農業・林業
安八町

地域の食を支え、安心を届ける「むすぶ農園」を訪ねてみた。

地域の食を支え、安心を届ける「むすぶ農園」を訪ねてみた。
TOM
TOM
トマトって、色も鮮やかでおいしくていいよね〜
SARA
SARA
栄養も豊富だし、睡眠の質をサポートするとも言われているのよ。
TOM
TOM
最近ぐっすり眠れる気がするのはトマトのおかげかも〜
SARA
SARA
あなたはトマトがなくても、横になった瞬間に寝てるでしょ。
安八町にある「むすぶ農園」をご存じだろうか。
全くの未経験からスタートし、現在は最新の環境制御システムを導入しながら、16年間にわたりトマト栽培を続けている。今回は、オーナーの戸田 豊和(とだ とよかず)様にお話をうかがった。
今回のツムギポイント
  • 未経験からの出発と、トマトという選択
  • 「野菜が主役」、テクノロジーで引き出す生命力
  • 農園は地域の「公共財産」、地元の食を支える拠点へ
  • 自身の経験を次世代へ、未来へつなぐバトン

①未経験からの出発と、トマトという選択

 

戸田さんが農業を志したのは、40代前半。大手工作機械メーカーで会社員として勤務した後、お父様や弟さんと共に建設業を立ち上げ、経営に携わっていた。これまで家族と共に歩んできた経験を経て、次に自分自身の足で立ち、長く続けていける仕事として選んだのが農業だった。

 

農家出身ではない戸田さんにとって、農業への参入は未知の領域だった。

 

「農家ではなかったので、所有している田んぼも畑もありませんでした。土地を借りるか買うかするところから始める必要があったため、まずは客観的に農業をビジネスとして分析したんです。お米やジャガイモのように広い面積が必要な『土地利用型』の農業は、自分の条件では難しい。そこで、限られた面積でも価値を高め、収益を上げられるものは何かを模索しました。」

 

戸田さんは県の研修施設に通い、半年間にわたって様々な農作業を経験した。その実地訓練の中で、自らが情熱を注ぐ対象をトマトに定めたのには、明確な理由があった。

 

「栽培において何が一番難しいかを講師に尋ねたところ、『トマトだ』という答えが返ってきました。それなら、あえて一番難しいものを最初に習得しておけば、将来的に他の作物にも応用が利くはずだと考えたんです。また、安八町は地下水が豊富で、冬場でも日射量が安定しています。この土地のポテンシャルを最大限に活かせるのはトマトだと確信し、栽培をスタートさせました。」

 

未経験という状況を、固定観念に縛られない客観的な分析力で補い、地域の特性に合致した作物を選び抜く。この合理的なアプローチこそが、むすぶ農園の基盤となった。

 

40代での決断から16年。今もその判断が正しかったことを、日々の収穫が証明し続けている。

 

②「野菜が主役」、テクノロジーで引き出す生命力

 

むすぶ農園では、統合環境制御システムを導入したハウス栽培を行っている。温度、湿度、二酸化炭素濃度などを精密に管理するこの仕組みは、戸田さんが掲げる「野菜が主、人間は従」という信念を支える基盤となっている。

 

「『こだわり』という言葉は、しばしば農家側の都合になりがちです。私は、トマトが最も育ちやすい環境を整えることに徹しています。人間が無理にコントロールするのではなく、最適な環境さえあれば、野菜は自ずと健やかに育ちます。私はそのための手伝いをする立場だと思っています。」

 

この精密な環境管理は、品質の安定だけでなく、病害虫の抑制にも直結している。野菜にとって健やかな環境を維持することで、結果として農薬の使用量を抑えた栽培が可能となる。また、戸田さんが一貫して守り続けているのが「樹上完熟」での収穫だ。

 

「一般的な流通では、店頭に並ぶまでの時間を考慮して青いうちに収穫しますが、うちは木の上で赤くなった状態で収穫し、その日のうちに届けることを理想としています。」

 

戸田さんは、自社栽培のフルーツトマトを用いた無添加のジュースやケチャップなどの加工品展開も行っている。生鮮トマトとして販売が難しいものも無駄にせず、さらに価値を高めて提供する。この姿勢もまた、16年にわたり農業を継続させてきた、地に足の着いた運営スタイルの一端である。

 

③農園は地域の「公共財産」、地元の食を支える拠点へ

 

農園名の「むすぶ」は、農園のある土地の地名に由来しているという。戸田さんは、自身の農園を地域に貢献する「公共財産」のように機能させたいという考えを持っている。

 

「私がいなくなった後でも、農業をやりたい人がいればこの場所を使えばいい。そう考えています。ここには井戸があり、自家発電機や暖房設備も整っています。もし災害が発生したときには、救助が来るまでの数日間、地域の人たちが身を寄せ、食料を確保できる場所としての役割も果たせるのではないかと思っています。」

 

戸田さんの視点は、農園単体の経営に留まらず、地域全体の食料自給という視点にも及んでいる。データをもとに、町の人口に対するトマトの年間消費量を算出。それに基づき、地域で必要な分を地域で生産する「地元の食料基地」という構想を掲げている。

 

「安八町の人口に対して、トマトの需要は年間約90トンあると計算できます。うちの生産量はまだその一部ですが、地域の農家が連携して地元の需要を賄うことができれば、遠方から運ぶための物流コストやエネルギーを削減できます。難しいことを難しく考えすぎず、足元にある資源をどう活かし、地域を維持していくか。それがこれからの農業に求められる役割ではないでしょうか。」

 

農業は天候に左右される厳しい世界であり、数字だけで測れない側面も多い。それでも継続してこれたのは、私利私欲ではなく「地域の食料を守る」という利他的な視点があったからこそ。戸田さんは、自らの農園が地域住民にとっての安心材料の一つとなることを目指している。

 

④自身の経験を次世代へ、未来へつなぐバトン

 

16年のキャリアを積み上げた今、戸田さんのもとには農業を志す若者や、異業種からの参入を検討する人々が全国から相談に訪れるという戸田さんは自身の経験を、彼らが挑戦するための一歩につながればと考えており、技術やノウハウを惜しみなく共有している。

 

「新しく農業を始めたいという人には、土地の探し方や、その土地の風土に合った作物の選び方などをアドバイスしています。土の性質によって適した作物は異なりますし、無理な設備投資を避けるための判断も重要です。私がこれまでに経験し学んできたことが、彼らの近道に役立つのであれば、それが一番良いと思っています。」

 

戸田さんのアドバイスを受け、実際に岐阜県内などで就農した人々も少なくない。戸田さんは彼らの動機を尊重し、自律して食べていけるようになるまでのプロセスを支援している。

 

40代で農業を始め、自分自身の居場所をこの安八町に作れたことは、人生において大きな意味がありました。いくつになってもここに来れば役割があり、仕事がある。そんな生き方ができる農業の魅力を、次の世代にも伝えていきたいですね。若い人たちがこの場所をきっかけに、それぞれの地域で食を支える存在になってくれることを願っています。」

 

未経験からスタートし、16年にわたり地域に根ざした活動を続けてきた戸田さん。人と土、そして現在と未来の地域社会を「結ぶ」その活動は、今日も安八町の穏やかな風景の中で着実に続いている。

 

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