わるような感覚――それを小嶋さんは「痺れる」と表現する。

 

「自分が若い頃に受けた、あの痺れるような衝撃を、今度は自分のケーキで誰かに味わってほしいんです。」

 

シンプルであること自体が目的ではない。心に残る味を追い求めた先に辿り着いたのが、今のかたちだった。

 

開業当初は、目の前の仕込みと営業をこなすことで精一杯だったという。毎日を必死に回しながら、とにかく続けることだけを考えていた。しかし三年目に入り、ようやく少し先の展開を思い描ける余裕が生まれてきた。

 

「次は何を作ろうか、と考えられる余裕も少しずつ出てきました。」

 

リピーターのお客様も着実に増えている。

 

「刺さる方には、しっかり刺さっているのだと感じています。何度も足を運んでくださる方がいることが、本当に励みになります。」

 

自分がかつて体験したあの忘れられない衝撃を、誰かが同じように感じてくれているとしたら、それが何よりの喜びだという。

 

「自分が一度味わったあの痺れるような感覚を、お客様にも感じていただけたら本当に嬉しいです。もし誰かが同じように痺れてくれたなら、自分もそれを生み出せる人間になれたのだと思える。それが、ずっと憧れているところです。」

 

同時に、小嶋さんが大切にしているのが「長く続けること」である。

 

「この仕事は、やろうと思えばいくらでも仕事量を増やせます。ただ、それでは続かないと思っています。」

 

パティシエという仕事は、体力も気力も求められる仕事である。種類を増やせば増やすほど仕込みの時間は延び、労力も膨らむ。こだわりを重ねるほど、終わりはなくなる。

 

「多くのパティシエが、正直に言えば命を削るように働いていると思います。でも、それはあまり健全ではないと感じています。お客様にとっても、お気に入りのお店がずっと続いていく方がいいのではないかと思うんです。」

 

店を増やすよりも、今ある場所で質を保ち続けること。規模を広げるよりも、無理なく続けること。

 

「大きな目標があるというよりも、まずは長く続けること。それが今、一番大切にしていることです。」

 

奥様とともに営むこの店を、着実に続けていくことが何よりの目標である。その先にあるのは、派手さではなく、一口で心が動く瞬間を積み重ねていく未来である。

 

美味しいケーキを求める人、昔ながらの菓子の魅力を改めて味わいたい人は、ぜひ一度足を運んでみてほしい。小嶋さんが追い続ける痺れる美味しさが、きっとあなたの記憶に残る一口になるはずだ。

 

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